今回は、大分県の竹田市から豊後大野市を中心にロードバイクで走ってきました。
九州、特に大分県といえば温泉が有名で、冬の間はとにかく温泉に入りたい自分としてはそれだけで訪れるきっかけになる場所です。また今までに九州を訪問した機会はそんなになく、一昨年、昨年は九州メインの年にしたいと思っていたけど実行には移せませんでした。今年は多少なりとも行く回数を増やしたいところ。
温泉が有名ということは自然のパワーが大きいというわけで、経験上そういったところは地形や環境に特徴があります。今回は竹田市の長湯温泉に泊まる際にその周辺を軽く走っただけですが、ここにしかないという素敵なスポットに多く出会うことができました。
出会橋を経て大分の山間部へ
行程としては至極単純で、大分県内を走る国道402号を中心にして自然の景観を中心に巡った後に長湯温泉まで移動して一泊。翌日は東へ進路を取って豊後大野市をうろうろして終了です。
例によって走るルートは適当で、走りやすさなんて微塵も考えてません。だがそれがいい。
まずは小川を横目に見ながら、交通量がまるでない田園風景を走って川の上流方向へ。
基本的に大分県は平地が少なく、国道が走っている周辺でもアップダウンが激しい地形となっています。つまり視界の中に山が多く登場してくるわけで、移動距離の割に景色の移り変わりが激しいのが特徴の一つ。
丘を走っていたと思ったらいつの間にか林の中に入っているし、かと思えば田んぼが広がる集落が向こうに見えたりする。飽き性な自分としては、同じ景色がずっと続くわけではないのが嬉しい。
最初に訪れたのは、さっきまで遡ってきた奥岳川にかかる出会橋・轟橋という2つのアーチ式の橋。その名の通り、2本の道がここで出会っているかのような配置が見事でした。
下流側にある轟橋はかつて存在した森林鉄道の橋として昭和9年に架けられたもので、上流側にある出会橋は大正13年に架けられた橋です。轟橋のアーチ幅(径間)は32.1mでこれはなんと日本1位、出会橋の方は29.3mで日本2位と、この一角だけで日本を代表するアーチ式の橋を眺められるんです。
これに関連して、今回大分県をロードバイクで回った感想としては、大分県はこのような石造の橋梁がとても多いということ。
現在日本には石造の橋が約2000基あると言われていて、そのうちの約9割が九州にあるそうです。理由としては、大昔の阿蘇山の大噴火によって石材の元となる材料・溶結凝灰岩が周辺に多いことや、谷間が多いので集落間の行き来のために橋が必須だったことなどが挙げられます。
そういうわけで、今回のライドはとにかく「川」と「橋」に意識が傾いたライドになりました。
出会橋の上流側はかなり開けた空間になっていて、周囲は崖に囲まれていました。その崖には今述べた溶結凝灰岩からなる柱状節理が確認でき、自然が形作った美しさと人間が建造した美しさの対比が本当に良すぎる。
橋は対岸へ移動するためのものなので、耐荷重が重要になるのは当然のこと。しかし経済的な面では橋を建造する上で使用する材料は少なくしたいわけで、その結果として断面効率に優れて剛性が高いアーチ橋が用いられています。
やっぱり無駄を削ぎ落としたものって造形美に優れていて、それはこれらの橋を眺めているだけでも実感できる。個人的には「橋は人の生活と密接に繋がっている」という点に惹かれ、私が旅をする根本的な理由を再認識できました。
その後は明らかに農道っぽい道を走り、はるか遠くにくじゅう連山を眺めながら西へと走っていく。
遭遇する人といえば農作業をしている方くらいですが、自分としてはこういう道を選んで走るほうが開放感がある。交通量が多い場所を走るのは移動に専念するときだけで、そうでないならあえて人がいない方を選んでみる。大抵の場合は、そういう場所にこそ自分が求めていた風景があったりするので。
大分の川と石橋
山の方を入るのは一旦ここで中断し、県道を通って北へと向かいます。
