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旅の記録、宿泊先や行程とか

赤滝鉱泉 江戸末期から続く矢板の湯治宿に泊まってきた

山奥の一軒宿

今回は、栃木県矢板市にある赤滝鉱泉に泊まってきました。

赤滝鉱泉は矢板市の県道56号近くの中川という川に面した宿で、同じく中川沿いの小滝鉱泉・寺山鉱泉と一緒にその筋では有名なところです。

3つの鉱泉の中では最も上流側にあって、言うなればより山の中にあるので自然度が高いと言えます。

赤滝鉱泉の歴史はとても古く、江戸時代末期に鉱泉が発見されたことが始まりとされています。

発見当初は近くの住民が農業の閑散期を利用して露天風呂を作って湯治に利用していたのが、その効能が知られるようになると遠方からも旅人が訪れるようになり、宿泊用の棟が建築されていきました。その後、明治4年に近くを流れる中川の上流にある「赤滝」の名を取り、赤滝鉱泉と呼ばれるようになったそうです。

長く続くかと思われた梅雨がいきなり終了して途端に猛暑になった2022年6月の栃木県周辺ですが、山の中なら多少は涼しくなっているに違いない。そう思ってこの時期に宿泊を決めました。

外観

道中

まずはアクセスについて。

矢板市街から北西方向に進んでいくと県道56号があり、そこをひたすら山の方に上っていくと赤滝鉱泉の看板があります。

そこを左折して対向車が来たら即終了な道を200mほど進むと「4WD以外」の看板があるので、この手前の広場に車を止めることになります。

ちなみに悪路を走れる車で来ている場合はこれより先も進めるかもしれないけど、およそ車が通るような道ではないので大人しくここに止めた方が無難です。斜度やカーブの曲率も含めて、自分だと運転できる気がまるでしません。

この周辺は電波が完全に圏外になるくらいの山奥なので、用があるなら宿泊前に済ませておくのが良さげです。

赤滝鉱泉までの急な坂道

広場から坂道を下っていくと赤色の目立つ屋根が見えてきて、ここが赤滝鉱泉です。

今でこそ赤滝鉱泉にはほとんど車で来ることができるものの、湯治が盛んだった明治時代や大正時代の移動手段は完全に徒歩のみ。あとたまに馬車で来る人もいて、近くの農家の娘が小遣い稼ぎに宿泊者を馬車で送迎したりもしていたそうです。


改めて赤滝鉱泉について説明すると、創業だけではなく建物自体もなんと江戸時代からずっと残っている貴重なもの。

木材が傷んだところは適宜補修しており、今でも問題なく利用されています。建物自体は強固な岩盤の上に建っている(というか乗っているだけ)ため、東日本大震災でも特に問題がなかったくらい。

宿の方は大女将さんとその娘の女将さんで営まれており、大女将さんが脚を悪くされているためか、宿のことはもっぱら女将さんがされているようでした。

建物

赤滝鉱泉の建物は大きく分けると4つの棟から構成されており、その内訳は以下の通り。

  • ①:一番手前にある棟。大女将さん達の生活スペースになっている。隣に鉱泉の建物がある。
  • ②:靴箱と洗面所がある棟。昔はここが湯治棟として使われていた。
  • ③:現在主に使われている宿泊棟。
  • ④:一番新しい棟で、大正時代の建築。

湯治客が増えるたびに増築を繰り返してきた歴史があるのに対して、構造としてはかなり分かりやすくなっています。なので迷うこともありませんでした。

まず最初が①の棟で、構造としては平屋建て。

大女将さんは普段ここにいらっしゃるので、宿に到着したときにはここに声をかけて宿泊が始まることになります。棟の前には洗濯機があったり洗い場があったりと、ここだけ切り取ればまるで民家のような佇まいがありました。

実は猫がいる

実は、赤滝鉱泉には犬と猫が一匹ずついます。

猫(でかい)の方は本当に神出鬼没で、滞在中に見かけたのは2回だけ。しかもかなりの人見知り猫なので、撫でるどころか近づくことすらできませんでした。運が良ければ会えるかも。

