- Part 1:尾鷲~上北山~十津川村
- Part 2:十津川村~龍神村~田辺
十津川村で今回泊まったのは、十津川温泉郷のほぼ中心部に位置する旅館平谷荘です。
十津川温泉の旅館
平谷荘は十津川村で古くから営業されている旅館で、温泉もさることながら家庭的な料理が魅力。その言葉に惹かれて今回の宿に決めました。
建物の構造としては2階建て+地下1階になっており、1階部分に玄関や食堂、2階には客室があります。温泉は地下1階の岩風呂と、玄関を出て屋外にある露天風呂の2箇所。いずれもすぐ近くにある源泉から直に引いている源泉掛け流しの湯で、新鮮な温泉そのもの。
温泉についてもこだわっている旅館と言えます。
地下1階の岩風呂(24時間OK)はこんな感じで、一度に大人数が入れるほど広いです。
温度については自分的にはかなり熱く、外気温によって多少は変動するようですが基本熱めの様子。なので加水してから入りました。
屋外にある露天風呂(23時まで)は岩風呂とは異なり、自分的にちょうどいい温度で入りやすかったです。常に外気に晒されている分、内風呂よりは温度が下がる様子。
露天風呂は貸切タイプで、入り口の鍵を閉めれば完全に自分だけの空間になるので居心地がいいです。この日は自分以外に宿泊者はいませんでしたが…。
日中の濃い時間を過ぎている中では全く気にならなかったものの、温泉に浸かっていると一日の疲れが一気にやってきた。
酷道を走っていく中では民家に遭遇する度に精神ポイントが少しずつ回復したりしてたものの、いかんせん道が道なので緊張しっぱなしだったようです。旅館という安心できる空間に無事に到着できて、そして温泉に入ることによってそれらの緊張が途端に開放されたという感じ。
ただ単に車でここまで走ってきてからやるような宿泊とは、なんというか気持ちの感じ方が明らかに異なっている。
精神の状態で言うと緊張→安堵→緊張→(ryと道中目まぐるしく変化していった結果がこれなので、自分としてはメリハリがあって満足しています。むしろ平凡な日常を送っている毎日においては植物みたいな精神状態になっているので、旅先ではやはりこういう体験こそなおさら面白い。
わざわざ自分でハードな移動手段を選んでおいてこういう感想を述べるあたり、これも一種のマッチポンプみたいなものかもしれない。
夕食の献立は、豪華を体現したかのような内容でした。
十津川名物のアマゴの塩焼き、カニグラタン、お刺身、酢の物、天ぷら、すき焼きなどなど。〆は自分の手で火をつけて炊き上げる釜飯で、どれをとっても味わい深い優しい味をしています。
塩焼きや天ぷらなどはいずれも出来たてを持ってきてくれるのでめちゃくちゃに美味しく、料理について一切手を抜いていないということが素人目に見ても理解できる。
季節はもう秋を通り越して冬になりつつあるので、こういう温かい料理が本当に美味しく感じる。
例えば学生時代の自分だったら、旅先での宿泊はビジネスホテル、食事はコンビニ…という味気ないものなのが常でした。そこから趣味として旅を重点的に行うようになってからはなるべく旅館に泊まり、そこでの食事を楽しむようなスタイルにしています。
これの理由としては、もう上の写真で全部出てますね。
単純に旅先で過ごす時間が楽しく、温かいものになるというのが一番。旅において何を重視するのかは各個人で異なると思うけど、自分としては旅館でのひとときや食事を大切にしていきたい。
ご飯が美味しいし、温泉も素敵。これでこそ翌日も旅に集中できるというもの。
十津川村から龍神村を目指す
翌朝。
昨晩は温泉と食事を満喫し、早めに寝たこともあって体調は万全。
天候の方は昨日に引き続いて快晴ですが、午後からは田辺市等の海沿いの天気が悪化するとのことなので早めにゴールしてしまいたいところです。
朝食は品数が多く、これから走ることになるし控えめにしておこうかなという思いをよそにご飯をおかわりしまくってしまう。
どのおかずもご飯に強力に作用するものばかりなので、白米を多く消費してしまうのはもう仕方ない。