それにしても平和な道ばかりで、この後の予定をすべて放り投げてずっと走っていたくなる。
先程見かけた柱状節理は溶岩やマグマが固まったもの、つまりこの地が遠い昔に火山活動が活発だったことを示しているわけですが、その影響は至るところで見ることができます。
例えば上の写真でいう川もそのうちの一つで、よく見ると川の両側に角張った岩が多いことに気がつく。これもまた柱状節理の一部でした。
今回回った大分の河川においては、川幅に対して岩が占める割合がかなり多かったり、川自体の高低差も含めて川全体がのっぺりと平面状になっていたりするところが多いです。これらは例えば自分が住んでいる近くの川と比較すると明らかに異なっていて、つまり大分県独特の地形ということ。
これが関係しているのかは明確ではないものの、特に四国で多く見られる沈下橋も大分県では比較的たくさん見かけました。
にしても、遭遇する橋が全部石造の橋じゃないかってくらいにどの橋も雰囲気が良すぎる。
石橋はその無骨な外観がまず好きだし、これは自分だけだと思うけど、鉄骨でできた橋よりもみっしりしているので頼もしいイメージがあります。何よりも昔からこの土地でずっと役立ってきたという歴史もプラスされて、長く使うには石が最強なのではと思ったり。
あとは欄干の背が低いことが多いので、上に座って休憩しやすいというのもあります。
そうそう、川の様子が独特というのを説明しやすい場所があったので写真を撮りました。川の流れに沿って岩が削られているのがよく分かると思います。
しかも激流によって…という荒々しい様相ではなく、現代と同じような静かな流れの中で形作られましたというような線状の跡。
なんてことのない景色だと思っていても、よく観察してみればその土地にしかないような珍しい景色というパターンは往々にしてあります。今後もただ通り過ぎるだけではなく、あらゆるものに興味を持つような行程にしていきたい。
世界屈指の炭酸泉、長湯温泉へ
そんな感じで県道7号から国道502号へ移り、後は山を上って今日の宿がある長湯温泉へ向かうだけ。
ただ、その前に先日の宿で女将さんからおすすめされたお店に立ち寄ることにしました。向かったのは大分県の銘菓、荒城の月が売られている但馬屋老舗です。
荒城の月は竹田市に縁がある音楽家 滝廉太郎の「荒城の月」から名前をつけた和菓子で、見た目は饅頭のよう…なんだけど表面が淡雪(卵白)になっていて独特の食感がありました。
味わいがあっさりとしているので、冗談抜きに何個でも食べられそうなほど美味しいです。
なお但馬屋老舗にはカフェも併設されており、荒城の月をはじめとした和菓子を最大限に堪能できます。
確かに和菓子ってどれもこれも美味しそうな外観だけど、一般的にはお土産用として販売されているので休憩時にはちょっと手を出しにくいもの。でもここではサクッと立ち寄れるのでおすすめです。
休憩した後は、長湯温泉までのヒルクライム。
竹田市街と長湯温泉の間には軽い山脈がそびえているので、その分の標高差があってキツい。
というわけで、奥豊後にある長湯温泉に到着。
長湯温泉は「ここから先が長湯温泉です」という様に温泉街が形成されているというよりは、町の中に入ってきたらいつの間にか長湯温泉だったというくらいに良い意味で観光地感がありません。なので身体の力を抜いて散策できるし、周囲の田畑や河川の延長線上に宿が並んでいたりするのが好きです。
どこを切り取ったとしても静かそのもので、なんというか温泉地なのは温泉地なんだけど、宿と民家が良い感じに融合している。人々の生活の一部として温泉がある、という様子が傍から見ても分かりやすい。
今回宿泊した紅葉館の宿泊記録については、別記事でまとめました。
長湯温泉での滞在
紅葉館で過ごすひとときも十二分に満足できるものですが、その一方で長湯温泉を訪問したのなら日帰り温泉の方も入ってみるのが吉。せっかく一泊していて時間はあるので、宿の近くにあるラムネ温泉館に向かいました。
