今回は、岩手県北部の二戸市にある金田一温泉 割烹旅館おぼないに泊まってきました。
金田一(きんたいち)温泉は寛永3年(1626年)に開湯した温泉地で、江戸時代にはこの地を治めていた南部藩の指定湯治場として、戦の傷を癒やすために藩の侍達に親しまれてきた場所です。このような歴史から、金田一温泉の別名は「侍の湯」と呼ばれています。岩手県はご存知の通り寒さが厳しい場所なので、温まりやすく冷めがたい金田一温泉の特徴を考えると重宝したのは確かでしょう。
温泉以外にも金田一温泉は岩手県に伝わる妖怪「座敷わらし」伝説が全国的に有名で、温泉街を形成する旅館の一つである緑風荘は、宿泊すると座敷わらしに会うことができるともっぱらの評判です。そういえば前回訪れた同じ岩手県内の遠野も柳田國男の遠野物語で有名だし、岩手県全体がそういう不思議な逸話で溢れている。
観光とはまた少し異なった、その土地の風土に触れる旅。今回の青森~岩手ライドやおぼないへの宿泊も、そうした経緯から決めました。
金田一温泉内には8つの源泉があり、そのうち現在稼働しているのは5箇所。温泉郷を形成する各地の旅館でそれぞれ異なった泉質の湯を楽しむことができる中で、最も古い自家源泉・玉の湯を持つのがこの割烹旅館おぼないです。まだ冬の到来には少々早いものの、素敵な旅館で肉体的にも精神的にもリフレッシュできました。
外観
まずは外観から。
岩手県を南北に横断する国道4号から東へ曲がると金田一温泉のゲートがあり、そこから田園風景走っていくと温泉街の中心部に着きます。温泉街の中心部には温泉施設やプール、食堂が一緒になったカダルテラス金田一という施設があり、各旅館はその円周上にあるようでした。
割烹旅館おぼないは、そのプールの真正面にあります。
割烹旅館おぼないの建物は重厚感を感じさせるコンクリート製で、正面に立っていると重量感があります。建物はいくつかの棟から構成されており、玄関部分だけが正面に突き出したような形。玄関周辺には釜や車輪など、昔ながらの道具が置かれていました。
正面玄関から向かって左側が旅館側の駐車場で、日帰り温泉を含めた客の駐車場は道路からすぐ入った旅館正面部分になります。玄関のすぐそばには送迎用の車が止まっていますが、おぼないは最寄り駅である金田一温泉駅までの送り迎えも対応しています。実際に、自分が泊まった翌朝にはおばちゃん達の宿泊グループが駅まで送迎してもらっていました(駅から旅館までは約2km)。
雪国にしてはやけに角張った形をしており、庇の部分もほとんどありません。このあたりはそれほど積雪がない地域なのかもしれない。
館内散策
玄関周辺~玄関ロビー
ロードバイクは玄関の脇に置かせていただき、早速チェックインをします。チェックインは16時から可能です。
正面入口から玄関部分までの間にはちょっとした空間があり、例えば雨のときはここで雨具の出し入れをすることができるようになっています。外観から見たときは庇がほとんどないので不思議に思っていたのが、内部にしっかり場所がとってありました。
左に目を向けると「歓迎」の文字の下に今日の宿泊者がずらっと載っているわけですが、なんとそのすべてが中学校や高校の男子排球部。
これにはちゃんと理由があって、この金田一温泉は漫画「ハイキュー!!」の中の登場人物の名前の元ネタになっています。割烹旅館おぼないではファンサービスとしてこういう取り組みをされているようで、中には作品のグッズを集めたハイキュー部屋なる客室があるという話も…。ハイキュー!!の作者である古舘春一さんは岩手県の出身で、作品内では地元を舞台にした風景が数多く見られるとのことでした。
ちなみに自分は初見だったのでかなり驚きました。今日はとんでもないほど多くの団体が泊まっていると思って二度見しちゃった。
