東北ライド2日目が始まる。今日はロードバイクで秋田県と山形県の県境に跨る鳥海山を走ってきました。
鳥海山とは鳥海国定公園に属する標高2,236mの活火山であり、出羽富士の名称で親しまれている郷土富士のことをいいます。その鳥海山の5合目(標高1,150m)には鉾立展望台という展望台があって、そこまでは車やバイクで向かうことが可能です。従って鳥海山を山麓から見上げるだけではなく一層間近で眺められるというわけで、その展望を求めに春の時期にヒルクライムをしてきたという形です。
鳥海山からの湧水がつくりだす風景
ライドの行程は至って単純。秋田県にかほ市街を出発して鳥海ブルーラインを上り、鉾立展望台に着いた後は山形県側へダウンヒルして丸池様を参拝してから国道7号を北上してスタート地点に戻って来るというルートです。鉾立展望台を目指すルート・鳥海ブルーラインは秋田県側と山形県側の2つあって、どうせなら両方走りたいという理由からぐるっと一周する流れにしてみました。
この鳥海ブルーラインは当初有料道路だった道が無料開放された道路であり、秋田県側は県道131号で延長16.8km、山形県側は県道210号で延長18.1km。ヒルクライムとしてはどちらもそこそこな距離だと思います。
地形としては最初は上り、中間が下り、最後はやや平坦とメリハリがある感じになり、区切りをとても理解しやすい行程といえます。展望台周辺は気温が低いためウインドブレーカーのみをフレームバッグに入れ、本日も軽装で走っていく。
県道58号から県道131号へと移り、ここからが鳥海ブルーラインのヒルクライムの始まり。海岸線沿いからわずかに走っただけで道に斜度が出てきました。それもそのはずで鳥海山自体が日本海に面したところに位置しているため、日本海沿いから山頂を目指すルートではいきなり坂道ばかりになるというわけです。
高速道路の象潟ICを通り過ぎて象潟町小滝に至ると視界がひらけ、本日の主役である鳥海山が姿を現す。幅広な山塊に冠雪した頂上とその存在感は抜群で、ここからあそこに人力で少しずつ近づいていくと思うと興奮してくる。道そのものもそうですが、目指す目的地がすでに見えているのは走っていく上で心強い。
鳥海山の頂上付近は山100%の領域なので荒涼とした風景が想像できるのに大して、山麓は逆に水と緑が豊かな風景が楽しめます。これから巡っていく奈曽の白滝と元滝伏流水はまさにそんなスポットで、いずれも鳥海山由来の川や岩盤の隙間から湧き出る湧水によるもの。鳥海山の大自然を訪問するには最適な場所だ。
奈曽の白滝は金峰神社の境内内から行くことができる落差26mの滝。鳥海山から流れ出る奈曽川の途中に形成されています。石段を下ったところに滝の展望台があり、さらに下ると滝壺の近くまで降りることができました。
間近で見るとかなり大きな滝で水流の勢いが強く、割と距離がある岩の上にいても滝からの水しぶきが感じられるほど。あと周囲の岩壁と滝周辺の明暗差の影響もあってインパクトが大きくて、展望台で済ませるよりは滝壺に降りるほうが迫力あるのは間違いないです。
訪問時は地域の方が神社境内の清掃をされており、金峰神社と合わせてこの地に馴染んでいることがなんとなく分かるスポット。これからこの水流のはじまりとなった山に向かう身としては、まず最初にここを訪れたのは正解でした。
奈曽の白滝から県道131号を1kmほど進み、脇道を上流側に向かったところにあるのが元滝伏流水です。こちらは全国的にも有名で、鳥海山を訪れるのならぜひこっちも訪問したいとずっと検討していた場所。願いが叶って何よりだ。
由来としては鳥海山の内部に幾層にも積み重なった溶岩層に雪や雨が溜まり、10~20年の年月をかけて湧き出してきた中の一箇所がここだそうです。川の水って数日前とか前日とかの雪解け水や雨水などがそのまま流れていると思っていたけど、実はめちゃくちゃ古いものなんですね。
道沿いには駐車場とトイレが整備されていて、そこから元滝伏流水までは徒歩で向かうことになります。道自体は整備されている平坦路なのでビンディングシューズでも全く問題なし。
林の上から降り注ぐ陽光を浴びながら上流へ向かい、ふと脇を見れば透明度抜群の川水に苔むした岩。この空間にただ居るだけで精神が浄化されていくのが実感できる。今までにも大自然の中で過ごしていて気分が穏やかになったことは数あれど、ここはその中でもトップクラスかもしれません。呼吸するたびに身体の中の不純物が洗われていくような感覚になる。これは別に比喩ではなく、元滝伏流水を訪ねてきた誰もが実感できることだと思う。
個人的には特に苔むした岩のような年月を感じさせるものが好きで、ここにはそれがたくさんあって見ごたえがありました。
