岐阜県を走る #13 ロードバイクで「開かずの国道」国道471号を走破する楢峠ヒルクライム

今回も酷道を走っていく。

岐阜県の南に位置する冠山林道や温見峠をことを調べていた際に、「岐阜県北部の飛騨市にも有名な酷道があるが、今は冬季閉鎖中で通れない」という情報を得ていました。

その酷道とは、石川県羽咋市から岐阜県高山市に至る国道471号

石川県と岐阜県北部を結ぶ一般国道で、石川県羽咋市の中央町南交差点から富山県西部を横断し、富山・岐阜県境付近の楢峠(標高1,220メートル)を越えて、高山市飛騨温泉郷平湯の国道158号に達しています。

もくじ

楢峠を目指して

この国道の大部分は普通に問題なく通行可能なのですが、とりわけ"ヤバい"のが富山と岐阜の県境付近の道。

岐阜・富山県境付近の楢峠を含む区間は、全国屈指のいわゆる「酷道」になっていて、豪雪地帯の山越えであるため11月中旬から6月初旬まで冬期閉鎖が実施される。自然災害による被害を受けやすい奥飛騨の山岳地域を通過する富山市南部の八尾町地区から岐阜県飛騨市の河合町地区までの区間は、冬季閉鎖期間後も補修工事のため「通行止」という規制標識が建つ日が圧倒的に多く、1年の大半は通行できない日が続くことから「開かずの国道」といわれることがある。

要約すると、ただでさえ狭隘な道路なのに冬季閉鎖+災害通行止めのコンボを食らうことが多く、そもそも走る以前に通行できない期間が長いところというわけです。

前回訪問した酷道157号・温見峠もこれに分類され、行けるときに行っておかないと数年単位で走れなくなるのは明白。万全を期して冬季閉鎖が解除されたと同時に走りに行ってきました。

砺波の風景

今回のスタート地点は岐阜県高山市。

単に楢峠を上るだけならば飛騨側から走ってピストンすれば済む話だけど、何度も通れる機会があるとは思えない道なので全行程を走ることにします。

輪行を使ってサクッと富山まで移動。

始発に乗ったのも関係してると思うけど、乗換駅の猪谷まで誰も乗ってこなかった。

高山本線の各停って人がいっぱい乗ってるところを今まで一度も見たことがないので、これが日常なのかも。

猪谷からも乗客は自分一人。

日曜日の朝とはいえ、ここまで空いていると空気輸送と変わらない。

猪谷駅から乗ること数駅、富山の手前で輪行解除して早速ライド開始します。

今回のルートの核心部は先ほど述べたように富山と岐阜の県境周辺で、この県境を含んだ約40kmの区間は国道471号と472号の重複区間となっています。

なので富山側から最短で向かいたい場合は越中八尾から472号を南に向かい、約20kmほど走れば八尾町栃折で国道471と合流することができます。つまり輪行メインで考えるとすると、走行距離としては20+40の計60kmほどで事足ります。

ただ、今回はちょっと遠回りをしてみました。

まず八尾ではなく最初は砺波方面に西に走り、庄川のほとりや利賀村を経由して八尾町栃折に向かいます。最短ルートで行くとなんかもったいない気がしたので寄り道したんだけど、いつもこんな感じでルートは当日決めるスタイルなので問題なし。

通行止めになっている場所だけ把握しておいて、あとは気分で行き先を決めるのは個人的に好き。

富山県自体は登山で何度も訪れたことはありますが、自転車ではまだ海沿いをちょろっと走った経験しかないのでいずれ内陸も含めて走ってみたいところです。海鮮も美味しいし。

庄川のほとりを走って庄川峡の近くまで来ると分岐がありました。

右に行くと国道156号、左に行くと国道471号となるようです。

このまま国道156号を直進すると五箇山を経由して白川郷に行くことができるものの、今回の目的地はもう一方の、いわゆる南砺(利賀)に向かう方向にあるのでそっちに舵を切りました。

利賀村までは約20kmという看板を見て、とりあえず利賀村というところまでサクッと行って軽く休憩するかと誰もが思うと思います。実際、私もそうでした。

本番はあくまで富山の県境付近だし、そこまでは楽に行けると思ってました…。

庄川湯谷温泉旅館

この分岐のすぐ近くにとてもとても素敵な日帰り温泉があったので別記事でまとめています。

利賀村ヒルクライム

庄川湯谷温泉旅館からもその姿が確認できた小牧ダム周辺まで来たところで、ある予感が頭をかすめました。

ダムができるほどの大きな河川、そして山間部。これは…ヒルクライムの予感!