そのまま奥へ進んでいくと玄関と玄関ロビーがあります。
玄関ロビーは相当に広く、見ての通り開放感のある造り。フロント周辺には展示物が多く飾ってあり、椅子や机もあるので時間待ちをする際などにくつろぐことができます。
玄関って旅館に到着して中に入ったときに真っ先に目に入る部分になるので、いわば旅館全体の雰囲気をつかむ上での第一印象になる存在。この玄関は横方向にも奥行方向にも広がりがあるので、屋内に入ったのにも関わらずそれほど圧迫感がないのが気に入りました。
流れ的には先程通ってきた歓迎ゾーンを経てこの玄関に至っている形で、段階的に順を踏んで屋内に到達している。外から空間的に仕切られた内部にいきなり入るわけではない、というのが個人的に好きです。
今自分がいる棟が中央に位置するメインの棟で、1階に玄関が、2階に客室があります。
そこから正面に進んでいくと広間がある棟を経て温泉に行くことができ、右側の廊下を進めば厨房や夕食会場を経て同じように温泉に繋がっています。なので、廊下としては真ん中の庭を囲むように走っていることになります。
客室についてはメインの棟の2階が主に使われているのに加え、夕食会場の2階や温泉の2階周辺にもそれぞれいくつかある様子でした。
それにしても、この玄関ロビーの雰囲気が本当に良いです。
自然光は建物の奥から少し入ってくる程度ですが、ほのかに館内を照らしている明かりのバランスがちょうどいい。不十分かというとそうではなく、静かな旅館の空気を保つのに一役買っている。明かりの見た目もシンプルなものではなく凝っていて、木材を中心とした家具や時計などの調度品が置かれているのも素敵です。
フロント周辺には特に旅館の方が常駐しているわけではないようで、主に厨房で忙しく動かれているようでした。もっともこの日は夕食会場で人数多めの宴会をやっていたので、その準備に追われていたのかも。
玄関ロビーは温泉上がりにちょっと身体を冷ます意味で訪れることが多く、別に人で混雑しているわけでもないのでまったり過ごすことができました。
玄関ロビーの奥、廊下の脇にはちょっとした小部屋があって、ここはどうやら休憩所や喫煙所として使われているようです。
上空と一面が屋外に面しているために陽の光も入ってきて、半分外みたいな空気がどこか美味しい。
金田一温泉自体が確かに歴史ある温泉である一方で、その古さにとらわれない新鮮さを感じた理由の一つが、このフロント周辺で少し理解できました。
この割烹旅館おぼないを運営されているのは、2代目である大建宗徳さん・ももこさんのご夫妻です。ももこさんは青森県出身の方で、得意なイラストを活かして金田一温泉の四季をカラフルなポストカードで紹介されています。温泉郷の散策マップも手書きのイラストで制作されているし、こういう視点で魅力を発信できるのは本当にすごい。
宗徳さんはおぼないの「食」を手掛ける料理人の方で、その一方で得意とされているのが木材を活かした大工のお仕事。この休憩所や玄関ロビーを始め、館内の随所に自ら手がけた部分が現れていました。旅館の裏手に併設されているYUDA BASEというグランピング施設も全部造ってしまうほどの腕前を誇っており、自分もちょっと拝見したんですが規模がでかすぎて驚きました。
何が言いたいのかというと、割烹旅館おぼないには歴史と新しさの両方が備わっているということ。
自分は当初、岩手県の温泉地というだけでここに泊まることを決めたのですが、いざ実際に訪れてみたら良い意味で期待を裏切られました。館内はとても清潔でお洒落だし、そこで過ごす時間は日頃のストレスを霧散させてくれた。何から何まで自分が好きな要素で溢れているというのはなかなかないし、精力的に二戸や金田一温泉の良さをアピールされている点も好感が持てます。
