今回は、岩手県北上市にある夏油温泉 元湯夏油に泊まってきました。
元湯夏油は前回の記事で触れたいさぜん旅館と同じく、長期間宿泊しながら温泉で療養する「湯治」ができることで有名です。自炊ができる施設がもちろんあり、旅館を形成する棟も湯治棟がほとんどでした。
ただ、いさぜん旅館と明確に異なっているのはその立地。あちらはすぐそこに公共交通機関が通っている利便性の良さがあるのに対し、こちらの旅館があるのは栗駒国定公園内、標高700mの山間です。
自家用車で訪れるのにも苦労しそうなほどの奥地にひっそりと建っている分、豊かな自然環境に囲まれたひとときが味わえます。さらにここは冬になるとものすごい豪雪に見舞われるところでもあり、その影響で毎年11月から翌年4月までは冬期休業になっています。
冬期休業間近
今回は意図せずその冬期休業がすぐ間近に迫る中、しかも日曜日に泊まったということもあって非常に静かな宿泊となりました。
ところで、宿泊前に気になった夏油という温泉の名前。
これはもともとアイヌ語の"崖のあるところ"という言葉に源流があり、冬場は完全に閉ざされるために夏の湯という意味で夏湯(げとう)、最終的にはお湯が夏の日差しで油のように揺らめいて見えたことから「湯」が「油」に変わったそうです。
温泉の名前って大抵の場合は地名が入ることが多いような気もしますが、こういう面白い背景を持つ温泉もあるんですね。
元湯夏油の施設
夏油温泉へは県道122号という狭く曲がりくねった道を進むことになって、夏油温泉に至る公共交通機関はありません。
なので、今回は元湯夏油の送迎を予約して利用しました。最寄りの北上駅13:45発で、あとは座っていれば旅館まで送迎してくれます。便利。
元湯夏油の建物は、大きく分けると旅館部と自炊部に分かれています。
- 旅館部:駐車場側から見て近い方。本館・別館・嶽館・駒形館の4つ。
- 自炊部:駐車場側から見て遠い方(源泉側)。紅葉館・薬師館・夏油館・経塚館の4つ。※建物としては昭和棟もあるが今は利用されてない?
旅館部には浴衣やタオル、アメニティなどがあるのに対して、自炊部にはそれらがありません。
今回泊まったのは旅館部(本館)で、時期な時期なだけに宿泊者はほとんどが旅館部だったようです。他の時期だったら自炊部にも宿泊者がいそうなものの、何より自炊部の客は食事のタイミングなどで顔を合わすことがないので、どれだけ泊まっているかも正直よく分かりませんでした。
夏油温泉の売りは、なんといっても源泉かけ流しの風呂が合計7箇所もあること。
しかも露天風呂・露天風呂を含めてすべて源泉が異なるという贅沢ぶりで、全く人の手が加わっていない自然のままの湯が堪能できる。明確に異なるのがその温度で、季節によっては熱かったり温かったりするのがまた素敵だ。
まずは館内をささっと歩いてみました。
正面玄関は本館にあり、玄関を入ると右横に帳場と事務室があります。
玄関の奥にはロビーと売店を兼ねたスペースがあり、軽いお土産などはここで購入できるようでした。また、ロビーの奥には大広間があって食事はここでいただく形になります。
基本的に元湯夏油の建物は小さい棟が集まっている構造で、旅館部に関してはそれぞれを結ぶ廊下で行き来が可能です。ただし自炊部については棟が完全に独立しているっぽくて、一度履物を履き替えないと別の棟へは行けない様子。
玄関左方向に進むと、内湯の一つである白猿の湯があります。
露天風呂と異なり内湯の方は深夜でも入ることができますが、元湯夏油は露天風呂がメインということもあり、一番最初に身体を洗う以外に入る人は少ないという印象です。実際、夕食後に訪れてみても貸切状態でした。
湯治宿だけあって、旅館の構造はかなりシンプル。
本館2階の廊下は建物の中央に通っており、客室は廊下の左右に並んでいました。自炊部の客室については訪れてないので不明ですが、この様子を見るとたぶん同じような構造になっているかと思われ。
泊まった部屋はこのような感じで、布団や浴衣が入っている押し入れ以外は必要最低限のものしかありません。
室内にはテレビがないというか、館内でテレビを見たのが大広間くらいしかないです。なので人によっては暇に感じるかもしれませんが、逆に言えば(結構薄い)壁を通して隣から余計な物音が聞こえてこないとも言えます。
せっかく山奥に来ていることだし、露天風呂に入り浸るもよし、自室で読書にふけるのもよし。物が少なくて娯楽がないというのは、静かに湯治を楽しむための舞台装置の一つなのかも。
それぞれの温泉へは旅館部の1階から行くことができて、露天風呂に関しては本館と駒形館の間にある渡り廊下でサンダルに履き替えてから向かう形になっています。
露天風呂への道の両脇には棟がそびえ立っており、その間を通って行った先の階段を下ると温泉へ続いています。
湯治をするという前提でこの建物の配置を見てみると、自炊部が露天風呂にかなり近いところにあるのが良いところ。露天風呂から上がってすぐに自室で寝ることもしやすいし、むやみに離れているよりは合理的。
露天風呂へ
部屋に着いて浴衣に着替えたら早速温泉に向かいました。
まずは内湯で身体を洗い、次に湯船に浸かってある程度身体を温めておきます。
元湯夏油の温泉は露天風呂がメイン。
旅館部に泊まった場合は露天風呂までそこそこ長い距離があり、この時期だと夕方以降はもう極寒。なるべく身体が冷えてない状態で行き来をしていきたいところです。
