【島原半島口之津~天草下島~大江教会~﨑津集落】ロードバイクで島原天草のキリシタン集落を巡ってきた Part 1/2

今回はロードバイクで熊本県の天草下島を中心に走ってきました。

天草諸島自体は前回訪れたことがあり、当時は雲仙を経由して島原半島から天草下島へ上陸、その後は天草上島へ移動して天草諸島の北端である大矢野島から宇土半島へ入って熊本県本土へ移動というルートをとりました。天草下島及び上島は宇土半島とのみ陸続きであるため、フェリーに乗る回数を1回に絞って時間を気にせず走れるルートにしたわけですね。

一方で本土から天草諸島へ船で渡れるルートは島原半島以外にもう一つあって、それが下島の牛深と鹿児島県の長島本島を結ぶ航路。すなわち前回のライドでは下島の西側沿岸部をスルーしてしまっていたので、今回はそこの風景を見に行こうという形です。

もくじ

島原半島への一夜

あれこれ考えた結果、以下のような行程をとりました。

  • 1日目:島原半島の口之津で前泊
  • 2日目:朝一番の便で天草下島に渡り、島の西側を走って最終的に出水でゴール

2日目はフェリーに計2回乗ることになり、フェリーの時間を十分に考慮する必要があります。船は電車と違って本数が限られているため一本逃すと長時間待たざるをえなくなりますが、結論から言うと問題なくフェリーの時間には間に合い、日没までに全ての行程を終えることができました。終わり良ければ全て良し。

初日の流れは至ってシンプルで、熊本駅から熊本新港まで自走してフェリーで島原半島に向かいます。島原港に到着したら国道251号を南下して口之津で一泊するだけ。

熊本新港~島原港の航路は今までに何度か利用しているのでスムーズでした。

というわけで35kmほど走って口之津に到着。

ライド中の天気はというと終始曇りでたまに雨がパラつく感じで、観光という気分でもないのでほぼ直行しました。逆にいうとこの曇天があったからこそ翌日のド快晴の感動がより大きくなったわけで、落差が大きいぶん喜びも増すというもの。

口之津港の建物の中には、明日向かうことになる「天草の崎津集落」の案内がありました。ますます明日のライドが楽しみになってきたなこれ。

チェックイン時間になったので、この日の宿である「民宿 まつお」さんに向かいました。こちらは宿泊施設というよりは民家のような造りをしており、部屋の様子も食事の内容も落ちついて楽しめるものでした。

旅先で泊まることになる宿には色んな種類があるものの、自分としてはやはり畳の上に布団で寝るのが一番好きです。その上で素朴な料理をいただけるのならこれ以上の喜びはないし、こういう場合には豪華さはむしろ不要。早めに布団に入って明日に備えました。

天草下島の海沿いを巡る

翌朝。今日はまず島鉄フェリーに乗って口之津港から天草下島の鬼池港に渡り、予定していた通りに島の西側を走っていきます。

その過程で魅力的な集落をいくつか巡っていき、最終的にはまたフェリーで鹿児島県に渡るという流れ。鹿児島県に渡る方のフェリーについては当然ながら本数が限られているものの、時間をあまり気にしすぎるとライド自体の集中力が切れるので普通に走っていくことにします。

口之津の朝
最高すぎる朝だ

この「始発のフェリーに乗って島に向かう」という行為が個人的にとても好きで、その理由が上の写真に表れていました。

朝日に照らされる島原半島と口之津港、朝早い時間なのでまだ閑散としている町並み、そして暖機運転をして出発準備をしている巨大なフェリー。これから本格的に旅をはじめていく自分と、その土地の一日のはじまりのタイミングがちょうど合致している。しかもその移動手段は車や電車ではなく、船という限られた場所でしか乗れないもの。また自分が知らない土地で快晴の日の出を迎えられるという体験がとても素晴らしいと感じました。今日も良い一日になりそうだ。

朝日の美しさに感動した後、受付を済ませて船内へ。予想していたとおりにロードバイク同伴で乗る人は自分だけでしたが、車についてはそこそこ多かったです。

甲板で出発を待ちながら思ったこととしては、ここ口之津は島原半島の南端に位置しているということ。地図を見れば明らかなんだけど本当に端っこなんです。調べたら2008年までは島原港から口之津まで電車が通っていたものの、今では廃線になってしまっているので半島を自由に行き来するには車の存在が欠かせません。

そんな中で、船によって海上を移動することで全く別の土地へ比較的短時間で行くことができる。つまり天草や島原半島の人にとって船はなくてはならない存在であり、内陸部に住んでいて日常的に船を利用していない自分が今このフェリーに乗っているという事実に新鮮さを感じました。

出港
なんばん大橋と口之津歴史民俗資料館
あまりにも天気が良すぎる
航海中はなんとイルカに会えました
前回訪問時もここで写真を撮った

しばらく船に揺られて鬼池港に到着。航海中は沖合でイルカに出会うこともでき、今日という快晴日を引き当てたと同時に運の良さを実感してました。折り返しの船にはこれまた多数の車が乗船していき、先ほど考えたとおりにこの航路の需要はとても高いようです。

