「ガールズ&パンツァー」舞台訪問 士幌線の幻の橋 タウシュベツ川橋梁を訪ねてきた

タウシュベツ川橋梁という橋をご存知でしょうか。

北海道にはかつて多くの路線が通っており、帯広から上士幌町の十勝三股までを結んでいた旧国鉄の士幌線もそのうちの一つ。士幌線は1925年に開通して1987年に廃線となるまで、この地を結ぶ重要な路線だったとのことです。

タウシュベツ川橋梁というのは、この士幌線において糠平湖を通る線路上に架けられたコンクリート製アーチ橋のことをいいます。

もくじ

幻の橋

もともとは音更川の支流であるタウシュベツ川に建設されたことからこの名前が付き、1955年に水力発電用の糠平ダムがすぐ近くに建設され、橋梁周辺が湖底に沈むことになりました。これによって士幌線は湖を避けるように新線が建設されて切り替えられ、旧線であるこちらの線路は全体的に撤去され、使われなくなりました。

橋梁自体は湖の中に残されることとなり、今でもその姿を確認することができます。季節や発電によって橋が出てきたり水没したりを繰り返すことから、いつしか幻の橋と呼ばれるようになったんだとか。

自分がこの橋の存在を知ったのは、2015年に公開された映画「ガールズ&パンツァー劇場版」でのこと。

ガルパン。

この作品をきっかけに戦車に興味を持ち始めたり、主な舞台である茨城県の大洗町を訪れたりした人も多いと思います。実際、私もそうでした。

ネタバレになるので多くは言えませんが、この劇場版の非常に印象的なシーンで、どうやらタウシュベツ川橋梁をモチーフにしたらしい場所が登場したわけです。劇中のキャラの活躍も相まって、自分の目にはこの場所がとても印象的に映りました。

あれから5年。いつか行こうと思いつつも機会がなかなか得られなかったものの、今回意を決して訪問してきました。

以上説明終わり。

タウシュベツ川橋梁を訪問する

むくり。

目覚めて最初に視界に入ってくるのは、昨日の朝と同じ車内の風景。

そうです。十勝岳登山を終えた私は帯広まで移動し、そのまま道の駅で車中泊をキメました。

2日連続で車中泊をするのはめったに経験がないけど、一つ言えるのは疲れが全く取れないということ。コンパクトカーで車中泊をするのは難易度が高いです。

そんな疲労困憊の私を尻目に、天気の方はと言うとこれ以上ないくらいの快晴。

これだけいい天気を目にしたら今日も散策しまくるしかない。

タウシュベツ川橋梁の夏!+車で近くまで行く方法 | トカプチエシノッ

ここから目的地のタウシュベツ川橋梁に向かうことになる中で、すでに多くの記事で触れられている通り、個人で橋に向かうにはまずゲートの鍵を借りる必要があります。

訪問に際しての注意点は以下の通り:

  • 橋に通じる林道にはゲートが設けられており、車やバイクで橋に向かうにはゲートの鍵を借りなければならない。鍵の貸し出しは無料。
  • 鍵を借りる場合、十勝西部森林管理署東大雪支署まで足を運ぶ必要がある。東大雪支署は平日しか営業していない(ここ重要)ため、土日に訪問する場合は金曜日までに借りること。
  • 自転車や徒歩ならゲートの脇をすり抜けられるが、一帯はヒグマが出没しまくる危険地帯なため対策は必須。林道そのものも約4kmと長い。
  • ツアーならば鍵を借りる必要はないが有料となる。

今回は大人しく鍵を借りて、レンタカーのまま橋まで行くことにします。

自転車もないし、何より熊が怖いので。

鍵そのものはすんなりと借りることができました。

借りるにはこうして実際に東大雪支署まで行く必要があるし、橋を見学した後で返却するのも同様です。なのでまず橋に行って「ゲートがあって通れない!」となる前に、ここで借りましょう。

