今回の旅では四国の端である愛媛県宇和島市周辺をロードバイクで走る機会があり、その際の宿泊地として決めたのがこの三好旅館でした。
実は四国には普通の人が選ばないような鄙びた要素がある旅館がすごく多くて、必然的に訪れる機会も多くなりつつあります。
これはなぜなのかちょっと考えてみたところ、四国には空海(弘法大師)ゆかりの寺である八十八箇所の霊場を巡る、いわゆるお遍路が根付いているからだと気づきました。お遍路自体が室町時代から続く一つの文化であるし、そのお遍路のための旅館というのも当時からずっと必要になっている。なので、他の地域に比べると四国は「宿」の重要性が色濃く残っている地域でもあり、そのおかげで自分好みな宿が多く存在しているのだと思います。
今回ご紹介する三好旅館、それに大畑旅館もまたお遍路の方が多く宿泊される宿であり、実際に私が電話予約する際も「お遍路ですか?」と質問がありました。
屋根が特徴的な旅館
三好旅館が位置しているのは、宇和島市街から愛南町方面へ抜ける国道56号から岩松川を隔てて東に入った通り。
昔ではこちらが往来の主流な道だったようで、今でも商店や青果店、金物店や銀行などが立ち並んでいます。
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三好旅館の創業は明治15年。
三好旅館の外観を見てまず驚くのは、2階の上部に2段に分かれた屋根があるということ。庇ではなく、れっきとした瓦屋根が狭い間隔で重なっている特徴的な構造になっています。
昔は木造3階建てだったのですが、台風の際に瓦が飛んだりして隣の家(今は更地になっている)から苦情が来たため、今の女将さんの母上が3階部分を取り壊して2階にしたからだそうです。ただし屋根まで撤去してしまうのは忍びないということで屋根は残されており、外から見ると2階部分に屋根が2層あるという変わったものとなっています。
館内散策
女将さんはこの本館ではなく、普段は夕食/朝食場所の2軒隣にある別館にいらっしゃるようで、まずはこちらにお伺いして投宿となりました。
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本館1階部分は完全に玄関のみのスペースになっており、2階へ向かう階段以外は特に使われていないようです。
昔の木造3階建てだった名残はちょっと感じづらいものの、女将さんに伺った話によれば、本来は玄関正面の部屋の横に2階へ続く大階段がありました。しかし、こちらに階段があると2階部分に客室のスペースを確保しづらいため(昔はもっと客室数が少なかった)、階段を今の右奥部分にずらして客室を新設されたそうです。大階段があった場所は、今では写真の通り完全に壁になっていました。
確かに、昔の旅館といえば玄関を入ってすぐ正面が階段になっていることが多い印象があります。三好旅館では玄関の奥の方に階段があるのでちょっと気になっていたところ、後から改築したものだと分かって納得。
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そのまま奥に進んでいくと、2階へと行くことができます。
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階段を上がるとすぐに廊下があり、そのまま建物の手前側に進めば客室が、逆に奥側に進めば客室のほか、洗面所やトイレ、それにお風呂場へと続く階段がありました。
かつての3階へ続く階段は今の1階→2階への階段のすぐ奥側にあった(今では押し入れになっている)らしく、玄関前の大階段と3階を撤去したタイミングが時系列的にどうなるのかは聞きそびれましたが、いずれにしても3階を撤去されたのは残念でなりません。三好旅館がこの地方で唯一の木造3階建て旅館だったことは、お話を伺う限り間違いないからです。
ここまで散策した限りだと、建物の構造そのものは創業当時からかなり変わっていることが伺えました。
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昔は3階への階段があった現押入れの横が今回泊まった部屋になります。ただ、まずはそこを素通りして建物奥側に向かってみました。
建物奥側には洗面所やトイレがあり、そこから見える中庭の2階部分は洗濯干しスペースになっていました。洗面所やトイレは宿泊人数の割にかなり広く、大人数で泊まった際でも安心できそうです。
また、洗面所の横には1階へと続く階段があって、この先には洗濯機とお風呂場があります。お遍路で汗だくになった場合はこちらの洗濯機を使わせてもらえるようで、しかもそのままお風呂に入ることができる合理的な配置になっています。
気になったのは、わざわざ一度2階に上がって、もう一度別の階段を下りないとお風呂場へと行くことができないということ。もしかしたら、昔は別の用途の部屋になっていたのかもしれません。
客室
外の気温は相変わらずなかなか下がる気配がないため、ひとまず今日泊まる部屋でのんびりすることにしました。
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今回泊まった8号室の様子はこんな感じです。
どの客室にも言えることですが、廊下と客室とはガラス戸で仕切られており、廊下からの明かりを防ぐためにカーテンが備え付けられていました。他にも浴衣やタオル、ポットやテレビなど一通りは揃っていて、この辺りは抑えるところは抑えているという感じ。
ただ、ちょっと気になった点としては天井が低いです。
これは8号室だけの特徴で、身長181cmの自分の場合は照明(紐で引っ張るやつ)に頭をぶつけました。ちょっとジャンプすれば天井に頭がぶつかりそうだったし、照明の高さをたびたび忘れて「布団に寝転がる→起き上がるときに照明に頭をぶつける」というのを数回やりました。
建物手前側にある別の客室では自分の身長でも天井の高さにかなり余裕があったので、建物奥側は後から造られた棟なのかもしれません。
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あとは、各部屋に電話機があります。