10分ほど歩いて元滝伏流水に到着。
これはなんと言い表せばいいのか、元滝川の本流脇の岩肌からかなりの水流が湧き出しています。その水流が複雑な形状の岩肌によって幾重にも枝分かして幻想的な水の流れを形成している。同じ「水」スポットといってもさっき訪れた奈曽の白滝とは明らかに様相が異なっている上に、元滝伏流水の向かって右側と左側では水量が数倍異なっているようで、そこにも差異が生まれていました。ここはとても…とても素敵な場所だ。
おそらくは滝に分類されると思うけど水が透き通っており、滝周辺は天然のクーラーのような涼しさを感じる。夏だったら清涼効果をもっと得られそうだ。
訪問時の時間帯ではちょうど日陰になってしまっていましたがそのぶん明暗の差が強調されており、黒ずんだ岩肌の色、水流の白色、そして苔や植物などの緑色の組み合わせが眺めていて美しすぎる。ここは自分としてもおすすめの場所なのでぜひ寄ってみてください。
元滝伏流水は有名スポットにしては人が少なく、多いときでも10人くらいしかいませんでした。こんなお出かけ日和な快晴の日に雰囲気を壊さない程度の状況下で訪問できるなんて、本当に運が良い。
鳥海ブルーラインヒルクライム
さて、ここから鉾立展望台までは本格的なヒルクライムをやっていくことになる。
鉾立展望台の標高が1,150mで、今日は海抜0mからスタートしたので標高差はそのまま1,150mとなります。注意点としては鳥海ブルーラインは一般車も普通に通行しているため走行中は車に気をつける必要があるということ。あと展望台まで休憩地点の類は一切ないので、準備が必要なら山麓の時点で済ませておくこと。
補足として鉾立展望台は鳥海山の鳥海山登山口にもなっており、展望台から片道4.5時間程度で山頂まで行けるっぽいです。登山シーズンに入れば交通量は増えそうだけど今回はそこまで気になりませんでした。
道中は淡々と上っていくだけなので特に心配になるところは無し。
最初は森の中を突っ切るように道が走っており、標高1,000mの4合目付近から次第に木々がなくなってきて視界が開けてきます。
そうこうしているうちに道端に残雪が多くなり、ヘアピンカーブが多くなってきたら中間地点。このあたりになると視界内における青空の割合が目に見えて多くなってきて開放感も増してくる。実はヒルクライムって肉体的に疲れるのは最初だけで、行程の半ばを過ぎると絶景度が徐々に上がってくるので大して疲れません。
何回かのヘアピンカーブを曲がったところの展望が良すぎたので、停車しての写真撮影タイムとなりました。周りの木々の背が最初に比べると低くなっていることが一目瞭然かと思います。
鳥海ブルーラインの核心部は4~5合目の間ならどこでもという感じで、日本海の絶景かつ雄大な景色をどこからでも眺められるのが特徴。「ブルー」の名の通りに日本海の青さ、そして空の青さを満喫できるからお得というほかない。
振り返るだけで息を呑むような景色が眼下に広がっている。これを求めて自分は秋田県まで来たんだ…。
手前側の雪の白さと山麓の青々とした木々との対比が実に面白い。スタートした時点の季節は緑が多くて春を実感できたのが、この標高になるとむしろ冬がまだ続いているように感じられる。こうして見てみると、標高差が気候に如実に影響することが理解できますね。
鳥海ブルーラインの良いところは日本海方面(西側)だけに展望が優れているのではなく、にかほ市や酒田市といった陸地と日本海をセットで眺められるという点。これによって自分が今いる地点から徐々に山が低くなっていって海へと至る地形が分かりやすくなり、認識できるダイナミックさが増幅されているというわけです。
標高が高い地点は日本全国にたくさんあるものの、鳥海ブルーラインのように眼下の"全体"が見渡せるポイントは珍しい気がする。今まで上ってきた道のワインディング感も含めて、自分より標高が低い地点の全容が把握できるのは感激すぎる。
先ほど迫力のある水の流れを見てきた、奈曽川の源流がある奈曽渓谷を通り過ぎると核心部は終了。獲得標高1,000mオーバーを上りきって無事に鉾立展望台に到着しました。
奈曽渓谷近くのカーブを含めて道中は路肩がほとんどないため、車やバイクでの停車は非常に困難です。逆にロードバイクだと比較的楽に停車できるので、タイミングを見計らって写真をバンバン撮ってました。
鉾立展望台での休息
鉾立展望台には駐車場が複数あって車の停車には困らないほか、展望台やトイレ、売店、食堂などが一通り揃っているので休憩に便利。展望台の近くには鉾立山荘という宿泊施設もあり、登山基地としても十分過ぎるほどです。
鉾立展望台に到着したところで、早速ながら展望台へGO。
