今回は、福島県福島市にある微温湯温泉 旅館二階堂に泊まってきました。
微温湯温泉の発見は江戸時代の享保年間と言われているものの定かではなく、そこから何人か所有者が変わっていく中で深山幽谷の温泉として知られるようになりました。しかし戊辰戦争の勃発により、宿舎は官軍によって焼失。現在の建物はその後の明治、大正、昭和にわたって少しずつ再建されたものです。
福島市街の西側、吾妻小富士東麓の結構な山の中に位置しているため、道中を運転するのがそこそこ難儀でした。なお、旅館周辺は完全に圏外となります。
旅館は県道126号の終点にあり、手前に駐車場があります。
旅館があるのは比較的標高が高い場所(標高920m)なので、到着した時点でかなり涼しく感じたのがまず驚きでした。結局滞在中に暑さが気になることは一度もなく、ぬる湯が特徴ということも相まって夏に最適な旅館と言えます。
外観
まずは外観から。
建物としては奥側から手前側までほぼ一直線に続いており、奥側に行くに連れて歴史が古いのが特徴。その内訳は以下のとおりです。
- 明治5年棟…一番奥にある茅葺屋根の棟で最も古い。現在でも一部が客室として使用されている。
- 明治10年棟…現在メインで使われている湯治形式の棟。
- 大正棟…玄関がある棟。1階に女将さん達の部屋や食堂があり、2階に広縁付きの客室がある。
それぞれの棟は廊下等ではなく建物として連続しているので、天候によらず行き来は非常に楽です。
玄関があるのが大正棟で、大きくせり出した屋根と側面部分のガラス戸が目を引きました。2階についてはガラス戸の向こうに欄干が残っているのが確認でき、昔ながらの構造を維持しているのが分かります。建物の端にはガラス戸を収納する戸袋もありました。
大正棟からさらに手前側(駐車場側)に伸びている1階建ての部分は厨房で、そこから奥は倉庫になっているようです。
旅館二階堂の周辺は一面が森になっているので平地部分が少なく、こういうふうに直線状に建物が連なる理由はよく理解できました。時代が経つにつれて宿泊客が多くなってくると棟を増設するのは他の旅館でもよく見ますが、奥深い山の中というシチュエーションが建物自体にも影響を及ぼしているのが見て取れます。
平地になっている部分には旅館が建っているため、建物全体を一望できる場所が駐車場周辺しかありません。玄関前に移動すると自動的に建物を見上げる形になるので迫力がありました。
2階建てなのにまるで圧倒されるような重厚感。ここが山の中ということを忘れてしまいそうになる。
建物の反対側には庭があって、多種多様な植物が植えられています。その向こう側にあるのが温泉で、温泉には大正棟から渡り廊下を歩いて向かう形になります。
ところで、旅館の外観を眺めているときにある存在に気づいてしまった。
それがこの猫ちゃん。
旅館の前には切り株を利用した椅子が何個も並べられており、そのうちの一つの上に猫が座っていました。
実は旅館二階堂は温泉だけでなく「猫旅館」としても有名で、猫好きにとってはそれだけで訪れる価値のある旅館です。滞在中は何度も猫に遭遇することができたし、後述するように嬉しすぎて帰りたくなくなってしまう出来事も…。
猫ちゃんは現在では3匹おり、いずれも人馴れしているのでお触りもOK。屋内に入る前からこの旅館が魅力に溢れていることが伝わってきた。
館内散策
大正棟1階
続いては屋内へ。
正面に見える、玄関がある2階建ての棟:大正棟に入るところから投宿が始まります。
玄関を入って右側に帳場や厨房があり、正面には冷蔵庫があったり土産物が置かれていたりします。あと旅館二階堂は日帰り入浴もやっているので、その案内が掲示されていました。
掲示には明治5年棟の工事の案内も書かれていて、これによると茅葺屋根の葺き替えの工事は来年までかかるようです。実際に滞在中は工事の方が住み込みで対応されている様子が見えました。