庄川に沿って緩やかに標高を上げていく国道156号とは対象的に、ここからは山間部をヒルクライムしていくことになります。いわば酷道区間の前哨戦といったところ。ウォーミングアップも兼ねてゆるゆる上っていきます。

道としてはほぼ片側一車線が確保されているため、特に危惧すべき点はなし。

はるか向こうの山の中腹に見えている白い線のようなものはガードレールです。ここまで眺めが良いと目的地が予め確認できるので、精神的にも安心できる。

酷道として名高い471号は、現時点ではまだ崖側にガードレールがあって心強い。交通量はそこそこあるけど幅員が広いおかげで気にせず走れます。

ロックシェッド(豪雪地帯なのでスノーシェッドかも)が非常に多い。

直線区間だけならまだしも、ロックシェッドの中で道がぐにゃぐにゃに曲がっているので見通しは悪いです。でも気温が高い日だと影になってくれて涼しく感じるので、これはこれで良し。

それにしても、これだけ標高を上げて落石の多い道を走った先にある利賀村とは一体どんな場所なのだろうか。

その利賀村に到着。

利賀村はかつて富山県東礪波郡におかれていた村で、2004年に合併して南砺市の一部となりました。今でも地名に村が入っているのはその名残です。

利賀村の存在を初めて知ったのは「山いが」のサイトで、当時も山と谷しかない地形だなと感じた記憶があります。今回実際に走ってみてそれを改めて実感できました。

村からどこへ行くにしてもアップダウンがとんでもないことになってる上、さらに豪雪地帯なので余計に隠れ里っぽさが感じられます。

今ではこの深い谷を利用してダムを建設中とのことです。一番下の写真、中央やや右奥に映ってる橋がダム橋ですね。

https://www.hrr.mlit.go.jp/toga/gaiyou/img/04.jpg

この風景もダムが完成するまでの間だけしか見られないということで、なんか得した気分。


ここでちょっと余談として、山ひとつ向こう側の庄川沿いにはかの有名な「大牧温泉観光旅館」があります。

船でしか行けない!?秘境の一軒宿「大牧温泉観光旅館」 | 観光情報特集「TOYAMA STYLE」 | VISIT富山県

庄川峡遊覧船でしか行くことができない秘境の一軒宿として以前から外観だけは知ってたものの、富山にあることまでは知りませんでした。折を見てこちらもいつか訪問してみたいと思ってます。

酷道471号、その先へ

利賀村からは新樽尾トンネルを経て百瀬川地区へ移動し、そのまま下り基調な道を北上して国道472号との合流点に到達。

国道路線番号案内標識、通称「おにぎり」がダブルで刺さっている風景がここから終点まで続きます。

ここからが本番。

酷道とは言っても全域が危険箇所なわけではないため、大部分は上の写真のような静かな風景が楽しめます。ちなみに道のすぐ横を流れる大長谷川は、この先楢峠までずっとお付き合いしていくことになります。

川の流れも穏やかだし、道もある程度広いしでペダルを回す脚もこころなしか力を抜いてリラックスできているような気がする。

大長谷温泉を過ぎたあたりでゲートがあります。

「開かず」のゲートも無事にオープンしていて、あとはもう道なりに進むだけ。道は一本道なので迷いようがありません。

迷いようがありませんが、ここから道が一気に危険になります。具体的に言うと幅員が車一台分になり、しかもカーブが多いことから見通しがすさまじく悪い。

道の左右が緑に覆われているため遠目から見ると道が判別しづらく、向こうから車が来てることが全くわかりません。

例えば、車で来ている場合は限りなく遠くに視点を置いて、対向車が来たら早めに察知することが重要になってきます。しかしこの道の様相だとそれが困難になり、下手をすると直前になるまで気づけません。

全体を通して坂道ばっかりなので片方はスピード出てるしなおさら危ない。

それを防ぐにはとにかく徐行運転するしかないわけで、そうなるとコンディション的にはロードバイクで走るのと対して変わりません。安全度を考えたら個人的にはロードバイクの方がおすすめ。

一番死ぬ危険を感じたのがこの辺り。

崖側では川床と高低差があるにも関わらずガードレールもなにもなく、そこから数メートル下は大長谷川です。しかも常に崖沿いなのにこのガードレール無し区間がめちゃくちゃ長い。

ガードレールがあるならまだなんとか安全だと思えなくもないけど、ここまで開放感があると自動車での運転はとてもじゃないけど無理。

ちょっとでも運転をミスると落ちて脱出不可能コースになるので、冗談抜きに興味本位で訪れるのは避けたほうがいいです。

そこを抜ければ楢峠までは比較的安全な道でした。道幅も広いし、普通に走ってても問題ないので落ち着いて走れます。

しばらく走ると富山県と岐阜県の県境に到達。一般的には県境は峠にあるものですが、国道471号の場合はここが県境なので珍しいかも。

肝心の楢峠はここから4kmほど南側に走ったところにあります。

県境を示す標識が妙に新しいのがなんか不思議。

あれだけ道は危険度が限界突破してるのに…。

県境から楢峠までは今までの道中と比較すると斜度も緩やかになる一方で、ここにガードレールがあってさっきまでの道にないのはちょっとおかしいと思う。

仮にここで落ちても命は助かると思うけど、さっきのところは落ちたら間違いなく死ぬ。

"落ちたら死ぬ"という危険はしばらく鳴りを潜めますが、道路的にはむしろ悪化します。

なんと道の真ん中に生えてます。ここは仮にも国道なのに…。

今までの道は全体的にアスファルト舗装がされており、狭隘な道幅には多少目をつぶるとしてもパンクをする危惧はありませんでした。

しかし、ここからはダートのような砂利道に変わります。うまく説明できないんだけど砂利道の上にコンクリか何を流し込みましたみたいな舗装で、舗装であって舗装じゃないみたいな。

