温泉旅館中野 岩木山神社の境内前に佇む温泉宿に泊まってきた

今回は、青森県弘前市にある百沢温泉郷の温泉旅館中野に泊まってきました。

秋の週末に北海道と青森県をロードバイクで旅することに決まり、宿に選んだのがこの温泉宿です。本当に青森県には温泉宿が多くて、毎年訪れるたびにどこに泊まろうか迷ってしまうレベル。紅葉の時期に合わせて今回も良い宿泊ができました。

もくじ

外観

まずは旅館の立地ですが、弘前の一大名所である岩木山神社の目の前に位置しており、神社参拝に来た人の視界内に必ず入っているといっても言い過ぎではない建物。それが温泉旅館中野です。

岩木山神社自体は弘前市街地からバスも出ていてアクセスが良く、手ぶらで観光に来ても足を伸ばしやすいところにあります。また岩木山神社は岩木山登山の登山口になっていることからも前泊・後泊地として最適で、登山を終えた後に温泉と美味しい食事で体力回復…という幸せな行程も簡単に実現可能。この日も、自分以外に泊まったもう一組は岩木山登山を終えて温泉でゆっくりされているようでした(登山の話をしていた)。

というか岩木山の近くには温泉が多く、ざっと挙げるだけでもこの百沢温泉郷、嶽温泉郷、湯段・羽黒温泉郷、新岡温泉、あたご温泉、三本柳温泉…と十分すぎるほど揃っている。津軽の温泉はどこを切り取っても満足できます。

温泉旅館中野の外観

温泉旅館中野の創業は昭和32年。外観はこんな感じで、表通りに面した横に長い建物が特徴です。2階には端から端まで障子戸を視認することができ、現在のように外観を近代化する前の木造の様子が浮かんでくるようでした。

館内散策

1階 玄関~フロント

続いては館内へ。

外観と同じく館内も比較的新しくなっていますが、一部の廊下の天井が低い・階段が多少狭いなど古さも残っています。館内構造を分かりやすくいうと「L」の形をしており、奥まったところに棟が繋がっているので神社前から見ただけでは全容を把握することはできません。

温泉旅館中野 館内図

まず玄関を入ったところに受付があり、受付の奥の廊下を進んでいくと厨房、次いで食堂、洗濯室、洗面所、トイレといった共同設備が並んでいます。廊下の最奥部に温泉があり、客室はすべて2階に位置していました。客室数は10室と記載されているものの実際にはもっと多く、2階には宴会用の大広間も完備されているなど、創業当時の賑やかさを思わせる造りをしています。

なお旅館のすぐ横には「なかの食堂」という昔ながらの食堂があり、ラーメンや山菜そばをいただくことができます。食堂が旅館の建物に組み込まれていること、そして名前が同一である点から旅館と食堂の多角経営をされているようです。

玄関を入ったところ。大きな横幅に加えて雪国らしく玄関土間自体が広く、それでいて玄関の戸から入ってくる自然光によって室内がほどよく照らされています。

玄関を上がってすぐに2階への階段があり、階段の横にフロントがあります。例えば投宿後に岩木山神社へ参拝する場合などはこっちの階段を使ったほうが近いです。

玄関ロビーの様子。

座り心地の良いソファに加えて長持や甲冑、高そうな壺が展示されていて驚きました。

1階 廊下

フロントで受付を済ませ、ここから温泉旅館中野での滞在が始まる。まずは廊下を直進し、1階を散策することにします。

食堂(大)の入口

フロントから玄関ロビーを過ぎると中庭に面した廊下があり、廊下の右側には宿泊専用と書かれた食堂がありました。しかしこの日の食事会場はもう少し進んだところにある別の食堂だったため、この食堂は人数が多いときのためのものなのか、それとも今はもう使用されていないのか。

中庭の様子。

建物の「L」の形が大きいため、内部に位置する中庭の面積も自然と大きいです。中央には大きな池があるほか、池の周りには盆栽などが植えられていました。

そのまま廊下を進むと突き当りで右に折り返します。

食堂(小)

厨房のほぼ目の前にある食堂。

部屋の中には四人がけの机が4つ並んでおり、食事開始時間をずらすことで全ての宿泊者に対応できるっぽい。やはり玄関近くの食堂は昔のもののようです。

洗面所

洗面所は1階と2階にそれぞれあって、状況に応じた方を使用できます。

なお館内にはWi-Fiが整備されているほか、1階の洗面所に隣接している洗濯機は無料で利用できるとのことで、これは登山をやる人や自分のようにロードバイクで訪問する人にとって非常に嬉しいサービス。洗剤は持参するか受付で販売しているものを使用することになります。

