今年のはじめ、ゆるキャン△の舞台訪問で静岡県の大井川上流・千頭から畑薙第一ダムを目指したときに気になったことが一つ。
あのときは畑薙大吊橋が最終目的地だったのでそこを折り返し地点にしたのですが、実は道自体はまだまだ上流に続いていました。でも時間も限られているしダートだしで、通常のロードバイクで行くのは困難と判断。
ただ、その先には何があるのか、どんな風景が見られるのかという点については気になって夜も眠れない。というわけで、半年以上経って再訪することにしました。今度はダートでも問題ないグラベルロードを持ち出し、この林道東俣線の終点にある二軒小屋を目指します。
畑薙のその先へ
今回のルートは至極単純で、畑薙第一ダムから林道東俣線を二軒小屋まで走ってピストンするというもの。ルートとしては一本道なので迷いようがなく、距離は往復約60km、獲得標高約900mくらいなので十分日帰りできます。
ところで、大井川上流と言えばリニア建設工事の対象地域になっています。
結局のところ工事がいつごろ始まるのかすら定かではありませんが、仮に将来的に工事が始まってしまえば林道東俣線が通れなくなってしまう可能性もないとはいえません。なので多少善は急げというわけで、林道が冬期閉鎖になる前にささっと行ってきました。
上の地図における「二軒小屋」が今回のゴール地点であり、工事計画によればトンネルはそのすぐそばを通過するようです。
ただ、トンネルの非常口の1箇所がこの林道沿いに作られるっぽいのが意外でした。もしものときにこんなところに放り出されて、ここから避難してくださいとか言われても一体どうすればいいのだろうか。途方に暮れそう。
夜通し畑薙第一ダムまで走ってきて車中泊し、朝日に照らされる時間帯まで粘ってからライド開始。
この時点ですでに標高が900mあるので、車中泊で寝るのがかなり苦痛でした。これくらいで大丈夫だろうと思っていた就寝グッズでは足りなかったので、急遽毛布を引っ張り出してくるという始末。気温はたぶんマイナスまでいってたと思います。
ただ、何を差し置いても早朝にスタートするというのは気分がいい。
秋から冬に近づきつつある山の中は空気が透き通っているようで、その中に身をおいていると寒さよりも先に吸い込む空気の美味しさの方が気になる。こんな時間から出歩く人もまだおらず、まるで自然と一体化しているような感覚になった。
装備としては、グラベルロード JARI 1.5に32Cのスリックタイヤを履かせた上でフォークマウントを両側に取り付けています。
フォークマウントについては予備の水分に加え、二軒小屋で昼食にしたかったのでそれらの道具を入れました。
ダム沿いにしばらく走っていくと沼平ゲートがあり、一般車両はこれより先に進むことができません。
許可証を提出した車両ならゲート先も通れるみたいですが、今回の行程中に出会った一般車両は1台のみ。実は交通量は予想以上にあったものの、そのほとんどが東海フォレスト(南アルプスの道とか山小屋の会社)のものでした。
そのため、実質的には徒歩・自転車のみ通行可能です。登山シーズンなら林道を通行するのはほぼ100%が登山客で、歩きで赤石山脈を往復する人も多そう。
ちょうど紅葉の終わり頃の時期なこともあり、この早朝でもゲート前の駐車場はほぼ満車状態。観光客はここから畑薙大吊橋まで歩いて往復されていて、この時間から自転車で通行しているのは自分くらいしかいない。
ましてや、この先はほぼ人気がない林道。改めて走り出す際には若干の勇気を要した。
二軒小屋を目指す
畑薙大吊橋は復路で寄り道するとして、まずは終点の二軒小屋まで早めに到着したいところです。
正直にいうと、往路はそれほど写真を撮らずにライドメインの行程になりました。というのも、初めて通る道なので往路でのんびりできる余裕があるものなのか確信が持てず、さらに午前中の時間帯は渓谷に日光が差し込んでこないので暗かったから。
二軒小屋まで行ってしまえば道中の様子が把握できるため、あれこれ立ち止まって景色を眺めるのは復路でという方針にしました。
