麻吉旅館 伊勢古市参宮街道に佇む元遊郭旅館に泊まってきた

今回は、三重県伊勢市にある元遊郭旅館の麻吉旅館に泊まってきました。

もくじ

遊郭に泊まる

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麻吉旅館がある伊勢市の古市といえば、大坂の新町・京都の島原・江戸の吉原や長崎の丸山と並び、五大遊郭の内の一箇所として江戸時代に賑わったことが知られています。

古市周辺は今では住宅地になっていますが、当時の空気感を唯一残しているのがこの麻吉旅館。ここだけ時代が切り取られて保存されているかのような古い雰囲気が印象的でした。

この旅館の詳しい歴史については玄関の前に説明書きがあり、

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麻吉の創業は明らかではありませんが、天明2年(1782)の「古市街並図」にその名前がうかがえます。

とあるので、現時点換算で最低でも創業238年ということになります。1782年というと江戸時代の真ん中くらいで、征夷大将軍でいうと第10代とか11代とかそのあたりです。

完全に歴史の教科書上でしか聞いたことがない時代であまりピンと来ませんが、目の前にその時代の建物が存在しているだけでもう心が踊ってくる。

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まずは外観から。

車がギリギリすれ違えるくらいの狭い伊勢街道を一本入ると、まるでタイムスリップしたかと錯覚するくらい古めかしい木造の建物が突然目に入ってきます。これが麻吉旅館の4階と5階部分で、階段を下って奥側に向かうにつれて3階部分や2階部分が顔を覗かせます。

これはいわゆる「懸造り(かけづくり)、懸崖造り(けんがいづくり)」と呼ばれる建築様式で、高低差が大きい斜面などの土地に長い柱や貫で床下を固定してその上に建物を建てている形。もちろん各階ごとに玄関があるので、屋内の移動だけでなく屋外から入ることも可能です。

当初見たときは2階建てかと思ったら、実は5階建てだったので驚きました。

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懸造り(かけづくり)

次はお部屋に案内してもらいました。

麻吉旅館は部屋数こそ多いものの、今現在で宿泊可能な部屋は相当少ないようです。総部屋数は6部屋でそれ以外の部屋は物置等になっているようでした。

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今回宿泊した部屋は3階部分の玄関から入ってまっすぐ進んだところにあって、広さは12畳。二人には十分すぎるほど広くて快適そのものです。

部屋も含めて建物は全て木造で、随所に改修や改築の跡が見て取れます。例えば今でこそ窓ガラスが付いているところに欄干がそのまま残ってたり、空調を効かすために部屋の欄間を塞いでいたり。この古さがなんとも堪らない。

館内散策

お風呂や夕食までにはまだ時間があるので館内を散策することにしました。

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木造なのでどこを歩いてもギシギシ音を立てます。

館内のつくりとしてはとにかく複雑。懸け造りであることは確かに自覚しているのですが、実際に歩いてみるとまるで忍者屋敷のような構造に惑わされるばかりで気を抜くと迷子になりそうです。

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おそらく正規の入り口と思われる4階部分の玄関。

すぐ左手にある階段を上っていくと大人数用の部屋があります。外から眺めた感じ、どうやら5階部分がまるごと客室になっているみたいです。

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麻吉旅館の歴史の長さを如実に感じさせるのが、この玄関周辺に展示されている宿泊者の記録。

内大臣って戦前に存在した役職じゃなかったっけ?と思って調べたら1885~1945年まであった行政機関でした。また左端に書いてある枢密院は1888~1947年まであった天皇の諮問機関のことで、こういうのが飾られているとただ単に古いだけではなく格式の高さを強く実感できる。

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ずらっと並べられた有名人の色紙を眺めながら階段や廊下、窓の外などを周囲を一通り見渡してみる。

視界に入ってくる全てが遊郭として賑わっていた当時と同じものかと思うと感慨深くなってくるし、ここまで保存状態がいいのは旅館の方の尽力があってのものだと感じます。

この麻吉旅館、現代の建築基準法や消防法を鑑みると同じ規模での再建築は不可能らしく、つまり一度朽ちてしまったら二度と蘇らない運命にあるそうです。200年以上も増築や増床を繰り返して維持されてきたのは相当な苦労が忍ばれますが、これから先も長続きしていってほしい。

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本館と別館を結んでいる渡り廊下もまた特徴的なもので、この廊下の狭さがとにかく好き。

古い建築でよく見受けらる必要最低限で道を確保したような感じで、ここから通りを見渡せるのも情緒があります。館内を歩いているのに屋外の様子を一緒に見ることができるというのが嬉しい。

