今回はロードバイクで紀伊山地の奥深くを走ってきた話です。
ロードバイクで走行するのに適したルートを検討する際に、自分はどちらかというと交通量が少ない山奥の道を選びがち。それはシンプルに車が多いと走りづらいという理由もあるけど、一番の理由は自分しかいない空間で自然と向き合いながらゆっくり走れるからです。日本特有の山の多さと、その地形に対応できるように知恵を振り絞ってつくられた道路。最近では風景よりも道路そのものに着目するようになったことも含めて、山の魅力を堪能していきたい。
今回選んだのはその日本の中でも「山深い」ことで有名な奈良県南部。メインは秋ならではの紅葉を見に行くのが目的で、アップダウンの多い地形&補給が期待できないルートということで気温が低い時期に決行しました。
早朝の高野龍神スカイライン
ルートとしては高野山を出発して高野龍神スカイライン(国道371号)を南下して護摩壇山に到着。その後は林道奥千丈線と県道733号を東に向かって国道168号に合流し、出発地点である高野山に戻って散策して終了という流れです。起点/終点を高野山に取ることで、ライドが終わってからの休息がとりやすいだろういう意図があります。
というわけで早速出発。



早朝の高野山。紅葉の時期ということで日中になるととんでもない混雑が予想されるこの観光地も、午前7時の時点ではまだひっそりとしている。無事に戻って来る頃には車をとめる場所を探すのも大変になるだろうな、と若干のフラグを立てつつライド開始。
ちなみに秋とはいえ関西地方だしそこまで寒くないだろうと高を括っていたけど、出発時点での気温はなんと0℃でした。行程前半はほぼヒルクライムで身体が温まるとはいえ、実際に走り出すまでのハードルが高い。



高野龍神スカイライン(国道371号)は高野町から龍神村までむすぶ約43kmの道路であり、かつては一般有料道路でしたが現在では無料で走ることができます。道自体は奈良県と和歌山県の県境の標高1000m級の尾根に沿って走り、バイク乗りにとってはツーリングの名所として有名。実際、早朝にも関わらず多くのバイク乗りと遭遇しました。
「スカイライン」の名称から乗鞍スカイラインのような高度感を想像していたものの、紀伊山地の山々を見渡せるスポットは多くありません。景色というよりは曲がりくねった道やアップダウンの多さを楽しむのがメインともいえます。なお紀伊山地がどれくらい山深いかは過去に熊野古道を歩いた際に存分に味わっていて、どこまで歩いても山しか見えないのはある種の感動がありました。
なお尾根沿いに道が通っているということはそれほど上らないのでは?と淡い期待を抱いていたところ、実際には護摩壇山までの区間で獲得標高は1,000mオーバー。完全に予想外すぎたけど、秋の朝の空気でしんとした山の中を上っていくのは気持ちが良かったです。




そんなわけで護摩壇山及び「道の駅ごまさんスカイタワー」に到着。後の行程を考えると早い時間帯にここまでやってくることができてホッとしました。なおここの道の駅は規模が小さく、おみやげしか売ってないので補給は見込めません…(軽食くらいはあるだろうと期待していて絶望した人)。
このまま国道371号を南下すると龍神村の中心部へと至り、そこから東へ進めば酷道として有名な国道425号の核心部である牛廻越(蟻ノ越)へ行くことができます。過去に国道425号をロードバイクで走ったのがもう懐かしく感じるし、それ以前に有名な熊野本宮大社はもうすぐそこ。神聖な場所かつ徒歩や自転車など移動手段を問わずに楽しめるという意味で、このあたりは面白い。
林道奥千丈線と落葉間近の紅葉
さて、行程の前半が一段落したところで進路をかえて東へと走っていく。
実は今回のライドは特に目的地らしい目的地がなく、「高野山周辺を適当に走って観光も楽しむ」という感じで漠然と決めていました。なので高野山までぐるっと回れるようなルートを探していたところ、林道奥千丈線という道路を発見。これを通れば大きく迂回しなくとも約40kmで国道186号に合流することができ、高野山へ帰還しやすくなるというわけです。


林道の起点は道の駅から少し戻り、開けたところで東側を見ると看板があるので分かりやすいと思います。看板にもある通り「熊野参詣道小辺路 三浦峠・伯母子峠登山口」とあるので、小辺路を通しで歩くのではなく分割で歩く場合にはここから入る形になるのかな。