で、ここからが今回のライドの始まり。2回あるフェリー乗船のうち最初を始発便に乗ることで、後の行程を格段に楽にする意図があります。めちゃくちゃ頑張れば前泊をせずにできたかもしれないけど、時間に余裕を持てるほうがよほど大事だ。

ルートについては主に走りやすい国道389号を通って天草市鬼池から苓北町へ至り、そのまま南下して﨑津教会や牛深を目指します。なので今回は内陸部は走っていません。

夜中に雨が降ったので路面が濡れている
苓北町立苓北中学校近く

鬼池港を出発して苓北町の中心部に至るまでは集落がずっと続いており、何もない区間は少ないです。道の駅や大きな病院があったり、田園風景も多く見られました。

これが苓北町を過ぎて「天草西海岸サンセットライン」に入ると景色が一変し、苓北発電所の巨大な建物やたまに小さな集落に出会う以外は基本的に道しかない状況。人々の生活の場がここまで明確に切り替わっているところをみると、町の中心部に近いことがどれほど重要かが理解できる。

地形についても平坦な道から多少のアップダウンがある起伏に富んだ道へと代わり、道の下に押し寄せる波もこころなしか強くなっているように見えます。同じような景色が続くと若干飽きてくる自分としてはこの差異がとても嬉しく、走行距離が増えるたびに風景が変わっていくのでもっともっと先へと進みたくなってくる。

よく考えてみると本土の沿岸部でも場所によっては地形が全く異なっているのだから、波や風の影響をより受けやすい島なら多種多様な地形が存在して然るべき。島の外周部を走るという行為自体は出発時から同じだけど、地形や道の様相も違えば受ける印象も全く違う。「短距離で多くの変化を感じられる」という意味で島ライドはとても好きですね。

海面からの高低差が今までの景色とはまるで異なる

しばらく国道を走った後は脇道へと逸れ、ほぼ地元の人しか通らないような山道を走って海沿いへ。国道389号は白鶴浜海水浴場あたりからやや内陸部へと入っていくので、引き続き海沿いの景色を見たい場合には自分と同じルートを取る必要があります。

で、この西平椿公園~カトリック大江教会~崎津集落(河浦町崎津)までの区間は、国道ではなく交通量が少ない道を走ってみて正解でした。海が一望できる道であることに加えて小さな集落に出会うことが多く、まさにロードバイクで走っていて楽しい道。国道は比較的近代になってから整備された道なので、昔から続く集落や田園風景を楽しみたい場合は県道や町道に入るほうがおすすめです。

最初に訪れた雲仙天草国立公園内・天草西海岸の西平椿公園は高低差のあるダイナミックな展望もさることながら、公園内にある巨大なアコウの木がまた凄かった。

ラピュタのシーンを思わせる風景

それがこちら。大きな岩盤の上に同じくらい大きなアコウの樹木が生えているのが見えます。

岩盤の上なのにここまで大きく育つくらいの栄養をどうやって得たのか?という疑問もあるけど、その圧倒的なスケール感に驚かされました。別名「天草のラピュタ」と呼ばれている理由がすぐに理解できる。岩を抱くようにして自生する姿が、作中の飛行石そっくりなんです。

日本を旅していると植物が持つ生命力の高さにびっくりすることが多く、例えば神社や仏閣の境内には人間何人分もあるような杉の木が生えていたりもします。人間の営みとは別の時間軸で長い時間をかけて育ってきた姿を眺めていると、細かい悩みが全部吹っ飛んでいくような感覚になる。ここは本当に来てよかったです。

天草のキリシタン集落を巡る

公園を後にして山道を走り、続いて訪問したのは大江地区にあるカトリック大江教会

以前五島列島をロードバイクで走ったときの背景と同様に、ここ天草諸島においても江戸時代には多くの隠れキリシタンが存在していました。キリスト教が禁止されている日本の中で、長崎と天草地方において日本の伝統的宗教や一般社会と共生しながら信仰を続けてきた民たちの遺産が各地に残っています。それらは「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として、世界遺産にも登録されています。

江戸時代のキリシタンにとっての冬の時代が終わりを迎え、キリスト教が解禁(明治6年、1873年)された後に天草でもっとも早く造られた教会がこのカトリック大江教会です。現在の建物はフランス人の宣教師であるガルニエ神父が地元信者と協力し、昭和8年(1933年)に建立しました。

五島列島ライドで各地の教会を巡っていく中で、仏教や神道とはまた異なる「祈り」の要素に感動した自分としては天草地方も訪れたいと常々思っていました。今回その願いが叶って嬉しいです。

カトリック大江教会

カトリック大江教会の特に素晴らしいところはロケーションと外観。

集落を一望できる小高い丘の上にあり、綺麗に整備された花壇の向こうには白亜の教会が厳かに建っている。今日の天気が快晴ということもあってその存在感は際立っており、中に入る前から美しさに感動してました。