1階廊下~広間
続いては、玄関ロビーから先に進んでみます。
最初に1階部分の平面図を示しておくと、上記の通り。
玄関ロビーから先の2つに分かれている廊下の先はどちらも大広間に繋がっており、ステージ付きの大規模なもののようです。その先には温泉があり、客室については棟によらず2階にある形。
実際の建物もこの縮尺の通りとするなら、右側の大広間は真っ直ぐではなく斜めになっているみたいです。
先程大きな剥製を見かけたところから長い廊下を進んでいくとその大広間があり、今回の滞在中はここが朝食会場になっていました。
廊下の突き当りを右へ進むと温泉とトイレへの分岐があり、自動販売機が置かれています。
トイレ周辺の様子。
このトイレが最初見たときはトイレと気が付かなくて、なんか別の部屋へ続いているものだと思っていました。トイレのすぐ前には大きなストーブが置かれているし、雰囲気もどこかトイレっぽくなくて不思議な感じ。
位置的には温泉へ向かう入口部分にあるため、ちょっと行きたくなったときに行きやすいのが便利です。
旅館の公式サイトにも写っている建物西側大広間前の廊下。
温泉への入り口から厨房前までがぶち抜きの直線廊下になっているため見通しが非常によく、夕食の時間になってふらふらとこの辺りにやってきた宿泊客を案内するのに適した構造です。
廊下の途中には2階への階段があって、ここを上がると2階の客室へ行くことができます。自分が泊まっている部屋からすると、この階段を上り下りするのが温泉へ手っ取り早く行く道になるのでよく使ってました。
この日はこちらの大広間で何か宴会をやるようで、まだ夕食には早い時間にも関わらず係の方がひっきりなしに駆け回っていた記憶があります。宴会時にちらっと廊下の前を通ってみたところ宿泊客ではなかったので、この辺りの地域での宴会場所としても大事な場所なのだと思います。
そのまま大広間前を抜けて厨房方面に向かうと中庭があり、廊下を曲がって右へ進むと玄関ロビーに戻れます。
厨房前の短い廊下の壁は所狭しと様々な展示が貼られており、中でも目を引いたのがハイキュー!!関連の展示。作者の古舘春一さんが描かれたイラストもありました。
で、その横にたくさん飾られているのがこの座敷わらし達の写真。
まさかおぼないに現れた座敷わらしの撮影に成功したのか…?と思ってたら、子どもたちのコスプレでした。どの子も笑顔が素晴らしいですが、旅館ではこういう取り組みもされているみたいで新鮮です。
2階
玄関ロビーへ戻り、続いては階段を上がって2階へ。
階段は踊り場で180°反転して2階へと向かっています。
踊り場の上に設けられている窓が個人的に好きで、規則正しく四角形で統一された窓からは陽光が差し込んでくる。窓のすぐ外側には木が生えているため緑色の爽やかな光が心地よく、この階段の空間全体が上方向に広いこともあって必要十分以上の開放感があります。例えるなら学校の階段で感じる温かさというか、そんな感じ。
階段左右の壁は余計な突起がないシンプルな見た目をしており、その中で窓の存在感が一際目立っているような気がする。明かりと窓のバランスも考えられていて、自然光があるときは控えめになっているのが分かりました。
階段を上がった先には客室が集まっており、廊下の左右にそれぞれ配置されています。向かって左奥の部屋がこの周辺では一番広いようで、この日はおばちゃん達のグループが泊まっていました。
場所的にはちょうど玄関ロビーの真上にあたり、よく考えてみると1階のほとんどが玄関で占められている棟ということになります。構造としては非常に分かりやすく、客の動線も至って自然。館内こそ広いですが、迷う心配はないと言えます。