で、この林道奥千丈線の景色が最高でした。
道の両側に木々があまりなく視界が開けており、木々の代わりにはたくさんのススキ。そして谷を挟んで反対側の山々に目を向ければ、先程立ち寄ったごまさんスカイタワーがぽつんと視認できる。まるで尾根の上を滑っているかのように走れる上に秋要素も感じられるなんて、ここまで上ってきた正解だった。
山の中を通る道はたくさんあるけど、林道奥千丈線の和歌山県側のように尾根沿いに通っているケースは珍しいのではと思います。標高自体は高いのに木々に遮られて景色が見えない…という思いをした経験が多いだけに、この展望の良さには感動しました。

林道は高野龍神スカイラインと同様にアップダウンを繰り返しながらわずかに標高を上げていき、林の中に入ったと思ったら口千丈岳登山口が左側にあります。ここから伯母ヶ岳(日本200名山)へ上ることができるようで、登山客の車が数台止まっていました。ここまで車で運転してくるだけで疲れそうだが…。

今回の装備。
上り下りの多さを考慮してアスペロを選択し、補給箇所の少なさをカバーするためにダブルボトル体制。あとサドルバッグとTailfinのトップチューブバッグに補給食や防寒具を入れています。アスペロでもKualisでも日帰りライド時の装備は大きくは変わらず、個人的にはこれくらいあればどんなシチュエーションにも対応できる。






林道ライドに話を戻すと、登山口を境にして林道の様相が明確に変化します。
県道733号に合流するまでは基本的に下り基調となり、林道脇の風景も植林された杉だけではなく崖や岩場、滝、そして紅葉など様々な顔を覗かせてくる。いかにも日本古来から存在する山の中につくられた道という感じで、カーブを曲がるたびに次の山、そしてたくさんの木が目に入ってくる。ダウンヒルをしつつも道の脇には紅葉が多くて、つい見とれてしまいそうになりました。
整備性などはあまり考慮されず、存在するのは道そのものとガードレールのみ。普段自分が通るような整備された道ではなく、通行できることを最重要視して地形と格闘しながら敷設された道路という感じがします。そういう場所を自転車で通るのは本当に楽しくて、自分の体力とハンドリング技術のみを信じて先へ先へと進んでいく冒険感がある。




先にも触れたけど、林道沿いには紅葉が思ったよりも多かったです。
反対側の山肌を眺めると紅葉はまばらにしかなく、時期的にもう終わりかけなのかな?と思っていたのが、いま自分が走っている道の近くの木々には葉がまだまだ残っていることに気がつく。山全体の中においては色的に一要素でしかない紅葉が、「道」そのものにクローズアップするととても鮮やかに感じられる。遠くから眺めるよりも近くに寄った方がよく見える理屈で、陽光に照らされた黄色や赤色の葉の色合いがまぶしい。
さらに良かったのは自分以外にこの紅葉を鑑賞している人がいないという点。林道の交通量は極めて少ないため、この日・この時間にこの紅葉を眺めているのは正真正銘自分だけ。派手さや規模は観光名所の紅葉の方が勝っているもしれないけど、充実感という意味でとても良い時間が過ごせました。
熊野古道・小辺路の集落をゆく
そんな風に下っていると林道は突如終わりを告げ、県道733号の十津川村五百瀬に入りました。



看板の内容を読む限り、あと一ヶ月後には林道奥千丈線は冬季閉鎖に入るようです。まあとんでもないところに道が通っていることを考えれば当然か。
で、この十津川村五百瀬という集落は個人的に思い出深い場所。自分が高野山と熊野本宮大社を最短距離で結ぶ熊野古道・小辺路を歩いたのが2016年のことで、その際に宿泊したのがここなんです。小辺路の道中の大きな集落は大股、三浦口、そして十津川温泉の3箇所があり、難所である三浦峠への起点となるのが五百瀬(三浦口)集落です。自分と同じように一泊二日で小辺路を歩く場合は、歩行時間的に三浦口に宿をとることになります。



前回泊まった「農家民宿 政所」は、外観をみたところまだ営業されているようでホッとしました。約10年前に泊まった宿を改めて訪問する機会なんてそうそう無いし、ここは素通りせずに状況を確認しておきたかった。


ただし集落の方は、前回と比べてかなり様変わりしていました。
農家民宿 政所にチェックインする前に不二家ネクター ピーチ×2本を購入した商店は廃屋になっているし、校庭や古びた校舎を眺めた五百瀬小学校(政所のすぐ横)は跡形もなくなっているしで、集落としては徐々に終焉に近づいているような感じ。少子高齢化の影響により、日本中で今後このような形で人の生活の跡が消えていくと思うとやるせない。


キリがいいので近くの広場で昼食にしました。
コンビニで買っておいたおにぎり×2をあっという間に完食してランチタイム終了。消費カロリーに対して摂取カロリーが明らかに追いついていなくて、このままの調子で高野山に戻れるかどうか今更ながら不安になってきた。
広場の前には川と山、そして手入れされた田園が広がっている。まだこの地には人の気配が感じられて、それは熊野古道歩きが全盛期だった江戸時代から変わっていない。このような紀伊半島の奥地で人の生活風景が見られるのは貴重です。

