- 八代~多良木~国道265号 狭上稲荷神社~椎葉村
- 椎葉村~五ヶ瀬~小笹円形分水~通潤橋~熊本
今回は、ロードバイクで宮崎県の椎葉村を中心に巡ってきました。
椎葉村は白川郷や祖谷渓と一緒に日本三大秘境の一つとして全国的に知られており、要はアクセスが困難な山間部にあるのでそう呼ばれているようです。豊かな自然と独自の伝統文化が合わさって日常では味わえないような体験ができると思い、ずっと前から椎葉村への訪問を計画していました。
人がめちゃくちゃ多い観光地というよりは、日本ならではの風土というか集落を訪問するのが好きな自分にとっては遅かれ早かれだった気がします。
山間部ということは坂道がとにかく多いので、訪れる時期は気温が比較的低くて水分の消費が少ない秋が良いと予め決めていました。しかし椎葉村周辺は災害等の影響で通行止めになっている道がものすごく多く、走るルートを前もって厳密に決めておく必要がありました(重要)。
前置きはこれくらいにして、早速出発。
球磨川と人吉の再訪
まず最初に今回のルートをざっくりと示すと、下記の通りです。
- 1日目:熊本市~人吉~多良木町(宿泊)
- 2日目:多良木町~西米良村~椎葉村(宿泊)
- 3日目:椎葉村~五ヶ瀬町~熊本市
椎葉村の中心部にアクセスするには国道265号を通って南か北から入るか、もしくは宮崎県の沿岸部から国道327号を通るかの二択になります。今回は椎葉村の南にある西米良村に寄りたいところがあったので人吉方面、つまり熊本県から宮崎県入りして、あとは順当に北上していくことにしました。帰りのことを考慮すると熊本空港をゴールにするのが都合よく、そこから逆算して出発地点を決めた形です。
あと宮崎県の内陸部は電車が一切通ってないので輪行でワープする手段が使えず、必然的に自走オンリーになります。今回の旅で輪行を使ったのは新八代に行くときの1回だけで、そのぶん「秘境を訪問している」感が強まったのは間違いない。
1日目の行程は至極単純で、新八代から球磨村や人吉市街を経由して宿がある多良木町を目指しました。疲労度が高い「本番」は2日目である明日なので、今日は余裕を持ってのんびり走れたと思います。
球磨川沿いの道中の景色はというと前回のライドからそんなに変わっていなくて、国道219号の工事も順調に進んでいるのかどうなのかよく分からないくらい。既存の線路はぜんぶ撤去する方向で動いているとして、再び人吉まで路線が繋がることはあるのだろうか。
前回のライドから明確に変わったことといえば人吉に到着した時点で晴れているということと(前回は雨)、青井阿蘇神社前の禊橋の修復工事が終わっていたということ。後者については何となく神社ん前を通ったら朱色の橋が目に入ったので、今回のライドがうまくいくようにと神様にお願いをしておきました。
秋の何が好きって、晴れていても空気がムシムシしていないという点。
夏場は湿度が高くて個人的にはつらい面が多いので、やっと秋になってくれてよかったという感じです。もう日本の夏は暑すぎて外へ出て何かをするには危険な環境になっているんで、ロードバイクで走るのは春とか秋がよさげ。
球磨川の流れの美しさは季節が変わってさらに強く感じられ、上空に広がる青空と一緒に眺めていると気分も爽快になってくる。なんだかんだ言っても旅先の天気は重要な要素の一つであるし、ましてや清流を味わうなら快晴の方がいい。
昼過ぎに人吉市街に到着し、ちょうどいい時間帯だったので市街地の端っこの方にある相良藩 田というお店で昼食に。
こちらのお店ではうどんや蕎麦が有名で、ちょうど訪問時は団体客が奥の広間で賑やかにやってました。料理についてはすべて手作りを謳っており、こだわりの米は契約農家より取り寄せて井戸水で炊いているとのことです。
注文したのは温かいかけ蕎麦にごはんや小鉢、香の物、温泉豆腐に加えて本日のおかず(サバの塩焼き)がセットになった田御膳というメニュー。さっぱりとした味付けながらも食事としてしっかり満足できる内容で、昼下がりの落ち着いた食事にはちょうどいい。
くま川鉄道の沿線から多良木へ
お昼を食べたところで、早めに今日の目的地に到着するのもアリかなと思ったので特に寄り道もせずにライドを再開しました。
東への移動を続けていると、近隣の路線がJR肥薩線から第三セクターのくま川鉄道へと変わっていることに気がつく。どうやらいつの間にか山間部を抜けて人吉盆地に入っていたようです。
ここでちょっと補足をすると、人吉周辺は人吉市街(西)とあさぎり町・湯前町などの人吉盆地(東)とで大きく分かれており、西の移動はJR肥薩線、東の移動はくま川鉄道の湯前線が担当しています。どちらも球磨川の流域を走っているものの、人吉駅を境界にして所轄が切り替わっている形です。