裏側

鉱泉の建物の裏側

駐車場から下ってくるとちょうどこの①の建物の裏側に到着することになり、建物の表側と裏側とで地面の高さが異なっているのでこのように見えています。

その横には鉱泉の建物があって、ここで薪を使って湯を沸かしているので薪がたくさん積んでありました。

続いてはその奥にある②の棟へ。

赤滝鉱泉には一般的に想像するような玄関がなく、この②の棟の廊下部分が玄関となります。なのでここで靴を脱ぎ、建物内部にある靴箱に靴を置くという形になります。

このあたりも、宿という感じではなく民家の延長線上のような雰囲気を感じさせる要素の一つじゃないかと。

左方向へ回り込んでみる

そのまま左へ回り込むと庭があって、②の棟の左側面部分が上の通り。手前側のみが2階建ての造りで、後から奥の部分を増築したような外観をしています。

1階部分は倉庫のような扱いになっており、軒先には洗濯物が干されていたりしました。

そのまま更に奥へ進んで中川に到達し、山側を振り返ると③の棟が目の前に見えます。

こちらはかなりシンプルな外観で、1階・2階ともにアルミサッシが窓際に後付されている造り。ここの軒先にも薪が積んであって、どうやら雨に当たらない屋外のところには基本的に薪が保管されているようです。

川の下流側に少し進んだところには屋根付きの薪倉庫もあり、よく考えれば鉱泉を薪で沸かす都合上、薪は赤滝鉱泉にとってはまさに必需品。溜めておくに越したことはないのかもしれない。

最後は④の棟。

場所的には、駐車場から下ってくると目の前に見えるので分かりやすいです。女将さん達の駐車場の奥にあります。

裏側

外観についてはほぼ③と同じで、③の幅が少し狭くなった版が④といった印象でした。

異なるのは部屋の向きで、③が南向きなのに対して④は大部分が西に面しています。到着したのが夕方だったということもあり、西日がかなり激しく照ってきてとても暑い。ただ目の前に庭、その向こうに川があるのでシチュエーションは良いです。

以上が、赤滝鉱泉の建物の外観。

外を見て回っているうちに上空の雲の流れも早くなってきて、そろそろ中に入りたくなったので早速屋内へ向かうことに。

館内散策

玄関廊下~洗面所

屋内へ入るにあたっては、②の外に面した廊下から入ることになります。

この廊下の上部には宿泊客や日帰り温泉客が見やすいためか、赤滝鉱泉の歴史や効能が一通り書いてありました。周辺の名所も載っていたりして、これを見るだけで赤滝鉱泉の概要がすべて理解できるのはありがたい。

ここまで見てきた外観がいずれも「施設」という感じではなく民家という印象が強かったこともあって、これを見て初めて自分が今日ここに泊まりに来ているんだと再認識できたりしました。

いい意味で力が抜けていくような空気がここにはある。

廊下の右側に視線を移すと中庭があって、ここは各場所にある棟の中心に位置するところです。

①、②、③の棟が中庭を取り囲むようにして時計回りに建っていて、構造が非常に分かりやすいとはまさにこのこと。棟のさらに奥に建物が連続しているような造りではないので、館内を移動するときに最低限で済むのが良い。

中庭のすぐ周りを廊下が回っているのかと思いましたがそうではなく、②の棟の中庭側には廊下がありませんでした。

中庭からすぐ右側を見ると上の分岐があり、右側が先程の生活スペースへ、左側が鉱泉へと続いています。

ただしここを通るのは女将さん達くらいしかいないので、鉱泉へ向かう目的でここを通行することは多分ないです。

生活スペースはこのような感じで、玄関土間を上がってすぐが広間になっています。

その他、奥側の戸や天井の梁の色がとんでもなく黒くなっているのが見えます。これについては後述。

上の場所から後ろを振り返った風景がこちら。

建物正面にある大きな庭が見えています。

廊下で靴を脱いだ時点に話を戻すと、客の動線としては廊下に上がってまっすぐ正面に進む形になります。

②の棟の中に入ってすぐ左側に戸があって、その向こうには2階への階段がありました。2階については今でこそ物置になっているものの、明治時代や大正時代には襖などをすべて撤去し、完全な湯治用の客室として運用されていたとのことです。要は雑魚寝スタイル。

その奥の左側に見えるのは、とても大きな靴箱。宿の規模からするとこれくらいの大きさが必要になるようです。

湿気防止のために、靴箱の底に新聞紙が敷かれているのが個人的にグッときました。

洗面所

意味深なポスター

そのまま突き当りまで進んで右側に③の棟への通路があり、左側に入ると洗面所があります。

ただ、見てわかる通り単なる洗面所ではないことは一目瞭然。流し台の向こう側にはコンロがあったり、食器が収められた棚があったりと自炊ができるようになっているのが分かりました。

