- Part 1:屋久島到着~淀川登山口~宮之浦岳山頂
- Part 2:宮之浦岳山頂~白谷雲水峡下山~鹿児島へ
屋久島。
鹿児島県大隅半島の南西約60kmに位置するこの島は、屋久杉をはじめとした豊かな自然がそのまま残されていることで知られています。毎年夏頃には島の山間部にある縄文杉などを目指してハイキングを楽しむ人が非常に多いこの屋久島ですが、登山的な意味でも実は注目度が高かったりします。
屋久島のほぼ中央にそびえる宮之浦岳(1,936m)は日本最南端の百名山であり、同時に九州地方で最も標高が高い山。自分もこの山には以前から興味があって、機会を見てずっと登りたいと思ってました。
台風の季節
実際に登るにあたって色々調べたところ、屋久島において登山に適した時期は10月頃とのことでした。理由は明確で、秋頃になれば台風の襲来が落ち着いて登りやすくなるからです。確かに夏頃はほぼ間違いなく台風が発生している気がするし、納得。
そんな情報を仕入れつつ、2019年の10月に屋久島を訪れるために準備をしていたものの、結論から言うと中断せざるをえなくなりました。行こうと思っていた週末にちょうど屋久島周辺を台風が通過してしまい、とても山に登れるような天候ではないと判断したためです。
あれからほぼ1年。なんとなく盆休み後半の天気を確認してみたところ、なんと台風も発生していない上に快晴の予報。これは秋まで待つよりも今行ってしまった方が後悔がないのでは?と判断したのが今回の登山のきっかけです。
思い立ったが吉日ということで早速出発。
屋久島へ飛ぶ
毎回のごとく突発的に旅が決まってしまった。
もう少し計画的にしろって話もある一方で、自分のやっている趣味のほとんどが天候次第なのでこうなるのはもう仕方ない。
天候次第で行程はキャンセルせざるをえない場合ももちろんある中で、航空券のキャンセル料なども含めてキャンセルのダメージを最小にしたいと考えた場合、どうしても予約の類は行く直前になってしまう。
自分の場合は行きたい場所への交通経路や行程だけ事前に把握しておいて、いざ旅が決まったら速攻で予約する形をとっています。予め調べているので直前にあれこれ探す必要が全くなく、慌てることがありません。
登山計画についても予め「山と高原地図」とにらめっこしながらすでに決めているのでこれも問題なし。
まずは中部国際空港から鹿児島空港へ飛びます。
屋久島へのアクセスは飛行機もしくはフェリーor高速船しかなく、前者の場合は現在JAL系の日本エアコミューター(JAC)が鹿児島空港便で1日5往復、福岡空港便と伊丹空港便がそれぞれ1日1往復しています。
中部国際空港からの乗り継ぎを考えて、今回は鹿児島空港から飛行機で向かうことにしました。ただ、フェリーや高速船で行くのも楽しそうなので今度行くときは検討してみたいです。
今回同行するがいさんと鹿児島空港で合流し、屋久島へ。
がいさんとは去年一緒に屋久島に行くはずで、当時の延期によってどうなるか不透明でしたが無事に一緒に行くことができました。よかったよかった。
久しぶりに乗ったプロペラ機に興奮しつつ、鹿児島空港から30分ほどで無事に屋久島空港に到着。
音や振動、それに着陸時の衝撃のデカさはジェット機にはないプロペラ機ならではのもので、これはこれでなかなか楽しいです。いつもはANAばっかり使っていたせいもあって、JAL系の飛行機に乗るのがかなり新鮮に感じました。
屋久島に到着してまず最初にやることがあって、それは空港を出てすぐそこにある観光案内所でやくしま満喫商品券を購入すること。
券の販売所は屋久島の各地にあるものの、飛行機で訪れた場合は観光案内所で買うのが最もスムーズです。この券の存在は空港内の売店の親切なおばちゃんに教えていただいたことなので、ぜひ推していきたい。
