小野川温泉 扇屋旅館 温泉街最古の旅館に泊まってきた

今回は山形県米沢市の小野川温泉 扇屋旅館に泊まってきました。

小野川温泉は米沢市街地から少し離れた場所にあって喧騒を離れて静寂さを味わえると同時に都会からのアクセスもよく、米沢駅までは新幹線・駅から温泉までは路線バスが通っています。今回はより一層静けさを満喫する目的で雪の時期、しかも日曜日に宿泊することを決めました。

扇屋旅館は小野川温泉において最も古い歴史があり、記録によれば江戸時代よりも前から営業されているそうです。現時点で創業500年以上となりますが建物は明治時代の大火で一度燃えてしまい、今回泊まった宿泊棟をはじめとしてその後の時代にかけて再建・増築・改装されてきました。自分は宿泊する旅館を選ぶ際に「最古の」とか「歴史ある」という言葉に弱いので、小野川温泉に泊まるのであればここかなと前々から計画してました。今回願いが叶って何よりです。

もくじ

外観

まずは外観から。

路線バスが発着するバス停を降りて南側に1分ほど歩いたところに扇屋旅館はあります。小野川温泉のメインストリート沿いにあるので非常に分かりやすく、外観的に遠目からでもすぐ視認できます。

正面外観
建物の右側には観音様がビルトイン

それがこちら。

特に目を引くのが重厚感のある真っ黒な見た目で、木造建築という言葉から想像する色とはかなり異なっていたので新鮮でした。あとは正面向かって右側に観音様の収まるスペースがあったり、一部に塗られている朱色が良いアクセントになっていたりと面白い部分が各所に見られます。なお建物としては棟が奥へ奥へと連続している造りになっており、正面からでは建物の全容が把握できません。

玄関棟の2階部分は昔は自炊客が泊まる客室として使用されていましたが、交通が発達して表通りを車が通行するようになってからは騒音のため客室をすべて現在の位置(奥の方)へ移した経緯があります。従って今、見えている2階部分には泊まることができません。

旅館の中には創業当時と同じく玄関の上の部屋、言い換えれば表通りに面する客室に泊まれるところもあるけど、旅館自体の古さは変わっていなくても旅館周辺の環境は当時と今とで様変わりしているもの。そういう旅館では確かに物音が気になることが多いので扇屋旅館の方針には賛成です。

館内散策

1階 玄関~階段

それでは館内へ。

表通りから見える建物には玄関、帳場、そして2階への階段があるのみで、客の動線としては受付を済ませて階段上の廊下へ進むというルートに1本化されています。

玄関土間

玄関の様子はこんな感じで、入って左側に帳場、右側に休憩場所が設けられています。

外観とは真逆で玄関周辺の色合いは全体的に落ち着いており、木材本来の色と石で構成される暖色系の淡い雰囲気。一見して温かいウェルカムな感じが伝わってきて、寒いなか宿に到着したときの安心感が増幅されていました。あと雪国だけあって玄関土間が左右に広く、複数人が靴を脱いだり履いたりするのに支障はありません。土間に敷かれているタイルの模様も見事なものでした。

ここで女将さんが奥から出てこられ、手続きをして早速客室へ。

階段上りはじめの天井部分がやや傾斜している点に、通行する人が頭を打たないようにと旅館側の気遣いが感じられる。なお階段そのものは特に急というわけでもなく、上り下りがしやすいと思います。

階段を上がって左側にかつての自炊用客室が何部屋かありますが、先の話の通り封鎖されており通れなくなっています。

廊下からの眺め

階段を上がった先の廊下を直進すると客室へと到達し、途中の分かれ道を右に進むと温泉へ繋がっています。敷地面積こそ広いものの内部構造は分かりやすく、途中で迷う心配もありません。

廊下を少し進むと左側に休憩兼団らんスペースがあります。休憩スペースの一角には温泉むすめの小野川小町ちゃんもいました。近年では温泉むすめ目的で温泉地を訪問する人も多いみたいです。向かって奥に展示されている新聞に「神降臨か!?」と書かれていたのが面白い。

