今回は、ロードバイクで青森県の東側を走ってきました。こいついつも青森県行ってるな。
目的地としては岩手県北部にある金田一温泉に一泊する計画をし、そこまでの道中を楽しんでいくのが骨子になります。最近はどちらかというと先に宿を決めておいて、出発地点からそこまでの行程を充実させていく方にシフトしてきました。今回もまたそういう感じのライドで、予定していた日が無事に晴れてくれたのでロードバイクで訪れています。
で、その「道中」において巡っていこうと考えていたのが、青森県の各地に点在する歴史的建造物。
なんでも五戸~三戸あたりには現代ではなかなか見ることができない珍しい建物が残っているとのことで、それらを訪れるのが主目的です。自分が普段やっているような旅と比べると比較的珍しいチョイスだけど、その分新鮮に感じるはず。
距離的には約60kmくらいで、飛行機の時間や散策に確保する時間、宿のチェックイン時間等を考慮するとちょうどいい行程でした。というわけで早速出発。
いつものようにFDAで青森空港に降り立ち、新青森駅まで走って新幹線が停車する七戸十和田駅まで輪行で移動。
てっきり新青森駅の次の駅が八戸駅だと思っていたのが、その中間地点に別の新幹線駅がありました。わざわざここで降りる人は東北新幹線利用者の中でもレアな部類なのではと思わざるをえない。
メインで走っていくのがここ七戸から二戸までを結んでいる国道4号で、適宜寄り道をしていきます。
十和田の喫茶店「イッシン」のパフェ
七戸から十和田へ南下してきて最初に訪れたのが、ドライブインイッシンという喫茶店。実は十和田へ到着した時点で時間が昼頃になってきたので、ここで軽い食事をとることにしました。
ドライブインイッシンはその名の通りドライブインで、昔ながらの喫茶店という位置づけです。
ドライブインイッシンは国道沿いではなく県道沿いに位置していて、しかも外観が上の写真の通りなのでちょっと発見しづらいかも。
入り口に置かれている張り紙にはコーヒーやハンバーグ、グラタン、ピザといった喫茶店にしては重いメニューがずらり。今回は後述するパフェのみの注文でしたが、普通にランチ目的で訪れるのも全然ありだと思います。
というか、イラストやフォントがどれも可愛らしい。印刷したようなものではなく手書きとなっていて、この喫茶店が唯一無二の存在であることを感じさせます。最近はこういう魅力的な喫茶店もめっきり姿を見なくなってしまっただけに、これには興奮しました。
それでは店内へ。
店内は薄暗い照明に照らされた昭和の喫茶店という雰囲気で、入口正面にカウンター席、左右にそれぞれテーブル席がいくつか設けられています。カウンター席は特にビンテージ感が強く、「ここでならおそらく落ち着いた時間が過ごせるだろうな」と訪問前に思っていた通りの居心地の良さ。オーナー側も店内の静けさを重視されているようで、至るところに「静かに」という文言がありました。
メニューには喫茶店ならではのカフェメニューやランチメニューが並んでおり、そしてお目当ての種類が豊富すぎるパフェのページ。
今回ドライブインイッシンを訪れた理由がこのパフェで、全国的にもそのインパクトありすぎる外観や味が有名です。以前からずっと行きたいと思っており、やっと行く機会に恵まれました。
芸術品と形容されるだけあって手間暇がかかっているのは間違いなく、メニューには「パフェ注意報! パフェはご注文いただいてからフルーツを1つ1つデザインカットし生クレームでデコレーションしますので 1コ当り15分程かかります」と書かれていました。
つまり4人が全員パフェを注文すれば約1時間かかることになり、休日など人が多いケースでは更に時間がかかることになります。しかも今回は平日に訪れたにも関わらず4グループほどがすでに入っていたので、その人気ぶりは言わずもがな。食事メニューもパフェ同様に時間がかかるようなので、時間に余裕を持って訪れましょう。
パフェは大きく分けると背が高いシリーズと背が低いバナナパフェシリーズに分類でき、今回は後者を注文。待つこと15分後、そのパフェがやってきました。
これがその「バナナパフェ バニラ」やぁ…。
いや、上部の生クリームの模様が本当に芸術品レベル。デコレーションは失敗してもリカバリーができないだけに難易度が高く、それを一発で仕上げてしまうご主人はまさに職人です。あまりに美しすぎて、これに手を付けてしまうのがちょっともったいないと感じたくらい。