廊下のつきあたりは非常階段を兼ねたドアになっていて、ここからは旅館東側の風景が見えました。
続いては階段を上がって左手前方向へ進んでみる。
ちょうど客室とは反対側に位置するこちらの角には洗面所とトイレがあり、その隣の廊下を渡ると隣の棟へ行くことができます。この棟と隣の棟の中間地点に両者が存在する形になっているので、どちらの棟に泊まっていたとしてもアクセスは楽。
トイレについては入り口や中がトイレとは思えないくらいにお洒落でした。人生の教訓のような文章が書かれているのが見えますが、これは旅館の代表者によるものだそうです。
洗面所の様子。
洗面所には昔ながらのタイル張りの造りがそのまま残されているのがまず良いし、正面の鏡の大きさが不揃いなのも個人的には好きになりました。
蛇口はそれぞれに水とお湯の2種類が設けられているので、季節を問わずに快適に利用することができます。
廊下を渡って隣の棟へ。
こちらの棟は建物の片面に廊下が面しており、客室はそこに横並びで配置されているようでした。
泊まった部屋
今回泊まったのは、階段を上がって廊下の右側にある「さざんか」の部屋です。
廊下から踏み込みを経て襖戸があり、その奥に8畳の客室と6畳の寝室がある二間続きで一人泊にしては贅沢な構成でした。これは嬉しい。
6畳の方は完全に寝室用途で用いられているようで、布団が入っている押入れがあるくらいです。客室の方についても比較的シンプルで、あるのは机と座椅子、テレビ、エアコン。装飾が凝っていない分、肩の力を抜いてくつろげました。
アメニティとしては浴衣、歯ブラシ、髭剃りがあるので、手持ちは着替えくらいで十分かと思います。
客室及び寝室の窓側にはご覧のような広縁が設けられており、温泉上がりや夜などにここでまったりすることもできます。ただし西側に面していたため、今回の訪問タイミングではそこそこの熱を感じました。建物としては雪国らしく防寒性能が高くなっているので、日差しがダイレクトに差し込んでくる印象です。
ただ、この暑さが客室の方まで入るこんでくるかというとそうではありません。広縁と客室や寝室は障子戸で仕切られているし、何よりもエアコンが備え付けられているので温度の調節が可能です。
壁の薄さについてはちょっと薄めかな?古い建物らしく、隣の音や廊下の音がよく聞こえました。
温泉
館内を散策したところで、疲れを癒やすために温泉へGO。
割烹旅館おぼないの温泉は内湯が男女別に一箇所ずつある形式で、入れるのは夜は23:00まで、朝は5:00~8:30まで。基本的に日帰り温泉客も多く訪れる旅館なので、宿泊者以外にも賑わっている感じです。朝は8:30までとなっていますが、選択できる朝食の時間が最も遅くて8:30なので、いずれにしても朝食の時間までしか入れないことに注意が必要です。
温泉の詳細は下記の通り。
- 源泉名:金田一温泉(玉の湯)
- 泉質:単純温泉 低張性-弱アルカリ性-低温泉
- 温泉の種類:大浴場 天然温泉(源泉掛け流し 循環 内湯)
- 泉温:源泉33.4℃、使用位置43℃
- pH値:8.0で美人・美肌の湯と呼ばれる
- 効能:アトピー・湿疹 皮膚病 リウマチ・神経病
玉の湯の特徴は弱アルカリ性の単純温泉でpHが8.0あることと、ORP値(酸化還元電位)が64と低いこと。
特にORP値が低いと身体のサビを取るほど元に戻す若返り力が高いことを意味しており、つまり泉質が新鮮ということです。長く入ることでその効果はより高まり、自分もゆっくり湯に浸かって疲れを癒やすことができました。
温泉がある棟の入り口はこんな感じで広くとってあり、正面には巨大な船が展示されています。
洗面所と脱衣所の様子。
洗面所は脱衣所の中ではなく外にあり、ドライヤーも常備されていました。