詳細は上のリンクで確認してもらうこととして、要点だけまとめると以下のようになります。
これはもう使わない手はないくらい非常に便利な商品券で、仮に2泊するとしても10,000円分が4,000円で買えてしまうので島内の観光や移動が格段に楽になる。
現に今回の登山でも、タクシーや民宿などで大活躍してくれました。
お得すぎる商品券もゲットできたことだし、今日の目的地へ向けて早速出発!…の前に、空港内の食堂で昼食をいただくことにしました。
ここ「エアポート屋久島」は郷土感あふれるメニューが多く、今回注文した屋久島そばもその一つ。屋久島名産であるトビウオの唐揚げとそばがセットになっていて、特にトビウオは身の部分の柔らかさと、羽の部分のバリバリとした硬さを同時に満喫できます。
もちろん揚げたてなのでホクホクしててとっても美味しい。
屋久島に到着したばかりだというのに早くも屋久島に染まりつつある。
行程
ここで今回の縦走の行程について書いておきます。
宮之浦岳へ至る一般的な登山道としては淀川登山口、荒川登山口、それに白谷雲水峡の3箇所があって、今回はスタートを淀川登山口、ゴールを白谷雲水峡に決めました。
これは白谷雲水峡以外の登山口はバスの便数が非常に少ないため、いざ下山したとしても町の方への接続がスムーズにいかないことが想定されたからです。
- 1日目:淀川登山口~淀川小屋
- 2日目:淀川小屋~宮之浦岳~白谷雲水峡下山
2日目がかなりハードな行程になってるけど、歩いていく中で無理そうであれば高塚小屋等に1泊して翌日下山する方向で考えてます。結論から言うと2日目に無事下山でき、バスの時間にも間に合いました。
買出し
スタート地点の淀川登山口に向かう前に、まずスーパーで買出しをします。
テント泊をする上でまずガスが必要だった(飛行機に持ち込めないので現地で買う必要がある)のと、今日の夕食をささっと買いました。
もちろん今日の分のアルファ米やレトルトなどは持ってきているけど、鮮度が保てる分には麓で買ったものをできるだけ食べたいです。特にアルファ米については味的に積極的に食べたいとは思わないので…。
スーパーの駐車場から見た天気はご覧の通り。
海側は雲も少なく晴れ渡っているものの、ちょっと山側に行くだけでガスがひどいことになってます。この前訪問した利尻島と同じように屋久島は海から山間部までの距離がほとんどないので、山側はすぐガスるという理屈。
明日の天気予報は確認してきた通り晴れですが、いずれにしろできるだけ早い時間に山頂まで行かないと途端に展望がなくなりそうな雰囲気でした。
淀川小屋での幕営
買出しを済ませたところで、次はスーパーがあった安房港から淀川登山口にほど近い紀元杉までバスに乗って移動します。
このバスも1日に2便しかないので、例えば屋久島を公共交通機関のみで移動しようとする場合は時刻表をしっかり見ておくことが重要です。
いざバス停に着いてみたらもう今日のバスがないという事態にもなりかねません。
道路脇をのんびり歩くヤクシマザル(屋久島に固有のニホンザルの亜種)を横目に見つつバスは標高を上げていく。
サルについては登山中にもよく出会ったので、特に珍しいというわけでもないようです。
バスに揺られること約1時間、紀元杉のバス停に到着。
公共交通機関で行けるのはここまでで、ここ紀元杉からゴール地点の白谷雲水峡までは徒歩のみで移動することになります。ついに覚悟を決めるときがきたか。
登山口を目指す前に、バス停から100mほど下ったところにある紀元杉を見に行きました。
屋久島の各地には○○杉という名前の屋久杉が点在しており、この紀元杉もその一つ。屋久島といえば屋久杉というくらい杉の木が有名で、樹齢や大きさが普通の杉とは比べ物にならないくらい限界突破してます。