帳場横の厨房については戸が常に開けっ放しにされており、よく猫達が出入りしているのが確認できます。
大正棟は旅館側面部分がまるごとガラス戸になっているので日当たりが非常によく、差し込んでくる光の微妙な当たり加減で室内が照らされるのが美しいです。
やはり建物は日当たりの良さが一番。暗いよりは明るいほうが個人的には嬉しい。
動線としては、玄関左側に伸びている廊下を進んで明治10年棟方面に向かうことになります。
廊下の横はずっと土間が続いており、ここからすぐに外へ出ることも可能なので造りとしてはとても便利。土間横のガラス戸には猫が通るために少し隙間が開けてあります。
また廊下の途中には江戸時代のものと思われる定書きがあったり、家紋付きの暖簾があったりと随所に歴史を感じさせる品があるのもグッド。大部分は当然ながら現代風になっているものの、昔の営業時代の雰囲気が残っているのは良いですね。
そのまま奥に進んでいくと、土間の突き当りに靴箱があります。
玄関周辺に靴箱がないので気になっていましたが、ここに大きいものがありました。靴箱は部屋ごとに靴を入れる場所が決まっていて、手作り感あふれる付箋で識別されています。
さらに奥に進んだ少し広めのところが、大正棟、明治10年棟、そして温泉へ続く渡り廊下が接続されている中継地点です。
ここから玄関や食堂、明治10年棟、そして温泉へ行くことができる交差点のような場所で、特に温泉へ行くには必ずここを通ることになるので通行頻度はかなり高いです。しかも自販機が設置されているので余計に立ち寄りやすい。
ここにはいくつかの展示もあり、上に示したのは享和の時代に次の主人が温泉湯屋敷(ここ)を譲り受けたときの証文みたい。
原本と分かりやすく活字化したものが合わせて展示されているので読みやすいです。
2階への階段を素通りして、食堂前まで進んで振り返ったのが上の写真。
右側にずらっと続いているのが隣りにある明治10年棟1階の客室です。旅館は奥側に行くにつれて斜面沿いに高くなっているため、大正棟と明治10年棟との境界は短い階段になっていました。
大正棟2階
1階を散策し終わったところで、次は2階へ。
1階から2階への階段は元々の木材の上に合板が貼り付けられていて、さらに階段の手すりも新しくなっているようでした。
上を歩いてもきしんだりする様子はなく、見た目に反してかなり頑丈です。
2階に上がったところ。正面に1階と同じくトイレがあり、客室は階段を上がって右手方向に回り込んだところにあります。
この空間は棟と棟の境界に位置しているわけですが、その両方を滑らかに接続しているのでどこか突出したような出っ張り等がなく、シンプルにまとまっている印象です。また壁や天井、床も基本的に木材むき出しというわけではなく後から補修がされていることもあって、大正棟1階との雰囲気の違いが大きく感じられます。
後から棟を増設した以上、こういう廊下のような造りになるのが一般的なのかも。
階段部分から右手方向の短い廊下を進むと客室が2つあり、ここが大正棟唯一の客室となります。
部屋番号は奥側が51-52号室で、手前側が53-54号室。いずれも二間続きの客室なので1グループの人数が多い場合にここに割り振られますが、ここがすでに埋まっている場合は明治10年棟に分散して泊まる形になるようです(その場合は一部屋に二人ずつ)。
廊下の突き当りには将棋や碁盤が置かれていて、これもまた年代を感じさせるもの。
それこそ湯治目的の場合は日中に特にやることもないので、こういう昔ながらのゲームをしながら過ごすのがいいかも。
奥側にある51-52号室の様子はこんな感じ。
向かって右側の部屋に炬燵や座布団が敷かれていて、その先には広縁。隣の部屋は完全に寝る用になっていて布団が置かれていました。二間続きの客室はなんといっても広く、日中に過ごす部屋と布団部屋を分けることができるのがいいですね。