無事に鍵を借りることができたところで、早速橋まで向かいます。東大雪支署から橋まではおよそ35kmで、普通に運転してると40分くらい。

タウシュベツ川橋梁に向かう道中にも、士幌線の痕跡はそこかしこに確認できます。

実はタウシュベツ川橋梁以外にもコンクリートアーチ橋梁自体はいくつかあって、それらは登録有形文化財に登録されていて今でもその美しい姿を見ることができるというわけです。

こういう風に人工物と自然が一体になったような風景、とても好き。

特に橋の上にはみっしりと木が生えていたりして、廃線となってからの年月の経過を感じさせてくれます。

糠平湖周辺にはこういうスポットが多いので、最終目的地のタウシュベツ川橋梁に着くまでに徐々にテンションが爆上がりになっていくっていう算段よ。

林道入口に到着。

事前情報通りゲートがあり、鍵なしでは進めません。

だが今の私は無敵。鍵をガチャッと開けて進むことができる。

車を通した後は鍵を元通りに閉めるのを忘れずに。たまに開けたまま通行しちゃう人がいるらしいです。

林道そのものは非常によく整備されている印象で、大きな石もほとんどありません。

仮にグラベルロードを持ってきていたら最高に楽しい林道ライドができたと思います。もちろん熊の存在に目をつぶればですが…。

写真を撮るためにところどころで駐停車して車外に出たりしたけど、怖くて長居はしたくない場所です。

今回の旅ではメインの目的が登山だったので一応熊鈴は持ってきているものの、正直どの程度効果があるのかわかりません。

人間に慣れている熊だったら鈴の効果がないと言われてるし、万全を期すなら熊スプレーが必要なのではと思います。

大きめの広場が見えてきたら橋が近い証拠です。

ここから先は徒歩で橋まで向かいますが、広場から橋までは倒木が多数あって謎でした。水位が上がったときに流れてきたものではないようなので、嵐のときとかに倒れてきたものなのでしょうか。

ずっと訪れたかった場所

倒木ゾーンは100mほどで終わり、急に視界が開けて糠平湖が姿を現しました。

おお…!!

鬱蒼とした林の中を抜けた途端にこの開放感。

ダム湖なだけあって相当に広く、風も穏やかなので非常に気持ちがいい。

そしてこの絶景。

もう完全に優勝したヽ(゚∀゚)ノとしか言いようがない。

これだよ。これが見たかった。

劇場版の中の風景そのまま、そして訪問しましたという他の方のブログ記事の中で幾度となく眺めていた橋梁。それが目の前にある。

この景色が見えた瞬間に気持ち悪いくらいに笑顔になってしまった。

ただでさえ昔から行きたかった場所に来れたというだけでも感動なのに、この圧倒的快晴

もう嬉し泣きしないわけがない。

今回いい意味で想定外だったのは、こうして川に降りて散策できたということ。

事前情報によれば、この時期は基本的に水位が高くて橋が半分ほど水没していて近寄れないとのことでした。今年はなにかの理由で水位が低いということでしょうか。

いずれにしても初訪問でこれだけ良いコンディションとは、もう何もかも運が良すぎる。

実は前々から「早めに訪問しておきたい」という思いがあって、タウシュベツ川橋梁は年々自然に崩壊が進んでいます。

橋は基本的に水没しており、さらに冬場は冬場は湖面が凍結するため水圧や凍結・融解による負荷が橋にかかることになります。従って文字通り、いつボロボロと崩れてもおかしくない状況。

実際、上の画像の通り全体的に表面のコンクリートが剥離しており、中に詰められている割石が転がり落ちているところもあります。こうしてすべて繋がった状態の橋梁を見られるのもいつまでなのか、正直わかりません。

一つ言えるのは、このタウシュベツ川橋梁をまだ訪れたことがなかったら今すぐ訪問するべきということ。

旅をしていて出会える風景も、無限に見ることができるわけではありません。雰囲気のいい店や宿、それに自然の景観。どれも「いつか行けばいいや」と思っていると、いつのまにか廃業していたり崩壊していたりしてもう二度と訪問できないということがままあります。