番号を押す部分などはなく、受話器をとれば別館に即電話がかかるというシンプルな仕組み。食事の際には別館からこちらに電話がかかってくるので、予め○時頃に食事をお願いしますと女将さんに伝えておけば、食事ができたタイミングが瞬時に分かります。
ただ電話が鳴る音がかなり大きく、時間的にそろそろ鳴るかなと心では備えていても正直ビビりました。
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せっかくなので、他の客室も覗いてみます。
最初に訪れたのは、さきほど1階の大階段を撤去して客室を確保した…という話の中で出てきたその客室。部屋番号は1号室で、玄関の前に位置する広めの客室です。床の間もあるし広縁もあるしで、特に広縁からの眺めが素晴らしい。
何が良いって、この三好旅館が建っている津島町岩松の町並みが一望できるということ。
古い旅館には古い町並みがよく似合うという通り、この鄙びた宿からの雰囲気と、そこから見える景色の雰囲気が実によくマッチしています。改築前の三好旅館からも同じ景色は見えたはずで、当時の人と同じ体験を自分もできているというのが面白い。
三好旅館から通りを挟んで反対側には、昔は食事のみできる別の建物が建っており、宿泊する人はこっちの本館に移ってきて宿泊するという流れになっていたとのことです。昔は食事と宿泊が同じ建物でセットになっているとNGだったらしいです。
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1号室から廊下を挟んで反対側にあるのが3号室で、こちらは外観から確認した通り、部屋の一辺が斜めになっていました。
その影響なのか窓は多めに設けてあって、玄関側に面している廊下+窓と合わせると採光を多めにとっています。通りに面しているというだけで自動的に日当たりがいいことは確保されているのに加え、斜めになっているおかげで普通の四角形に比べると壁が多い。隣の建物とのスペースの兼ね合いでこのような変則的な壁配置になったのだろうと予測しています。
こんな感じで、本館建物内の散策は終了。
事前情報無しで宿泊すると木造2階建ての旅館、という印象に終始してしまう一方で、旅館のことを詳しく知るためには、やはり女将さんにお話を伺うのが手っ取り早いです。そのおかげでかつては木造3階建てだったということも知ることができたし、そういう目で見てみると、また違った目線で旅館を楽しむことができる。
今現在の旅館だけでなく、4次元的に昔の旅館のことも考えてみると投宿そのものが楽しくなってくる。これからもこういう時間の過ごし方はやめられそうにない。
この後はちょうど東京オリンピックが真っ最中ということもあり、部屋に戻ってエアコンの効いた中で試合を観戦してました。
夕食~翌朝
先程も書きましたが、本館はあくまで宿泊するための場所。
食事については、本館より造りが新しい別館の2階でいただく形になります。
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食事のときには本館から一度外へ出て別館に向かう必要があり、普通に考えれば面倒に思う人もいるかと思う。
でも、よく考えてみれば普通の宿って一度投宿したら外へは出ないもの。だから、良くも悪くもそこから先の過ごす時間はすべて屋内のものに限定されてしまう。
この三好旅館のスタイルはそうではなく、屋内だけでなく屋外の空気を一度吸わせてくれる。特にこの夏の夕方だとそれはとても素敵な時間帯だ。すぐ近くにある森からはひぐらしの鳴き声が聞こえてくるし、日中ではあれほど暑かった気温も多少は落ち着いてくる。通りには夏休みであろう地元の小学生が遊んでいるのが見えたりして、要は外で過ごす時間も悪くないということ。
自分は投宿してからも結構外で過ごす時間を作るようにしていますが、三好旅館ではデフォルトでその時間をつくってくれる。そういう意味では、このスタイルがとても良いものに思えました。
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夕食はこんな感じ。普段はお遍路さんを相手にされている通り、長距離歩行のために精がつくような品ばかり。
食事については女将さんだけでなく第三者の方が作られているようですが、別館1階の厨房でも結局一度も顔を合わすことはなかったです。
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翌朝。
今日は愛南町周辺をロードバイクで走る予定になっていて、朝はある程度早く出発する必要がありました。
お遍路さん御用達の宿ということで早朝に出立する客は多く、朝食の時間も柔軟に対応していただいて予定通りに行程を済ませることができました。お遍路さんは一日数十kmあるくような行程になるわけだし、宿の朝食時間も早いのは想像がつく。自分はお遍路さんではないものの、旅館で朝早い時間に対応してもらえるのはありがたいです。
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朝食は胃に優しい感じで、ご飯の旨さを引き上げてくれるような献立です。
夕食で酒を飲んでそこそこ酔う→寝る→朝、優しい食事をいただくというのが最近の旅館の過ごし方になっていて、そこで改めて思ったのが旅館の朝食の食べやすさ。夕食をどんな形でいただこうが朝食はすんなりと食べられるので、やっぱり旅先の旅館での朝食は欠かすことができないものだと思っています。
普段だったら朝食は簡単に済ませてしまうので昼前くらいにお腹が空いてしまうものの、旅館に宿泊した後だとそういうことがない。自分の身体もこれが一番だと認識しているみたいです。
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こんな感じで三好旅館での一夜は終了。自分がもしお遍路をするような機会があれば、その際はまた必ずお世話になりたいほど心に残る旅館でした。
おしまい。
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