これらのうちくま川鉄道については令和2年7月豪雨の後、人吉駅~肥後西村駅の区間(代替バス)を除いて運転を再開していて、地域の人のための重要な足として復活されていました。肥後西村駅にはバスターミナルさながらひっきりなしに大型バスが何台も乗り付けており、最初到着したときは何事かと思ったくらい。
全線復旧すればさらに移動が便利になるので、その時を待ちたいですね。
人吉盆地に入ると新八代~人吉区間のような切り立った山々は遠くに見える程度で、逆に見渡す限りの平原が広がるようになります。一般的には海沿い→平野部→山間部の順で地形が切り替わっていくと思われるところ、ここではその逆なのだから驚いてしまう。
四方が山に囲まれているとはいえかなりの内陸部でこれだけの広さの盆地は貴重だし、水が良いので米もよく育ちそうな感じです。
そのまま移動を続け、今日の宿がある多良木町に到着。
夕方から夜にかけては近くで大きな祭りをやっていて、賑やかな雰囲気のまま買い出しをしたりと明日への準備を有意義に進めることができました。旅において本番という風に気負うつもりは特にないものの、前日は早めに休むのが精神衛生上望ましいので走行距離を控えめにして正解。
人吉盆地は宿が比較的少ないので無事に確保できるか心配でしたが、安い料金で泊まれるところを見つけることができたので良かったです。宿からスーパーやコンビニも近いし、部屋も広いしで特に言うことはない。
ロードバイクで狭上稲荷神社へ向かう
翌朝。今日は割と長丁場な行程になるので早起きをし、山の向こうから朝日が顔を覗かせたくらいの時間に出発しました。
今自分がいる湯前町から椎葉村に向かうルートは現在のところ2つしかなく、一つは県道142号を通って日向椎葉湖を経由するルート。こちらは県道となっているものの道中が比較的走りやすく、何よりも湯前町から最短距離を通っているのがメリットです。
もう一つは国道219号から国道265号を通り、さらに災害の迂回路を通って向かう少々遠回りなルート。県道265号は大河内から椎葉村中心部に向かうまでの区間(飯干峠経由)が通行止めになっているので迂回路を通る以外に選択肢がなく、その迂回路は後述するように色々限界なのでこっちは正直おすすめしません。。なお湯前町から大河内に直接向かう国道388号も通行止めなのであしからず。
今回は国道219号の先の西米良村に用事があるので、後者を選びました。最初は軽く峠越えをして宮崎県に入り、西米良村を目指していきます。
早朝の山間部の空気が本当に美味しすぎる。
自然100%の環境下なので肺に入ってくる空気が澄み渡っており、しかも気温が低いのでなおさら不純物が少ないような気がする。秋や冬のライドの醍醐味の一つです。
湯前町を後にする前に、くま川鉄道の終着駅である湯前駅を訪問しました。
といってもまだ始発電車の時間になっていないので駅前には誰も居なくて、朝の時間はある意味で寂しさを感じさせるから個人的に好き。湯前町の一日が始まる前にそこを去るシチュエーションが良いというか、単純にひっそりとしている状況が自分は好きなのかもしれない。
特に何もなく、無事に熊本県から宮崎県に入りました。
朝っぱらの時間帯は寒いので動き出すまでがネックですが、最初からヒルクライムをすることになったので身体が温まってくれてよかったです。ここでいきなりダウンヒルなんかをしていたら冷え込んでしまうし、やっぱり寒いときにはある程度負荷が高いライドをするに限る。
で、国道219号を下っていく道中にお目当てにしていた狭上稲荷神社(さえいなりじんじゃ)への看板を発見。この神社はずっと前から「いつかは訪問したい」と思っていた神社であり、自分がこの日に西米良村まで迂回することを決めた最大の理由でもあります。
日本全国各地に多種多様な神社が存在しているというのは今更説明するまでもないことですが、中には人里離れたとんでもない場所に存在する神社がある。
今まで参拝した中で具体例を挙げると遠山郷の小嵐稲荷神社がそんな感じの神社で、たどり着くまでに苦労したのは今でもよく覚えている。これから向かう狭上稲荷神社もまた同じ匂いがする神社であって、あまりにも秘境すぎることから「ポツンと一軒家」でも紹介されたことがあるほどです。
参拝にあたって問題となるのが、神社までの過酷すぎる道のり。
まず山のてっぺんまで標高差560mほど上り、その後に標高差300mほど下ったところに神社があるという限界っぷりでした。上の看板に「これより11km 40分」って書かれているのが見えますが、これは車での話なのでロードバイクだともっと時間がかかります。