実際に走ってみた感じとしては、道の難易度は以下のような感じです。
- 畑薙第一ダム~畑薙橋:湖沿いの道なのでアップダウンがなく、走りやすい。
- 畑薙橋~赤石ダム:行程上で最も悪路。路面の石が大きく、陥没も多い。
- 赤石ダム~二軒小屋:高低差はあるがフラットなダート。たまに陥没あり。
赤石ダムに到着するまでがこの行程の難所だと思っていて、路面上の石が多い上に坂道が頻出するので個人的には走りにくかったです。
"ちょっとしたダート"とかのレベルではなくて、正真正銘純度100%のグラベルでした。
ところどころで舗装工事も行っていて、たまに舗装路に遭遇したりすると楽でしたが全区間の割合的にはまあ気休め程度です。
大部分は思いっきりダートな道なので、それに応じた車種なりタイヤなりが必要になるかと。
二軒小屋までの行程は基本的にずっと上りで、自分の体力ではとてもハイスピードで走り抜けられるような道ではない。
でも、グラベルロードでの走りでは特にスピードを意識する必要はないと思ってます。そもそも自分がダートで爆走するような使い方をしていない上に、路面状態がかなり厳しいので焦って走っても仕方がない。
それよりは単純に、太いタイヤでしか訪れることができないこの林道沿いの風景を見ながらのんびり走れれば十分に楽しいです。
まるで山が冬支度をしているように、走っていく最中では水音以外の音がまったくといっていいほど皆無。
確かに普通のロードバイクでもそういう静かな山にアクセスすることはできるんですが、今自分が走っているような山の奥地までも行けるか?というと正直微妙。人家へも近く、何かあってもリカバリできるような安全な場所…。ロードバイクで走れる舗装路というのはそういうところが多いような気がします(酷道は除く)。
翻ってダートな道というと、もう電波すら届かないような「秘境」という言葉がよく似合う。太いタイヤと細いタイヤ。それぞれ用途が明確に決まっている分、今回グラベルロードで走る道として林道東俣線を選択したのは正解でした。
石で凸凹した路面、日が上がって凍結した水たまりが徐々にぬかるんでくるような道、はたまた思いっきり水が貯まっているような道。そういう舗装路とは異なった性格を持つ道を突き進んでいくうちに、グラベルロードの楽しさが徐々に分かってきたような気がする。
そんな林道は次第にフラットで走りやすい道へと変わっていき、最終的には大井川の起点となっている場所で終点となる。
というわけで、畑薙第一ダムから約28km走って二軒小屋へと無事到着しました。
グラベルを走るのは年単位でやってなかったのでだいぶ疲れたけど、まだ行きが終わっただけだというのに気分的には晴れやかでした。今まであまりやったことがない体験をしたときのワクワク感というか。そういう面白さを味わった後だと疲れはそれほど気にならない。
進行方向右手には目的地である二軒小屋があるわけですが、左手方向には人工の滝があります。
上流から流れてきた水はすぐ横にある田代ダムとこの滝へと流れていく地形になっており、あくまで流れの一部を発電に利用しているようです。滝はかなり水量があり、この日に最初に見た滝が終点にあるということで印象に残りやすい。
人工滝へ向かう橋にはゲートがあって、そこから先は自転車が通行禁止になってました。道はまだ続いているようですが、登山道として歩行者、もしくは電力関係の車しか通行できないようです。
そこで徒歩で田代ダムの上流まで行ってみたところ、ここの水がとにかく綺麗すぎた。
もともと大井川自体が澄んだ透明度を誇っている上に、ここはダム湖なので流れが無い分、それがより顕著に現れている。しかも今は季節が冬で、周りの景色も全体的に静止しているからか水の緑色が際立って感じられる。いつまでも眺めていたくなるような素敵な場所だった。
二軒小屋で昼食
折り返し地点に到着したところで、ここでまたすぐに自転車に跨って引き返すのはちょっともったいない。