生クリームの中にはフルーツが順次入っていて、中心部と一番下にカットされたバナナが詰まっている形です。
写真だとうまく分からないけどサイズも大きく、一番上部分のの直径は手のひらよりも少し小さい程度。パフェが有名みたいだし、軽食がてらここで栄養補給していくか…くらいに思っていたのに、このパフェだけで結構お腹が膨れました。しかも生クリームたっぷりで胸焼け必至。だがそれがいい。
五戸の町並みと「レストランささ木」の馬肉
十和田を後にして、続いては五戸へと移動してきました。
このあたりはだいたい10kmごとに次の町が現れてくるので、例えるならなんかRPGやってる気分になれます。町と町とを道が結んでいて、そこを走るだけで全く違う顔をした町に出会うことができる。青森県の反対側に位置する弘前と異なり、こちらは一つあたりの町が比較的小さいのでそう感じました。
五戸に入って最初に訪れたのが、こんな特徴的な消防屯所は初めて見たくらいに驚いた五戸町消防団第1分団屯所です。しかも現役で使われている消防屯所なのだから二重に驚き。
消防屯所は消防団の詰所のことをいい、東北地方には他の地域とは異なり火の見櫓と詰所が一体化したような構造を持つものが見られます。五戸町消防団第一分団屯所はその中でも保存状態が比較的良好で、青森県南を代表する消防屯所とのこと。
大正2年(1913年)の大火で一度焼失していますが、その後の大正11年(1922年)に同じデザインで建て直されました。2003年には青森県指定有形文化財にも指定されています。なんと木造5層建てで頂上の火の見櫓には鐘楼付き、正面には半円形の意匠が施されていたりと実に特徴的な造り。建築には詳しくないけど、他ではまず見たことがないレベルの建物だったので凄すぎる。
今年令和4年に再建されてちょうど100年の節目を迎え、その記念の垂れ幕が正面に掲げられていました。
100年前の建物とは思えないくらいに全体が輝いて見えるのは確かで、見慣れない造形なだけにむしろ新鮮さを感じます。隣りにある神社の鳥居とのセットもまた素敵で、消防=赤色を基調とした屋根色も合わさって青空に映えている。初っ端からこんな物件に出会えて幸先が良い。
で、そうこうしているうちにそろそろしっかりとした昼食を取りたくなってきたので、同じ五戸にあるレストランささ木に向かいました。
こちらのお店は北東北や北海道の新鮮な国産馬肉と青森特産地鶏のシャモロックが食べられるレストランで、青森県で馬肉をお腹いっぱい食べたい!という場合にはまず候補に上がってくる有名店だそうです。もともと青森県の南部地方(今いるとこ)は馬肉の産地として栄えた歴史があり、自然と馬肉料理が普及して食べられるようになったとか。
馬肉の鮮度にはこだわりと定評があり、人気メニューは焼肉の食べ放題。しかし今回はそれほど食べられないため、義経鍋定食を注文してみました。
義経鍋とは義経が平泉に落ち延びる途中、お供の弁慶が鴨を捕らえて兜を鍋の代わりに使ったのが発祥とされている料理のこと。この1セットで馬肉の鍋と焼肉が両方味わえるスタイルということで、五戸に来たら必ずこれを食べろと言われました。
なお「義経鍋定食」がその義経鍋にご飯と汁物がプラスされた定食で、肉を追加したくなったら「義経鍋(焼肉)」を注文すればいいみたいです。
こちらが義経鍋の調理器具です。上部が鍋、下部が円周状に平板が組み合わさった初めて見るような形状をしており、まさに義経鍋専用といっても過言ではない。
馬肉についてはタレも用意されていますが、焼いていくと次第に外周にあるポケットに油が溜まっていくので、焼き上がった馬肉をこの油につけて食べるとより美味しいとのこと(って係のおばちゃんから聞いた)。
準備ができたら、後はもう馬肉パーティの開催よ。
自分でお好みの強さで馬肉を目の前で焼き、それを白米と一緒に口の中で堪能する。これが美味しくないわけがなく、自分でもびっくりするくらいに消費が早かった。
馬肉をこういう形で焼いて食べるのはあまり経験がないものの、思ったよりあっさりしていて量が食べられると感じました。馬肉は低カロリー、低脂肪、低コレステロール、高タンパク質で栄養価が優れている上に、食べても太りにくいことからヘルシーだとは聞いていたが…まさかこんなに食べやすいとは。
