今回は、ロードバイクで長野県と群馬県の県境にある渋峠を走ってきました。
まず渋峠について簡単に説明すると、長野県山ノ内町と群馬県中之条町の間にある標高2,172mの峠のことです。峠に至るまでの山麓にはそれぞれ渋温泉や草津温泉等が存在しており、山の上からの展望を拝んだ後は温泉でまったりできたりするのも特徴の一つ。特に群馬県側の草津温泉からであれば比較的簡単にアクセスできるので、関東方面から訪れる人が多いみたいです。
この峠の大きなポイントは、日本に存在する国道の中で最高地点だということ。
国道ということは誰でも問題なく通行できるというわけで、マイカーだけでなくツーリング目的のバイク、それから自分のようなロードバイク乗りにとっても人気の場所。(国道ではなく車道の最高地点は乗鞍畳平(岐阜県・長野県の県境、標高2,702m)ですが、こちらは通年マイカー規制が実施されているので観光バスや自転車しか通行できません)
さらに、女子大生が主人公の漫画作品である「ろんぐらいだぁす!」にも渋峠が登場したことから、その聖地巡礼で訪問する人も多いとか。初めて行く場所なのでヒルクライムとしての難易度は不明だけど、聖地巡礼をするためにロードバイク趣味を始める人も結構いそうな感じです。たぶん。
結論から言うと、天候にも恵まれて快適な空中散歩ができました。
小布施から万座温泉へ
渋峠に行くためにはヒルクライムをしなくてはならないので、「どうせ標高が高いところに上るんなら涼しい季節がいいよね」ってことでこの時期に行きました。
夏場の時期に標高が低いところをアプローチとして通るのは暑いので避けたい上に、夏の高山は天候の変化が激しいので難しいところがあります。特に午後になるとガスが湧いてくるので展望は得られない可能性が高く、それよりは空気が澄んでいて行動しやすい春の時期がベスト。
あと、実は前に毛無峠を経由して渋峠を周回するような行程を実行に移したことがあったものの、そのときは割と高いところまで上ってきてから当日の天候が良くないことに気が付きました。なので渋峠自体には到達できておらず、今回はそのリベンジというわけです。
次はルートについて。
渋峠そのものは、群馬県の草津温泉を起点にすれば獲得標高1,000m程度で到達できるっぽいです。でも個人的には渋峠に加えて志賀高原も一緒に訪問したくて、そうなると草津温泉までピストンするのは上ったり下ったりで大変になってしまう。
なので、長野県の小布施を起点にして県道466号を走って万座温泉経由で渋峠に到達し、その後は北へダウンヒルして志賀高原から渋温泉経由で小布施まで戻ってくる方針としました。これなら、一度渋峠まで上ってしまえば後は全部下りです。
頂上付近の気温はそこそこ低いので、防寒をしっかりしてから出発。
小布施を出発してから高山村に入り、いきなり斜度きつめの坂を上っていくと万座温泉方面への分岐(県道112号)があります。道としては至極分かりやすく、後はここを走っていくだけで万座温泉まで行くことが可能。
ただし道としては上り一辺倒で、冗談抜きで勾配が下りになるポイントが一切ありません。延々と上りばっかりなのでいきなり心が折られます。というか高山村の中だけでも標高差がかなりあるので、山に入ってから上るものだと思っていると出鼻をくじかれるかも。
高山村の道沿いには自動販売機が整備されているため、不安ならここで買っておく方がいいです。
県道112号をひたすらに上って、毛無峠への分岐(県道466号へ切り替わる場所)に到着。
さらっと書いてますが、今回の行程の中で一番疲れるのがこの小布施~毛無峠への区間です。
ここだけで獲得標高が1,700mくらいあるけど、逆に言うと最初にキツい区間を持ってきたことによって後が楽に感じる法則。特に、最初の分岐から最初のつづら折りに入るまでの斜度が常時11%くらいありました。確か前回のときもここで体力を消耗した記憶が…。
ただし交通量は非常に少ないので、上ることに専念できる点はグッド。この時期に小布施~万座温泉を走ろうなんて人はあんまりいないので、むしろこのルートを選んでよかったかもしれません。そもそも今年の冬季閉鎖が解除されて開通したばかりだし。
毛無峠への分岐を過ぎて少し行くと群馬県との県境があって、ここから先はしばらく長野県とはお別れです。
頂上付近では道の脇ですらまだ雪が溶け切っていない箇所もあり、道の上を流れる雪解け水に混じって雪の塊があって怖い思いをしました。もう春だからと油断せず、地面に注意を向けておく必要があります。