そして、こちらが温泉の様子です。
四角形を2つ組み合わせたような特徴的な湯船に、一面が窓になった明るい浴室の造り。壁の意匠や湯船の模様も含めてとにかく居心地がいいと感じました。
窓が大きいので自然光がたくさん入ってくることになり、屋内にいながら外にいるかのような安心感があります。窓が少なくて人工的な照明で明るさを確保している温泉もある中で、この潔い構造が個人的には好き。日中なら明るく夜になれば暗くなる。そんな当たり前の環境で温泉に入れるのが良い。
窓については二重になっているため、冬でも室内が寒くなることはないだろうと思います。
それにしても、浴室への扉を開けたら真正面にこの風景が見えるのがインパクト高すぎる。自然光が温泉の水面に反射して幻想的で、湯船の大きさの割に室内が広いので何割か増しで広さを実感することができました。
設備については洗い場の数も多く、ボディソープやシャンプーも揃っているので便利です。床が広いのは温泉に入りながら休むのにも適していて、地元の方は湯船のそばに寝そべって寝ているのを見かけたりしました。
他の人はどう思うか分からないけど、最近は温泉を訪れるたびに湯船そのものに着目するようになってきた。
例えば湯船の形状や材質、年代の経ち方、汚れ具合などがそれにあたり、じっくりと見ていくとこの温泉がその土地でどれくらいの期間愛され続けてきたのか?がなんとなくでも分かるような気がする。そこへいくと、割烹旅館おぼないの湯船もまた情緒あふれるものだと思います。
重厚感を感じさせるような厚みのある縁の部分に、それと対象的な爽やかさを感じさせる青みがかかった内側のタイル構造。しかもそのタイルは底の部分は石のような丸形で、側面部分は四角形になっている。右側に目を移せば、あふれた温泉が音もなくあふれていてその部分が温泉の成分によって変色している。
過去に侍達が入ったのと同じ温泉で自分もくつろいでいると思うと、なんというか嬉しくなりますね。何が嬉しいのかはうまく説明できないけど、この湯船の様子やかけ流されている温泉を眺めながら浸かっていると自然と嬉しくなりました。
温度についてはちょっと熱めに感じたものの、しばらく入っていると慣れました。熱くなったら縁に座って休み、身体の熱が収まってきたらまた入る。温泉はやはりいいものだ。
夕食~翌朝
温泉に入りまくって消耗した体力を回復させるために何が必要かといえば、もちろん旅館の美味しい夕食です。割烹旅館おぼないでは二戸の食を堪能できる複数のプランが用意されており、今回はその中でも一番上のものを選んでみました。せっかく初めて泊まるのだから、そこに妥協は必要ない。
プランとしては「二戸まるごとプラン」というもので、漆器、鶏、豚、牛、地酒、お米、季節野菜をすべて盛り込み、この一泊に二戸をまるごとしつらえる豪華極まりない内容です。
せっかくの田舎旅♪小さなまちのいいとこいっぱい体感しませんか。二戸には誇れるものが盛りだくさん!美味しい三大ブランドミート(鶏・豚・牛)が揃い、ミネラルが豊富な大地で育つお米や野菜、果物は旬の一番を生産者さんの思いも込めて素敵な一皿に。さらに漆の里とも呼ばれており夕食には明治二年に作られた貴重な漆器も使い、風土やロマンをかみしめる素敵な一晩をしつらえます。私たちの好きなこのまちを皆さんにも好きになっていただけると嬉しいです。
おもてなしの宿 おぼない
ざっくり内容を書くと、まず食前酒として地酒の「南部美人」が登場し、続いて出てくるのがお肉の熟レ鶏・三元豚佐助豚・短角牛。お肉以外にも旬の食材を活かした料理や郷土料理が並び、お米は金田一産の低アミロース米「きらほ」を使用。当然ながら炊きたてです。あまりにも豪華すぎんか??