大正棟の客室の場合、廊下と客室との境界が襖戸になっています。
また、隣の明治10年棟の客室とは階段があるスペースを挟んで反対側に位置しているため、比較的静かに過ごせるのではないかと思います。広縁があるので日当たりもよく、例えば投宿してから夕食までの間とかにまったりできそうな予感。
そして旅館表側に面した広縁は幅がかなり大きくとってあり、そこに配置されている椅子や机も含めて雰囲気の良さが半端ではない。
広縁というと客室の中では割合的にそんなにスペースがないのが一般的なのに対して、ここではむしろ広縁がメインなくらいに十分な広さがあります。
ガラス戸の下には欄干が残されているし、広縁の床の板材の黒さもまた良さみを感じるという意味で素晴らしすぎる。個人的には、旅館二階堂の客室の中では大正棟の客室が一番おすすめだと思いました。
その隣りにある53-54号室の様子はこんな感じ。
51-52号室と比べると僅かに面積が小さいものの、二間続きである点は同一です。構造的にも大きく変わるところはありませんでした。
こちらの広縁もとても良い空気感があります。
ちなみに広縁の向こう側、階段があったスペースとの境界は壁ではなく板戸になっていて、その手前には小さい階段があるのが分かると思います。なのでこの広縁部分はかつては廊下として使われていて、後から部分的に改修をして広縁に変更したのではないかと思いました。
以上が、大正棟の全体の構造です。
客室としての数は多くはありませんが、湯治部屋が大部分な旅館二階堂の中においては客室としての特徴に溢れています。もし予約時に静音性を重視する場合は、こちらを指定するのがいいかも。
明治10年棟1階
続いては、自販機があった場所から奥側に進んで明治10年棟へ。
この棟は湯治目的で建てられたのがよく分かる造りになっていて、要は1部屋の広さが1人~2人用で同じ構造の客室が連続していたり、廊下と客室との境界が障子戸のみだったり、客室の前にタオルなどを干す部分あったりする点などがそれです。
いわゆる「旅館」ではこういう造りはなかなか見られず、まさに温泉に入ることがメインで客室は寝るだけの空間、という意図で建てられたもの。
1階部分ではその特徴が早速目に入ってきて、タオルがずらっと干されていました。
これは自分が泊まった部屋にも置かれていたタオルで、白色が身体を洗う用、オレンジ色がバスタオルですね。ちなみに後から知ったのですが、これは工事に泊まっている方のタオルのようでした。
そのまま奥にまっすぐ進んでいくと、一番奥に位置する明治5年棟との境の部分があります。大正棟と同じく奥側に小さめの階段があって、右側には2階へ続く階段。
小さめの階段については新しくなっていて、他の木材と比較すると明らかに色が違うので分かりやすい。
「棟と棟との境」という点では先程訪れた大正棟と明治10年棟の境と同じですが、明確に異なっているのはその古さ。
こちらの階段や壁、天井は木材がむき出しになっているままで、昔から大きく変わっていないのが見て取れました。手すり部分の木も黒く変色しており、おそらく客が通る機会がそれほど多くないのも理由の一つではないかと思います。
ただ明治5年棟への階段もしかり、運用上新しくする必要があるところはしっかり改修されています。その一方で古いところは傷んだりしない限りそのままにしておく方針のようで、個人的にはこういう小さなところにも交換が持てました。
明治10年棟2階
1階はこんな感じで、続いては2階へ。
場所的には先程の階段を上がったところからの続きで、大正棟2階の客室へ続く廊下ではなくさらに右方向に進むと明治10年棟2階の客室が並んでいます。
階段を上がった反対側には昔の箪笥等が並んでおり、その上にはミニチュアの民家?の模型や人形、絵画などが展示されていました。
