今回は、宮城県大崎市のいさぜん旅館に泊まってきました。
JR東日本 陸羽東線の沿線には静かな温泉地がいくつか存在しており、今回訪れた東鳴子温泉もその一つ。東北地方には今の時代でも湯治文化が深く残っていて、療養目的で同じ土地に長期間留まって温泉に入る、という体験が安価でできます。
前回の訪問では黒湯の高友旅館に宿泊し、その際に存在を知ったのが高友旅館からほど近いいさぜん旅館でした。こちらでは温泉だけなく、なんと猫ちゃんと触れ合える素敵な時間が過ごせるのことで、早速泊まっていきたいと思います。
東鳴子温泉での湯治
いさぜん旅館は湯治文化そのままに素泊まり形式となっていて、食事については自分でなんとかする必要があります。他にも浴衣なし(重要)、バスタオルやアメニティはなしと、必要なものは基本的にこちらで用意しなくてはならないので注意。
なお、チェックイン可能な時間は最速で12:00とめちゃくちゃ早く、チェックアウトは11:00まで。早く着きすぎてしまったという場合でも、客室内で昼寝をして過ごす…ということも可能です。
今回は一泊だけの短期間の宿泊となりましたが、結論から言うととても濃い体験ができました。
いさぜん旅館へのアクセスは容易で、電車を使う場合は鳴子御殿湯駅で降りてちょっと歩けばすぐに着きます。めちゃくちゃ山奥にある温泉街というわけではないので、公共交通機関でも訪れやすいのは助かりますね。
駐車場は旅館の前にあって、車で訪れた場合はこちらに止める形になるようです。
外観
いさぜん旅館は通りから見える棟以外にも多くの建物から構成されており、外観からだけではその全容を掴むことはできません。
棟の多さは湯治が盛んだった時期の影響だと思いますが、正面に見える本館に加えて西館・東館があります。
いずれも純和室の客室で、湯治部の客室については部屋内に台所がある部屋もある様子でした。ただ、一般的には調理は共同の炊事場で行う形になっています。
外観からでもなんとなく伝わってくる客室の多さ。まさに湯治旅館という雰囲気がしてきます。
駐車場のすぐ奥にあるのが正面玄関で、屋外への出入りができるのはここだけ。また、日帰り温泉の時間帯は特に玄関付近が混み合うことがあり、チェックインの時間帯によっては混雑するかもしれません。
玄関も含め、建物は基本的にすべて木造なようです。
私は古い建物が好きで、木造の旅館は宿泊者を暖かく迎えてくれるような感じになるのがその理由の一つ。外観を見るだけでも、館内を歩いていても建物自体のぬくもりを実感できる。
いさぜん旅館でもまさにそれが当てはまって、季節的には寒かったものの中で過ごす分にはあまり気になりませんでした。
玄関には側面にも戸があって、こちらは猫が出入りできるように隙間を設けてありました。現に猫がここを通って向かいの家に散歩に出かける場面も見れたりして、こういう何気ない猫要素に興奮してしまう。家に猫がいる人ならではのあるあるというか。
いさぜん旅館 館内の様子
1階
早速、中へ入ってチェックインを済ませます。
玄関はご覧の通り広く、玄関土間・廊下部分を含めて大人数が訪れるのが前提の設計になっています。
玄関のすぐ奥には帳場とロビーがあり、その左側にはご主人達がいらっしゃる居間がありました。旅館の方(特にご主人)は昼間の時間帯だと主にロビーで待機されている感じで、特に日中は日帰り温泉客が多いこともあってチェックインはスムーズ。
いさぜん旅館のご主人は野球の阪神ファンのようで、館内には至るところに阪神関連のグッズが展示されています。
かと思いきや、宮城県だからなのか楽天の展示も同じくらいに多い。温泉のみならず、野球グッズの展示についても実に個性的な旅館だ。
1階は主に玄関や居間、厨房、温泉があるフロアとなっていて、1階の客室は本館北側の棟のみとなっています。ただし現在では宿泊用にメインで使っているのは本館のみのようで、他の棟も一応散策しましたが宿泊者はいないようでした。逆に本館は宿泊者がかなり多かったです。
玄関の左側、本館南端には大きな厨房があるものの、こちらは旅館の方が使用されている厨房なので宿泊者は立入禁止となっています。
階段を素通りして奥に進むとさらに廊下があり、館内に計4箇所ある温泉へ向かうことができます。
温泉前の廊下はちょうど玄関前の廊下と合わせて周り廊下になっていて、中心に帳場やロビーがある感じで行き来が非常にしやすい上に動線も分かりやすいです。
周り廊下の北端と南端にそれぞれ階段があるので、2階への行き来も楽。湯治といえばとにかく客室と温泉との行き来を頻繁にやるだろうし、この建物の造り方はよく考えられているなと思いました。
玄関右奥には別の棟が続いていて、こちらには1階の客室がずらっと並んでいますが、前述の通り普段は使用されていない印象を受けました。予約があったらとりあえず本館から順に埋めていき、それ以上になるとこっちの方の客室へ割り当てる感じかな。
その他の棟には休憩所を兼ねているような大広間があったり、電車関連の展示やプラレールが占領している部屋があったりしました。
普通に宿泊するだけだと訪れそうにないので隅々まで散策してみたけど、思いもよらぬ発見があるから結構面白かったりします。特にプラレール部屋がかなり心に残りました。あれを一斉に稼働する日もあるのだろうか?
