TAMAISM

旅の記録とか、舞台訪問とか。(旧 OFFTAMA)

【木次~奥出雲~安来】山陰の集落を巡る、皐月の出雲路ライド Part 2/2 (@島根県奥出雲町)

山の中の棚田

天野館宿泊から一夜明け、今日は島根県の山間部へと向かっていくことになる。

比較的時間が早いこともあって木次の町中に人影はなく、至って静かな朝の時間を味わいながらの出発となった。日曜日の朝というやる気が出ないシチュエーションなので、どちらかといえばもっとゆっくりしたいけど、後のことを考えれば出発は早いに越したことはない。

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木次線の下をくぐっていく

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木次(雲南市中心部)から今日の目的地である奥出雲までは、普通に走るのであれば国道314号を南へ向かえば到着する。

しかし、国道というのは一般的に真新しくて走りやすい一方、景色的に見ればそんなに自分好みというわけでもない。国道を通しやすい場所に道を作っているので、なんかどこにでもあるような風景ばかりが目についてしまう。そういうことになるのが予感されたので、今回はあえて国道を走らず、木次線の線路沿いに県道45号や25号を走ってみた。

これがかなりの当たりで、山間部の間を縫うように走る道なので交通量はもちろん皆無だし、自然と一体となりつつあるような道の様相が直に感じられて面白い。ただ、それだけなら単に"狭い道"で済んでしまうところ、山ばかりかと思ったら急に田畑が出現してくる場所もあれば、線路が頭上に登場してくるところもあって意表を突かれた。

なんというか、山の中って視界が極端に限られてしまうんですよね。

これには悪い面と良い面があって、見通しが悪いと向こうから急に車が飛び出してきたりもするし、走る分にはちょっと遠慮してほしい。でも、逆に考えれば「向こうに何が控えているかわからない」ということでもある。これから目に入ってくるであろう景色が予め想像できてしまうのはつまらないものがあるし、見知らぬ地を走るのであればこの状況も悪くない。

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具体的に言うと、やっと視界が開けたと思えばこんな集落に出会えたりする、というのがその理由です。

この曲がり道の向こう側はまた山か、それとも田畑か?と想像しながら走っていて、そういう予想を覆すように集落が一望できる眺めが味わえる。これが開けた道を走っていて、向こうまで何があるかがずっと見通せる状況だったらなかなかこうはいかない(それはそれで良いけど)。

山の中ということで斜度もかなりあって疲れましたが、「旅」という意味ではいい時間を過ごせました。

奥出雲の棚田を味わう

さて、そんなアップダウンに満ちた道を走り続けて、遂に出雲の奥地である奥出雲に到着。マップ上では高度感が全く掴めないのですが、実際に走ってみると想像以上にヤバかったです。名前に「奥」が付いているだけに山間部=坂が多いということは知っていたはずなのに、ここまで上って下ってが連続するとなかなかに大変。

気を取り直して、奥出雲の散策を始めていこう。

実は今回、この時期に奥出雲を訪れたのには理由がもちろんあって、それは奥出雲の各所に広がる棚田を見ること。実は奥出雲にはその傾斜地の多さを活用した棚田が多く存在していて、この田植えの時期だったらより一層その美しさを体感できるのでは、と思ったからです。

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簡単に説明すると、奥出雲は古来からたたら製鉄が栄えていて、鉄の原料となる砂鉄を採取するため砂鉄を含む大地を切り崩してきました。その跡地はその後棚田として生まれ変わり、今では有名なブランド米である「仁多米」を生み出す産業基盤として大切に営まれています。この特徴的な景観は文化的にも貴重で、平成26年には「奥出雲たたら製鉄及び棚田の文化的景観」にも登録されたほど。

というわけで、そんな奥出雲の風景をこれから巡っていく。

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まず訪れたのは、出雲横田駅を通り過ぎて県道15号を上ったところにある福頼棚田

この景色の「夏」感がたまらない。今にでも虫取り網を持って駆け出して行きたくなるような、あの夏の一場面がそこにはあった。この気持ちに共感してくれる人は多いはずだ。

福頼棚田のアクセスについて話すと、注意点としては、展望台に至るまでの道は完全に農道となっているので非常に狭く、しかも車を停めるような場所が全くありません。自分のようにロードバイクだったら問題なのですが、それ以外の場合は麓から歩いて訪れるのがよさげです。

ただ、その眺めはご覧の通り最高の一言。棚田というものは上から見渡せばそのスケール感がよく把握できるというものですが、こちらの棚田にはさらに展望台があり、そこまで上ることでこの絶景を見ることが可能です。

改めて思うことでもないけど、棚田の良さはやっぱりその高低差にこそあると思う。

「岐阜県を走る」シリーズでも述べましたが、棚田は空間の広がりが立体的になっているぶん奥行きがあるというか、景色に「手前」と「奥」があることがわかりやすい。ましてや、この山奥を切り開いて作られた棚田なのだから平面ではないのは当然なわけで、それが実感しやすいと思います。