その手前には掃除用の掃除機がそのまま置かれていて、確かにここに置いておけば掃除が楽。旅館における生活感のありのままを感じることができてちょっとほっこりしました。
その他、壁に貼られている掲示物の内容。
よく見ると現在ではもう使われていない古い感じで書かれているものもあったり、今でもやっているのかよく分からない昼食の案内などが目を引きます。こういうのが個人的に好き。
こちらが2階の湯治部屋の様子です。
1階同様に一直線に続く廊下の内側に客室が配置されていて、ガラス戸側、障子戸側いずれも極端な凹凸がないためにかなり整って見えるのが良いと思いました。見通しの良さは半端ではなく、特に用事がなくても奥へ奥へと進んでいってしまいそうになる。
湯治部屋の部屋数は廊下の片面に5部屋×旅館裏表×2階分で、合計20部屋あります。いずれも常に稼働状態にあるようで、どの部屋も綺麗に片付いていました。
今回泊ったのは22号室で、広さは8畳あって一人だと快適な広さ。部屋番号が書かれた木札はかすれて読めなくなっており、後からチョークで書き足してあります。
設備としてはエアコンや扇風機はなく、あるのはポットとテレビ、コンセントくらい。アメニティはタオル、浴衣、歯ブラシがあります。あと夏場に宿泊したにも関わらずストーブや炬燵がありますが、これは年中置かれているもののようです。
布団はすでに準備されていて、横になりたいときに自分で敷く形式。
廊下と客室の境界は障子戸になっているので、防音性は全くないものと思ってください。気になるようなら耳栓等を準備したほうがいいかと思います。
あと、気になったのが入口の障子戸がやたら補修されていること。
そんなに破れることがあるのか?と思っていたのですが、これの真実を知るのは翌日になってからでした。
目の前の廊下の上半分はガラス戸になっているので日当たりが比較的よく、自分で開け締めができるので風通しの調節も可能です。
写真では非常に分かりづらいものの、ガラスは年代が古くて要は斜めから見るとユラユラ見えるやつです。しかもユラユラ度が結構高く、風景が大きく歪んで見えました。
客室としてはいわゆる電気的なものが少なく、気温の変化に対応しきれないのではと懸念してましたが杞憂に終わりました。
標高が高いので夜中~朝方の気温はそのままだと寒いくらいで、少なくとも寝るには全く問題ないくらい。日中も暖かくはなるものの、扇風機やエアコンが必要になるほどではありませんでした。
一年の中でもっとも暑いこの時期でこれなのだから、春や秋はもっと涼しくなるのは自然と予想がつきます。確かに他の季節では炬燵等が必要になりそう。
※旅館二階堂の営業は、毎年4月下旬から11月下旬です。冬季は雪深くなるため休業となります。
部屋を出て廊下奥側に進んでみると、1階と同じように明治5年棟へと繋がっています。
こちらの小さい階段も新しくなっているのが分かります。
で、驚いたのがここから1階へ向かう階段周辺の造り。
階段や手すり、床に至るまで当時から大きく変わっていないことを思わせるような細さ。現に床については上を歩くと不安になるような感覚があって、これはたぶん床板が一枚しかないのでは。
そのまま奥にももう一つ階段があるものの、なんか歩いているうちに足が突き抜けそうなのでそっちに向かうのはやめておきました。いずれにしても、明治10年棟は建築当時の雰囲気を色濃く残していると言えます。
明治5年棟
明治5年棟は現在工事中ということもあって、客室として使用されていません。
ただそれ以外にも物置みたいになっている部屋が多く、現役で使われているのは一番手前表側にある一室のみのようでした。ただし工事が終わればもしかしたら他の部屋も稼働するかもしれないし、しかもここの棟はなんと3階まであります(行ってみた)。
来年になったら工事が終わっている予定だし、その時にはまた訪れてみようと思っています。