砂利道だけじゃなくて結構大きめの落石も多く、道路状況から目を離せません。

分岐に出会いました。

ここは県道34号との交点で、この先を進めば利賀川ダムを経由して二ツ屋峠という峠を越し、最終的には利賀村まで行けるようですが、ネットで調べた限りでは最低でも20年間通行止めになっているようでした。おそらく未来永劫通れない系の道だと思います。

あと、こんな山奥で「南砺60km」という標識を見たら心折れると思う。

今日は「富山52km」と同等かそれ以上の道を走ってきたけど、何も知らないでこの道を通りたくはない。

そんなこんなでついに楢峠(1,220m)に到着!

峠と名がついているだけで、実際には切通しのほとりにお地蔵様がぽつんとあるだけ。標識の類いはなにもないです。

標識代わりとなるのがこの景色。

峠の頂上から岐阜側を眺めた風景、はるか向こうに見えるのは御嶽山です。後から聞いた話によると本当に天気が良いときしか楢峠から御嶽山は見えないらしいので、今回の訪問タイミングでこれだけ快晴になってくれて本当に感謝してます。

当然ながらここに自分以外に人はおらず、つまりこの景色を独り占めできるというわけ。

ヒルクライムといえば頂上からの眺めが何よりのご褒美。

富山側の川沿いをひたすら上ってきたことで体力以外にも精神的にだいぶ疲弊した今回のライドですが、ここにきて色々な意味で一気に回復できました。

ダウンヒル

ここまで富山側の川沿いの道はとにかく危険だったと結構書いてきたことで、まるでここから先は安全であるみたいな風に思ってましたが、実はそれは大きな間違いでした。

ここからの方がよっぽど危険です。

峠の頂上に到達したことで、単純にあとは下るだけとならないのが酷道。

なんとここからの道、約9kmで700m下ります。しかも舗装路されているとはいえほぼ未舗装路のような道なので、かなり神経を使いました。

今までの道の様々な要素が複合的に絡み合って襲ってくる始末で、具体的に挙げてみると、

  • 下は小石がゴロゴロしてるダート、たまに苔むしてる
  • ガードレールなし
  • ヘアピンカーブ多し
  • 道幅は相変わらず車一台分がギリギリ通れるくらい
  • 植物やカーブで見通し非常に悪し

という完全に殺りに来ている道。もう走ってるだけで乾いた笑いが出てくる。

下りでスピードが出ているのが特に危ない。何もしなくても時速30kmとか出るのに、常に道路状況やカーブの先に目を配る必要があります。でもカーブにばかり目を取られていると道路の陥没にタイヤがハマったりするのでさらに怖い。

今回は時期が時期だけに落ち葉はあまりなかったけど、冬季閉鎖前とかだと落ち葉が多くてスリップからの転倒の危険もプラスされます。とにかく一瞬たりとも気が抜けません。

道には相変わらず草生えてるし小石多いし、小石を避けようとすると今度は川沿いに転落するしでもうどうすればいいのかというレベル。

結局は転落するのが一番の悪手ということで、基本的に山側を走行して陥没や落石は必要最小限のハンドリングで避ける以外にありませんでした。

やっと民家が見えてきたときは、それはもう安堵しました。

その後、無事に国道471号・472号重複区間の岐阜側始点に到達。これで酷道区間を全て自転車で走破できました!

というかこの入口の様子、随分平和やな。

これだと普通の国道だとしか思えないんで、あの酷っぷりがあまり感じられないので油断する人も多いかもしれません。

その後は飛騨市を流して高山に帰還。

バグパイプでアイスウインナーココアを飲みつつ、今日の思い出に浸ったりしてました。林道と見間違うような酷道国道を走ったあとはやっぱりこんな感じで休息が必要。

おわりに

一年間のうちで通行できるのは1~2週間しかないとまで言われた酷道471号を自転車で走れたことは素直に嬉しいし、ここまで快晴だったことで全行程通して酷道の醍醐味を最大限に満喫できたといえます。

雨だったら別の意味で辛いライドになるし、いずれにしてもタイミング次第ですがこの機会に走れてよかった。とにかく、またいつ不通になるか分からないので行くのはお早めに。

おしまい。


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