2階
階段を上って2階へと向かってみます。
本館2階は真ん中に廊下が通っていて、その両側に客室が並んでいる造り。
一番奥にトイレ、中間地点に共同炊事場がある以外は基本的にすべて客室でした。廊下と客室は引き戸1枚を隔てていて、廊下でスリッパを脱いでから上がります。
泊まった部屋はこんな感じ。
広さは6畳で、設備としてはエアコンやテレビ、ポットがありますが前述の通り浴衣やタオルはありません。押入れの中にも布団一式だけがあるというシンプルさで、部屋と布団の提供はするのであとは各自でご自由にどうぞというスタイルです。
ちなみに木造なので廊下の音が結構響いてくる上に、隣の部屋の音も普通に聞こえます。なので正直人を選ぶ宿に分類されると思いますが、そこが問題ないのであれば気軽に過ごすことができる旅館と言えます。
温泉は24時間やっているのでどの時間に行ってもいいし、食事も自分で用意するのでこれも自由。何泊もするという場合だと日中の過ごし方も自由だし、そういうのが好きな人にとってはこの環境が合っている。
実際、到着していきなり眠くなったので1時間ほど昼寝をしてました。
12時からチェックインできるということも関係して、思い思いの過ごし方ができるという点が他の旅館にはない特徴かなと思います。
温泉
昼寝から起床し、夕食前に温泉に一通り入っておきたかったので温泉へGO。
いさぜん旅館には以下の4箇所の温泉があります。
- 中浴場…本館南側。東鳴子重曹泉(引湯)。かなり熱い。
- 露天風呂…中浴場の隣。東鳴子重曹泉(引湯)。中浴場よりは少しぬるめ。
- 大浴場…本館奥。東鳴子重曹泉(引湯)。温度は露天風呂と同じくらい。
- 小浴場(いさぜんの湯)…大浴場の隣。いさぜん旅館自家源泉(自噴)の炭酸湯と鉄鉱泉がある。混浴。
これらのうち、中浴場(+露天風呂)と大浴場はそれぞれが男湯/女湯に指定されており、混み具合によって男女が入れ替わります。当然ながら男湯となっている時間帯は女性は入れませんし、その逆も然り。浴場の前に表示があるので、それをみて今はどちらなのか判断する形になります。
ただ、小浴場のいさぜんの湯に関しては常に混浴となっています。浴室内には浴槽が2つありますが、場合によってはちょっと待つ必要がありそうです。女性が利用している状態で中に入るのは流石に気が引けるので。
まず、中浴場と露天風呂について。
中浴場の方は洗い場が2箇所あって、シャワーもあります。温度は中浴場の方が42℃くらいと若干熱めですが、熱く感じるのは最初だけで入っているうちに慣れてくる感じ。
お湯は赤褐色のような赤みがかった色をしてました。あと匂いはタイヤのような、石油のような匂いを薄めたような独特の匂いがして、これは高友旅館と似たような匂い。どうやら東鳴子温泉特有の匂いだと思います。
露天風呂も源泉は同じなので特性も変わらないかと思いきや、気温が低い季節なので若干低く感じました。半身だけ浸かって外気温との差を感じるのがちょうどいいかと。
同じく源泉が同一な大浴場。
こちらは館内でもっとも広い浴槽なので、大人数で入ってもかなり余裕があります。ちなみにすぐ横にある小浴場と上部が繋がってました。
最後の小浴場(混浴)へ至る扉は2つあり、その手前にはくつろげるスペースがあります。
脱衣所内に入ると左手に温泉に続く扉があり、左が炭酸泉、右が鉄鉱泉となっていますが中で繋がっているのでどっちからでもいけます。
入り方としてはまず炭酸泉にじっくりと浸かり、最後に鉄鉱泉に入ってから上がるというスタイル。いずれもいさぜん旅館独自の源泉から引かれている湯で、特に(ラジウム)炭酸泉の方は「優れた医療効果が期待」できるとのこと。
なので炭酸泉にじっくりと浸かるのがいさぜん旅館スタイルといえそうです。
浴室内に入るとまず階段があり、その向こう側に壁で仕切られた浴槽がそれぞれあります。浴室の天井は非常に高く、大きめの窓から入ってくる陽光もあいまってかなりの開放感でした。
炭酸泉の浴槽は四角形、鉄鉱泉の浴槽はひょうたんのような波打った形をしていて、どちらもそれほど大人数は入れない感じ。特に炭酸泉はその性質から長湯が基本となるため、時間帯によっては入るのが難しい場合があるかと。
温度については、説明書きの通り炭酸泉は温め。逆に鉄鉱泉は大浴場や中浴場よりも熱く、自分は入っていられるのが1分程度でした。ただ炭酸泉の方は、じっと浸かっていると身体に浸透してくるような温かさがあって温すぎるという感じではなかったです。