完全に焼いてしまわずに、ある程度赤みを残していた方が噛むと肉汁が溢れてきてなおさら美味かった。この組み合わせでビールを飲めたら最高だろうな。これほどロードバイクで来たことを悔やむ日が来るとは。
上に示しているメニューの通り、焼肉食べ放題以外にも定食系が豊富に揃っているので、一定量だけ食べたいという場合にも気軽に訪れることができます。ここは個人的に本当におすすめ。ぜひ行ってみてほしい。
三戸で古い建物巡り
お腹がいっぱいになったところで、次は五戸から南西に向かって三戸に向かいます。
この国道4号は青森県や岩手県を行き来する際の重要な道なので交通量が多く、しかもアップダウンが非常に多い。以前青森から八戸に向かったとき(野辺地~東北町~三沢経由)は平地ばかりだったので楽だったのに対し、ちょっと内陸側に逸れるだけで途端に地形が変化しているようです。
もっとも、さらに西側に行けば十和田湖や酸ヶ湯とかのガチ山岳ゾーンに入るので、五戸や三戸は適度な丘陵部に相当するのかもしれない。
なお五戸には鉄道は通ってませんが、南下して馬淵川に合流すればいわて銀河鉄道線や青い森鉄道線が通っているのでちょっと安心感が出ました。
三戸に到着して、三戸駅前にある村井家住宅主屋を見学。こちらは国の登録有形文化財に指定されています。
村井家住宅主屋は木造2階建てモルタル仕上げで、竣工は大正12年。見ての通り完全な洋風の外観ですが、柱に使用された木材などはアメリカから船で運ばれてきたものです。三角屋根を縦と横方向に重なるように組み合わせた外観に、正面の壁には規律のとれたガラス窓がずらり。全体的に安定感を感じさせるような、飛び出た部分が少ない質実剛健な設計思想を感じます。
先程見た消防屯所といい、大正時代の建築は大正モダニズムを体現したような和洋折衷感が素敵すぎるな。しかも何かの施設というわけでもなく住宅がこれなのだから良さみが深すぎる。おそらくだけど、自分はたぶん大正時代が好きなのかもしれない。
三戸駅前には他にも廃旅館や廃ガソリンスタンドなどが確認できたものの、いずれにも人の気配が全くないです。昔はこの通りも賑わっていたんだろうけど、今は影もなし。
古い建物は今でこそまだ現存しているので見ることができる。でも、将来的には見れなくなってしまうのは間違いないと思います。そういう意味では自分が好きな鄙びた宿と似たようなもの。早めに訪れるくらいしか自分にはできることがない。
三戸駅前から県道258号を南下し、続いては三戸の中心部へと移動しました。
この県道258号、いわゆる鹿角街道沿いには古い建物が多く集まっているため、ただ単純に歩いているだけでも楽しむことが可能です。特に探さなくても通りを歩いて行くだけでOK。
レトロな看板が付いたお店やコンクリート製の建物等、ロードバイクで走っていると二度見してUターンする箇所が非常に多かったです。小井田金物店については、ここが本当にお店なのかと疑問を持ってしまったくらい。
そんなお店の中で、国の登録有形文化財に指定されている佐滝本店(正確には佐瀧本店)が特に素晴らしかったのでご紹介。
佐滝本店は明治19年(1886年)にこの地で主に酒類を扱う雑貨商として創業したお店です。設計及び施工は弘前の堀江組で、側面にアーチ門が付設されています。当初の建物は大正12年(1923年)の大火により焼失してしまったものの、その後鉄筋コンクリート造で現在の店舗を建設しました。その際に追加で敷地周辺をぐるっとコンクリート製の塀を巡らせ、延焼にも備えています。
青森県に現存する最も古い鉄筋コンクリート建築物ということで、その存在感は際立っていました。意匠を前面に押し出した建築というよりは、耐火性や耐震構造を重視した機能面が光る外観をしているのが分かります。
建物の横の方にはその詳細が分かる看板があって、そこに載っている写真と現在の建物がほぼ同じというのがまず感嘆の一言。しかも当時からその商売内容は変わっていません。
明治から大正、昭和、平成、そして令和まで続いているお店。激動の時代を生きてきた場所が目の前にあるということで、我ながら興奮してました。
許可を頂いて、店内の様子も一緒に見学させていただきました。これは…ちょっと素敵すぎない?