群馬県に入ったところで早速だけど、自分はヒルクライムの醍醐味を実感できていた。
何かというと頭上に広がる空の広さがまさにそれで、さっきまでの鬱蒼とした森の中を走っていたのが信じられないくらいの青空が広がっている。
自分が山の頂上付近に到達したという実感が強まってくれて、まだ渋峠に着いていないにも関わらず達成感が凄かった。下界はもう春だけどここではまだ冬の空気が漂っており、呼吸するたびに澄んだ空気が体内に入っていくのも心地良い。
あと気温の方も明確に差異があり、ヒルクライム中は身体が熱を持っていたというのもあるけど今はかなり寒いです。この体験ができるのも今年の春では後少ししかないわけで、ここ一帯を訪問するのに適した時期に来ることができて嬉しい。
国道292号の雪の回廊
ルートとしては県境から万座温泉までは下りが続き、万座温泉から国道292号までは再び上りとなります。
万座温泉に至る道は県道466号の他にも万座ハイウェーという有料道路がありますが、こちらは自転車は通行できません。なので、もし国道292号以外で万座温泉に行こうとする場合は自分と同じルートを通るしかないようです。
万座温泉には特に立ち寄るような店もないため、今回は素通り。
草津(標高1,100m)と万座(標高1,800m)は温泉地という意味では同一ですが、草津は無色透明な硫黄泉であるのに対して、万座温泉は白濁硫黄泉で有名のようです。硫黄の濃度が高いということかな。
冬の時期になったら、この万座温泉や草津温泉に一泊してみようかなと計画中です。少なくとも草津温泉の方は温度が高めだったし、個人的な温泉のシーズンには秋頃まで待たないといけない。
で、万座温泉からしばらく上ると国道292号(志賀草津高原ルート)に合流します。
国道292号に入った瞬間から交通量が目に見えて多くなり、車が通ってないタイミングが無いくらいにひっきりなし状態でした。同時に今までは皆無だったサイクリストの姿も増えて、やっぱり渋峠は草津側から上ってくるのが王道っぽいです。
ワインディングロードが続く中、白根山の近くを通って渋峠を目指す。
ここまで来ると、道の様相はもう完全に高原地帯という感じ。「山」という森と坂道が支配するようなものではなく、その更に上に位置する「高台」を滑るように移動しているようなイメージ。
眼下には残雪が残る林が見えて、しかもその林って木々の密度が高いものではない。標高の高い場所にしか生えないような笹、ダケカンバ、ナナカマド、チシマザサ、ツガやモミの木が美しく、同じ緑色でも微妙に色合いが異なっているのが美しさを加速させている。雪の白色も良いアクセントになっているのが分かります。
気候も快適そのものだし、単純に走っていて気持ちが良い。ロードバイクを趣味にしている自分にとっては、やっぱり旅先での景色が趣味を続ける上での一番のモチベーションになっています。
走行距離や獲得標高のみに重きを置くのではなく、出かけていった先で出会うことができる風景や景色そのものに感動する。動機としてはシンプルだけど、これを味わいたいがためにロードバイクに乗っていると言っても過言ではない。
視界が開けていることによって、これから自分が通ることになる遠くの道を目視できるのも魅力的なポイント。これが可能になるほどの標高を通る道は多くはないだけに、なかなかにレアな視点です。
目的地が視認できているということは、あそこまで向かえば楽になれる(?)という指標にもなるということ。たとえここまでの道中で疲れ果てていたとしても、この風景を見れば活力が湧いてくるはず。
しばらく走ると残雪が一際多く残っている場所があって、ここがどうやら雪の回廊のようでした。山側は山の斜面に沿って斜めに回廊が形成されており、道路を挟んで反対側は高さ4mほどの垂直の壁になっています。
回廊の高さは季節によって大きく変化があり、今年は割と少なめとのこと。もちろん訪問時期によっても左右されるものの、これだけあれば十分な迫力を感じました。快晴の青空と白い壁とのコントラストが美しいし、雪が残っているのがあくまで道路脇だけというのもメリハリがあって素敵です。
あとロードバイクやバイクの人はここで写真撮影をする率が高いので、車との接触に注意が必要でした。
国道最高地点、その先へ
雪の回廊の先にあるつづら折りを抜ければ、国道最高地点はもうすぐそこ。
小布施から水以外の補給をしていないのでお腹がかなり空いているけど、目的地が近いとなれば空腹もあまり気にならない。
というわけで、日本で最も高い国道の標高2,172m地点に無事到着!