ここ数年で自分もそういう状況に何度か遭遇したことがあるので、今ではとにかく行きたくなったら今すぐ行け!という方針です。先日の利尻山登山もそうだしね。

行きたくなった時が行き時。機を逃す手はありません。

そういうわけで、後悔する前に行動するのが個人的におすすめ。

この流れている川がタウシュベツ川なのかな。

水位が下がっているおかげで、普段は見ることができない川の流れを直に感じることができます。確かに今までネットで見たのは糠平湖の湖面に佇んでいる姿だけだったし、こうして川が流れている先に橋が立っているのを見るのは初めて。

そういう意味では、この橋梁の建設当時の姿が重なって見えてくるようでなんとも感慨深いものがあります。本当に今日ここに来れてよかった。

こうして川の近くを歩けたのは登山靴を持ってきていたからという背景もあります。

川は、ところどころ浅いところもありますが普通の靴のまま渡渉すると確実に濡れます。なのでツアーでは長靴を用意してくれるみたいでした。

今回はたまたま登山のためにハイカットの登山靴を持ってきていたことが功を奏しました。

川の近くには、橋の建設の際に切り倒されたと思われる木の切り株がいくつも姿を見せています。

しかもそのまま荒涼としたまま終わったのかと思いきや、辺り一帯が草原みたいに緑に包まれている。切り株そのものにも新しい芽が生えていたりして、自然の強さを感じずにはいられません。

橋梁の上部は崩壊がかなり進んでおり、立入禁止となっています。コンクリートがもう風化しかかっており、むき出しになった鉄骨が天に向かって伸びているのがたまらない。

このまま完全に崩壊が進むと、橋梁はこの糠平湖と徐々に一体となっていくんでしょうか。

それは非常に残念な気がする一方で、朽ちゆく姿を見てみたいという気持ちもあります。あえて手つかずのまま、というのがこの独特の雰囲気を醸し出している。

よく考えてみると、建設されてから100年近く経過している橋梁がここまで遺っていること自体が信じ難かったりします。

湖や川が近くにある草原の中に在って、さながら何かの遺跡のような佇まいを見せるタウシュベツ川橋梁。

さっきまでは居たツアー客もいなくなって、自分ひとりだけがこの空間に残されていました。そんな中でそこらへんの切り株に腰を下ろし、ぽつんと孤独に橋梁や草原を眺めては悦に浸る。もう最高すぎる。

この状況や、快晴の天気を提供してくれた何者かに礼を言いたい気分です。

遠方からも見えます

鍵を借りることができなかった!という場合でも、実は橋そのものは遠くから見ることが可能です。

林道入口の少し手前にタウシュベツ展望台という場所があり、車道から歩いて5分くらいで橋梁が見えるポイントに到着します。

ここは、実は上で述べた士幌線の新線跡。

新線跡から旧線を眺めることができるというのもなかなか乙なものだ。

このように、かなり遠くですがはっきりと橋梁全体が見えます。

なので鍵を借りて橋梁を訪問した帰りに寄るもよし、そうでなくてもいつでも見ることができるのでおすすめ。

ここでちょっと蛇足。

このあと森林管理署まで鍵を返却しに行ったところ、明日から土日ということもあって鍵は全部貸し出されていたようでした。

鍵の数は14?かそこらしかないようなので、もし借りる場合は自分のように朝イチで訪れたほうがいいですね。

おわりに

ずっとずっと行きたいと思っていたタウシュベツ川橋梁。5年越しの夢がやっと叶いました。

実際に訪れてみると、想像以上に古さを感じさせつつも、自然と涙が溢れてくるような優しい場所という印象を受けました。橋梁だけでなく周囲の雰囲気もよくて、ずっとここで時を過ごしたい気分。実際、3時間くらいはここでぼんやりしていたことになります。

アクセスの困難さを鑑みると、ここまで線路を引いた当時の関係者の苦労がちょっと理解できた気がする、それに廃線になったときのことをふと想像してみたりして、なんとも言えない感情に包まれたのが嬉しい。そんな気分。

タウシュベツ川橋梁はいいぞ

何度も言うけど、本当に来て良かったです。

おしまい。


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