上に示した写真の通り、露天風呂に入れる時間は24時間ではありません。一番遅くても21:30には掃除の時間になってしまうほかに、各露天風呂によって女性専用の時間が設けられています。なるべく多くの温泉に代わる代わる入りたいという場合は、多少なりとも時間を気にする必要があります。
なお元湯夏油の露天風呂は、川の上流側から以下の通り。すべて源泉が異なっており、数としては5箇所あって、そのうち滝の湯に関しては女性専用となっています。
- 大湯…混浴、泉温47.9℃…浴槽は大きめ
- 滝の湯…女性専用、泉温54.1℃
- 疝気の湯…混浴、泉温49.8℃、浴槽は小さめ
- 真湯…混浴、泉温55.1℃…浴槽は大きめ
- 女の湯…混浴、泉温49.8℃…浴槽は小さめ
各露天風呂は温度も違えば浴槽の大きさ、露天風呂としての造りも全く異なっており、それぞれの風情の差異を味わうことができます。また明確に温度が違うため、例えば季節によっても入りやすい・入りにくい温泉が出てくることは明白。
結論から言うと、この冬期休業間近のタイミングでじっくり入れる露天風呂は大湯と真湯の2箇所でした。
滝の湯については入れないので分かりませんが、その他の疝気の湯や女の湯は、寒い時期に入るにはちょっと温すぎるかなと思います(体感でいうと温泉プール程度の温度だった)。
旅館部から自炊部の棟への境界や、露天風呂周辺には時計が多いです。
温泉においては食事の時間だとか、女性専用時間への遷移だとかで時間が気になるもの。特に元湯夏油では細かく時間が切り替わるので、すぐに見れる位置に時計があるのはありがたい。
露天風呂には木で組まれた建屋が設けられており、その中に簡単な脱衣所があります。
しかし、脱衣所はあってないようなものなので外からでも普通に見えます。それ以外にも、露天風呂と露天風呂との距離が近い場合には裸のまま移動している方も見えました。そんなに気にすることはないのかも。
元湯夏油の露天風呂の何が素晴らしいって、この大自然に囲まれているシチュエーション。
もともと奥羽山脈の奥地という立地もさることながら、露天風呂自体が川のすぐそばにあります。なので耳を澄ましていると川の流れの音が聞こえてきて、しかも目に入ってくるのはすべてが自然。人工的な要素は限りなく少ない。
温泉の評判を決める要素である"温泉の質"は確かに重要。でも、質だけでなくその温泉がどういう場所にあるのか、周りの環境はどうなのか…という要素もまた外すことができないもの。
そういう観点では、元湯夏油は余計なことを考えなくていい。
ここには現代社会では当たり前にあるようなものが無い分、それらに起因するストレスから開放されるような気分になれました。電子機器や通信機器、そういったものをちょっとの間忘れてみて、この山奥の地で温泉を堪能する。そういう週末があってもいい。
温泉に入っているうちにそういう思いは強くなってきて、一泊だけでなく延長して数泊してみたいという気持ちに駆られました。
こちらは、川の最も上流に位置する大湯。
露天風呂の中ではもっとも冬向きの熱い湯で、この季節であっても長湯するのは自分には難しいほどでした。めちゃくちゃ熱いというわけではないんですが、1分ほど浸かっているともう熱くて半身浴へ移行せざるをえないくらいの温度。
でも脚だけ浸けていると今度は上半身が寒くなってくるというループで、これはこれで冬の露天風呂ならではの体験ができて嬉しい。ただし外気温に晒されておきながらこの温度ということは、夏だったら入るのすら難しいんじゃないか。
こんな感じで、春夏秋冬によって入るのに適している露天風呂が変わります。例えば夏なら、今回は温く感じた疝気の湯や女の湯がちょうどいいくらいの温度に感じられそう。
ただ、元湯夏油の露天風呂を味わうには寒い時期のほうがいいんじゃないかなと思います。
なぜかというと露天風呂があるのは山奥&川沿いという場所なので、夏などは想像するだけでもアブが多そうだから。アブの存在を気にしながら温泉に入るのは辛いので、「露天風呂=虫の存在がある」ということは頭の片隅にでも置いておくほうがいいかもしれません。
結局、夕食前、夕食後を含めて夜まで温泉ばっかり入ってました。
食事
食事は、今回は本館1階の大広間でいただくことになりました。
夕食の献立は上記の通り。
冬なので餅が入った鍋が特に美味しく、その温かさが身に染みる。温泉に入りまくっているとは言え身体は冷えているので、芯からほかほかになれる料理はたまらない。
朝食はこんな感じ。
夕食時も思ったけど、温泉で適度に消耗した身体に入ってくる白米が本当に美味いです。そもそも米自体が美味しいのに、そこに疲労という要素が加わってなおさら消費量が増えてしまう。今回の旅はすべてが公共交通機関の移動だけだったので、正直いうとお腹はそんなに空かないだろうと思っていた。でもそんなことは全然なくて、むしろロードバイクで移動している普段の旅よりも消費量が多いかもしれない。
湯治=温泉に入りに行く回数が多いということは、それだけで加速度的に空腹になっていくということ。満腹になればまた温泉に入りに行けばいいし、やっぱり一泊だけだと時間が足りなかったというのが素直な気持ちです。今年はもう冬期休業になってしまったので、次に行くとすれば来年の春以降。今度は一泊だけと言わずに、余裕を見て何泊かしてみたいです。
おしまい。
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