廊下奥へ
廊下の三叉路
三叉路が広い空間になっている
進行方向正面が食事会場となっている
廊下から温泉方面を見る
廊下から表通り方面を見る

そのまま廊下を直進すると三叉路があります。向かって正面が食事会場、右側に進めば温泉へ、左奥へ進めば客室棟へと向かうことができます。

個人的に意外な構造だったのがこの一角で、一般的な廊下に分岐を設けるのなら廊下と廊下を単純に繋げるのに対して、こちらでは繋げた部分を広く取って見通しを良くしています(角部に面取りするような構造)。この開けた空間の広がり具合がちょっとお気に入りになって、客室から温泉に向かうとき、温泉から返ってくるとき、玄関に向かうとき等にしばし佇んだりしてました。

温泉方面へ

扇屋旅館は小野川温泉の中でも古くから有名な方々が泊まられているようで、歴代の上杉家当主や作家の浜田広介、司馬遼太郎、藤沢周平、学者の我妻栄、伊東忠太や高松宮様といった多数の著名人の宿泊記録が残っています。廊下の途中には高松宮様が宿泊された当時の様子が写真として飾られていました。

蔵のような造り
廊下の明暗
客室棟が見える

廊下を右に曲がって食事会場の前を通り過ぎ、左、右の順でさらに廊下を曲がると温泉に到着します。廊下の途中のちょっとしたスペースにはアンティークなミシンや火鉢が展示されていたほか、近くの窓からは客室棟を眺めることができました。こうしてみると今の客室棟が後から増設されたというのが分かりやすいと思います。

ここの廊下に限らず扇屋旅館の館内には小物類が置かれていたりストーブが設置されていたりと、モノは少ないんだけど決して殺風景ではない、むしろ滞在中は心がほっこりするような感覚になることが多く、寒い冬の時期の宿泊でも気分はよかったです。

温泉がある棟の様子。

まず正面に男女別のトイレがあり、その左側に2階への階段がありました。こちらの棟も昔は2階が宿泊用途に使用されていたようですが、階段の上部が板で塞がれています。従って玄関棟2階や温泉棟2階、それから食事会場2階の部屋にはアクセスできません。

こういう処置をしているのって他の宿でも見かけるけど、近年では(温泉)旅館に泊まる人が昔よりはだいぶ減ってきています。なので経営を維持するために部屋数を絞り、絞った客室の設備を充実させることで現代に対応しているところがほとんどです。

温泉前の廊下

奥へ進むと手前側に男湯、奥側に女湯があります。パッと見だと温泉の入口だと分からないくらいで、最初は別の部屋の入口か何かだと思ってました。

客室棟

先程の三叉路に戻ってきて客室方面へ進むとさっき見えた客室棟への廊下があります。客室棟の入口にはシャンプーやボディソープ類の温泉セットが置かれており、温泉へ向かう際にはこちらを利用してもいい形となります。

客室棟は1階・2階ともに廊下の左右に部屋があるタイプで、改装が繰り返されているため新し目の造りとなっていました。

岩盤浴の部屋

泊まった部屋

今回泊まったのは客室棟1階奥に位置する「うぐいす」の部屋で広さは8畳+広縁。設備はエアコン、テレビ、ポット、空気清浄機、金庫、内線、洗面所、冷蔵庫と盛りだくさんで、一夜を過ごす上で憂いはありません。あと天井は船底天井で、古い部分も残っており風情があります。

うぐいすの部屋は比較的古さが残っているのに対して、他の客室は今年に入ってさらに近代風に改装されているところもあるようです。布団ではなくベッドだったり室内に温泉が付いていたりと充実しており、扇屋旅館は客室に特に力を入れているということが分かりました。

ちなみに今回の宿泊は数ヶ月前に電話予約したのですが、客室棟の改装工事の進捗によっては宿泊できない可能性もありました。当日は何事もなく無事に泊まることができて嬉しいです。

泊まった部屋
アメニティ類

個人的には客室内に広縁があるのが嬉しく、広縁があるのとないのとでは滞在中の満足度が結構変わります。広縁に座って別段何をするわけでもないけど、和室の中でくつろぐ時に「椅子に座る」ことができるのはありがたい。広縁が人気になる理由がとても良く理解できます。

温泉

部屋に到着して荷物を置いたところで、寒いので早速温泉へ。

  1. 源泉名:協組4号源泉
  2. 泉質:含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉(低張性中性高温泉)
  3. pH:6.8
  4. 泉温:78.8℃
  5. 知覚的試験:無色透明、弱い硫化水素臭と塩味があり中性
  6. 一般的適応症:筋肉や関節の慢性的痛み、こわばり、胃腸機能の低下、糖尿病など
  7. 泉質別適応症:きりきず、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症など