これについては想像通り、かつてこの場所は湯治の自炊場として使われていたということでした。さらに昔は今のようなガスではなくで自炊をしていたため、その煙が建物の各所に流れていって木材を黒くしたらしいです。これから館内の写真が多く登場する中で、床や壁の木が黒く変色していたら煙の影響だと思ってください。

ここまでが、②の棟の説明。

建物としては1階と2階があるものの、玄関から洗面所を含めて今では主に1階部分が使用されています。

宿泊棟

洗面所の前で廊下は90°右へ曲がっていて、ここから先が③の宿泊棟です。

宿泊棟への入口

その入口が上の写真で、左側に2階への階段が、右側にそのまま1階へと向かう廊下が続いています。1階の廊下についてはそのまま直線状に鉱泉の前まで続いているので見通しがよく、午後の時間帯は西日が適度に入ってくるのでいい感じの明るさがあります。

個人的に、赤滝鉱泉の中で一番気に入ったのがこの空間でした。

玄関から天井の低い通路を少し進んでいき、そこでふと右方向を見るとこの景色が飛び込んでくる。一つの場所に廊下と階段という高さが異なる通路が一緒になっていて、上方向への空間の広がり方が絶妙なのが良い。

しかも壁から天井、階段に至るまで古い木材で造られていて雰囲気の良さは抜群。洗面所に向かうたびにこの開放感のある場所を目にすることになるので、屋内にいながらも狭さは感じませんでした。

自分が今日泊まる部屋は2階にあるので、まずは1階から散策。

階段の脇を抜けて直進すると宿泊棟に入り、左側に客室が3つあります。客室については1階・2階ともに3部屋あって、そのうち各1部屋は布団置き場になっているため、実質的には二間続きの客室が計2箇所あることになります。部屋番号については1階が1~3号室で、2階が4~6号室。

このこともあって、おそらくですが現在では1日に泊まれるのが最大で2組に限定されているのかなと思います。1階に1組、2階に1組なのでとても贅沢な使い方ができるのはもちろんのこと、自分の場合は2階の部屋だったので気兼ねなく過ごすことができました。

この日は1階に別の宿泊客の方がいらっしゃったので、当然ながら1階客室の散策はしていません。

ソファに座って

分岐を直進した先は中庭に面した廊下で、ソファや観光雑誌が置かれている一角がありました。

後述する鉱泉はいわゆる貸切風呂形式なので、場合によってはここで時間を潰しながら待つのがいいと思います。

泊まった部屋

続いては2階へ。

戸袋も残っている

階段の上から下を眺める

中庭を上から眺める

布団置き場の部屋

廊下の板材のきっちり感が好き

廊下の天井の電球(現役)

2階の様子はこんな感じで、屋外に面した廊下の見通しがとにかく良い。

廊下は人一人が通れるくらいの幅で、廊下と客室との境界は障子戸。そして廊下の端には欄干がそのまま残っており、その上には洗濯物を干す竿が掛けられている。まさに湯治宿の構造がそっくりそのまま目の前にあって、もうそれだけで建物としての貴重さがよく理解できた。

それでいて、この赤滝鉱泉があるのは思いっきり山の中。世間を忘れて湯治に没頭するにはこれ以上のシチュエーションはない。今回、ここに泊まることを決めて良かったと心から思えました。

欄干の外側には現代風にアルミサッシとガラス戸が後付されてはいるものの、やっぱり欄干がそのままというのが嬉しい。これのお陰で上下左右すべての部分に木材が使われていることになるため、何気なく廊下の先を見たとき等になんか良い気分になれます。昔のままという感じがして。

泊まった部屋

浴衣

今回泊まったのは、2階の真ん中の客室である5号室。広さは10畳もあって広々としています。

設備としてはこたつ、テレビ(1時間100円)、ポット、扇風機、コンセントがあって、エアコンはありません。また浴衣はありますが、タオルや歯ブラシはないので持参する必要があります。

夏場は扇風機のみで暑さをしのぐ必要が出てくるものの、結論から言うと全く問題ありませんでした。朝方の気温が20℃だったので、夜中の気温は18℃とかそのあたりでとても過ごしやすかったです。