てっきり二戸は山の中にあるので山の幸を中心とした素朴な内容かなと思っていたのですが、実はお肉系が有名だというのを予約時点で知りました。
こちらがその夕食の全容です。
内容的にも色彩的にも優れすぎていて笑いが止まらない。なお写真には写っていませんが、食べ進めている途中で焼き立てのあゆの塩焼きが追加されました。
左奥が岩手郷土料理のひっつみ鍋、左手前が海鮮焼き(エビ、ホタテ)、右奥が短角牛のすき焼き。中央の漆器に盛られているのが野菜中心の季節盛りで、右にあるのが炊き込みご飯に新鮮なお造り、茶碗蒸し。手の込んでいないものは何一つなく、繊細な料理の腕を感じることができました。
料理の盛り付けに使用されている漆器(浄法寺塗)は、浄法寺漆と呼ばれる日本を代表する漆でできているもの。平安時代に浄法寺漆につながる漆器づくりがはじまったとされています。話によると私が今まさに使っている漆器は150年前に制作されたものだとか…。
そんな浄法寺塗の盆でいただく料理は、いつもよりもゆっくり味わいたくなる。美味しい食事の内容もそうですが、宿泊している中で自然とその土地、その旅館の歴史を実感できるというのは本当に素晴らしいことだと思いました。単純な旅館の古さの話ではなくて、今を生きている旅館とのやり取りの中でそれを感じられるというか。
漆器、料理、酒。長い歴史の中で育まれてきた要素が持っている良さがしみじみと伝わってくる。
もちろんあっという間に満腹になり、後には満足感だけが残った。
温かい料理についてはできたてか、もしくは自分で火をつける形式なので熱々の状態で食べることができるのが良いですね。そこに冷たく冷えた酒を持ってくるともう最高。料理と酒は相性が良くて、それが酒の旨い地域ならなおさら。
炊き込みご飯については、食べきれない場合はおにぎりにしてくれるので夜食として後で食べることができます。今回はおにぎりにしてもらって、食後の温泉の後にゆっくり食べました。
係のおばちゃんは(というか、旅館の方全員が)とてもフレンドリーで、自分が漆のことを訪ねたときには昔話を聞かせてくれたりと良い時間が過ごせました。おばちゃんが小さい頃はこの漆の番を任されていて、よく腕がかぶれていたとか。
夜は一通り館内を散策した後、温泉に入ってから就寝。
昼間とは異なり自然光ではなく照明が支配する館内はどこか幻想的で、やはりこの時間でなければ味わえないものでもあります。動けないくらいに疲れているのなら話は別だけど、今後も「夜の旅館」の様子はひっそりと歩きつつ堪能していきたい。
どの温泉旅館でもそうですが、夕食の後から寝るまでの間に温泉に入りに行こうという宿泊客は少数派のようです。今回も自分が入りに行った際には人は少なく、比較的ゆったり入れました。
翌朝は眠気覚ましにまず朝風呂に入りに行き、そのまま朝食へ。
朝食は健康を意識した和定食で、胃腸の調子をよくする優しい味付けでした。内容に緩急があるような献立ではなく、朝起きて感情が平坦になっている気分そのままに味わえるものです。旅館の朝食はこうでなくては。
そんなこんなで、割烹旅館おぼないでの一夜は終了。
温泉に食事にと、終わってみれば体感時間はとても短い滞在だった。つまり精神的にとても自分が満足しているということに他ならないわけで、ここはまた季節を変えて訪問したいと心から思いました。
おわりに
割烹旅館おぼないは観光的ではない素朴な金田一温泉の一角にあり、周囲の環境も含めて静かな趣の中に存在する旅館です。
自分がおぼないに泊まって一番感じたことは、岩手県の二戸という土地をよく体現しているということ。それは温泉や料理に強く現れているだけでなく、女将さんをはじめ係の方の朗らかさによるところが大きいです。一つの旅館の中に金田一温泉の今と昔の歴史がうまく調和されていて、時間を忘れて過ごすにはまさにぴったりの場所だと思います。
美肌効果のある温泉の効能や、二戸のすべてをふんだんに盛り込んだ食事。これらをダブルで味わってみたいという方はぜひおすすめできるのが割烹旅館おぼないです。自分としても、今度は冬の思いっきり寒い時期に再訪したい限りです。
おしまい。
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