もちろん源泉100%のかけ流しで、加水・加温も一切なし。温泉の効能を心ゆくまで堪能することができ、温度も高めなのでこれからの寒い時期に最適です。古来から湯治場として栄えた小野川温泉は伊達政宗公も利用したとされ、武士たちもここで戦の傷を癒やしたとか。

浴室の様子

自分にとっては温度がかなり高めに感じられたものの、浴室全体に外気が流れ込んでくるので半身浴だとちょうどいい感じで長く入れました。舐めると確かに少ししょっぱく、塩分が身体のいたるところから浸透しているような感じ。

じっくり肩まで浸かる→半身浴→じっくり(ryを繰り返していると、身体の中の不純物がすべて出ていくような感覚になってとても気持ちがいいです。冬なので身体が冷えるのが早くて何度も温泉に行けるのも良いポイントです。

夕食~翌朝

温泉に入ってまったりしているといつの間にか夕食の時間。

夕食及び朝食は客室棟を出たところにある食事会場でいただくことになり、今回は18:30スタートでした。料理は女将さんが一品一品の説明をしてくれる点もよかったです。

夕食の内容をざっと挙げてみると以下の通り:

温泉卵でいただくA5ランク米沢牛のすき焼き、米沢牛のしぐれ煮、あさつき(ネギっぽい野菜)、おみ漬、女将さん自家製の酢味噌と鯉の洗い、鯉せんべい、玉こんにゃく、茶碗蒸し(えび)、鯉の旨煮、蕎麦がき・豆もやし・冷汁、米沢名物のりんご、山形名物の芋煮、ご飯(つや姫)。

夕食の内容

夕食の品は米沢、そして山形県を代表する食材である米沢牛や郷土料理の芋煮・鯉料理が中心の素晴らしい料理ばかり。何を食べても満足できるとはまさにこのことでとても素敵な時間になりました。夕食はたぶんボリュームあるだろうなと予想してたので昼を少なめにしておいたけど、それでも満腹になるほど量が多くて嬉しい限り。

なお電話予約の特典として受付の際に日本酒一合を選択できたので、最後の最後にすき焼きと一緒にいただきました。全国的にも有名な米沢牛のすき焼きと日本酒の組み合わせ、温泉後の空腹感、そして冬というシチュエーション…。日本酒がうまくなる条件がこれ以上ないくらいに揃っている。その土地ならではの料理とともに地酒を飲めるのは最高でした。

夕食後は再度温泉に入りに行き、早い時間に就寝。畳に布団の組み合わせがやはり自分には似合っている。これからも選べるのであれば自分はベッドよりも布団を選ぶと思います。

次の日は早い時間に目が覚め、眠気をとるために最初に温泉に行きました。夜中から雪が降り始めたようで早朝の気温は昨日に比べて低く、小野川温泉の温度の高さがなおさら心地良いものになってくれた。


バスの時間の関係で朝食の時間は7:00からにしてもらい、昨日あれだけ食べたのにもう空腹感を感じながら食事会場へ。

朝食の内容

朝食の内容はこんな感じで温泉卵や鮭などの定番の品に加えて炊き込みご飯がありました。一般的な食事では白米なので新鮮さを感じたのと、あと印象的だったのは米沢の保存食であるみその味噌汁です。これは箸で溶いてから食べるもので、雪国ならではの工夫を感じることができました。

翌朝

最後は静かに雪が降り続けるなか旅館を後にし、路線バスで米沢駅へ向かって今回の旅は終了。雪にはじまって雪に終わった行程となりましたが、そのぶん温泉の気持ちよさや雪国らしさを普段以上に味わえたような気がします。

おわりに

小野川温泉 扇屋旅館は温泉街で最も古い歴史をもち、古来から続く温泉と現代に適応した設備を兼ね備えた宿。

黒光りする廊下や建具などはそのまま保存されている一方で水回りは現代風にリノベーションされており、どこをみても清潔感があって不便さは感じません。もちろん手作りの食事も心から美味しくいただけたし、振り返ってみれば投宿から出発までがものすごく早く感じられるほど居心地がいいところでした。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

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