せっかく奥地まで到達したところだし、ここで昼食にしました。
実はひっそりとフロントフォークにマウントして持ってきていたのは、カップラーメンやウインナー、それにバーナーなどです。
正直に言えば、単に栄養を取るだけならばお菓子とかパンとかで十分。それにライドにおいて余計なものを持ってくるというのは重さの面でデメリットになる。
ただ、今回はどうしても林道の終点でラーメンを食べてみたかった。
それはライドの延長線上のまま「屋外」で食事をしたかったのと、あとは冬場で単純に寒いので温かい食事を食べたかったのもあります。なんにしても、わざわざ寒い思いをしてここまで走りに来ているのだから明確な休憩タイムが欲しくなってくる。いつもの気軽なライドだったらライド中の食事は適当に済ませるけど、グラベルライドはなんというか、屋外での食事もコミコミで趣があるというか。
周りになにもない環境を走るからこその楽しみもある。
なお、二軒小屋の水道が使えないことも想定して調理用の水もしっかり持ってきました。バーナーについてはOD缶を持ってくるほどの環境じゃないので、普通のCB缶のものを持参。
が、結論から言うと水道は普通に使えるようです。最初に赤錆のような濁った水が出るけど、そのまま出しっぱなしにしてれば問題ないとのこと(って水道前の看板に書いてた)。
で、肝心のラーメンwithウインナーの味。これはもう今まで食べたラーメンの中でも群を抜いて美味しく感じられた。
極限状況下だと、普段何気なく食べているものでも非常に美味しくなるって言うじゃないですか。個人的には登山中に食べる雑炊とかの味がそれに該当するんですが、今回食べたラーメンはまさにそんな味。「世の中にこんな美味いラーメンがあるんか!?」ってくらい。確かゆるキャン△でもそんな話があったし、実際に自分が今体験して理解している。
やっぱり食事って、それをするシチュエーションがとても大事なんだなと。
例えば鄙びた旅館でいただく家庭料理、はたまた林道の奥地で食べるカップラーメン。それぞれの状況に応じて「美味い!」と感じる食事が確かにあるわけで、今回カップラーメンを持ってきてよかったと思います。
こうして考えてみると、グラベルロードのフォークマウントってかなり便利。
サドルバッグだけだと入り切らない荷物は全部ここにマウントしちゃえばいいので、軽いデイキャンプのような感じのライドも簡単にできるんじゃなかろうか。左右の重量バランスを揃えてあげれば、ハンドリングにもそれほど影響はない感じだし。
グラベルロードは大きく分けるとツーリング用とレース用(スピードを出すことを重視)に分かれていて、前者だとマウント用のダボ穴があるケースが多いです。なんにもわからずに3年前に買ったJARI 1.5、いざ本格的にグラベルライドで使ってみると思いがけず使い勝手が良くて嬉しい。
復路、畑薙大吊橋までの下り
お腹が膨れた後で時間を再度確認すると、ちょうどお昼時。
出発地点である畑薙第一ダムからの帰路のこともあるので、そろそろ折り返すことにしました。
行きの時点では上りばっかりで結構大変だった道のりも、逆の行程になれば話は別。二軒小屋から畑薙第一ダムまでの道は全体的に下りで、所々でガッツリ上る以外はスピードを出して駆け抜けることができる。
これがね、個人的にはめちゃくちゃ楽しかったです。
舗装路の下りでスーッと滑るように下っていくのはまた違う、地面からの露骨な振動を伴った下り。この振動とスピード感の塩梅がちょうどよくて、下ハンを持って斜面に身を任せて走っていくのはこれ以上なく気持ちいい。もちろん腕や脚をサスペンションのように使う必要があって、明日はたぶん筋肉痛だろうなとか頭をよぎりつつも走るのがやめられない。
たまにカーブでブレーキングをするとリアタイヤが若干横滑りしたりして楽しく、現時点でのグラベルライドの面白さは下りにあるじゃないかなと感じざるをえない。上りはまあ我慢するとして、ダートを下るときのハイテンション感はまた体験してみたい。それくらい愉快だった。