廊下を直進していくと階段があり、階段を上ると2階の客室へ、下ると温泉へと繋がっています。こういう風に微妙な高低差を上下の階段で補う構造は他の旅館でも見たことがあり、温泉旅館中野において昔から変わっていない一角のようでした。

2階 廊下~大広間

続いては2階へ。

階段を上がって正面右手方向に洗面所があります。

岩木山が一望できる

温泉旅館中野において最もおすすめしたいのが、この洗面所からの風景です。洗面所の窓からはまず中庭を挟んで表通りに面する建物が見え、その向こう側に見えるのが弘前を代表する津軽富士・岩木山。つまり自分がいま泊まっている温泉旅館と岩木山とがセットで一望できるというわけ。

岩木山周辺の温泉は岩木山の形成に由来するものであって、それらが一緒に写っているという事実。このアングルを見つけたときはめちゃくちゃ感動してました。

ここまで岩木山に近い宿はそうそうない上に、岩木山神社の鳥居前からでは岩木山がほんの一部しか見えません。まさに温泉旅館中野からしか見えない絶妙な展望を自分は見ている。もちろん天候にも左右されますが、登山前・登山後だとより大きな感動を味わえるはずです。

中庭

洗面所から今後は表通り側に歩いていくと、窓とは反対側に客室がずらっと並んでいました。

廊下の途中には自炊部屋と思われる部屋がありました。昔は湯治目的で泊まる人が多かったのかもしれません。

大広間の様子

廊下を曲がって玄関ロビー真上の大広間にやってきました。旅館の規模からして宴会用の広間があるとは予想していたものの想像以上に広く、36畳×二間で相当の人数を収容することができます。

昭和の時代といえば社員旅行など大人数で旅館に宿泊して晩は宴会をする…という流れが一般的だったと聞きますが、どちらかといえば静かな雰囲気が漂う岩木山周辺の旅館にここまでの広間があるとは思ってませんでした。

大広間の窓から見た景色がこちら。岩木山神社が目の前にあります。

岩木山神社自体にはもう何度も訪れているのに対して、この高さから神社を見るのは初めて。同じ場所でも感じ方が全く違いますね。

2階から見た中庭の眺めはこんな感じで、1階からの眺めとはまた違ったスケール感があります。

廊下の突き当りには階段があり、下ると玄関前に繋がっています。

このように温泉旅館中野における階段は建物のちょうど端と端にあるため、館内の目的地に応じて使い分けることで最短距離で移動が可能です。建物を設計する際の「動線」としては当たり前のように思えますが、実際に歩いてみると便利さがよく分かりました。

2階 泊まった部屋

今回泊まったのは建物奥側の階段にほど近い2階の16号室です。広さは8畳。

アメニティは浴衣、タオル、バスタオル、歯ブラシがあるので、これらは準備する必要はありません。設備はテレビ、冷蔵庫、ポット、内線、ファンヒーター、窓式のエアコンがあります。なお16号室に限らず客室内にはトイレ・洗面所がないため、館内トイレ・洗面所を利用する形です。

泊まった部屋

部屋としては奥まったところに位置しているため展望はないものの、表通り(県道3号・弘前岳鰺ヶ沢線)は夜中であっても交通量が皆無ではないのでこっちの方が静かに眠れます。

今回泊まった季節は11月の秋で、朝方は結構冷え込んでいたためにファンヒーターが頼もしく感じました。

温泉

日中のライドで疲れたので早速温泉へ。温泉に入れる時間は15:00~23:00、朝は5:00~10:00まで。百沢温泉郷は「熱の湯」と呼ばれ湯上がり後の保熱効果が評判で、これは近くにあるハッピィー百沢温泉を以前訪れた際にも感じました。

  1. 源泉名:新岩木温泉
  2. 泉温:49.4℃
  3. 泉質:ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩・塩化物泉(低張性中性高温泉)
  4. 知覚的試験:微黄色透明、無味微硫化水素臭
  5. pH:6.9
  6. 効能:関節リウマチ、神経痛、五十肩、切り傷、冷え性、疲労回復、健康増進など
温泉への通路
温泉入口
脱衣所

温泉の入口と脱衣所は比較的広く、特に脱衣所からはガラス窓越しに浴室経由で屋外がそのまま見通せるのでとても開放感がありました。浴室から外が見える温泉はたくさんあるものの、脱衣所から浴室がここまで見えるのは個人的に珍しいです。