湯治目的の場合は旅館に滞在する時間が長くなり、熱くて短時間しか入るのが難しいような湯よりは温めの方がいいかなと思う。なので、この炭酸泉&鉄鉱泉の組み合わせは長期滞在向きだと感じました。
猫と戯れる
ここでとても重要なことを言うと、いさぜん旅館には猫ちゃんがいます。
確認した限りでは合計3匹いて、それぞれが自由気ままに館内を歩き回っている様子。運が良ければ三匹ともに会えるかもしれないし、一匹だけというケースもあると思いますが、とにかく館内で猫に会えるというのがもう最高すぎる。
猫ちゃんはほとんど1階を生活圏にしているようで、玄関やロビー周辺で出会うことが多かったです。
3匹のうち2匹はあまり宿泊客に懐くような性格ではないようで、遠巻きにこちらの様子をじっと伺ってくるケースがほとんど。また曲がり角で偶然遭遇した際などはダッシュして距離をおくため、ナデナデするのは難しい。
残りの1匹(キジトラの子)はそれとは正反対で、基本的にどの宿泊客に対しても懐くのが早い。ロビーでくつろいでいることがあるのでシャッターチャンスも多かったのがよかった。もちろん撫でるのにも抵抗がありません。
ロビーにはファンヒーターが置かれていて、寒い時期はここが一つのたむろポイントになります。
自動的に人も猫もここに集まってくるというわけで、他の季節よりは猫ちゃんの遭遇率が高いのではないかと感じました。逆に暑い時期だったらエアコンが効いている部屋なり日陰なりに避難するので、こんな風に館内を歩く姿をあまり見られないかも。たぶんだけど。
猫ちゃんは本当に自由に館内で生活しているので、自分が温泉に行ったり、食事に出かけようとするタイミングでたまに遭遇するのが嬉しい。
この「たまに」というのが重要で、こちらにはこちらの生活リズムがあり、向こうには向こうの過ごし方というものがあるわけです。それが旅館内という非日常の場で絶妙に交差するのが、なんというか良い。
見事会えた場合には本来の予定そっちのけで猫の動向が気になって、あとをこっそり追いかけたりしている。今回は一日だけの宿泊でしたけど、それでも猫ちゃんの存在が、旅館で過ごす時間に大きな彩りを加えてくれました。
食事について
最後に、いさぜん旅館における食事について。
自家用車やレンタカーで訪れている場合は移動が楽なので、近くのスーパーなどに買い出しに出ればいいだけの話。しかし、今回の私のように電車で訪問した場合だと足がないので、「旅館に近いどこかの店で食べる」ことを考えている人は、それなりにいると思います。
しかし、いさぜん旅館から徒歩の範囲で行ける飲食店は調べた限りでは2店しかありません。
旅館から北にある食堂 千両(徒歩2分)か、南にある焼肉 八兆(徒歩8分)。今回は肉が食べたかったので後者に行ってきました。
※一応、旅館の目の前にある「おみやげの店なるみ」ではカップ麺やパンなど簡単なものが販売されてました。ここで買うのも一つの手段。
焼肉 八兆は安価で旨い肉が食べられる店として有名で、少なくともネットでは東鳴子温泉に泊まった人を中心に大勢が訪れているみたいです。
その評判の通り、肉の値段が安いのに対して肉質がいいのか量も質も満足の行くものでした。たまにマスターが何の脈絡もなく海鮮系の幸を網の上にいきなり置いてくれたりもして(無料)、マスターの人柄の良さも繁盛に多いに影響している感じ。
メニューも幅広いので、食べる場所に困ったらここに行けば間違いないです。
ただ、もし行かれる場合には予約しておくことを強く推奨します。ここは宿泊客のみならず地元の方も多く訪店するために、予約をとってないと入店するのがかなり難しいからです。
実際に自分が行った際(開店17時)も新規で来られた客が全部断られていて、予約なしだとたぶん19時以降くらいに空くかなとのこと。自分も混むだろうなと思っていたので、一週間前くらいに予約してから当日訪れました。
自分が乗ってきた陸羽東線は冬だと止まることが多いよーとか、地元の方のお話を多く伺うことができたりと食以外も楽しかったのが焼肉 八兆の良さ。
その土地の店で肉と酒を味わいながら夜を過ごしていくのは、やはり良いものだ。
こんな様子でいさぜん旅館での一夜は終了。
日頃の忙しない時間から少し離れて、温泉に入って猫に癒やされる。そんな湯治が楽しめるのがこのいさぜん旅館です。次はまた別の季節に訪れたいと強く思いました。
おしまい。
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