大畑旅館 元庄屋の木造旅館に泊まってきた

今回泊まったのは、愛媛県宇和島市津島町にある大畑旅館という宿です。

四国といえばお遍路が有名で、四国の各地にはお遍路をする方がよく利用されるような宿が数多く存在しています。三好旅館やこの大畑旅館もそんな宿であり、いわば旅人を癒やしてくれる貴重な存在と言えるでしょう。

旅のさなかにこそ投宿するのが好きな自分にとっては、宿自体の鄙びた雰囲気だけでなく宿自体の目的もちょっとは気になります。そういう意味では、まさに旅のためにあるような旅館というイメージを受けました。

もくじ

川沿いに建つ旅館へ

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岩松川沿いに進んでいくと大畑旅館が見えてくる
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周辺は山に囲まれた川の一帯で見通しが良い
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大畑旅館の説明書き

津島町を走る国道56号から橋を渡って対岸へと移り、そのまま川の上流方向へと進んでいくと大畑旅館が見えてくる。

交通量が多い国道とは打って変わって、こちら側は閑静そのもの。大きな車通りもなく、昔ながらの建物が軒を連ねる一帯の中に旅館はありました。

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大畑旅館 玄関周辺
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玄関の案内
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玄関の横へ続く棟が一際古さを醸し出している
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この建物はすべて客室になっており、つまりここに泊まる形になる
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川沿いからは想像できないが庭が相当に広く、庭に面した駐車場からは建物の裏側がかろうじて見える。向かって右の棟の右端が今回泊まった部屋。

まずは外観から。

普通に橋方面から宿に向かった場合、まず見えてくるのは比較的新しい建物です。こちらが大畑旅館の玄関になっていて、玄関横の部分は宴会場のような広間になっているようでした。

が、その横の建物がこの大畑旅館の真の本体のようなもの。時代が一気に遡るような木造の建物がいきなり登場してきて、その2階部分に部屋があることが確認できます。こちらが大畑旅館の客室になっており、大畑旅館に泊まる場合はこの建物の2階に泊まる形になります。

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玄関入って左側に客室へと続く階段がある
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玄関入って正面がロビー。右奥に受付と厨房がある。
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玄関は広いです
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玄関横にある洗面所
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お風呂

外観を確認した後は、そのまま玄関から中に入って投宿。予め伝えておいた時間ちょうどに到着したこともあり、玄関入ってすぐのところにご主人が待機されていました。

玄関がある棟にはロビーや洗面所、お風呂場があり、いずれもかなり新しくてきれいです。玄関については横にかなり広くて、例えばお遍路の際に履き物を脱いだり履いたりするのが非常にスムーズ。話によれば後述する客室棟の保存に力を入れられているらしく、単純な生活スペースに限っては現代に合わせて近代化されてるようです。

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玄関には大畑旅館の案内記事が貼られており、単なる宿以上の何かを感じる。

大畑旅館の前身はなんと庄屋の建物で、色々あって戦後になって当時の主がほぼタダ同然で手放したところを、昭和33年頃に今のご主人たちが買い取って旅館を始めたのが大畑旅館の成り立ちです。

上の記事にもあるように、この津島町に疎開していた小説家の獅子文六がこの大畑旅館(正確に言うと、旅館になる前)にお世話になっており、津島町を題材にした小説「てんやわんや」を書き上げたのもここ。

客室

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本館(勝手に命名)の1階は客間になっている

客室には玄関を入ってすぐ左にある階段を上がった2階にあります。1階については客間になっているものの、今では特に使われていない様子でした。

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本館2階
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泊まったのは、廊下の突き当りの右側にある二号室
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二号室は獅子文六が泊まった部屋
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廊下と部屋は襖戸で仕切られている
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襖戸。しっかり締めても若干隙間があるのが味がある
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二号室からの眺め
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「てんやわんや」の中では大畑旅館についても書かれている

今回泊まったのは、なんと先程話題に出した獅子文六が泊まった二号室です。

場所的には廊下を直進して突き当りの右側にある部屋で、川沿いの反対側に位置しています。なので部屋から川は見ることができませんが、代わりに庭や山が見えました。特に夕方になれば夕日で山が染められているのが直に見えて、これはこれでいい景色です。

廊下については旅館にしては珍しい畳敷きになっていて、当然ながら客室内も畳なので、足裏の感触に違和感がなく心地よさを感じました。部屋の出入りについても襖戸を開け締めする形で、旅館というよりはどこか家のようなつくりになっています。

元庄屋の建物ということを考えると昔は客間として使われていたと思われますが、今ではここが宿泊する部屋になっているというのが趣深い。

あとは、窓がものすごく大きいこと。

ほぼ壁一面が窓になっていてすごく眺めが良い上に開放感があるし、昔ながらの欄干もしっかり残されている。しかも、目に見える範囲内に他の家屋がないのでカーテンをする必要を特に感じません。