長湯温泉は世界屈指の炭酸泉で有名であって、炭酸といえば泡。その泡のシュワシュワ感を最も実感しやすいのがこのラムネ温泉館の温泉です。ラムネ温泉館の外湯は温度が低く、従って二酸化炭素の泡が視認しやすいというわけです。
館内には源泉かけ流しの42℃の内湯と32℃の外湯(露天)があって、交互に浸かることで高い効果が期待できるそうです。実際にこの季節だと外湯だけでは厳しいので、内湯の温かさが嬉しい。
ラムネ温泉館はまず外観がかなり特殊で、最初にこれを見たときは日帰り温泉の施設だと気が付きませんでした。
施設は受付がある棟と家族風呂がある棟、そして内湯や外湯がある棟の3つの建物から構成されていて、受付を済ませた後は一番奥にある棟まで歩くことになります。受付の方には物販も充実しており、全体的にお洒落な雰囲気でした。
肝心のラムネ温泉については、もう完全に予想以上。
湯船に浸かってたった数分間で全身を泡が覆い尽くし、少し動くだけでその泡が湯面に上がってきて弾けています。温度はやや低めですが、炭酸泉によって血行がよくなった結果で湯冷めはしにくい印象。内湯の方は一般的な温泉くらいに温かいし、何も考えなくても交互に入るだけであっという間にぽかぽかになれます。
明確に温泉の効果だと感じられたのは、温泉の温度に対しての熱の持続性かな。
確かに温度が高い温泉に入れば身体に浸透した熱は長持ちするけど、ラムネ温泉館のは決して熱くはないのにずっと温かさが続いている。できれば、こういう温泉に毎日入りたいものだ。
長湯温泉には猫が多く、ラムネ温泉館周辺も例外ではありません。スリスリが激しい猫ちゃんが複数出没するので、意図していなくても長い滞在になってしまいがちです。
「CAT横断します」の標識もわざわざ設置されていますが、ラムネ温泉館は日帰り温泉客が本当に多い。どのタイミングでも大勢が入りに来ているくらいなので、いかに地元の方に愛されている湯なのかが一瞬で理解できました。
この日は紅葉館で満足の行く時間を過ごして、翌朝。
次の目的地に向かう時間を確保したいので、道中の散策は昼過ぎまでとしました。
当然ながら朝なのでまだ人は少ないですが、早い時間に旅先を出発するのも結構好きです。
今日という一日が本格的に始まる前にささっと宿を発つ。朝だからこそ見ることができる風景もあれば、適度に寒い空気が肺を満たすのもこの時間でなければ味わえない。
冬の朝の山間部は最初は霧が立ち込めていて、日が昇ってくるにつれてその霧が晴れてくれるので幻想的な風景になります。具体的に言うと遠くの山々がうっすら確認でき、そこから手前になるに従ってはっきりとしてくる。
朝や夜はこの時期だと寒いものの、あえてそういう時間帯に行動するとまた新しい発見があるかもしれません。
平野に突然現れる原尻の滝
長湯温泉から再度竹田市街にダウンヒルし、そのままの勢いで向かったのは豊後大野市にある原尻の滝です。
原尻の滝は大野川の支流である緒方川にかかる滝で、幅100m、高さ20mを誇っています。上から見ると美しい弧を描いており、川幅=滝の幅じゃないかと思うくらいに幅が広いのが特徴の一つ。その希少さは「日本の滝百選」や、「おおいた豊後大野ジオパーク」認定として大分県百景に指定されているほどです。
一般的に滝がある場所といえば、河川の流れが急になる山間部の方。しかし原尻の滝はその正反対で、なんと田園風景が広がる平野部にいきなり登場してきます。滝がある緒方川沿いは昨日の行程で少し走ったけど、決して大きな高低差のあるような川ではないだけにとても驚きました。
というわけで早速やってきたけど、いやー…とにかく原尻の滝は迫力がものすごい。
普通、滝を見るためにはそれ相応の山の奥地まで行くと思う。なので滝そのものを見る前に、周囲の環境などから滝の高さ、規模などがある程度予想できるものなんですが、ここではそういう予兆が一切ない中に巨大な滝が出現してくる。視界の上半分と下半分の景色がミスマッチすぎて、冗談抜きに度肝を抜かれました。