単純に上ったら目的地ではなく、尾根をまたいで反対側に下る必要があるため心を折られる始末…。道はこの一本しかないため他に逃げようがなく、当然ながら帰りも行きと同じ苦しみを味わうことになります。ロードバイクで行っておいて言うのも何だけど、参拝するなら車で行ったほうがいいですよ。ほんまに。
国道から神社までの道は西米良村の村道という扱いになっているようで、あまり手入れはされていません。
急坂、急カーブ、山越え、ガードレールなしの崖っぷちなど「酷」要素が盛りだくさんで、ところどころにある「米良山狭上稲荷神社参道入口」という案内板がなかったら不安になるような道でした。車で来たとしても、離合は困難なので慣れていない人には厳しそう。
落石や枝が非常に多い上にダートになっている部分も多く、半分くらいは押し歩きをせざるをえません。斜度についても常時10~13%が続くので、休むポイントが一切ないです。当初は神社に参拝しにきたはずなのに、なんか修行をしているような気分。つらい。
というわけで、めちゃくちゃ疲れたけど無事に狭上稲荷神社へ到着。まさに秘境と呼ぶにふさわしい宮崎の最奥にある神社です。
狭上稲荷神社は1000年以上前に建立されたという古い歴史があり、冬の大祭の折には600年の伝統がある神楽が奉納されるとのことです。ただし大祭のとき以外の参拝者は多いわけではなく、周囲の環境も相まってとても静かな参拝ができました。
山奥にある神社という意味ではそんなに特別な感じはしないですが、狭上稲荷神社の一番の驚きポイントは宮司さんがここに住まわれているという点。最初の神社をくぐった先にご自宅兼社務所があり、一体どうやって生活をされているのかすごく気になります。人里に下るだけでも相当大変なのに。
ただ建物の周りには畑だけでなくヤギ達のスペースがあり、他にもたくさんの犬と一緒に住まわれている様子。建物そのものもかなり大きく、山の中での自給自足を推進していくことで生活が成立しているようです。
参道の様子はこんな感じで、苔むした石畳の上に建っている鳥居はいずれも不揃いな形をしているのが分かります。大きさも形もまちまちで、中には朽ちたり破損したりして一部がなくなっているものもありました。
美しく色が塗られた鳥居ももちろん好きなのに対して、自分としてはこういう風に建てられてからの年月を感じさせる外観もまた好きな要素だったりします。神社の存続という意味では、適宜補修して長持ちさせるのが望ましい。けど朽ちた鳥居や木造の建物って、なんか心に惹かれるものがありませんか。
参道のほかに視界に入ってくるのは自然のものだけしかなく、山そのものに神が宿っているという古来の信仰にも納得ができる。「神域」ってこういう場所のことを言うんだろうな。
参道の最奥には御社殿があり、中に入って参拝をしました。願う事項は色々あるものの、まずは難所とも言える道中を無事に来れたことに感謝したい。
その後は宮司さんと少しお話をしたところ、ロードバイクで訪問したことについて明らかにドン引きされていたのが面白かった。あとここから斜面を下る方向(かりこぼうず大橋方面)に道がないか伺ったのですが、無いらしいので来た道を戻ることにします。
旅先で神社を訪問するのは個人的に優先度が高くて、その理由の一つはこの土地にしかない神社の雰囲気を味わいたいから。神社ってコンビニと同じように色んなところにある一方で、環境や立地も含めて同じ神社は一つとしてない。
様々な視点から土地そのものを眺めてみるのは結構面白いので、これからも旅における着眼点を増やしていきたいです。
その後は帰り道でパンクしつつも、特に問題なく看板があったところに戻ってこれました。
本日の山場の一つを乗り越えたということで、後は宿がある椎葉村を目指していくのみ。日没までの時間にはまだ余裕があるので肩の荷が少し降りました。
酷道・国道265号の道のり
狭上稲荷神社訪問を終え、今まで東に向かっていた進路がここからは北へと変わります。すでに述べたように大河内までは国道265号を走り、そこから先は迂回路を通っていきます。
しかし「国道だから走りやすいじゃん!」と歓喜したのは実はぬか喜びで、西米良村の中心部を抜けるとあっという間に荒れ気味の一車線になる事態に。しかも永遠に上り坂が続くのでスピードを出すことができず、さっきまでの参拝の疲れもあってなかなかハードでした。
この辺りはもう本当に山しかなくて平地が全くなく、一ツ瀬川沿いに道を通す以外に選択肢がありません。その川の流れが急なばかりに自動的に道も坂道ばっかりになるというわけで、走行距離が増えていくたびに脚を削られます。