改めて思うことでもないですが、林道東俣線は右を見ても左を見ても山ばかり。
山ということはもちろん木があって、秋が終わろうとしているこの時期だと落ち葉が多く堆積している。そんな林の中を走っていった先、川の途中にはちょっとしたダムがあり、その湖のほとりは小高い丘になっていて見晴らしが良い。
何が言いたいのかというと、場所によって全く異なる顔を見せてくれるのが林道東俣線の魅力だと思う。単純に大井川のほとりに走っている道というだけに留まらず、高低差を感じるようなところもあれば、遠くに山々が連なる奥行き感のあるところもあったり。
復路だと時間管理もしやすく、周りの風景に気を配る余裕は往路以上にあったけど、周囲を見渡せば見渡す分だけ新たな景色が見えてくる。やっぱり自分は、この自転車の3次元的な移動が楽しい。
ところで、この週末は畑薙第一ダムの紅葉が見頃を迎えたということでした。
それは一般の観光客が訪れるようなダム周辺だけでなく、もう少し上流までもかなり紅葉が残ってくれてました。具体的に言うと赤石ダムから下は対岸の黄色や赤色の葉が日光に映えていて、つい立ち止まってじっくり眺めていたくなる。
往路のときはまだ日が差し込まない時間帯だったのでよく見えませんでしたが、午後の時間帯ははっきり見えるのがいいですね。
復路では途中でなぜか犬に出会ったり、その犬を探していた軽トラの爺ちゃん(工事関係?猟?)に話をしたりして、最終的に中ノ宿吊り橋で犬を見つけて爺ちゃんと再会するのを見届けたりと濃い時間を過ごしました。
あと、往路では全く遭遇しなかった他の自転車乗りとも復路では遭遇。人数としては合計7人ほどで、乗ってるバイクはグラベルだったりMTBだったりと多種多様なのがイイね。やっぱり自分と同じ考えの人って他にもいるんだなという感じ。
畑薙大吊橋へ帰還
畑薙第一ダムのダム湖から先はもう道も安定し、やることもすぐそこにある畑薙大吊橋を渡るくらいしかありません。
あれだけグラベルまみれだった午前中が嘘みたいにここは静まり返っていて、行程の終わりとしては申し分ない。最後まできっちり林道東俣線の風景を楽しんで終了としたい。
畑薙大吊橋周辺は山全体が紅葉に包まれていて、ダム湖+吊り橋という見渡しの良さも相まってそのスケール感がパない。
単に林道から見るだけならそこまで広さを感じないんですが、畑薙大吊橋という大きな橋の上から眺める景色は圧巻の一言。吊り橋から見るダム湖周辺は360°が絶景で、足元の板の細さからくる恐怖感も自然と和らいでいた。
思い返してみれば朝早くから出発してひたすら林道を走って、気がつけば今こうしてここにいる。行程の中では気温や標高、そして周りの環境が徐々に移り変わっていき、最終的に畑薙大吊橋では冬らしからぬ陽気に包まれていた。辺りを見れば色とりどりの葉が眩しい。
今回のライドでは単純に訪れる場所をポイントで考えるのではなく、時間の経過による変化をよく実感できたと思う。朝から昼、晩秋から冬。そういう僅かな変化を楽しみながら走るライドが楽しくないはずがない。
本当、今回この時期に走りに来てよかった。
そんなわけで、無事に何事もなく畑薙第一ダムまで戻ってきました。
ダートばっかり走ったせいで特にダウンチューブ下の汚れがとんでもないことになってたけど、これはこれでよし。というかグラベルロードをキレイに乗ろうなんて微塵も思ってないし、得られる体験の大きさからすれば汚れなんて些細なもの。
結局のところ、天気の方は最初から最後までずっと晴天が続いてくれました。しかも半ば諦めかけていた紅葉も盛りだったし、終わってみれば大満足だったというのが正直なところです。
総括すると、林道東俣線は大自然をダイレクトに満喫できる良い道でした。リニア工事が進めば、もしかしたら林道が全部舗装されてしまうかもしれないんで走るなら早いほうがいいかも。
おしまい。
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