そんなわけで、女将さんと今日走ることになる道のこととかについて軽くお話をした後に出発となりました。十津川温泉には温泉旅館が多いので、季節をずらしてまた訪れたいところです。
十津川村から行くことができる道としては、大きく分けて2つ。
一つは国道168号で、熊野詣で有名な熊野本宮大社を経由して新宮市街へ向かうことができます。こちらのルートは下り基調になるのでエスケープしやすく、また逆に海沿いから十津川村へと訪れる際に通ることになると思います。
道中には川湯温泉やわたらせ温泉、それに湯の峰温泉といった著名な温泉も数多くあるので、そっちが目的という場合には必ず通過する道。
もう一つは今回の主目的である国道425号で、田辺市龍神村との境にある牛廻越までは上り、そこから先は下りとなるシンプルな道。ただしシンプルなのはあくまで標高的な意味だけで、地図を見ると分かりますがかなりグネグネしてます。
今日の行程としてはまず龍神村まで向かい、そこから国道424号を走って田辺市街へと抜ける感じです。核心部は龍神村までなので、それをクリアできれば気持ち的にはかなり楽になるはず。
そんな龍神村までの道のりですが、いきなりこんな看板に出会いました。
"この区間 転落事故多発 気をつけて通行して下さい"
同じ国道425号でも、昨日走ってきた区間にはこんな看板はなかったです。注意してねとわざわざドライバーに示しているあたり、過去に事故が何回も起きたであろうことは想像に難くない。本当に大丈夫なのだろうか。
今回通る道は、主に十津川に注ぐ支流に沿って形成されています。
山岳部に道をつくる場合はまず間違いなく川沿いになるので、これは当然といえば当然。川沿いは比較的傾斜が緩やかなので、徒歩ならともかく車を通す車道を考えた場合には外すことができません。こういう風に考えてみると、国道425号はただ適当に通した道ではないことが一目瞭然でした。
川沿いは集落を形作る際の土台としても非常に重要で、現に今日走っていく中では数々の集落に出会っています。川を遡っていくと集落があり、またしばらく走ると別の集落が…という感じ。
ただ単に出会う風景に感動するだけでなく、紀伊半島の険しい山中に人が集まっている背景をなんとなくでも想いながら走ってみました。
そんな風に朗らかな雰囲気が漂う国道は、しばらく進んでいくと一変します。
さっき走ってきた道にはあったはずのガードレールがいきなり姿を消し、山側、川側のどちらをみても崖。上の写真で言うと左に落ちればもちろんお終いなのですが、右の上から落石が降ってくるという可能性も捨てきれません。
こんなところを車で走りたくないので今回は自転車で訪れたわけで、道幅が狭い区間が非常に長いので注意が必要です。
もう完全に居住エリアからは外れたのかとか思っているといきなり民家が現れたりするので、思いのほか川の上流まで集落は続いているようでした。
ただし集落と言っても集まっているのは2件3件程度で、隣の家との距離がかなり離れています。利便性が高いのはもちろん川下の方なので、昔はここらへんにも人が大勢住んでいたところを次第に移住されていったのかもしれません。
中には家のすぐ隣に田んぼがあるようなところもあったりして、実際に農作業をされている姿も見えました。
こんな風に、昨日走った区間と比較すると同じ酷道でも"人の気配"が全然違います。道の荒れ具合とかはこっちの方が危ないかもしれませんが、人気がまったくないようなところを走るよりかは幾分安心できました。
ただ、酷道の難易度としてはこの十津川~龍神間の方が高いです。
川に沿って道が通っているので必然的にカーブがものすごく多く、完全なストレート区間は皆無。万が一対向車が来た場合はカーブミラー以外で感知することができないので、何をおいてもスピードはとにかく抑え気味で走るのがよさげ。