栃木県の平地の気温が38℃だったことを踏まえると、ここは標高が高い上に森に囲まれているので、暑さについては和らいでくれました。そもそも夕方以降は露骨に気温が下がってきたのが実感できたくらいだし、もう快適です。

ガラス戸を開け放っているところが多いので風通しが非常によく、そこへ扇風機の送風が加わることによって予想以上に涼しさを実感できるのが日本家屋の良いところ。

この日はそれほど虫も多くなく、居心地の良さから部屋に到着して早々に眠くなってくるくらいでした。やっぱり宿に着いて変に気が張ってしまうのはよくないし、身体がリラックスできているという点では自分に合っている宿だと認識できる。

隣の6号室も基本的には5号室と同じような構造をしており、角部屋なので部屋の2面が廊下に面している以外は広さも同じです。

1組の人数が多い場合はこちらの部屋も使うことになるのかな。今回は一人だったので5号室だけで十分でした。

天井

「建物自体は江戸末期のもので、適宜補修を繰り返している」のが最もよく実感できるのが、この天井。

今まで見てきた古めかしい木材とは明らかに異なる新しさがあり、後から修理のために導入されたものだと分かります。

これは昔にこのあたりを洪水が襲った際、天井がダメになったので新しくしたとのことでした。ただし元々の構造を引き継いているために天井の高さは約2mほどと低く、襖戸の上の鴨居や長押に至っては、自分の身長だと頭を打つほどです。

昔の建物は天井の低さが一つの特徴だったりしますけど、ここでもそれを感じることができました。

5号室の奥の棚

6号室の奥の棚

先程の話に出てきた、自炊をするときの薪の煙でいぶされた部分というのが部屋の奥にあります。

中央の柱を境にして両側に棚が設けてあって、その色が通常の木材では考えられないくらいに黒光りしている。何かの加工を施したものではなく、あくまで当時の一般的な利用の仕方をした結果としてこのように変色したというのがいいですね。他の部分は新しくなっているけど、ここだけは当時のままが保存されている。

今でこそ宿で自炊をすることがまず珍しいことであって、しかも薪なんて2022年では絶滅危惧種のような存在。

その時代の特徴というか、今ではもうお目にかかれない要素がふとした際に目につくと嬉しくなってしまう。こういうのを求めて自分は古い旅館に泊まっているわけで、まさにその通りの造りが残っているのが素敵だ。

鉱泉~大正棟

最後は、宿泊棟の1階に下りてから④の棟へ向かってみました。

トイレ

ソファがある場所から正面に向かうと十字路があり、そこを左に向かうとトイレがあります。男女の別はなく、ここ一箇所のみ。

洗面所及びトイレは1階にしかないため、2階に宿泊しているときに必要になればその都度1階に降りてくる必要があります。

鉱泉の入口

最奥にある④の宿泊棟

鉱泉の前の細い廊下を通り過ぎ、階段を少し上って④の棟へ到着。

④の棟は中央の廊下を境にして両側に2部屋ずつ、計4部屋が1階と2階にあり、つまり全部で8部屋あります。ここは現在宿泊用に使われているかは定かではないものの、1階については普通に泊まれそうな清潔感がありました。

ただ、建物の中では最も山に近い場所にあるため湿気がひどく、木材が痛むのも早いとのこと。大正時代建築のため比較的新しいとはいっても、立地の影響は思った以上に大きいようです。補修している箇所も③の棟と同じくらいに多い印象です。

外観を見て回ったときに見えた車がある

布団置き場

廊下はいわゆる"I"の字のように棟の東西と中央に走っており、東の廊下からは赤滝鉱泉に到着したときにまず目に入った車が見えます。

また、1階の4部屋のうち、北側の2部屋については完全に布団部屋として使われているようでした。

西側の廊下

客室についてはこんな感じで、広さは8畳。各部屋の奥側には背の低い物入れがあります。

自分が泊まっている③の棟の客室と比べて明らかに異なる点としては、目に見えて天井が低いこと。襖戸と同じくらいの高さ(約1.9m)ほどしかありませんでした。昔の人は現代人に比べて背が低かったらしいけど、ここまで低いと歩き回るのが少し大変そう。

