TAMAISM

旅の記録とか、舞台訪問とか。(旧 OFFTAMA)

【麻吉旅館】創業200年越えの元遊郭に泊まってきた (@三重県伊勢市)

【訪問日:2020年7月11日】

遊郭に泊まる

相変わらず梅雨前線が日本中に停滞しており、このままでは遠征ができないどころか心労がマッハになってしまうことが危惧されたので、リフレッシュも兼ねてどこかに泊まりに行こうかと計画しました。

豪勢に温泉宿に泊まってまったりするのも一考したものの、なかなか自分の好みに合う宿が見つからなかったり、コロナの影響で営業してなかったりしたので、今回は兼ねてより泊まりたかったところに宿泊してきたのです。

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それがこちら。

三重県伊勢市にある麻吉旅館。何を隠そう今回の伊勢遠征の目的は、この麻吉旅館に泊まること。ただこれだけです。

麻吉旅館がある伊勢市の古市といえば、大坂の新町、京都の島原、江戸の吉原や長崎の丸山と並び、五大遊郭の内の一箇所として江戸時代に賑わったことが知られています。古市周辺は今では住宅地になっていますが、当時の空気感を唯一残しているのがこの麻吉旅館なわけです。

この旅館の詳しい歴史については玄関の前に説明書きがあり、

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麻吉の創業は明らかではありませんが、天明2年(1782)の「古市街並図」にその名前がうかがえます。

とあるので、現時点換算で最低でも創業238年ということになります。1782年というと江戸時代の真ん中くらいで、征夷大将軍でいうと第10代とか11代とかそのあたりです。とにかく、完全に歴史の教科書上でしか聞いたことがない時代であまりピンと来ませんが、目の前にその時代の建物が存在しているだけでもう心が踊ってくる。

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中に入る前に、外観をチラ見してみます。

車がギリギリすれ違えるくらいの狭い伊勢街道を一本入ると、まるでタイムスリップしたかと錯覚するくらい古めかしい木造の建物が突然目に入ってきます。これが麻吉旅館の4階+5階部分で、階段を下って奥側に向かうにつれて3階部分、2階部分が顔を覗かせます。

これはいわゆる「懸造り(かけづくり)、懸崖造り(けんがいづくり)」と呼ばれる建築様式で、高低差が大きい斜面などの土地に長い柱や貫で床下を固定してその上に建物を建てているからなんですね。もちろん各階ごとに玄関があるので、屋内の移動だけでなく屋外からスッと入ることも可能です。

当初見たときは2階建てかと思ったら、実は5階建てという驚き。

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懸造り(かけづくり)

あれこれ散策するのは一休みしてからということで、まずはお部屋に案内してもらいました。

麻吉旅館は部屋数こそ多いものの、今現在で宿泊可能な部屋は相当少ないようです。おそらくですが少人数で2部屋、大人数で1部屋しかありません。今回一緒に泊まられた方から推察した結果ですが、他の部屋は今では物置などになっているようでした。

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今回宿泊した部屋は、階数でいうと3階部分の玄関から入ってまっすぐ進んだところです。12畳くらいあって二人には十分すぎる広さ。

部屋も含めて建物は全て木造ですが、随所に改修や改築の跡が見て取れます。例えば、今でこそ窓ガラスが付いてますが欄干がそのまま残ってたり、空調を効かすために部屋の欄間を塞いでいたり。

この古さがなんとも堪らない。

で、意外なことに部屋についた途端に眠くなってきたのですが、今までの経験から安心できる場所であればあるほど自分は眠くなるので、この空間の居心地の良さを身体もちゃんと理解してるなといったところ。

散策

部屋でそのまま昼寝しそうになったものの、お風呂や夕食までにはまだ時間があるので中を散策することにしました。

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木造なのでどこを歩いてもギシギシ音を立てます。いいね。

館内のつくりとしては、とにかく複雑。懸け造りであることは確かに自覚しているのですが、実際に歩いてみるとまるで忍者屋敷のような構造に惑わされるばかり。気を抜くと迷子になりそうです。

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おそらく正規の入り口と思われる4階部分の玄関。

すぐ左手にある階段を上っていくと大人数用の部屋があります。外から眺めた感じ、どうやら5階部分がまるごと客室になっているみたいですね。

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麻吉旅館の歴史の長さを如実に感じさせるのが、この玄関周辺に展示されている宿泊者の記録。