これが例えば川沿いの部屋だったら対岸に国道もあるしで結構な人目を気にしないといけなくなりますが、いい意味で目立たないところに位置しているのが二号室の良いところだと思います。

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浴衣

設備としてはエアコンがあるほか、テレビや浴衣が揃っています。

浴衣に着替えて畳に座ってみて思ったことは、この部屋の広さが自分にとってちょうどいいということ。天井の高さや壁と壁の距離感、そして襖戸の大きさとかも含めてとにかく居心地がいい。畳も硬いようなものではなくてある程度の弾力があり、身体を預けるとしっかりと支えてくれるような安心感があります。

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二号室の向かいにある一号室
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こちらの広さも実に良いです

その後はまずお風呂に入って汗を流した後、二号室に戻る前に他の部屋を見学。

二号室の真正面にあるのが一号室で、こちらには床の間がちょっと格式高い感じ。また、外に見えている欄干が若干歪んでいるように見えますが、これはレンズの歪みではなく実際に歪んでいます。

古い家屋では経年によって木材が徐々に歪んできて、それが目に見える形で現れている。壁と天井もなんかずれているような見た目になっており、こういうのも味の一つかなと思います。ビシッと一直線に均整が取れているのももちろんいいものだし、逆に歪んでいても、古さを考えるとある意味で当然かなとも思ってしまう。

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一号室の隣は三号室で、外観から見えた「大畑旅館」の看板がすぐそばにかかっていました。

こちらは二間続きの部屋になっており、比較的大人数の際にも対応できるようです。奥行きがある分、一つの壁の前から反対方向を眺めると迫力がありました。

襖の利点はなんといっても取ったり付けたりを簡単に行えて、かつ部屋の広さを自由に調整できること。

部屋と部屋が空間的に完全な壁と戸で区切られていないので確かに防音性などは劣っているものの、そこに目をつぶればこれほど合理的な部屋の構造はないと思います。特に昔の場合だと当日になって急に宿泊者が増えたというケースばっかりだったろうし、そういうときにすぐ対応できるのは襖ならではの利点じゃないかなと。

その構造が今でも旅館としてしっかり残っていて、自分は今そこに泊まっている。

窓から見える国道の景色は確かに令和なんですけど、自分が身をおいている建物は令和から数十年遡った時代のものだ。この景観のギャップには何かこう心を揺さぶられるものがあるし、大畑旅館は今後もこの建物をずっと残していってほしいと思います。

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この眺めが好き

夕食~翌朝

夕食は部屋出しで、部屋で待っていればご主人が食事を持ってきてくれます。

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「五穀米があったので五穀米にしました」と言われて運の良さを感じつつ、そこに普通の白米もプラスされておかずと一緒にかっこんでしまう。派手さはないけどどこか温かみがある献立で、今日炎天下の中をロードバイクで走り回った自分にとっては十分以上でした。

〆は温かいお茶で、夜に沈んでいく外の景色を見ながらのひとときはたまらない。普通の夕食だったらあくまで食事のみしか行う時間がない一方で、旅館での食事は食後にふと落ち着く時間を設けることができる。ちょっと室内を見渡しながらお茶を飲んだり、かと思ったら畳に突っ伏してみたり。

部屋出しということもあって、自分が一夜を過ごしていてくつろげる「客室」と「食事」の境界が、どこか曖昧になってくる。これもある意味で実家感があるし、だからこそ大畑旅館では精神的な安らぎを得られるのかもしれない。

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翌朝。

昨夜はオリンピックの試合を見るぞ!と意気込んで布団に横になってたら秒で眠くなったので、結局見ずにテレビを消してそのまま寝てました。

大畑旅館の回りは特に交通量もなく、国道沿いという喧騒もないためか本当に静かな目覚めだった。静かに夜がやってきて、そのうち静かに朝がやってくる。すなわちストレスの外的要因になるようなものもここにはなく、獅子文六がこの旅館を愛したのも今更ながら実感できるような気がする。

静かという意味では、やっぱり大畑旅館はお遍路向きだと思います。お遍路はとにかく日中は歩いてばっかりなので、その日の宿に着いてから翌日出発するまでの時間はとにかく平穏でいたいもの。そもそもが巡礼=煩悩を打ち払うという位置づけだし、この旅館の雰囲気も含めてその目的に合っていると感じる。

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朝食
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昨日と同じく割と早い時間に朝食を頂いて、そのままこの日の目的地に向けて出発となりました。

宇和島周辺の旅館を探していてたまたまた見つけた大畑旅館。いざ泊まってみたらまさに自分が好きな要素が満載で大満足で、しかも建物だけでなく周辺環境も含めて好きになりました。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

過去に泊まった旅館の記事はこちらからどうぞ。

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