一番奥に位置する明治5年棟から、一番手前にある大正棟方面を眺めてみる。建物が一直線上に続いているというのは外観からでも確認できたけど、こうして屋内を散策してみるとよりそれが顕著に感じられました。
特に建物表側を走っている廊下、これが文字通り端から端まで本当にまっすぐなんです。
なので散策をしている途中でも今自分がどこにいるのかが非常に分かりやすく、廊下がまっすぐなのでそこに並んでいる客室の「湯治部屋」感も強調されている。滞在中、本来の建物の広さ以上に開放感を感じることができたのは、この直線上の構造が最大の理由だと思いました。どこかへ歩いて向かう際にも、曲がる機会が少ないので楽です。
やっぱり、何事もシンプルなのが一番いいのかもしれない。
温泉
以上で館内の散策は終わり。
次は、旅館二階堂の名物であるぬる湯に入りに行きました。
温泉へ向かうには、大正棟1階の分岐から少し長い渡り廊下を歩いて行く必要があります。
渡り廊下の最初のところには洗面所やコインロッカーがあり、日帰り入浴をするという場合でも問題なし。あと館内にはトイレ以外だと一番近い洗面所がここになるので、顔を洗ったり歯を磨いたりする場合にも利用することになります。
客室に金庫等はないので、客室に泊まっていて荷物が心配ならここに預けるのも一つの手です。
その先には自炊室がありました。
旅館二階堂は湯治旅館らしく素泊まりも可能なようで、その場合はこちらで調理を行う形になります。設備としてはコンロ、炊飯器、電子レンジ、オーブン、冷蔵庫など一通り揃っているので色んな調理が可能。ただし冷凍庫は故障しているようでした。
自炊室の手前には洗濯機もあるので、一泊だけでなく何日も滞在して湯治に集中することもできますね。本当に素敵だ。
そのまま渡り廊下を突き当たりに進むとトイレと洗面所があり、その奥に男女別の温泉があります。
ここで温泉についてちょっと説明。
微温湯温泉をはじめとして全国にはぬる湯、いわゆる温度が高くない温泉がたくさんありますが、微温湯温泉はその中でも日本ぬる湯番付で東の横綱と称されるほどで、その効能の程が証明されています。(ちなみに西の横綱は以前行った栃尾又温泉)。
効能としては眼病、皮膚病、化膿症によく効くとされており、特に眼病への効果については全国的に有名です。
源泉温度は31.8℃で、泉質は酸性-含鉄(Ⅱ,Ⅲ)-アルミニウム-硫酸塩温泉。pH 2.9と酸性度が高い温泉です。
浴室はこんな感じ。
入ってすぐ左側にぬる湯の大きな湯船があり、その奥に洗い場と上がり湯の湯船がそれぞれあります。湯船や壁、天井も含めてすべてが木造になっているので、触れたときの感触がいいのも嬉しい要素。
浴室に入ってすぐに驚いたのは、とにかく温泉の投入量が凄まじいということ。
数値でいうと194リットル/minという豊富な源泉が絶え間なく湯船に注がれており、溢れてオーバーフローした分が右側の通路にドバドバ流れ出ていました。当然ながら源泉かけ流しで、そう考えるとこれだけ効能が高い湯がかけ流し状態なのは贅沢すぎる。
奥にあるのが上がり湯で、こちらの温度は熱め。
温泉ではなく加熱してあるらしく、温泉の投入やかけ湯等が禁止されていました。理由はよく分かりませんが、もしかしたら湯船に温泉の成分が入ると悪影響があるのかも。
で、早速ぬる湯に入ってみる。
おお…この冷たさ。体温よりも低い温度は感触的に温泉というよりはどこか鉱泉に近く、入っているだけで熱が引いていくのが分かります。そもそも立地的に今が夏であることを忘れそうになる旅館二階堂の中で、このぬる湯に入ることによってなおさら暑さとは無縁のシチュエーションに身体を持っていくことができる。
どれだけ長く浸かっても汗をかくことはないので身体への負担も少なく、というか冗談抜きに延々と入っていられるのが湯から上がるタイミングが見つからない。しかも浸かっているうちに眠くなってくるので、時間を忘れて放心状態で入るのが向いているタイプです。これはすごい…!