内大臣って戦前に存在した役職じゃなかったっけ?と思って調べたら1885~1945年まであった行政機関でした。ついでにいうと左端に書いてある枢密院は1888~1947年まであった天皇の諮問機関です。

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ずらっと並べられた有名人の色紙を眺めながら周囲を見渡してみる。

階段とか廊下とか、窓の外とか。視界に入ってくる全てが、遊郭として賑わっていた当時と同じものかと思うと感慨深くなります。

で、この麻吉旅館ですが、現代の建築基準法や消防法を鑑みると同じ規模での再建築は不可能らしく、つまり一度朽ちてしまったら二度と蘇らない運命にあるそうです。200年以上も増築や増床を繰り返して維持されてきたのは相当な苦労が忍ばれますが、これから先も長続きしていってほしいものです。

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本館と別館を結んでいる渡り廊下もまた特徴的なもの。

この廊下の狭さがとにかく好きなんですよね。古い建築でよく見受けられますが、必要最低限で道を確保しましたみたいな雰囲気で。狭いところが好きな自分にとってはもう天国のような場所です。

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館内の照明は随所に設けられているわけではなく、明るいところは明るく、暗いところは暗いです。そのぶん自然光のありがたみが大きいわけで、照明そのものが少なかった江戸時代当時のことを思わずにはいられない。

どのアングルを切り取ってみても、近代化しすぎていないのが本当に好きですね。この「しすぎていない」というのがミソで、最低限の火災報知器だったり消火用の設備だったりが備えられているくらいで、遊郭の雰囲気が微塵も損なわれてないのが素晴らしいです。

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屋内と屋外を行ったり来たりしながら遊郭の空気感を二乗で楽しんでいく。

路地の狭くて薄暗いなか、階段をゆっくりと上っていきながら左右の建物を眺めてのんびりする。かつてこの宿に泊まった人々も同じようにこの階段を歩いたのだろうか、とか考えてみたり。

二枚目に写ってるのが蔵で、宿泊者限定で中が見学できるそうなので明日案内していただく予定。

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このように昼間ぶらぶらしてるだけでも十二分に楽しめるのですが、麻吉旅館が本気を出してくるのは日が落ちてから。

建物をほんのり照らす照明が、見る人をより幻想的な世界に誘ってくれます。辺りは人通りもなく静まり返っていて、誇張でなく今この瞬間に自分が江戸時代にワープしたかのように思えました。

食事

情緒的なエロい雰囲気に若干酔いつつ、部屋に戻ってきて食事をとりました。

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箸袋の図柄は、江戸期の版木をもとに復刻したものだそうです。

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夕食は海鮮系がメイン。

もちろんこれだけでも美味しく頂けるものの、ぜひおすすめしたいのが地酒と一緒に味わうこと。

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というのも注文できるお酒の種類が非常に豊富でして、特に日本酒に関しては常時約15種の銘柄が用意されているとのことです。日本酒好きな自分としては即注文余裕でした。

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今回は「三重の酒 飲み比べセット」を注文してみました。

注文の仕方も自由そのもので、自分の好みのほかにも全てオススメで、とか料理に合わせて、など思い思いにお願いするとその通りの銘柄を選んできてくれます。

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元遊郭の一室で雰囲気を楽しみつつ日本酒を飲む。

たぶんだけど当時の宿泊客と同じ体験をしている、そう思うだけで雰囲気の良さも相まって酔いが回るのが早くなってくるし、時間の流れがゆっくりになったような、そんな気分になりました。これが歴史の重みというやつかも。

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翌日。

遊郭で迎える朝は、いつもより気だるい感じがした(別に夜中にイイ事をしたわけではない)。どうやら一泊しかしてないのにも関わらず、この旅館の空気にあてられたようです。

この日は朝食を頂いてから、宿泊者限定で入ることができる蔵をじっくり見学してから帰路につきました。蔵の展示物については君の目で確かめろ!としか言えません。大きな声では言えないけど資料館並、いやそれ以上に充実してました。

おわりに

このような歴史ある旅館に泊まれる機会はあまりないだけに、今回の宿泊はとても記憶に残る貴重な体験となりました。今後の伊勢訪問の際にはまたお世話になると思います。

十返舎一九の「東海道中膝栗毛」の中にも登場するほど古い旅館でありながらも、令和の時代に現役で営業されているのが奇跡に近いくらいです。当時の面影を感じながら雰囲気に酔いしれてみてはいかがでしょうか。