あと、カーブ箇所でガードレールがない場合だともう危険度が限界突破しています。(上の写真)。車で来ていた場合はほんのわずかなハンドリングのミス、内輪差、対向車との遭遇とか様々な理由によって崖下に即真っ逆さまになりかねません。
この区間を車で通る人がそんなに多いとは思わないけど、後ろに車がいる状態で対向車に出会ったときとかもう最悪だろうなと思う。バックで数百メートルは戻らないといけないので…。
ほどほどな斜度だった川沿いの道はこれで終了し、道が川から離れて峠へと向かうようになると一気に急になります。
このまま峠をパスしてダウンヒルという流れを想定し、身構えていた自分を待っていたのはなんと比較的大きめな集落でした。
十津川から上ってくるにつれて民家を徐々に見なくなって久しく、まさかこんな深い谷に集落があるなんで完全に予想外。目を疑ったのは言うまでもないです。集落の名前は迫西川といい、道路脇に張り出した転回場を見る限りだと昔はここにも通学児童が住んでいた様子でした。
帰ってからちょこっと調べた結果によれば、昔は十津川村役場に近い下流から順に西川大谷橋、小坪瀬、迫西川(ここ)、湯之野の4箇所に十津川村営バスの起終点があったそうです。
ここよりさらに奥にある湯之野は今では集落が無住となっているため、迫西川が最終地点になっているっぽい。そういえば更に上に小学校の看板があったけど、あのあたりがどうやら湯之野のようです。
忘れてはならないのが国道425号の各所に設置されているこの番号表示です。
これは災害が起きたときにその場所を端的に把握しやすくするためのもので、国道425号を走っていると道の脇に結構な頻度で登場してくる代物。この番号がキリのいい数字になったときに写真を撮ろうと思っていて、ちょうど1000番が迫西川集落の中にあります。
普通に走っている分にはあまり意味はありませんが、記念撮影をする場合には忘れないように。特に反対側(龍神村)から来る場合だと下りになるので、気付かずに通り過ぎてしまうかもしれません。
そんなこんなで上りのラストスパートをかけ、遂に龍神村との境界にある牛廻越に到着!
十津川村中心部から延々上ってきた国道425号はここでひとまず落ち着き、龍神村へ向けて下っていくことになります。
峠にはめちゃくちゃデカい看板があって、内容は十津川中心部で見かけたものと同じもの。
「転落に気をつけて下さい」じゃなくて「転落事故多発」になっているのが恐ろしい。色も赤背景に白文字でとにかく強調したいのが見て取れる上、妙に新しいので最近整備された感じです。
国道425号は全国屈指の酷道として有名なこともあって、やっぱり車で訪れる人が多いと思います。この日も対向車が2台、バイクも2台と遭遇したので酷道目的で訪れる人は間違いなく居る。
車の場合にはそれなりの技量と覚悟が必要になると思ったものの、ある意味では刺激があって楽しいのかも。
体力的な面でいうと大きな上りはこれで終わりです。龍神村までは下り一辺倒とまではいかないものの、全体的に下り基調なので楽といえば楽。
ただ、ここから先の区間では「事故」という言葉が常に頭の中によぎってしまいました。
なぜかというと、曲り道に設置されているカーブミラーのほぼ全てに転落死亡、転落 死亡事故多しといった内容の看板がセットで設けられていたから。
さっきまでの比較的平穏な空気がここに来て一変し、下り + 曲がり角 + 崖 = 死、という、(嫌な意味で)とても分かりやすい道になってるから注意してねと看板は言ってるわけです。
十津川~牛廻越までもそこそこ危険箇所はあったにしてもここまで露骨な看板はなかったし、つまり今までより危ない道なのは間違いない。下りというだけでロードバイクにとっては十分注意しないといけないので、気を引き締めて下りを開始しました。
その初っ端に出会った風景がこちら。
…。これはヤバい。
ガードレールは当然のように存在すらしてなくて、端部から崩壊したアスファルトの下にはすぐ山の斜面が来ている。