しばらく川の上流方向へ走っていくと、国道265号と国道388号の分岐に着きました。
ここは地名でいうと「大河内」で、分岐を右に進めば最終的に海沿いの日向市に行きつき、左に進めば湯前町や椎葉村へ行くことができます。色んな国道が交差する珍しい場所にも関わらず大部分が通れないままとなっているのが嘆かわしい。
飯干峠を超える国道265号については途中で通行止め、国道388号も通行止めなので、ここから分岐を左に行くという選択肢はありません。これらの情報は出発前に入念に調べておいたので、現地で面食らうことはありませんでした。
あと念のために事前に観光協会にも電話をしてルート確認をしたけど、国道265号は現地の車は普通に走っているとかなんとか…。もしかしたら通行できるのかもしれませんがリスクが高いです。
そんなわけで、ここからのルートは一つのみ。分岐を右に進んで三方岳登山口(大河内越)近くまで向かい、林道を迂回して椎葉村の上椎葉まで向かいます。
大河内にあった看板には今日泊まることになる「鶴富屋敷」が示されていたこともあり、もうちょっとだけ頑張ろうというやる気が若干出ました。目的地は山の向こう側にあるものの、あと少しですよという情報が得られたのは精神的に大きいです。
椎葉村へのラストスパート
林道へ入るために国道388号を走っていく。この道もまた今までと同じように斜度10%がずっと連続するため、なんかもう宮崎県の国道は斜度10%がデフォルトなんじゃないかと思ってしまう。
山の中は木が生い茂っていたりカーブが多かったりするので遠くが見えにくく、今必死に上っているこの坂道がどれくらい続くのかが非常に分かりづらいです。
何事もそうだけど終わりが見えないとメンタルをやられやすくて、まさに自分がその状況に陥ってしまっているという悲しみ。「秋冬は寒いからヒルクライムに向いている」とか言ってすみませんでした。普通に疲れますわこれ。
さっき話した国道388号から林道への分岐というのがこちらです。林道というよりは村道の区分のようですが、まあ通れるならなんでもいいです。
ちなみに国道388号はこの地点をもって通行止めになっているので、椎葉村に向かう以外に海沿いへ行くのが目的の場合も村道を通るしかありません。車だろうがロードバイクだろうが、通る道が大河内に到着した時点で完全固定される形ですね。
で、この村道を通っていけばいよいよ椎葉村に到着…!かと思いきや、なんとさらに迂回路がありました。迂回路の迂回路とか一体どうなってるんだ。もうやめて!とっくに私のライフはゼロよ。
これはどういうことかというと、要は国道265号や国道388号の迂回路として設定した村道が途中で崩落しているので、さらに林道を迂回路に設定したということ。上りが終わってこれから椎葉村まで下りのみという状況で、この林道が最後に待っていたラスボスというわけです。
林道の様子は完全にダートで、道の上に落ちている石も少々大きめでした。MTBとかだったら気持ちよく走れそうだけど、今はそうではないので安全第一で進むことに。
斜度は相変わらず10%以上あるし道は細すぎるしで、車だったとしても軽トラ以外の乗用車には無理がありそうな道だ。時々押し歩きをしたりもして、村道に再度合流したときはそれはもう安堵しました。
村道からさらに国道に入ったところで、時間はもう夕方。天気予報アプリで確認した日没の時間にはまだ早いものの、椎葉村は完全な山の中なので日が落ちるのがとても早いです。日光に照らされていないと体感温度が如実に下がってしまうので、そうなる前に宿に到着したい。
そんなこんなで、16時過ぎにようやく目的地である椎葉村に到着!!
今日はどれだけ上ったのか正直分からないくらいだけど、平均斜度が尋常じゃないので数字以上の疲労を感じました。これほど一日を長いと感じたことはあまりなかった上に、日没が早い秋のライドということもあってちょっと焦り気味だった感は否めない。
でも椎葉村の散策時間を残して宿にチェックインすることができたし、大幅な遅れがなかったのは本当に良かった。終わりよければ全て良しです。
鶴富屋敷での一夜
本日は椎葉村を代表する歴史スポットである、鶴富屋敷に一泊しました。宿泊記録は別記事にまとめています。
やっぱり歴史ある場所を訪問するのなら、同じくらいに古くから営業している宿に泊まりたくなるのが自然な流れです。鶴富屋敷もまた一度は泊まってみたかった宿だったので、空きがあったのは何か運命的なものを感じてしまう。
最終日として、Part 2へ続きます。
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