今回は、鹿児島県霧島市にある妙見温泉 田島本館に泊まってきました。
妙見温泉は霧島市を南北に流れる天降川のほとりに宿が建ち並ぶ温泉街で、温泉郷でいうと新川渓谷温泉郷に属しています。江戸末期に温泉が発見され、周囲は山も近い、川も近いということで自然が豊かであって、古くから湯治場として栄えてきました。二食付きだけでなく自炊設備を備えた旅館も存在し、用途に合わせた宿泊ができるのも良いところです。
今回泊まった田島本館もまたそうした自炊宿の一つですが、自分が宿泊先に選んだ最大の理由は看板猫が住んでいること。
そもそも妙見温泉は「猫密度」が全国屈指な温泉として非常に有名なのです。妙見温泉には現在、宿や温泉施設が11軒あり、そのうち7軒に計18匹の看板猫がいるというから驚いてしまう。温泉と猫が好きな自分としてはいつか必ず泊まってみたいと思っていたところ、やっとその願いが叶いました。
田島本館は約100年前の明治時代に湯治場としてこの地に開業し、ちょうど天降川と中津川の合流地点に位置しています。滞在中は常に川のせせらぎが聞こえてきて、素敵な一夜となりました。
外観
まずは外観から。
霧島市街方面から国道223号を遡っていくと右側に妙見大橋という橋が見えてきて、この周辺が妙見温泉です。田島本館はそこから橋を渡って対岸側へ行き、少し走ったところにありました。
国道に面していないので比較的静か、だけど大きな川に面していて雰囲気は良いという、立地において良いとこ取りしたような素敵な環境です。
道路から短い坂道を降ると広大な駐車場があり、田島本館の建物はその奥に位置しています。
施設は一言で言うと横幅が非常に長く、駐車場も含めて敷地を贅沢に活用している印象。向かって右側、玄関や食事処がある平屋の棟と、向かって左側、2階建ての棟から構成されています。
さっき湯治場として…という話をしたけど、この2階建ての方が湯治棟のようです。
玄関がある方の棟は手前側にせり出した木製のデッキ部分が特徴的で、屋根があるのでどんなときでも寛いだり休憩したりできるのがグッド。こういう構成は飲食店ではよく見かけるものの、宿ではなかなか珍しいので新鮮に感じました。
そして軒先には超巨大な門松。そういえば今は年明けだった。
玄関付近には飲み物用の冷蔵庫が置かれているほか、宿名のフォントが実にお洒落でした。
ちなみに表記が「田島本館」ではなく「田島本館受付所」になっているのは、日帰り温泉で訪れる人が圧倒的に多いため分かりやすくしているみたいです。
館内散策
玄関~囲炉裏~1階廊下
というわけで女将さんにご挨拶し、ここから田島本館での滞在が始まります。
まず玄関を入って右側に食事処があって、夕食・朝食ともにここで頂く形になります。動線としては玄関から真正面に続いており、宿泊する場合はそのまままっすぐ進めばOK。
玄関を入ってみてびっくり、なんとこの食事処全体が木でできていて雰囲気が良すぎる。壁や床、天井までもが目に見える形で明確に木製になっているので全体的に柔らかい印象を受けました。
確かに玄関周辺は宿の第一印象として非常に大事な部分ではあるけど、ここまで落ち着く造りになっているとは思ってませんでした。でもよく考えてみれば温泉宿って「普段の疲れを癒やす」ために訪れているわけで、滞在中は変に気が張っているようではいけない。どう工夫したら身体の力を抜いて寛げるか?をよく理解されているなと感じます。
この食事処の床は冬場だと温泉床暖房になっているため、実は看板猫ちゃん達がここで寝ていることが多いです。上の写真にも現在進行系で寝ている様子が写ってますね。
食事処の右奥は厨房に繋がっていて、料理はここから運ばれてくる形です。
玄関の左側にはなんと囲炉裏があり、ここには基本的に常に火が入っていました。
隅っこにちょこんと囲炉裏が設けてある…というレベルではなく、それ専用の広々とした囲炉裏スペース。火の匂いはなんとも心地よく、特に夕方から夜にかけてはこの僅かな炎を眺めているだけでも気分が静かに落ち着いてくる。人間が火を見て安心するのは原始的なDNAがそうさせているっぽいけど、まさにその体験ができました。