ここで落ちたら確実に死ぬような崖がすぐ横にあるので、安全第一でスピードを落として山側を走行するしか手はありません。しかも斜面は土がむき出しになっているような感じなので、つかまるところがなくて崖下まで一直線に落下するというケースも考えられる始末でした。
こんな道を国道認定して大丈夫なのか?w
しかもこの風景はここだけじゃなくて、峠からしばらくの区間はずっとこんな感じです。下っている途中に対向車に出会ったら…スピードを落とした先が崖になっていたらとか考えながらだと、いつでも止まれるような速度で走るのが精一杯でした。
カーブを曲がる度に"死"という文字が現れてくるの、なかなか斬新だと思う。
ただ、道幅に関してはカーブのところどころに膨らんだ箇所があるので、すれ違いなどはそこで可能です。可能と言っているだけでできるかどうかは知らんけど、すれ違いポイントがあるだけありがたい。
そんな危なげな道も下りに下っているとやがて落ち着き、川までの高さもそれほどない比較的平坦な道へと変わってくれます。
ここまで来ればもう安全。安心して走れるくらいには路面も安定しているので、龍神村までのクールダウンにちょうどいい平和な道でした。
龍神村側に下ってきて最初の集落がこちらです。
昨日もほぼ全く同じ体験をしているけど、やっぱり精神的な地獄と天国の落差は非常に大きいと思う。あれだけの地獄を味わった後だからこそ、民家に遭遇したときの感動は計り知れない。
自分でやっておいて今更感がある一方で、行程の中でこういう風に感情が大きく揺れ動くというのは、旅としてかなり面白いと実感しています。
もちろん入念な準備をした上で事に臨んでいる身で、何があっても自己責任。
そういう前提で実践する酷道ライドはやはり楽しい。
ゴール地点の紀伊田辺へ
無事に龍神村へと下ってきた時点で、行程としてはまだ終わっていません。龍神村は紀伊半島の内陸部に位置しているので、ここからどこかしらに向かわないと帰れないわけです。
ルートとしては北へ走って高野山経由で橋本市へ抜ける案もありましたが、今回は南へ走って田辺市をゴール地点に取りました。なお、Part 1で述べた通り国道425号を走るのは龍神村までで終了し、田辺市までは国道424号を通っています。
道中はばっさりカットして、特に何事もなく田辺市に着きました。
尾鷲という海沿いの町からスタートした今回のライド。そこから完全に山100%の中を走り抜け、気がつけば山から再度海へと到達している。
比較的狭い範囲で山と海を、それも中途半端なものでなく純度が高い内容で満喫できるのは紀伊半島の大きな魅力。双方の行き来は他の地域と比べると容易とはいえ、久しぶりに眺める海の美しさが疲れを癒やしてくれた。
天神崎等を短時間ですが散策した後、電車までの時間は田辺市にある喫茶ゴリラというお店で過ごしました。
鶏もも肉の照り焼きに自家製の梅びしお、青じそを挟んだ名物のサンドイッチに、これまた独自のブレンドコーヒーが空腹の身体を満たしてくれる。行程の激しさとは裏腹に、最後は穏やかな場所で食事をしたいという理由から選んだ喫茶店。その目論見通り、激動の2日間が嘘だったかのように落ち着いた夕方の時間を送っている。
旅の終わりは、いつもこんな感じで静かに迎えたい。
こんな感じで、国道425号ライドはトラブルなく無事に終了しました。
おわりに
中部、四国の酷道を走ったから次は425号行くかと軽い気持ちで選んだ今回のライド。
下調べの段階では通行止め区間があることが分かって中断しようかと思ってましたが、さらに調べていくうちになんとかなるルートがあるという発見がありました。そこからはもう早くて、旅館を予約して準備して出発。我ながら行動を早くしておいてよかったと思ってます。
天気にも恵まれて快晴の中走ることができ、しかも酷道には付き物な事故にも合わずに済んだので万々歳。普段から安全第一で走っている分、危険予知とかの習慣がうまく働いてくれたのではと思います。
楽しかった!
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