8月。
世間的には夏山シーズン真っ盛りの盆休みに入りました。全国各地の山々では多くの人が登山を楽しむ時期になり、一年で最も山が混むときなんじゃないかなと思います。
そんな人が多いところをテント泊装備で縦走するのも面白い一方で、今回はあえて日帰りで南アルプスを歩いてきました。天気予報をちらっと確認したところ北アルプスはそこそこなお天気みたいだし、南アルプス自体そこまで訪れる機会が多くないので新鮮味があると思ったからです。
鳳凰三山へ向かう
今回登った鳳凰三山は南アルプスの北東部にある、地蔵ヶ岳・観音ヶ岳・薬師ヶ岳の3山の総称です。
広河原や青木鉱泉からのルートが一般的に有名ですが、一番距離がある夜叉神峠ルートで歩いてみることにしました。
夜叉神峠というと、ゆるキャン△でも登場したところ。
あのときに志摩リンが出会ったお姉さんは夜叉神峠から登山に出かけたという話だったので、もしかすると自分と同じように鳳凰三山を縦走したのかもしれません。
仕事終わりに車を走らせて、夜叉神ヒュッテ前の駐車場に到着したのは23時頃。
当初は4時起きの5時スタートにする予定だったものの、トレラン勢の車の音で目が覚めたので3時スタートに切り替えました。今回の行程はなかなかの長丁場になるし、出発が早いに越したことはありません。
登山開始。
南アルプスというととにかく樹林帯歩きが長く、展望が得られるまでに鬱蒼とした森の中を歩くことになります。この夜叉神峠ルートについても同様で、稜線(砂払岳)に出るまでのコースタイムはなんと7時間。
3時スタートということもあって、ヘッドライト以外の灯りが皆無な中を歩いていく心細さといったら正直泣きそうになった。
日本アルプスといえば何より展望が良いし、登山の醍醐味である稜線歩きを楽しみにしている人も多いと思います。そんな中で「最初の樹林帯区間をどう乗り越えるか」は結構重要な課題だったりします。
視界が相当に限定されているので展望もないし、さながら修行のよう。
積もっていくのは肉体的疲労ばかり…。
グループ登山だったら色々話しながら歩けるし、仮にソロだったとしてもこれから得られるであろう絶景の前の準備区間的な意味合いで、我慢しながら歩いている人も多いと思います。
でも、樹林帯歩きも実際は見どころが多くて、緑に囲まれながら歩くというのはかなり気持ちがいい。
苔むした岩とか倒木とか、木漏れ日に照らされる木々の広がりとかがたまらない。
稜線に出て、森林限界を越えた景色はたしかに素晴らしいもの。
そういう意味では樹林帯との差を確かに感じることができるけど、標高が低いところの自然も意識して感じながら歩くと心も落ち着くような気がする。何が言いたいのかというと、林の中を歩くのも結構面白いよということ。
せっかく登山してるわけだし、スタートからゴールまでしっかり山を感じていきたい。
夜道を歩いて、今回の行程で唯一お世話になった南御室小屋に到着。今季では珍しく、通常営業されている山小屋です。
実を言うと、今年の南アルプスで登山できるのはここ鳳凰三山か甲斐駒ヶ岳くらいで、例えば北岳とか間ノ岳、塩見岳方面はちょっと厳しいです。理由は明白で、
- 南アルプス周辺のほとんどの山小屋が営業していない
- 南アルプスに至る路線バスが運行していない
からです。
北岳周辺といえば広河原や北沢峠とか、登山口として非常に便利な場所がある上に山小屋も多いです。ただし、今年はそこへ行くまでの路線バスは休止中だし、コロナウイルスの影響で山小屋は営業してません。
なので、そのルート以外で日帰りで行くことが可能な甲斐駒ヶ岳か、周囲の山小屋が営業している鳳凰三山くらいしか上れません。いや自分はマイカーだし山小屋は使用しませんのでという人もTwitterで見かけたりしたけど、わざわざリスクを背負ってそんな山域を歩くのは正直避けたい。
鳳凰三山だったら青木鉱泉や御座石温泉にエスケープ可能な上、山小屋も営業していたので安全は確保できると判断して今回歩くことに決めました。
自分の体力を過信するのではなくて、万が一の事態でも問題ないか?を客観的に判断するのが大事かなと思います。
南御室小屋は夜叉神峠~地蔵岳間で唯一の水場もあってかなり快適だし、テン場も平坦です。何より林の中にあるので風の影響を受けなくて快適そのもの。
このルートで歩く人はまずここにテントを張って、軽装で地蔵岳を往復するケースが多いみたいです。ピストンしてきたらそのままテントで寝れるので憂いはありません。
今日の自分は日帰りなので、水分だけ補給してすぐに出発しました。
南御室小屋からコースタイムで90分ほど歩いて、薬師岳直下にある薬師岳小屋に到着。
このあたりから背の高い樹木は息を潜め、かわりに巨石が多く登場してきます。自分の身長よりもはるかに大きい石がゴロゴロしている中を歩いていくと、さながら異世界に迷い込んだみたいに感じます。さっきまでと景色が違いすぎるし。
まずは鳳凰三山の中で最も南に位置する薬師岳(2,780m)に登頂しました。
長いことかけて歩いてきた今日の上りがここにきて一段落し、ホッとしています。ここからは最北の地蔵岳まで稜線沿いに歩くことになるため、今までと比較するとアップダウンはやや緩めに変わります。やったね!