館内に囲炉裏を持つ宿は少なく、気分転換にここに座っているだけでも満足できます。温泉や猫ちゃん達も含め、田島本館はとにかく癒やしのための要素が多彩すぎる。
そして奥に向かうと宿泊棟となり、ここから先は日帰り温泉客は入れません。
客室周辺は建物の端から端まで廊下が横に通っていて、客室はその奥側に位置しているという統一感のある造りです。
天井の電灯、廊下の幅、そして各客室の部屋番号の表示など、全体的にどこか学校の校舎を思わせる。向かって左側に見えていた2階建ての棟に移ってからはそれが顕著になり、自炊棟であるためか洗面所兼水場やガスコンロなどが置かれている一角もあります。
2階廊下
続いては、階段を上がって2階へ。
2階も基本的に1階と同じような造りです。
こうして歩いてみると凝った意匠や装飾などは見られず、シンプルにまとまっているのが分かります。
しかし殺風景かと言うとそうではなく、学校のような雰囲気がある種の懐かしさを思い起こさせる。卒業した後の中学校とかを歩いているような感じになって、温泉に行った後は放心状態のままに客室まで向かえると思います。
泊まった部屋
今回泊まったのは2階左端に位置する201号室で、広さは6畳+広縁で一人泊にはちょうどいい広さでした。
設備としてはエアコン、テレビ、冷蔵庫、炬燵があり、ポットのお湯は目の前の水場で確保する形。消耗品として浴衣、歯ブラシ、パックのボディソープとシャンプー、ひげ剃り、タオルとバスタオルは揃っています。
田島本館の温泉には洗い場がないので石鹸等は持参する必要がありますが、このように最低限は揃っているので手ぶらでも良いかもしれません。
玄関に近い方の棟の客室は室内に個別の洗面所やトイレがあるようですが、自炊棟の方はすべて共同となっています。
布団についても自分で敷くスタイルで(これはどの部屋も同じな様子)、何から何まで自分でやってねという湯治の基本が現れていました。ただ自分の場合は2食付きのプランなので、湯治棟の自由さを享受しつつも食事の心配はないという、美味しいところだけを満喫した感はあります。
どの温泉地であっても宿泊費を安く抑えようとした場合に湯治プランは魅力的なものだけど、自分は食事をしっかり食べたい派なので田島本館のスタイルは非常に有り。ぜひとも一泊ではなく何日も宿泊して、布団を敷きっぱなしでダラダラ過ごすというのをやってみたい。
この部屋の良いところとしては、窓からの景色が本当に優れているということ。
西向きの部屋なので、夕方になるといい感じの夕日が窓から差し込んできます。せっかく川に面した宿に泊まっているのだから、客室から川を臨みたいというのは誰もが考えるところ。その点でいうと、田島本館はすべての客室から川が見えるので展望は抜群です。
看板猫ちゃんが可愛すぎる件
さて、ここからが田島本館の革新となる部分。
田島本館にはすずめちゃんとつばめちゃんという2匹の三毛猫が暮らしており、どちらもメスで7~8歳くらいだそうです。つばめちゃんの方は敷地内に迷い込んできたのを保護し、一方のすずめちゃんはこちらも野良猫だったのを保護されて田島本館の一員になりました。
2匹とも柄が似ていて、本当の姉妹のように仲がいい様子で何より。
両方とも自由気ままに館内を歩き回っているほか、この時期だと食事処周辺で寝ていることが多いので見つけやすいのがグッド。さらに嬉しいのは背中とかを撫でさせてくれることで、うっとりした顔を見ていると精神力が回復できる。
この猫ちゃん達がびっくりするほど可愛いのが田島本館の良さの一つです。
猫ちゃん達のことを四六時中考えてしまうくらいに存在感があって、特に用はないのに無意識のうちに猫ちゃん達がいる食事処に向かってしまうくらいに熱中してました。たぶん客室にいた時間よりも、食事処周辺にいた時間の方が長かったんじゃないかってレベル。
すずめちゃんとつばめちゃんを目当てにしている宿泊者も多いと聞いて、その事実にとても納得できました。
どちらかというとつばめちゃんは行動的で、食事処だけでなく玄関外や屋根の上に上っていることもあります。一方のすずめちゃんは比較的寝ていることが多く、自分が食事処を訪問した際にはだいたい寝てました。