こちらの棟の天井は特に補修されていないようで、当時のままの木材が残っています。

天井の電灯

あと、客室の電灯の造りが後付感満載でかなり好きになってしまった。

電源コードについては梁の表面に固定しているものだし、電灯そのものも小さな鎖のようなものでぶら下げられている。何しろ江戸時代の建物なので配線の内装なんてものはなく、そこに何とか電灯をつけようとした試行錯誤が見て取れます。

古い建築物では往々にして配線がむき出しになっていて、それがこうしてあからさまに登場してくると時代の流れを感じてやまない。

2階の様子

最後に2階にも足を運んでみたところ、こちらは長い間人が入っていないようで埃の匂いが立ち込めていました。ただ、設備としてはそれほど古くはないようです。

鉱泉

そんなわけで館内の散策を一通り終えたので、夕食の時間までに鉱泉に入っておくことにしました。

鉱泉に入れるのは夜は20時30分くらいまでで、朝は7時から。あまり遅い時間までは入れないので、入れるときに入っておくのがよさげです。

薪で湯を沸かしている様子

ここで「鉱泉」について軽く説明すると、鉱泉とは地中から湧出する水で、固形物質やガス状物質などを一定以上含むか、湧出時の水温が一定以上のもの。なので広義としては鉱泉は温泉を含みますが、一般的には温泉ほど温度が高くないものを鉱泉と呼ぶようです。

赤滝鉱泉の泉質は「酸性・含鉄(Ⅱ・Ⅲ)-単純冷鉱泉(低張性酸性冷鉱泉)」というもので、その源泉温度は13.2℃。pHは3.0です。

源泉温度が低いため薪で適温になるまで加熱されていて、通常の温泉よりも手間暇がかかっています。浴室の向こう側には薪をくべる炉があり、今回は運良くここに火が入っている様子を見ることができました。

建物の周りに大量に置かれていた薪はこのためで、鉱泉の温度を上げるためにはたくさんの薪が必要になるのは自明の理。薪の確保がまず大変だし、実際に薪をくべながら温度調節をするのもめちゃくちゃ苦労があります…。

脱衣所

脱衣所及び浴室には男女の別はなく、入りたい場合は空いていれば各自がそれぞれ入るという分かりやすいシステム。入り終わったら入口の戸を開けっ放しにしておきます。

この脱衣所や浴室の雰囲気もほどよい感じで、建物の古さが延長されてきたようなノスタルジックさがありました。特に床のタイルの色合いが他の場所では見ないほどで、鉱泉に入りに来るたびにハッとした気持ちになる。

脱衣所の奥が浴室になっていて、向かって左側の戸の先には源泉を供給する装置と、あと小さな湯船が置かれています。湯船の方は今でも使っているものなのだろうか。

浴室と湯船

浴室の横の廊下から

天井の黒いのは薪の煙によるもの?

そして肝心の浴室の様子がこちら。

石鹸やシャンプー等は一切置かれておらず、あるのはただ湯船が一つのみというシンプルさ。

ちなみにカランは2箇所ほどありますが、どちらも水しか出ません。鉱泉に入るにあたっては身体を特に洗わないのが一般的なんかな?深く考えずにそういうものだと思って入ってました(間違ってたらごめん)。

湯船は木製で、一番上の縁のところだけ石が組まれています。どちらも身体へ接触したときの親和性がよく、ただ寄りかかっているだけなのに心地よくなってくる。なお、パッと見た感じだと底が浅いように見えるものの、実は湯船の中が2段に分かれているのでちょうどいい深さです。

お湯の温度低下を防ぐために普段は木の板が敷かれているので、自分が入るタイミングでそれをどけてから入り、出るときにまた板を敷くようになっています。

板を取ると途端に鉱泉の熱がどっと湧き上がってきて、なんというか「人の手によって温められている感」が伝わってきた。

源泉の色は透明で、加熱すると変色して茶褐色になるのが赤滝鉱泉の湯の特徴。この色はさらに季節によっても変化するとのことで、これからの季節は底が見えないくらいに濃く染まるらしいです。逆に透明なときもあって、そのときは酸性度が高いみたい。

薪で沸かしている以上、どのタイミングで入っても適温ということではなく次第にぬるくなっていきます。自分が入ったときはちょうどいいくらいの適温で、そこに鉱泉に含まれる成分が効いてきたためか短時間でポカポカになれました。じんわりと身体に染み込んでいくタイプの湯というか、そんな感じ。