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館内の照明は随所に設けられているわけではなく、明るいところは明るく暗いところは暗いです。そのぶん自然光のありがたみが大きいわけで、照明そのものが少なかった江戸時代当時のことを思わずにはいられない。

あと、どのアングルを切り取ってみても近代化しすぎていないのが本当に好きになりました。

この「しすぎていない」というのがポイントで、最低限の火災報知器だったり消火用の設備だったりが備えられているくらいで、遊郭の雰囲気が微塵も損なわれてないのが素晴らしいです。

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屋内と屋外を行ったり来たりしながら遊郭の空気感を楽しんでいく。

路地の狭くて薄暗いなか、階段をゆっくりと上っていきながら左右の建物を眺めてのんびりする。かつてこの宿に泊まった人々も同じようにこの階段を歩いたのだろうかとか考えてみたりもして、やっぱり古い旅館だと過去に思いを馳せるのが楽しい。古い建物ってそれだけで単なる宿泊以上の価値があるし、滞在中の時間もどこか濃いものになってくる。

上の写真の2枚目に写ってるのが建物の中では最も標高が低いところにある蔵で、宿泊者限定で中が見学できるそうなので明日案内していただく予定です。

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このように昼間ぶらぶらしてるだけでも十二分に楽しめるものの、麻吉旅館の雰囲気がより妖艶になるのは日が落ちてからの夜の時間。

周辺が暗い中、建物をほんのり照らす照明が見る人をより幻想的な世界に誘ってくれます。辺りは人通りもなく静まり返っていて、今この瞬間に自分が江戸時代にワープしたかのように思えました。夜の時間といえば遊郭の時間なわけだし、この艶っぽい感じは昔から変わっていない。

建物だけ古いのに対し周辺が近代的になった影響で喧騒がある場所もある中で、麻吉旅館の周辺は住宅街なので本当に静かです。昼だけでなく夜も落ち着いて過ごせるはずです。

夕食~翌朝

情緒的な雰囲気に若干酔いつつ、部屋に戻ってきて夕食をとりました。

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箸袋の図柄は、江戸期の版木をもとに復刻したものだそうです。

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麻吉旅館の夕食は1品ずつ順に提供される和食コース形式で、内容はその立地を活かした鳥羽や志摩、南伊勢産の魚介が中心でした。

もちろんこれだけでも美味しく頂けるものの、ぜひおすすめしたいのが地酒と一緒に味わうこと。

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注文できるお酒の種類が非常に豊富で、特に日本酒に関しては常時約15種の銘柄が用意されているとのことです。

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今回は「三重の酒 飲み比べセット」を注文してみました。

注文の仕方も自由そのもので、自分の好みのほかにも「全ておすすめ」とか「料理に合わせて」など、思い思いにお願いするとその通りの銘柄を選んできてくれます。

日本酒に関してはソムリエ協会公認資格の方が在籍されているとのことなので、自分で選ばずに完全におまかせにしても満足のいく食事になること間違いなし。

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元遊郭の一室で雰囲気を楽しみつつ日本酒を飲む。

当時の宿泊客と同じ体験をしていると思うだけで雰囲気の良さも相まって酔いが回るのが早くなってくるし、時間の流れがゆっくりになったような気分になりました。これが歴史の重みというやつかもしれない。

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翌日。

遊郭で迎える朝は、いつもより気だるい感じがした。

この日は朝食を頂いてから、宿泊者限定で入ることができる蔵をじっくり見学してから帰路につきました。蔵の展示物については撮影禁止なので、君の目で確かめろ!としか言えません。

大きな声では言えないけど資料館並、いやそれ以上に充実してました。

おわりに

このような歴史ある旅館に泊まれる機会はあまりないだけに、今回の宿泊はとても記憶に残る貴重な体験となりました。今後の伊勢訪問の際にはまたお世話になると思います。

十返舎一九の「東海道中膝栗毛」の中にも登場するほど古い旅館でありながらも、令和の時代に現役で営業されているのが奇跡に近いくらいです。当時の面影を感じながら雰囲気に酔いしれてみてはいかがでしょうか。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

過去に泊まった旅館の記事はこちらからどうぞ。

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コメント

コメント一覧 (3件)

  • 先日は御宿泊ありがとうございました。
    そして素敵な記事を投稿して下さり嬉しく思います。
    もし良ければ私共のsnsでシェアさせて頂きたいと思いますが、如何でしょうか?

  • 麻吉旅館様
    こちらこそ素敵な体験ができ、とてもいい思い出になりました。本当にありがとうございました。
    >特に私の許可は不要ですので、ご自由にシェアしていただければと思います。

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