それにしても、猫が寝ている姿ほど平和なものはないと思う。気持ちよさそうに野生とは無縁の寝相で寝ていて、むやみに触ると起きてしまうので遠目から眺めているだけで心が落ち着いてくる。
なんというか、「滞在中の各隙間時間の中で、視界の端に猫が入り込んでいるのが良い」んですよね。
自分には自分の過ごし方があって、猫ちゃんには猫ちゃんの過ごし方がある。今回の場合だと主に猫ちゃんがいるのは食事処で、夕食のとき、朝食のとき、そして夜に温泉に行って少し夜風に当たりたくなったとき…そんなときに自然と猫ちゃんに遭遇することができる。温泉×猫ちゃんという組み合わせの良さは無限大だ。
温泉
キズ湯・胃腸湯
客室を確認した後は、早速温泉に入りに行くことにしました。
田島本館の温泉は、宿泊者だけが入ることができるキズ湯・胃腸湯と、日帰り温泉客も随時訪れる神経痛湯の2箇所があります。いずれも男女別で24時間入れるほか、前者に至っては宿泊者限定なので比較的空いています。
というか、神経痛湯の方は夕方から夜にかけての混みようがかなりのものでした。なので、人が少ない時間帯に入りたい場合は日帰り温泉時間外に行くのがおすすめです。
- 泉質:マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉(低張性中性高温泉)
- 泉温:47℃
- pH:6.7
- 効能:神経痛、筋肉痛、関節炎、運動麻痺等。飲用では胃腸病等。
温泉の入り口はいずれもさっき通った廊下の一番端にあり、玄関側に近い客室に泊まった場合は少々歩く形になります。
宿泊棟を出てサンダルに履き替え、右の方の階段を下っていくとキズ湯・胃腸湯の入り口があります。
実は宿泊棟の地下部分は川の増水時に対応するために空洞になっていて、普段は駐車場として使われている一角に温泉が設けられています。昔はこちらも日帰りで入ることができたようですが、現在では宿泊者限定となっています。
浴室の様子はこんな感じで、手前から順番にキズ湯、胃腸湯、そして打たせ湯があります。いずれも源泉かけ流しとなっていて、温泉の効能を最大限に実感できる造り。
浴室は一言で言うと石と木材で構成されていて身体への親和性が非常によく、湯船の素材である石には温泉の成分がたくさん析出していて茶色に変色しているのが分かります。温泉の効能というのは目に見えないものですが、温泉の中に含まれるものがこうして視覚的に確認できる形で現れているのは、説得力がすごい。
キズ湯の方は若干温度が熱め、胃腸湯の方は個人的には適温で比較的長湯が可能でした。温泉の"濃さ"は味にも現れており、軽く舐めてみると酸の味が強いです。どちらも入った後に身体への影響がダイレクトに響いてきて、客室に戻ったときには身体がだるくなっていたり。
キズ湯・胃腸湯は湯船こそ小さめだけど、人が少ないのでゆっくりするのに向いていると思います。
神経痛湯
それにしても、温泉において源泉かけ流しは本当に贅沢なことだということ。
今回の場合でいうと、特にキズ湯・胃腸湯は温泉客が入っていない方の時間が圧倒的に多いです。それにも関わらず、湯船には常に新鮮なお湯がかけ流されては消えていく。
もったいない…と思うと同時に、自然のパワーをこんなに自由に使えるのはとても恵まれている。
続いては来た道を戻り、神経痛湯の方へ入りに行きました。
キズ湯・胃腸湯の雰囲気を静寂だとすれば、神経痛湯に関してはそれと真逆です。どのタイミングでも日帰り温泉客が多く訪れていて、そこにあるのは顔見知り同士の賑やかな会話。日帰り温泉本来の盛況さを声として聞いているとこちらまで元気になってくる。
そんなわけなので、もし神経痛湯の方に静かに入りたいという場合は、自分のように4時くらいに起きて朝風呂に行くのが良いです。
神経痛湯の浴室はこのような感じで、手前に小さめの水風呂、奥側に大きめの温泉の湯船が設置されていました。温泉については当然のように源泉かけ流しです。
設備の方は最低限の椅子や桶しか置かれていないので、仮に日帰り温泉で訪問する場合には身体を洗うセットが必要になります。
田島本館の温泉は色が美しくて、見る角度だったり光の当たり具合によって微妙に色が変わって見えます。