沸かしたばかりのときだとかなり熱いと思われるので、そういうときはこの赤いバルブをひねって源泉をそのまま注ぐ。源泉は冷たいので温度調整に役立ってくれます。

これも鉱泉独特の良さだと思っていて、一般的な温泉だと源泉温度が高すぎるのでどこかで冷やす必要が出てくる。

ここで加水をすると源泉の成分が薄まってしまうけど、ここでは沸かした湯も源泉、温度調節も源泉なので成分が薄まることがない。なので新鮮な鉱泉がそのまま身体に浸透していくわけで、これは効能の高さが納得できる。

試しに源泉を舐めてみたところ、酸性なだけあって酸っぱい鉱物の味がしました。普段入っているような温泉だと成分に着目することは少ない一方で、ここまで鉱物感がある湯だとやはり気になります。

鉱泉から上がって一息つく。

すでに日は傾いてきている時間帯で、しかも山の中なので涼しくなるのが平地に比べると早いのが良い。こうやって部屋に戻って、何も考えずに欄干から外の景色を眺めている。

相変わらず聞こえてくるのは横にある川の音だけというシチュエーションの中で昼寝をし、結局夕食の時間まで思考停止で寝転んでました。

夕食~翌朝

食事はいずれも部屋出しで、夕食はだいたい18時に部屋で待っていれば持ってきてくれます。

夕食の内容はこんな感じで、まさに山の中の一軒宿だったらこういうものが食べたいなという品ばかり。濃い味付けのものはなく素朴な味わいで、夏の夜(といってもまだ明るい)にいただくには最上でした。

夕食時も基本的には部屋の襖戸を開けっ放しにしていたので風の通りがよくて、周囲の環境音や空気の流れを感じながら過ごす夕食の時間。夏の時期にこういう古い宿に泊まるのなら、ぜひともこういう体験をしていきたい。

夜の時間

夕食後は再度鉱泉に入りに行き、後は布団に入るまでの少しの間にちょっと館内を歩き回ってました。鉱泉については夕食前に入った時に比べて熱くなっていたので、あの後薪で再度沸かしたようです。

最低限の明かりが灯る古びた建物の中は本当に雰囲気がよくて、特に用もないのにあちこち回ってしまう。

いつもだったら夕食後はもうやることがないので布団に入るのに対して、今回はなぜかちょっと起きておこうという気持ちになった。

赤滝鉱泉の周りには人工的な要素がまるでなくて、夜になれば自然と暗くなるし、朝がくれば自然と明るくなる。そういう本来の昼夜を当たり前に迎えられる環境というのは、この時代には貴重だと思う。

部屋の明かりと外の闇。それらを見比べた後にいつの間にか寝てました。扇風機は結局使わないくらいに夜が涼しかったのも、快眠できた理由の一つ。

翌朝。

まずは顔を洗いに階下へ向かおうとしたところ、階段上にポットとお茶セットが置かれている。女将さんの何気ない気遣いが感じられて嬉しい。

山の朝はとても早く、昨日宿に着いた時間では感じられなかった方角から日光が降り注いでいるのを感じる。

何度も言うけど山の中にある宿なので、時間によって明確に環境が異なるのが個人的には良いと思いました。例えば夏だったら午後からはガスってきて雲が多くなるし、朝だったら逆に早い時間から日が照っている。この環境で体感できる要素の一つ一つが印象に残っていて非日常感があります。

朝食は8時から。

朝食の内容については見ての通り満点で、朝から白米の消費が追いつかないレベル。自分は表現力が乏しいので素朴な味わいという言葉になってしまうけど、緩急がなくてずっと緩い感じの優しい時間が過ごせました。

朝食後は鉱泉に入りに行って昼寝をして、女将さんと宿について色々お話を伺った後に赤滝鉱泉での滞在は終了。

朝の静かな山の中、川のせせらぎや薪が燃える匂いといった「音」や「匂い」に自然と意識が傾くような宿でした。普段だったら景色にばかり目が行きがちな自分でも、ここではそうはならなかった。そういう意味でもこの宿が好きになりました。

おわりに

赤滝鉱泉は建物自体は古いものの、効能ばっちりな鉱泉や美味しい食事、そしてなんといっても自然に囲まれた立地が素敵なところです。

女将さんの朗らかさも含めて、正直時間が経つのが早すぎてもう一泊くらいはしたかった。それほど居心地がいい宿。

今度は季節を変えて、比較的気温が低いときに再訪したいと考えています。

おしまい。