渋峠には「日本国道最高地点」の碑があって、今までの道中の景色を味わった後にこれを眺めるともう感無量。こんな大変なところに道を通した過去の人々の苦労を感じつつ、そこを自分の脚で通ってここまで来れた喜びを一人噛みしめる。
なかなか行こうと思って行ける場所ではないことは確かで、これはとても貴重な体験だ。
碑の近くの駐車場はかなり狭く、そこに多数の観光客が押し寄せるのでかなりカオスなことになっていました。
いわゆる記念撮影待ちの人も結構いたりして、順番を待っている途中にサイクリストの方々と世間話をしたり。今日はほんま良い天気なんで来ることができて良かったですとか、休みが今日しかないので無理して来ましたとか。
それぞれの方が住んでいる場所も今日の出発地点も、もちろんこれからの予定も千差万別で同じケースはない。
でも、この同じタイミングで快晴の渋峠の景色を味わったのは確実なこと。他のどこでもなく、今日この日に同じ景色を眺めることができたという点で見知らぬ方なのに親近感が湧きました。こういうの、なんか好き。
碑を後にして、今回の行程ももう後半戦。
国道292号の中ではあまり見られない平坦な道を800mほど進むと渋峠ホテルという建物があり、その名の通りこのホテルが建っている場所が渋峠です。
てっきりさっきの碑の場所が渋峠かと思っていたけど、あそこはあくまで国道292号の標高最高地点で、県境ではありません。渋峠ホテルの建物にも「ぐんま⇔ながの」としっかり書いてあって、こちらが県境であることがよく分かりました。
渋峠ホテル内には喫茶や食堂があるので休憩に適しているほか、すぐ近くにある渋峠ロマンスリフトの場所ではウィンタースポーツを楽しむ人も多かったです。特にこの付近で食事がとれる店はこの渋峠ホテルか、もしくは志賀高原川に下ったところにある横手山ドライブインしかないので人が多いのも納得。
渋峠ロマンスリフト周辺の様子。
積雪はもうだいぶ少なくなっているようですが、まだ楽しめるようです。
上信越高原国立公園と、渋峠の看板の前で記念撮影。やはり明確な数字が書いてあるところは記念撮影に最適で、ひと目でここまでやってきたと分かるので大事です。
で、ここから下りに入る前に渋峠ホテルで休憩をすることにしました。実は「食事が取れる場所?何かしらあるやろ」程度の認識しかなく、万座温泉からの上りあたりから空腹感が結構キツかったので渋峠ホテルが存在してくれていて良かったという感じ。
渋峠ホテルにはもちろん駐車場もあって(ほぼ満車)家族連れ等が多いのは普通に分かりますが、それ以上に多かったのがサイクリストの存在です。
渋峠でなにかのイベントをやっているのかというくらいに多く、十数秒に一度は目の前をサイクリストが通過していく。イベント以外でここまでの人数を見るのは初めてかもしれない。
渋峠ホテル前にロードを止めて中に入ろうとしていると、なんとチタンロード乗りの方に「もしかして…チタンですか!?」と声をかけられました。
チタンフレーム自体が世の中にあまり存在していない上に、旅先で他のチタンロード乗りに遭遇するなんてレアすぎる。あまりに突然過ぎてびっくりしましたが、これも何かの縁ということでお互いのバイクの紹介をすることに。
余談ですが、チタンフレームを導入してから「チタンだ!」が「千反田!」にしか聞こえなくなりました。自分の中の飛騨高山成分が不足していることに起因する幻聴か?
こちらの方のバイクは、アメリカのNo.22というハンドメイドバイクのオーダー品だそうです。コンポは機械式のディスクブレーキで、キャリパーは巷で話題になっているEQUAL。
太いヘッドチューブ、アノダイズで色を付けたフレーム、ビッグプーリー等々、こだわっていないポイントが見当たらないくらいに一つ一つの要素が凝られている。まあチタンのオーダーフレームに手を出す時点で並々ならぬこだわりがあるのは間違いなくて、こだわりポイントを見られるのはかなり新鮮でした。
あとKUALIS以外のチタンフレームを目にするのがあまりなかったけど、エンドの構造とか溶接痕とかに差異が見られますね。そういうのを確認できたのも良かったかな。
で、渋峠ホテルで忘れてはならないことが一つ。
それは自分が渋峠に到達した証明書である「日本国道最高地点到達証明書」をゲットすることで、購入時には今日の日付を印字してもらえます。記念にもなるので買っておくのが吉。
というわけで買いました(300円)。
証明書には通常タイプと「ろんぐらいだぁすとーりーず!Ver.」の2種類があって、今回は枚数限定の後者を購入。渋峠はコミックス5巻に登場した場所でもあるので、自分としても今回訪問できて感慨深いものがある。
国道そのものは日本中に無数に存在する中で、一番標高が高いのがここ。さっきちょっと達成感の話をしたけど、日本でここにしかない場所をロードバイクで走れるのは達成感として非常に大きいです。
そのまま渋峠ホテル内で昼食にし、チキンカレーの旨さが身体全体に染み渡っていって幸せしかない。