教会前から大江集落を眺める
右端に入口がある

入口から中に入ると想像以上に広く、特に天井がとても高いです。

日本特有の和風建築とは明らかに異なる点が多くて異国情緒を味わえました。思えば普段の生活で教会に入る機会はまずないし、ロマネスク様式の建物もステンドグラスから差し込む陽光も、ずらっと並べられた長椅子もすべてが新鮮に感じられる。自分以外に誰もいない中、静かに祈りを捧げることができました。

教会内に限らず、周辺は地元の方によって整えられていて年月を感じさせません。長く愛されてきた場所であることが伺えます。

せっかくなので、教会前でおばちゃんが売っていたお餅を買ってみました。

これは「こっぱ餅」という天草地方に伝わる伝統的な餅で、さつまいもと餅米から作られていて独特の色味を持っているのが特徴。食べてみると一般的な餅と同じくらいにもっちりとした食感にさつまいもの甘味が加わってとても美味しい。常温でも日持ちするらしいのでロードバイクのお供にちょうどいいかもしれない。

カトリック大江教会を後にし、大江漁港や首越峠、軍ヶ浦漁港を通るサンセットラインを走って羊角湾方面へ。国道が開通するまではこの海沿いを通る細い道しか存在しなかったと思われ、昔の人と同じ動線で崎津集落を目指しました。

サンセットラインの様子。穏やかな海が臨める
崎津集落

というわけで隠れキリシタンの里・崎津集落に到着。先ほど訪れたカトリック大江教会はキリスト教禁教解禁後の建築だったのに対して、ここ崎津集落はまさに禁教期真っ只中にキリシタン達が仏教や神道とともにキリスト教の信仰を育んできた集落です。

海に面した漁村集落ならではの信仰継続として、アワビの貝殻内側の模様を聖母マリアに見立てたり、鏡や古銭などの身近な物を信心具として代用していました。解禁後の明治18年ごろには崎津集落の600戸のうち、550戸がキリスト教徒だったという記録もあります。

集落の中に存在するカトリック﨑津教会は後で行くとして、まずは崎津集落ならではの風景を見に行くことにしました。

その特別な風景というのがこちらです。

集落の山側に位置する﨑津諏訪神社の境内から見えるのは神社の鳥居と、その奥にそびえるカトリック崎津教会の尖塔。同じ視界内に教会と神社が同時に見えるという、信仰が融合したような不思議な場所です。両者の距離は割と近く、異なる宗教が古くから共生してきたことが分かりました。

で、動線でとしてはこの神社に参拝して終わりではありません。ここから階段を500段ほどひたすら上っていくと、山の頂上にチャペルの鐘展望公園という公園があります。

公園に到着。軽い気持ちで上り始めたら結構な上りだったので割と疲れました。暑い時期だとここまで来るのに覚悟がいりそうですね。

公園内は円形になっており、西側や南側からは東シナ海と羊角湾をぐるっと見渡せます。また方角的に日没のスポットにもなっているので冬場などはそれ目的で訪れてもいいと思います。

崎津集落を見下ろす

そしてこれが公園東側からの眺め。

眼下には崎津集落と集落中央にそびえる教会、視点を奥へ移せば入江と山々が一望できました。今回のライドはこの風景を見たいがために実行を決めたといっても過言ではありません。天草下島の大自然とそこに暮らす人々の様子、そして脈々と続いてきた信仰心。それらすべての要素が目の前に広がっていて、なおかつ快晴の空の下に自分は居る。

今まで出会ってきた教会は下から見上げることがほとんどだったけど、ここでははるか上から集落を含めて俯瞰的な展望を得られる点が優れています。教会そのものではなく、教会が建っている場所がいったいどんなところなのか。そういう別視点に意識を向けることができる素晴らしいスポットでした。

集落内へ
カトリック崎津教会
対岸の教会公園近くから

集落内にはお土産屋やカフェがあり、ふらっと歩いてみるのにちょうどいい広さ。さらに湾を挟んで反対側から集落を眺めることもでき、地形と集落が一セットでこじんまりとまとまっているのが素敵でした。

海沿いの集落って集落と同じ側の陸地からでしか全体を把握するのが困難ですが、崎津集落では「入江」という要素によって対岸から見渡すことができる。今朝方通ってきた天草下島の北側では見られない入り組んだ地形だったので、島としての下島の大きさをここにきて実感できました。地形の違いって地図をみればよく分かるけど、実際に走ってみるとより理解しやすいですね。海沿いを走っていると海岸線の違いが実によく分かります。

そんなこんなで、ライドの前半部分である隠れキリシタンの史跡を巡る行程はこれで終了。続いては天草下島から鹿児島県に渡って、有名な日帰り温泉を目指していきます。Part 2に続く。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマークやシェアをしていただければ嬉しいです。

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