薬師岳に至るルートとしては他に青木鉱泉ルートがありますが、地形図を見る限りかなりの急登が連続するようです。一方で夜叉神峠ルートは水平距離こそ長いものの、斜度はそこまで大きくないのでスピードを出しやすい印象を受けました。
鳳凰三山の稜線は緑と石が半々といった様相で、傍から眺めると主に西側がごそっと崩れたようになっています。
白砂と岩の白さが夏の木々の緑の中で映えるように見えていて、なんとも素敵。
そのままの勢いで、鳳凰三山の中で最高峰の観音岳(2,840.7m)に登頂しました。
薬師岳からの距離はコースタイム上で45分とかなり近いです。すでに目標が見えていることもあって、精神的にも歩くのが楽でした。
稜線歩きの醍醐味って、やっぱり山々が常に見えていることだと思います。
これから上ることになる山が見えていると、個人的には見えていない状態よりも疲労度が全然違います。遠くを他の登山者が歩いている景色が見えたりするので安心できるし、もちろん絶景が広がっているので体力も回復できる。
登山は稜線に出てからが本番。
ここで、今回使用したザックをご紹介。
半年ほど前に日帰り用のザックを新調して、山と道mini2を買いました。
とにかく軽いので今回のような長い縦走だと後半に体力を温存できる上、使い勝手もかなりイイです。特にメッシュのフロントポケットがかなり便利で、ウインドブレーカーやら行動食やら、はたまたヘルメットなんかを突っ込んでおけるので出し入れが非常に楽。容量はLサイズで28L~38Lあるのでテント泊も余裕です。
やはり代表的なULバックパックなだけあって、実際に使ってみてトレラン勢に好評な理由がわかりました。これならオーバーナイトハイクも普通に可能だし、テント泊で3~4泊くらいする場合はいつも使っているthree、そうでないならmini2でいいかもしれません。
今回の縦走で出会った登山者の7割くらいがトレラン勢だったし、コロナの影響で日帰りが推奨されている今としては"走る"ほうが行動範囲が広がって羨ましいです。トレランシューズ買ってみようかな?
天気としては主にガスってたものの、風が強い影響でガスが流されるのも早くて青空がたまに見える、という感じ。まあガスが取れてくれただけでも満足としたい。
花崗岩の白い山肌が直にむき出しになっている感じが実にいい。
岩の上を歩いて、足の裏でゴツゴツとした感触を味わいながら標高を上げていくのがたまらない。
そして最後の地蔵岳(2,764m)に到着。
地蔵岳にはオベリスクと呼ばれる特徴的な巨大な尖塔があり、今日の縦走中にもよく見えたし、天気が良ければ甲府市街からも確認できるそうです。鳳凰三山のハイライトとも言えるここに無事に来ることができたということで、一段落つきました。
あのてっぺんまで行くと相当見晴らしが良さそうですが、ここで無理をして怪我してもアレなので下から見上げるに留めておきました。
オベリスクの根元に広がる賽の河原には、沢山の地蔵尊が林立しています。
話によると子供の無事な成長を願ったり、水子や亡き幼子の供養のために運び上げられたものなのだそう。
今回の行程の折返し地点に着いた時点で、時刻はまだ9時。
このまま引き返すのはちょっともったいないので昼寝をしたり、観音岳や地蔵岳で出会った方と登山話などをしてのんびりしてました。
時間が経つにつれて天気も徐々に変化してきていて、晴れ間が多くなってきたと思ったらガスったりと目まぐるしい。
高い山というとアクセスが困難であるということに加え、天気がコロコロ変わるので非日常感が味わえて楽しいです。平地での日常から離れて、より自然の強さや巨大さを感じられる。やっぱり登山って楽しい。
その後はほぼノンストップで引き返し、夜叉神峠まで下山しました。お疲れさまでした。
下山時間は16時過ぎくらいで、山間部なためかすでに辺りは薄暗くなっています。山頂で2時間くらい時間を潰していたせいなんだけど、本格的に暗くなる前に下山できてなによりです。
帰る前にお風呂で立ち寄った夜叉神ヒュッテで、ゆるキャン△の宣伝を見てほっこりするなどしてから帰宅。
おわりに
岐阜県在住だとどこの山域にも行きやすく、天気次第で行程を自由に切り替えられるのが助かります。今回の登山も「北アの天気が悪いから南ア行くか」みたいに軽率に決めました。
天気の方も最後まで保ってくれたので歩きに集中できたし、予想通りの展望が得られたので大満足です。鳳凰三山周辺は紅葉が美しいので、また秋になったら来てみたい。
おしまい。
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