あと夕方の時間帯になるとちょうど脱衣所に夕日が差し込んできて、室内がさらに明るくなっている点もちょっと嬉しい。暗いよりは明るいほうがよほど良いです。

そしてこちらが温泉の様子。内湯が一箇所のみで露天風呂はありません。

見ての通り、あまり他に例を見ないだるま形の特徴的な湯船が目を引きました。曲線を描いた湯船は多いですが完全に丸い湯船にはあまり出会ったことがなく、さらに円が2個連なっただるま形は初めてかもしれない。丸っこくて柔らかさを感じる湯船と対象的にお湯は盛大に掛け流されており、溢れた湯は向かって奥側の縁から流れ出ています。

流れ出る温泉
湯の成分によって床面が茶色や黒色に変色している。津軽の温泉はこういう景色を見ることが多い

浴室については、部屋を構成する4面のうち2面が窓になっているため十分すぎるほど採光があり、室内にいるという窮屈感をまるで感じさせません。この日が快晴で晴れ間が見えているという前提の中で、実に心地よい空気が漂っている。

温泉に入ってみると源泉温度がかなり高いため体感的にはかなり熱めで、湯を少し舐めたところわずかに鉄の味がしました。ただ冬の北海道~津軽地方を走って宿に到着した身としてはむしろこの熱さが身体に良いように思えてきて、疲労した筋肉がじんわりとほぐれていくのが実感できる。例えばこれが岩木山登山後なら言わずもがなで、入った翌日には疲れがすっかり消えているだろう。

厳しい寒さの冬がもうすぐそこに迫っている秋の時期に味わう高温泉。激アツの一歩手前の温度が最高に気持ちよかったです。

夕食~翌朝

温泉でまったりして部屋に戻り、横になっていると夕食の時間。お腹が空いたので1階の食堂へ向かいました。

温泉旅館中野の食事は旅館らしい素朴な味わいの品が並び、出来立てを順次運んできてくれるため熱々のままいただくことができます。この日の夕食の内容はさもだしの一升漬けの茗荷和え、タイ・マグロ・ホタテの刺身、わさび漬け(かなり辛い)、鶏肉のホイル包み焼きカレー風味、金アユの塩焼き、豚肉の陶板焼き、〆の山菜そばです。

わさび漬けが過去一で辛かった

ご飯についてはおかわり可能なのがさらに嬉しい。温泉に入って消費した身体に美味しい料理が染み渡っていくようで、どの料理も大満足でした。


夕食の後は温泉に再度入りに行き、火照ったまま布団に潜り込んで就寝。次の日の予定は特になかったので精神的にも落ち着けました。

翌朝はいつもどおりの時間に起床し、朝食前の朝風呂にGO。寒い日の眠気を覚ますには朝から温泉に行くのがてっとり早い。

夜の時間
朝の岩木山

朝風呂で感動したのは、朝日が浴室に差し込んでくるという点。昨日に続いて今日も朝から快晴が拝めるなんて、いきなり晴れやかな気分になれました。

沈没

時間に追われることなく布団から起きて、しかも朝食前に温泉に入ることができる。ロードバイク旅に温泉を組み込むことでこんなにも充実した時間を送ることが可能になり、あれこれ言う前にシンプルに満足度が高いので今後も積極的にやっていきたいです。

朝食の内容

朝食の内容はご飯と味噌汁に加え、かぼちゃの煮物、はんぺん、酢昆布、目玉焼き、ソーセージなどが並びます。

温泉に入った後だと食欲が2倍くらいになっているのもあって秒で完食。こういう家庭的な味わいが一番好きかもしれない。

その後は女将さんに挨拶をして旅館を出発。出発予定だった時間に雨が降ってきたため、チェックアウト時間ギリギリまで粘ってから弘前方面へ向かいました。

おわりに

温泉旅館は岩木山神社の前に建つ老舗旅館で、温泉の効能や食事の美味しさ、そして立地の良さを兼ね備えたところです。滞在中は常に神社と岩木山の存在を感じることができ、ただ素通りするだけでは感じにくかった山岳信仰の心を強く意識する2日間となりました。

特に夏~秋の時期は岩木山を登山目的で訪問する人が多いですが、せっかく岩木山に上っておいて温泉に入らずに帰るのはもったいない。この旅館や百沢温泉郷で疲れを癒やすことで、登山の思い出をもっと濃いものにできるはずです。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

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