壁や天井、柱に至るまですべてが鉄筋コンクリートで造られているため、何が起きてもびくともしない感じがよく分かります。そんな外枠部分の内側に木製の棚やカウンター、棚、机が置かれている様子が本当に良くて、こんな空間で仕事ができたらなと思わざるをえない。ちなみに店内のポスターは戦前から残っているものだそうです。
弘前の堀江組は銀行の建築をしていたこともあって、確かにどことなく銀行のような感じがしますね。なお1階店舗部分は天井の高さが4.5mもあるので狭苦しさが微塵もなく、家具類の適切な配置も相まって実際の面積以上に広さを実感しました。
せっかくなので、休憩も兼ねて三戸の名物である三戸ジョミサイダーを購入してみました。
青森県南部で「ジョミ」と呼ばれているガマズミは小さな赤い実をつける植物のことを言い、分類的にはナンテンやナナカマドと同じです。ジョミはマタギが非常食として疲労回復に利用しているほど栄養価が高く、含有しているポリフェノールの量は赤ワインに匹敵するほど。このサイダーはそんなジョミの実から作られていて、これはぜひとも飲んでみるしかない。
肝心の味の方は…普通のサイダーを想像しているとかなり面食らうと思います。相当に濃い味がするので、まず間違いなく効能が高いことが即理解できるレベルでした。どんなに疲れていたとしてもこれ1本飲むだけで回復できそうだし、これは良いものがあることを知れたな。
ちなみに佐滝本店の奥には佐滝別邸があり、これらに加えて門及び塀、文蔵庫、土蔵の計5つがすべて登録有形文化財に指定されています。
別邸については上の写真の通りで、半分が当時の大正時代に流行していたドイツ建築を元にしたデザインの洋風部分、残り半分が数寄屋造りの和風部分から構成される和洋折衷の建物。本店の再建時の同時期に工事が進められ、一緒に竣工に至っています。
内部には建具や貼床、壁紙、調度品、照明類の一式が現存しており、大正期の生活空間が保存されているという点で貴重そのもの。こういう建物は末永く後世まで残っていってほしい。
金田一温泉へ
三戸ジョミサイダーで喉を潤した後は国道に合流し、軽い峠越えをして二戸の金田一温泉へ到着。今日の宿を目指しました。
国道から金田一温泉へはゲートを抜けて向かう形になるのですが、ゲートをくぐった先に田んぼと畑しか見えなくて温泉はどこ…?って最初なりました。
しかし、裏を返せばそれほど静かで喧騒のない場所に溶け込むようにして温泉街があるということ。実際に自分が訪問してみてその良さを理解できたし、何も建物が密集した賑やかな場所にあるだけが温泉じゃない。そういう意味でも、金田一温泉は自分の好きなところになりました。
金田一温泉 割烹旅館おぼないの宿泊記録は、別記事でまとめています。
そんなこんなで、今回の青森ライドは無事終了。
終わってみれば大正時代に建てられた建物ばかりを巡った形になったけど、ロードバイクで古い建物を回るのは結構楽なんじゃないかと思っています。町の中でストップ&ゴーを繰り返すのは車では停車場所的になかなか難しいし、徒歩ではそもそも移動が大変。ロードバイクだとその辺をうまくカバーしてくれるので、このブログで何度も言っている通り「ロードバイクは散策に向いている」説を推していきたい。
今までの青森旅では温泉やお店、迫力ある景色などを中心に走ってきたのに対して、今回は趣向を変えてこのようなライドを計画してみました。自分でやってみてもかなり楽しかったので、今後もたまには建物メインで散策してみようかなと思います。いつも同じようなライドばかりやっているとつまらないし、何より飽きる。巡る目的地の選択肢はこれからも増やしていきたい限りです。
おしまい。
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