平日にも関わらず、宿泊者だけでなく日帰り温泉客も自分の予想を上回るほどの人数でした。長湯が可能ということもあり、うつらうつらして気がついたら自分以外の人がいつの間にか浴槽に入っていたということもあったり。
部屋に戻るとなんか身体に疲労が溜まっていたので、そのまま畳の上に横になって昼寝。
部屋の前の廊下にタオルを干すことができるのが本当に便利です。あ、ちょっと温泉行くかと思ったときにそのまま取って向かえるのでワンクッションがなく、文字通りすぐ行けるというのが湯治に向いているポイント。
投宿から夕食までの時間帯は各人によって何をして過ごすかが明確に異なる中で、今回は温泉に入って寝る、という理想的な流れができたと思います。せっかく投宿しているのに変に気が立っているのも変な話だし、心ゆくまでリラックスできているのはありがたい。
昼寝の後は館内を再度歩いたり、夕食後のことを見越して先に布団を敷いておいたりしました。
寝る寸前に布団を敷くのはこの上なく面倒になってしまうので、面倒だと感じる前に敷いておくのが吉。
夕食~翌朝
そんなこんなで夕食の時間。
夕食は大正棟1階裏側にある食堂でいただく形になります。部屋ごとに時間差があるわけではなく一斉スタート。
食堂の壁にはレトロなポスターが飾られていて、よく見るとこのあたりの場所をアピールしている地元感あふれるものばかり。年代も相当に古く、宿泊料150円っていつの時代だ?国鉄という単語もあるし。
どことなくアメリカンな画風といい色彩センスといい、今とはポスターの概念が全く異なっているのが面白いです。
夕食の内容はこちら。
メインとなるのは合鴨の瓦焼きで、文字通り瓦の上で肉や野菜を焼いていく独特の料理のようです。
どの品も美味しくて一瞬でおひつのご飯が空になってしまったのですが、特に美味しかったのは焼いたイワナの上に味噌が乗った料理(イワナの味噌焼き)。
イワナ特有の旨味に加え、焼いた味噌の風味が合わさって美味すぎました。酒にもご飯にも合う一品だったので、これだけでご飯を二杯くらい消費してしまったくらい。
瓦焼きについても、自分のペースで焼くことができるので便利です。肉も野菜も美味しいので満足。
で、食べ進めているうちにどこからともなく黒猫がやってきました。黒猫は各テーブルを回ってご飯くれとスリスリしながら鳴いていて、改めてここが猫旅館だったということを思い出す。
滞在中に確認した限りでは、現在では合計3匹の猫がいるようです。その名前と種類は以下の通り。
- ごま作…茶白、オス
- ぴー…黒、オス
- とらまゆ…キジ白、メス
夕食時にやってきたのはぴーちゃんで、最初に訪問したときに玄関にいたのはごま作ちゃんのようです。
猫ちゃんはいずれも人馴れしているだけでなく、宿泊客にも積極的に絡んでくるので嬉しい限り。繰り返しになるけど、旅館二階堂は猫好きにとっては温泉に入って猫に癒やされるという、それはもう魅力的な体験ができます。ほんとおすすめ。
夕食の後は再度温泉に入りに行ったり、涼しいので外に出て旅館周辺をぶらぶら歩いたりしました。
屋外散策中に出会ったのはキジ白のとらまゆちゃん。というか夜の時間帯に限らず、滞在中は大正棟周辺を歩くたびに猫ちゃんに遭遇していたような気がします。屋外と屋内の出入りも自由なように隙間があるので、猫たちも自由気ままに移動している感じ。
これがなんというか非常に良い。
猫には猫の一日の流れというものがあるわけで、自分としてはそこにお邪魔している形になる。宿泊者である自分が館内を散策したり温泉に入りに行ったりする行動に、元々旅館にいた猫たちの行動が重なることによって両者が出会うことになる。