これは数字や写真だけではうまく伝わらなくて、ぜひ現地に赴いてそのスケールの大きさを直に感じてほしい。本当に巨大です。
なんでも木質が緻密で樹脂分が多く、腐りにくいため長生きすると考えられているとのことですが…気候などが影響しているとはいえ、ここまで大きく育つとは想定を完全に越えてました。
初っ端から屋久島の雰囲気に圧倒されつつ、スタート地点である淀川登山口に到着。
登山口にはトイレや休憩所、ベンチなど一通り揃っています。
この登山直前の緊張感が結構好き。文明に満ち溢れた環境から一気に自然のみしかない空間に足を踏み入れる境界線みたいな感じで、なんというか気が引き締まる思いになる。
といっても、この日は淀川登山口から淀川小屋までコースタイム50分程度のハイキングです。
特に危険箇所も急登もなく、至って良心的な樹林帯歩きが楽しめました。
淀川小屋に到着後、休憩もそこそこにテントを張ります。
今回の縦走路には小屋が結構あるものの、コロナウイルスの影響で屋久島にある小屋は使用を控えるように掲示があったため、宮之浦岳を今年歩こうと考えている場合は小屋泊ではなくテント泊をする必要があります。
自分の場合は山域を問わずテント泊しかしない方針なので特に問題ないけど、小屋泊に比べるとテントを担がないとならないぶん重くなります。
テントはパーソナルスペースを確保できてかなり居心地がいいので、個人的にはかなり好きです。
ここで水事情についてひとつ。
宮之浦岳周辺は標高がそこまで高くないので必然的に気温も高くなり、夏の縦走だと水分が心配という方も多いと思います。
しかし、屋久島に限ってはその心配は無用。
縦走路の至るところに水場というか川や湧き水があって、水分補給に困ることはありません。「ひと月に35日雨が降る」ほど屈指の雨量を誇る屋久島では、豊富に天からもたらされる大量の雨が森林で浄化され不純物の少ない自然水となります。そのためどこの水を飲んでもその美味しさに満足すること間違いなし。
他の山域で夏の縦走をする場合には2Lとか3Lとかの水を持ち運ぶ必要がでてくる一方で、屋久島のトレッキングには大量の水の準備は必要ないのです。これは大変助かります。
テントを張ってからは暇なので昼寝したりして過ごし、18時くらいに夕食をとった後に就寝。
明日の強行軍に備えて早い時間に床につきました。
宮之浦岳を目指して
むくり。
この日、二人が起床したのは午前3時。いそいそと支度をし、午前4時には淀川小屋を後にしました。
今日は白谷雲水峡まで約20km歩くことになるので、出発が早いに越したことはないです。出発する時間次第で後の行程が楽になるのだから、登山はある意味で考えやすいとも言えます。
序盤は一切の灯りがない闇の中を潜っていくことになるのでヘッデンだけが頼り。
林の中で展望もなくかなり心細い時間が続きます。
淀川登山口から約4km、標高1,640mに位置する高層湿原・花之江河に到着。
湿原なだけあってそこかしこで水が流れていて、汗が瞬時に冷えるくらいには相当に涼しい。高層湿原は川が流れ込まずに雨水だけで養成されている湿原とのことなので、雨の多い屋久島だからこそ成り立つ自然の御業なのかもしれません。
次第に周囲が明るくなってきたかと思えば、いつの間にか夜明けの時間になってました。
地平線の彼方から上ってきた太陽が木々を照らし、さながら火がついたかのように赤く染まっていく。こうなると途端に行動しやすくなるので安心できる。
普段はあまり考えない夜明けや日没などの現象に一喜一憂するのも登山の醍醐味だと感じます。
登山道の特徴としては終始適度な登りが連続する様相で、ロープが設けられているところも数箇所しかありません。