原尻の滝ができた経緯は、すでに述べている溶結凝灰岩によるものだそうです。阿蘇山の噴火によって埋まった火砕流が冷えて固まり、その後に水の侵食で現在の滝が形成されました。今回のライドでは、大分県の自然の規模の大きさに驚いてばかりだな。
原尻の滝周辺には遊歩道が整備されていて滝の近くまで行くことができるほか、道の駅が併設されているので休憩も可能です。
原尻の滝は滝そのものの美しさに加えて、滝の周りの景色もその美しさに拍車をかけているように思えます。
上流側や横側には鳥居が建っていて、河原は特に何があるわけでもなく自然そのままの状況が保たれている。そしてその向こう側には平和そのものな田畑や民家などが見え、全体を通して喧騒とは無縁な長閑な雰囲気が漂っているような気がしてくる。
どれぐらい平和かというとこれくらいで、ずっと平野が続いているのでロードバイクで走るのにも向いています。
でも平野だけではなくて川も山もあるし、昨日の長湯温泉もそうだけど少し走るだけで環境が目まぐるしく変化していく。いきなり現れる滝がまさにその例だし、大分県は狭い範囲に魅力がギュッと集まっている場所だと強く感じました。
豊後のナイアガラ、沈堕の滝
原尻の滝を後にして最後は下流側、大野川とその支流(平井川)の合流地点にある沈堕の滝を目指しました。
沈堕の滝もまた原尻の滝と同様の経緯で形作られた滝の一つで、大野川の方の雄滝(幅97m、高さ17m)と支流の雌滝から構成されています。
原尻の滝と異なっているのはそこまで近くには行けないようになっていることと、大正12年まで使用されていた沈堕発電所跡が残っていること。その落差は水力発電に利用され、明治時代においては豊後電気鉄道や町への電力供給を主に行っていました。今では下流に新沈堕発電所が建設されているのでその役目を終えていますが、建物の一部が遺構としてアクセスできます。
県道から道を一本入ってしばらく進むと公園があり、その脇から滝まで遊歩道が伸びていました。遊歩道は発電所跡の上を通っているので、その建物は目に付きやすいです。
発電所の跡はこんな感じで、もちろん遺構なので外壁以外は何も残されていません。
しかし壁の高さが相当に高く、発電所としての当時の規模がなんとなく想像できる。窓?も殺風景ではなく洒落た形だし、年月が経って草木が生い茂っているのも廃墟らしくて好きです。入り口や窓の配置を見るとなぜか教会を思わせる構造で、ノスタルジックなセンスが目立っていました。
で、その先にある展望台からは沈堕の滝がドアップで見れました。
原尻と滝と比べると明らかに水量が多いけど、これは大野川の本流だからそうなっているということだろうか。その影響で川幅いっぱいに水が満たされていて、勢いよく滝壺に向かって水が叩きつけられている。
今回の大分旅の最後にふさわしい名瀑で、本当に今回訪れてよかった。
大分旅はこれにて終了し、次の舞台として鹿児島に向かいます。その辺の話はまた別記事で。
おわりに
大分県は全国的に温泉が有名な県で、その豊富な湧出量などが意味するのは自然の活動が活発ということ。
今回の大分旅ではそういった温泉地での宿泊に加えてロードバイクで軽く走ってみた結果、他の地域とは異なる特色を持つ場所だということがよく理解できました。なんといっても「川」や「橋」が眺めていて面白いと感じるし、その背景を紐解いていくと最終的には温泉と関係あるという事実に行き着く。
いつもの旅の延長線上で、地形という点に着目して走ったライドは大成功に終わりました。
温泉宿が多いと「日中は運動をして夜は宿で疲れを癒やす」ということが簡単にできてしまうので、比較的行程を組みやすいというメリットもあります。大分県をはじめ、九州を再訪するのが今から楽しみです。
おしまい。
コメント