林道から集落へ無事に到達でき、さらに昼食もとれて体力回復できました。ここからライド後半戦ということで、国道へ合流してから高野山を目指していくことになる。
ただしこの県道733号は三浦峠への山道へ繋がる「小辺路 船渡橋」の先で通行止めになっているため、迂回路を通行する必要があります。その迂回路というのがかなり衝撃的で、神納川のそばの河川敷に仮設の道路が設けられていました。道路そのものが県道一本しか無く、川の近くに道路をつくるほかないというわけです。






今日の行程は完全に舗装路オンリーだと想定していただけに、思いがけないグラベル要素ににっこりしてしまう。路面については生活道路として自動車や歩行者が通行する目的でかなり綺麗です。日本全国各地の未舗装路が全部こんなフラットな感じだったらグラベルバイクも流行りそうなのにな。
おそらく一昔前はちょっと田舎に行けばどこの道路も未舗装路だったと思われますが、災害時の復旧の容易さなどから徐々に舗装されてしまっているのが現状です。どれほどの山奥を訪れたとしても舗装路ばかりなのは、世界をみても日本だけだろう。なので今回のような仮設の道で未舗装路を味わえたのはある意味で運が良い。
高野山への帰路
仮設道路は1kmほど走ったところで終了し、再び県道733号を通って国道を目指します。





風屋ダム湖にかかる新川津大橋を通って対岸へと渡り、国道168号に入ってからは進路は北へ。
今までの道中とは異なり国道168号は一気に交通量が増えるほか、トンネルが多くてかなり走りにくかったです。ロードバイクにとってのトンネルは天敵すぎる。しかし、国道のトンネルの多さは裏を返せば山の多さを表している。また国道においてトンネルがあるところ=昔の旧道が存在する箇所でもあるため、そういう点に着目しながら走っているとストレスを感じにくかった。
途中で寄り道をした谷瀬の吊り橋ではその高度感に感動し、吊橋の向こう岸にまた別の集落が存在することを知って驚いたりもしました。今でこそ道が整備されていて行き来は楽だけど、昔は移動そのものが大変だったんだろうな。


その後は県道53号を走って奈良県五條市から野迫川村へと移り、予想外のヒルクライムを突破して天狗木峠に到着。ここまでくれば後は下るだけで高野山に戻れます。
今回の行程で一番キツかったのがこの天狗木峠までの上りで、獲得標高は550mくらい。国道168号に到達した時点でなぜかヒルクライムはもう終わったと勘違いしていたが…。よく考えれば国道168号は天ノ川の近くを通っているのに対して、高野山は山の頂上にあります。高低差があって然るべきだけど、最後の最後でこれだけ上るとは思っていなかっただけに精神的疲労が大きかった。
秋深まる高野山
そんなこんなで無事に高野山に帰還しました。
すでに夕方に差し掛かっていることもあって混雑度はそこそこ。日中に訪問するよりは余裕をもって散策できる程度の人だかりでした。逆に言うと出発時間を早めにとったおかげで高野山での散策時間を確保できたので、方針自体は合っていたっぽい。








高野山奥之院から金剛峯寺、そして壇上伽藍方面へ。高野山には久しぶりに来たけどやっぱりいいですね。
山の中の豊かな自然とそこに暮らす人々。観光施設や町並みもあり、そこかしこに寺院や宿坊があって宗教の存在を感じられる。自然のみ、町並みのみではなく両方が適度に交わっていて、それが標高1000m級の山々に囲まれた標高800mの地に存在しているという点に惹かれるのかもしれない。

とある店の店先には猫ちゃんがおり、眠そうに外を眺めていました。最初見かけたときはまさか猫だと思わなくて二度見してしまった。





今回はアスペロのパーツを完全ロード向けに変更してからの初ライドとなりました。個人的に自転車のパーツ変更の差異を実感するには色んな地形を走らないと分からないと思っていて、今日の行程はヒルクライム/ダウンヒルあり、長い平坦ありと性能を試すにはうってつけでした。
結論から言うとホイールを軽量化したのが一番効いていて、上りが以前よりも楽になったのはもちろんのこと、ホイール全体の転がり性能も特に違和感ないです。しばらくはこれであちこちを走ってみる予定。

以上で紀伊山地の奥地の道を駆けずり回るライドは終了。熊野古道のルートを一部走行したことで久しぶりに歩いてみたくなったので、暖かくなったらまた訪れてみようかな。
総獲得標高は約2500mで適度な運動と良い風景、そして良い道を堪能できたので満足です。
おしまい。

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