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展望台の様子

心から安らぎを感じられる…。

自然と脳内に久石譲の楽曲「Summer」が響いてくるような、そんな風景だ。

ここまで端から端まで田んぼばかりというのは正直度肝を抜かれたというか、その広さに圧倒されました。ちょっとした小山や丘の合間に家々があって、その他の部分は全部田んぼが占めているかと錯覚してしまうくらいに。

それにしても、視界の中の緑色の割合がすごい。緑色じゃないのは家屋の色とか空の色くらいで、他は全部緑色だ。まさに新緑の季節を象徴するような鮮やかさを全身で感じることができている事実に驚くとともに、その緑色も場所によって全く異なっているというのがまた良いわけです。

木々の緑色にしても、木の種類や遠近によっても微妙に異なっているし、木々の密集具合でも違うし、木と草ではもちろん違う色。もっと言うと、稲の緑色ともまた異なっている。よく風景を観察しているとそういう僅かな違いが次第に把握できてきて、ふと写真を撮るのも忘れて景色に没頭しそうになってくる。

日常的に家屋に囲まれたような環境で生活していると、来る日も来る日も同じような風景・同じような色しか見えないので、こういう気持ちになることはまずないと思います。なので、単純な色だけを考えてもここまで差が感じられる、一様というわけではない…のが、うまく言えないけどグッと来るんじゃないかな。「自然ってこんなにも色彩豊かなんだ」と再認識できるというか。

自分としては、そういう体験をどんどんしていきたいものです。

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その後も棚田の周辺を走り回っては、そこで出会う景色に感動していった。

日本の原風景とも言えるような、棚田・家屋・山、川という組み合わせがそこかしこに広がっていて、どこを切り取っても懐かしい気持ちに駆られてしまう。そういえば昔はあぜ道を走り回ったし、轍の左右に広がる草むらで遊んだような記憶もある。奥出雲を散策していく中で、忘れかけていたあの頃の情景に出会えたような、そんな気がしてならない。

あ、話は変わるんですけど、水が張った田んぼといえば何故か"夏"を思い出しません?

夏の風景は別に田んぼだけではないはずなのに、自分の記憶の中に刷り込まれている「地元の夏」はどれも水田の風景ばかり。昔、小さい頃に遊び回っていたのが田んぼばかりだったからなのか、それとも何か別の理由があるのか。

海も夏要素が強いはずなんだけど、個人的には水田が広がる景色を見ると地元を思い出します。

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その後は、福頼棚田の東側に位置する綿打公園の棚田を楽しみました。

こちらでは、おそらく複数世帯の家族と思われる一団が共同で田植えをされており、しかも若い人が大勢いたことが印象に残りました。田植えはいくら機械化されたといっても人手が必要で、作業を行うには多いほうがいいのは間違いない。田植えのために帰省されているのかも。

安来へ

一通り棚田と家屋が広がる場所を散策し、そろそろ良い時間になってきたので切り上げて北へ向かいます。

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といっても、時間的に焦る必要はまったくない。

ここ奥出雲からゴール地点の安来まではほぼ下り。奥出雲自体が高地に位置しているので、ここを折り返し地点にすれば軽快な気持ちで他の場所へ向かうことができる。行きは上りばっかりだっただけに、ここから先は下りが多くて助かりました。

途中で見つけた湯野神社でしばし休憩したり、道の脇にある食堂で割子そばをいただいたり。「途中で見つけた」というのが結構重要で、その時の気分で立ち寄るかどうかを決めているので計画性は正直ないです。でも、そういう突発的な行程がかなり面白かったりするんですよね。

気になったから立ち寄るし、予め調べておいたところでも琴線に触れなければ長居はしない。旅って、自分の好きなことばかりで埋めていくのが普通の考えなので、自分が好きな場所じゃなかったら立ち寄る必要はない。単純なことだ。

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足立美術館

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奥出雲とは異なり、こちらではこれから田植えのシーズンに入るようだ

その後もずんずん下っていって、気がつけば島根県の有名な観光地である足立美術館に到着していた。以前訪れたのは確か、中学生の頃だったか。何年前だっけ。

足立美術館には日本画の巨匠でもある横山大観の作品や、めちゃくちゃ有名な日本庭園があります。なので時間が許すのなら何年ぶりかに寄ってみても良かったのですが、帰りの時間のこともあるので今回はやめました。じっくり見て回ると数時間単位で時間が溶けてしまうので、訪れるのならそれ専用に時間を確保してから臨みたい。

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そんなこんなで無事に電車に乗り、帰路につきました。

車窓から見える景色は湖面そのものな一方で、今回訪れた場所を思い返してみると実に色んな風景を見た。最初は日本海で、その次は川に面した町並み。かと思ったら急に山ゾーンに突入し、それを過ぎたら田園地帯に入った。そして今自分が眺めているのは、出発地点の日本海にほど近い宍道湖だ。とても1泊2日とは思えないほど濃い行程になってくれて、計画した当初では想像もできないくらいに満足している。

次に島根県を訪れる際の目的地はすでに決めているので、そのときが楽しみで仕方ない。今後も島根県を旅する機会は多そうです。

おわり。