あるタイミングでは白く白濁していたり、日光が軽く当たると薄いブルーになったり。これも温泉の成分によるものかな。
神経痛湯の温度はキズ湯と同程度で、入っているうちに体温が上がった印象はそこまで強くないものの、湯から出た後に温かさが持続するような感覚がありました。これは何回でも入りたくなる。
夕食~翌朝
日中の疲れを温泉で癒やしていると、いつの間にか夕食の時間。
夕食は玄関横の食事処で頂く形になります。
夕食の内容はおでん、刺し身、茶碗蒸し、グラタン、そして鹿児島ならではの鳥刺しがメインで、とても家庭的かつ健康的な料理が並んでいました。
どれもこれもが美味しく、料理を眺めているだけで食欲がマッハになってくる。家庭的に見えるのは食器類が落ち着いたものだからだと思いますが、食材の良さに加えて料理としての完成度が高いです。
あと書くまでもないことだけど、鹿児島といえば焼酎ということで焼酎の品揃えが非常に豊富でした。
で、ふと横を見るとスヤスヤと寝ているすずめちゃんの姿が。
そうです。食事処には猫ちゃん達が寝ていることが多く、それは食事のタイミングであっても変わりません。なので美味しい食事をいただきつつ、同時に猫ちゃんの寝顔で癒される…という一度で二度美味しいみたいなシチュエーション。神か?
警戒心なく昼寝をしている様子が脳内の幸せホルモン分泌を促進させ、それによってさらに口の中に美味しさが増幅されていく。猫ちゃんとの距離がこんなに近い宿は珍しいと思います。
夕食後は再度温泉に入りに行ったり、部屋の窓から夜景を眺めたりして夜を過ごしました。日帰り温泉客については夕食の時間帯になってさらに多くなり、一日が終わって身体を温めにきている地元の人の多さに驚くばかり。
食事処で本格的に寝に入っている猫ちゃん達を見ていると自分も眠くなってきたので、布団を引いて就寝。温泉に入りまくっていたせいか、布団に入るとすぐに意識が遠のきました。
で、翌朝。
朝4時に起床して神経痛湯に入ってから二度寝し、再度起きて朝食の時間です。日帰り温泉は朝8:30から営業開始なので、少なくともそれまではゆっくり入れます。
食事処へ向かうと煙の匂いがしてきて、そういえば横に囲炉裏があって、どうやらもう火が入っているらしいことに気がつく。温泉に猫ちゃんに囲炉裏。朝から身体にインプットされる情報が多くて楽しくなってきた。
朝食の内容は色彩豊かで、自然と今日一日を頑張ろうという思いが湧いてくる。比較的野菜が多め(な気がする)で健康志向な印象でした。
そして夕食時と同じく、朝食のときも隣には猫ちゃんがいます。今回は起きていて、監視されながらの食事となりました。
そして田島本館での滞在が終了し、名残惜しい気持ちが強いもののこれから出発です。
そんな思いをさらに加速させる出来事があって、なんとチェックアウトのタイミングですずめちゃんがカウンターに乗ってきてお見送りをしてくれました。
周りには明らかに自分しかいなかったので、これはもうすずめちゃんからのメッセージに他ならない。最初から最後まで構ってくれてありがとう…。
最終的には抱っこされたすずめちゃんと女将さんとで手を振っていただいて、これはもう絶対に再訪するしかないと決意を固めたのでした。
最後に、これから朝が始まろうとしている妙見温泉街を振り返って撮影。
今日もいい一日になりそうだ。
おわりに
妙見温泉 田島本館は国道から川を挟んだ対岸にあって静かな環境に位置し、効能の高い温泉に加えて可愛すぎる看板猫ちゃん達が住んでいる癒やしの宿です。
温泉宿では温泉を満喫しつつ、美味しい料理や温かい布団で寝られるという体験ができますが、田島本館ではそれらに加えて滞在中に「癒やし」を感じられる機会がたくさんあります。プチ湯治の自由さ、24時間入れる温泉、ロケーションの良さ、そして猫ちゃん達とのふれあい。
すずめちゃんとつばめちゃんが自由に過ごしている様子を眺めるだけでも十分顔がにやけてきて、他にはない幸せ感を感じることができる。親切な女将さんにも大変お世話になって、ここは必ずまた宿泊したい宿になりました。
おしまい。
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