食事の旨さは空腹度と疲労度に比例すると言われていて、今回の場合はそのどちらも高いのでより美味しく感じました。なんせ場所が場所だし、天空に近い山の上で食べるカレーは格別の一言。
渋温泉へのダウンヒル
ひとしきり渋峠ホテル周辺でまったりと過ごし、今度は小布施へ向けて下っていく。
このまま国道292号を北上していけば自動的に帰路につけるので、もう考えることは多くないです。この後の移動のこともあるし、後はサクッと下山してスタート地点に戻りたい。
そう思って再出発したところ、いきなりこんな風景に出会ってしまったら立ち止まるしかない。
個人的に今回の行程の中で一番好きになったのが渋峠ホテル~横手山ドライブインのスノーシェッド区間で、ここからは左手方向にどこまでも続く山々を見渡すことができます。山肌に雪が残っている率が比較的高く、左右方向にも奥行方向にもスケール感が大きすぎる。
雪の回廊から渋峠ホテルまでの間は稜線を避けて道が通っているので東側の見晴らしが良かったけど、こっちは逆に西側の展望が群を抜いている。どこを見ても異世界感が強く、神々の領域に足を踏み入れてしまったような感覚になりました。
いや、あまりにも最高すぎる。
国道292号に入ってから渋峠に至るまででも展望には十二分に満足していたはずなのに、先へ進むに連れてそれを上回るような景色が次々と目に入ってくる。これから走っていく中でどんな風景が待っているのか?は気分的な面で重要だけど、この区間のワクワク感は相当なものでした。
ヒルクライムをしている途中は確かに疲れるし、道中の展望はそれほどない。でも辛いのは最初だけで、頂上に来ればこんな極楽が待っている。疲れるのが嫌な自分がヒルクライムをそれほど苦に思わないのは、これが一番の理由だ。
その後は観光客が多く集まっている横手山ドライブインやスカイレーターを通り過ぎ、安全重視で下って志賀高原へ。
志賀高原にはいくつものスキー場があって、冬場はかなりの賑わいを見せるみたいです。この時期はもう積雪が少なくなってしまっているものの、最後に一滑りしようという人が訪れている様子。標高の高いところでないと春まで雪が残っていないわけで、シーズンをできるだけ長引かせるためにも貴重な場所だと思います。
そんなわけで、残りの下り区間を下って湯田中渋温泉郷に到着。振り返るとさっきまで自分がいた山が向こうに見えて、あの高低差を走ってきたことが確認できました。
湯田中渋温泉郷から渋峠を目指す人、もしくは下る人は少数派らしく、下り区間で出会った人はほんの数人だけ。
長野県に住んでいる人だったらむしろこっちがメインだと思うけど、この昼過ぎの時間から上り始める人はそんなに多くないみたい。やたら道が曲がりくねっている県道112号と異なり、渋温泉から渋峠へのルートは斜度も楽で上りやすい印象を受けました。
湯田中渋温泉郷に到着した後は、特にやることもない中で温泉街を散策。渋温泉は個人的にお気に入りの温泉の一つで、冬になったらまた宿泊しに訪れたいです。
高山村、渋峠、そして渋温泉。
長野県の右上の方を訪れていると本当に長野県には山が多いと思うし、平野部から山間部へと移り変わる地形が遠くからでも分かりやすいと感じます。
なんというか、土地そのものが広いので両者の明確な境界というものが存在せず、なだらかな傾斜を伴って徐々に山に入っていくような感じ。特に高山村や山ノ内町周辺はそれが顕著で、手前の平原、中央の市街地、奥側の山々という風に、風景そのものの大きさを実感できる場面が多かった。
とにかく、今回のライドでは長野県や群馬県の魅力をまた一つ見つけることができました。どちらも比較的近所にあるので、これからも「山」が恋しくなったときには気軽に走りに来たいです。
おしまい。
コメント
コメント一覧 (2件)
はじめまして。では無いですが、渋峠でお会いしました、No22に乗っている者です。
Googleで画像を検索していたら、見覚えのあるバイク、見覚えのある景色の画像を発見し、まさかと思って見てみたら、そのまさかでした(笑)
記事の内容も去ることながら、撮影スキルの高さに驚かされました。
他の記事も拝見させていただきましたが、どれもとても読み応えのある内容でした。
今後もたまさんのブログを楽しみにしてます。
画像検索されれば恐らく身バレするので、今さら隠すつもりはありませんので申し上げます。
私、ワイズロード東大和店に努めています高橋と申します。
機会がありましたら、是非遊びに来てください(^^)
http://www.ysroad.net/shopnews/detail.php?bid=629433&mode=6&area=&maker1=&maker2=&P=1
高橋様、コメントありがとうございます。
まさかネット上で再会できるとは思っていませんでした。
あの後が気になってリンク先を拝見したところ、とんでもない距離を走られている様子ですさまじいです。。またどこかでお会いできたら、そのときはよろしくお願いいたします^^