そういう生活パターンの偶然の一致が垣間見れたような気がするので、もし宿泊した旅館に猫がいたら少し違った時間を過ごせるかもしれません。旅館には猫が似合っていて、景観に馴染んでいると感じます。
旅館の周辺には他の建物が一切ないので、外に出てみると旅館の明かりが心強い。しかも中に入れば猫ちゃんもいるわけで、山奥だからといって心細くなる必要はないです。
散策の後は再度温泉に入りに行ってから就寝。
翌朝はうぐいすの鳴き声で目が覚めた。
夜間は想像以上に寒くなって、就寝時は暑いだろうと思って毛布一枚だったけど夜中に起きて掛け布団を追加しました。
眠気覚ましに朝風呂に入り、その勢いのまま朝食へ。
朝風呂に入ったことによって若干疲れたので、朝から白米の消費がとんでもないことになりました。でも旅館の朝食っていうだけで食欲が普段の3倍くらいになるし、旅館宿泊時だけ胃袋が拡張している可能性がある。
猫ちゃんの襲撃
これで、旅館二階堂における滞在は終了。
工事の方も朝食を済ませて作業に入られたようだし、自分も少し昼寝してから出発しようか…と思っていたところ、階下から誰かが上ってくる音が聞こえてきました。
やってきたのは茶白のごま作ちゃん。
廊下を素通りして自分の部屋に何の遠慮もなく入ってきて、最終的には座り込んでしまってちょっとやそっとじゃ動かなくなっている。話によるとごま作ちゃんは各客室を訪れることが特に多いらしく、場合によっては障子戸を破いて出入りするようです。
障子戸に補修跡が多いなと思っていたのは実はこういうことで、しかも別に22号室限定というわけではなく客が泊まっている部屋ならどこでもというから驚いてしまう。ちなみに無傷の障子戸はなくて、どの障子戸も補修跡だらけでした。犯人はお前(達)だったのか。
部屋に入ってきた後は持ち物を確認されたり、部屋の入口に座って廊下の監視業務に入ったりと静かな時間が過ぎていく。
普通はこっちを一瞥して去っていくものだと思っていましたが、今現在は構ってくれる人が他にいないからここに来たのかな。同じく泊まっていた宿泊者はもう全員出発したようだし。
極めつけはチェックアウトの時間まで昼寝をしようと布団に入ったところ、ごま作ちゃんが布団の上を通って首元にやってきて一緒に寝始める。まさかここまでフレンドリーだとは微塵も思っていなかっただけに興奮度も増す。幸福すぎる重みだ。
ごま作ちゃんの方もこれが当然という感じで過ごしているし、こっちとしても猫ちゃんと触れ合えるなんて幸せしかない。今回、旅館二階堂に泊まることができて本当に良かった…。
最後はこんな感じ。
そろそろ出発するかとチェックアウト間際の時間に起床し、浴衣を脱いで着替えたらその上でお昼寝に突入した模様。最後の最後まで癒される二日間でした。
おわりに
微温湯温泉 旅館二階堂はその趣ある建物もさることながら、効能のある温泉や美味しい食事、そして猫ちゃん達の存在が魅力だと思います。
どの要素も滞在中に十分すぎるほど満喫できたし、猫ちゃんについては初対面なのにこんなスリスリしてきてええんか?というくらい。温泉旅館の特徴に加えて、癒やしを得られたのは非常に嬉しい体験でした。
山奥の旅館なので虫はそこそこいるし、携帯は圏外。古い建物なので設備が足りないところがあるかもしれないけど、そのぶん日常を忘れて宿泊すること、温泉に入ることに没頭できるのは間違いない。昔ながらの旅館で、ありのままを感じながら過ごしてみたいという方にはおすすめできるところだと感じました。
公式サイトにもある通り、「其処は時の止まった別世界のやうで」とても気持ちが良い。泊まった後は身体も気分も爽快になれるはずです。
おしまい。
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