あとは、先に述べた通り至るところに水場があるので大変便利です。冷たい水で顔を洗ってさっぱりしたりもできるし、涼を感じながら休憩することもできます。
投石平~投石岳周辺まで上ってくれば一気に視界が開け、今までの樹林帯とは打って変わって巨石がごろごろしてる笹原を歩いていくことになります。
ちょうど樹林帯を抜けるのと朝日が上るのがほぼ同じタイミングになって、精神的にかなり晴れやかになれました。
この時間帯がかなり好き。
徐々に山が夜から朝になっていって、もやが取れていくような感覚。もちろん快晴の日中の山を歩くのもそれはそれで楽しいものだけど、朝の時間帯、物音が一切聞こえない静かな山もなかなかよいものです。
樹林帯を抜けた時点で変わったことといえば、視界が開けた以外にもう一つ。それは登山道沿いに水が多く登場すること。
ここからの登山道はこんな感じで常に道の上が川になっていました。さっきの湿原のように、雨が降ったあとに地中に染み込んだ水が流れ出てきているっぽいです。
標高が高いここでさえ十二分な水量があるのだから麓の方では言うまでもありません。これから下山時に向かうことになる白谷雲水峡をはじめ、屋久島には規模の大きい川が何本も通っています。
島の周囲は100km程度と小さいにも関わらず、麓と山間部でこれだけの環境の違いがあるのは本当に不思議です。実際に自分の足で歩いてみてその自然の豊かさに驚いたし、屋久杉のような特殊な植物が育まれるのも納得。
あの上の方に見えているのが目的の宮之浦岳(なのか?)。
とりあえず周囲で一番高い山を探せばそれが宮之浦岳っぽいので、あれを目標に歩いていけば多少は精神的に楽になりそう。
登山においては目標地点を視認できてからがかなり長かったりする。
宮之浦岳も実際そんな感じで、結構な距離を歩いているのになかなか着かなくて心が折れそうになりました。
テント泊装備を背負って歩くのも今年はこれが初めてだし、こころなしか日帰り登山のときよりも疲労が溜まりやすくなっているような気がしなくもない。
登頂
その時は突然やってきた。
あのピークを越えたらそろそろ山頂なんじゃないか、と思って歩いていたところ、唐突に山頂に到着。
九州最高峰 宮之浦岳に無事登頂成功です!
ここまで一切の下りがなく上り一辺倒だった行程もここに来て一段落し、ようやく一息つけました。
本来ならまずは休憩に入るところを、今まで歩いてきた疲労も山頂に着いた途端に吹き飛んでいた。
山頂から見渡せる景色360°全てが本当に快晴すぎて、この瞬間ほど今日この時間に上ってきてよかったと思ったことはないです。
屋久島はとにかく雨が多く、特に山間部に限ってはほぼ毎日降っているじゃないかというくらい悪天候なのが普通。なのでこれだけの晴れに恵まれるのは相当珍しいのではなかろうかというのが正直なところです。
屋久島と雨は切っても切り離せない関係にあり、地形もその上の植物もすべてが雨の恵みで創られてきました。なので登山中に1回くらいは雨に降られておきたいなという気持ちもないわけではなかったんだけど、ここまで快晴に恵まれるともう笑うしかない。
上を見上げれば抜けるような青空。
そして徐々に視点を下に移していけば、宮之浦岳周辺の山々の緑が青空に映える風景。雲もわずかにしかかかっていない様子で、山頂から見える眺めとしては百点満点でした。
一緒に上ってきたがいさんと喜びを共有しつつ、この山頂に二人しかいない専有感を味わってました。それにしても登山日、登山時間、そして行程管理。すべてが噛み合わさってこの絶景に至ったと考えるとついつい笑顔になってしまう。
そして山頂を満喫したところで、白谷雲水峡に向けて下山を開始。まだまだ先は長いので気は抜けない。
Part 2に続きます。
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