展望台は奈曽渓谷に面した位置にあり、左側を見れば奈曽渓谷の全域が、右側を見れば鳥海山の山頂が一望できました。特に鳥海山の山頂はスタート時に遠方から視認したときとはまるで近さが違う。なんかちょっと頑張れば手に届きそうなくらいに近くにあるように感じられ、ここまで上ってきてよかったと思わせてくれました。もう感無量。
ヒルクライムをして割と疲れたので、食堂(稲倉山荘)で昼食を取ることに決定。注文したのは鳥海山の名前がついた「鳥海ラーメン」で、追加料金を払って大盛りにしてもらいました。
冬が終わって気温が上がったばかりだというのにわざわざ寒いところへ行き、待ってましたと言わんばかりにラーメンを食べて温まる。自分でもよく分からない行動をしていると思いつつ、むしろ普通の人がとらない行動をしているからこそラーメンの美味しさが何倍にも増して感じられるというもの。風に吹かれながらヒルクライムをした本当の理由はここにあったという感じがする。
昼食後は外へ出て周りを散策してみたところ、雪が積もった箇所で雪遊びをしている風景も見られました。季節外れの楽しみ方ができるのも標高が高い場所の利点の一つですね。
山形県酒田市への下り、そして瑠璃色の池へ
標高1,150mの地点でやるべきことは終了したので、駐車場への分岐を戻って今度は山形県側へ下っていきます。
展望台を後にして南へ下っていくと秋田県から山形県へと切り替わり、ここから先は秋田県側と同様にヘアピンカーブが連続する区間になります。
鳥海ブルーライン・山形県側の4合目には太平山荘(昼食も可能)と太平展望台があり、こちらからは酒田市街方面を一望することができました。鉾立展望台から見えるのはあくまで秋田県側の風景のみであって、鳥海山という両県に跨る山からの展望を重視するのなら太平展望台も訪れてみるのがいいと思います。
ただし山形県側の景色を見られるのは太平展望台くらいしかなく、秋田県側のように上っている最中や下っている途中に迫力ある景色を得られるかは少し疑問。こちらは秋田県側のように木々の背が低くなく、道沿いの広範囲に渡って森が続いているために視界はそれほど良くないようです。
県道210号と国道7号が交差する地点までそのまま順当に下っていき、これにてダウンヒルは終了。上りなら上り、下りなら下りという風にメリハリが付いた行程だったので下ることに専念できた気がします。秋田県側と比較すると山形県側は交通量が少なくて下りやすい印象でした。
ただ、このまま国道7号を北上して出発地点に戻るのはなんかもったいない。時間もまだ余っているしどうやらこの近くにも鳥海山を感じられるスポットがあるということで、そちらを経由してから戻ることにします。
訪れたのは国道7号からほど近い丸池様という場所。丸池様は元滝伏流水と同じように鳥海山系湧水群の一つに数えられている鳥海山由来の湧水が湧き出る神秘的なスポットであって、水の透明度が高くてエメラルドグリーンに輝いているというから期待するしかない。
丸池様は丸池神社の境内内にあるためまずはそこまで向かう必要がありますが、その丸池神社の手前に流れているのが牛渡川という川です。この川も鳥海山から流れ出た溶岩に沿って形成されており、そこを流れる水はほとんどが湧水。湧水1箇所あたりの伏流水は量が少なくとも、川岸のあちこちから湧き出すことによって結果的に川となるほどの水量を得ているようです。
で、この牛渡川の透明度が抜群すぎてヤバい。上の写真がまさにその牛渡川の様子を撮ったもので、川の底が完全に見えるほどの透明度を誇っていました。また底に生えている梅花藻(バイカモ)がゆらゆらと揺らめいている様子も美しく、ここまでの清流が存在するとは訪問するまで思っていなかったレベル。6~7月になれば梅花藻は花を咲かせるそうで、時期を選べばさらに幻想的な牛渡川を拝めそうです。
丸池神社の境内にある丸池様の様子はこんな感じ。
池そのものが御神体らしく、池の周辺の様子を確認する限りは自然のままの景観が保たれているようでした。通常であれば池と陸の境目を人工的に補強したりしているところ、ここでは人の手を加えずに成り行きに任せているようです。池の中の朽ちた木なんかもそのままになっているのが分かります。
極めつけはその池の色にあり、こういう色が自然に生まれたとは思えないほどのエメラルドグリーンな色をしているのが特徴。じっと見ているとまるで吸い込まれそうになるくらいに深みのある色だ。周辺の木々がやたら曲がりくねっていたりするのも合わせて、これは確かに神が宿っていそうな雰囲気がある。訪れるだけで何らかのご利益や効能がありそうです。
鳥海山周辺を今回巡ってきた感想としては、水の美しさが際立っていたということ。当初はシンプルにロードバイクでヒルクライムをして高所からの展望を味わうことばかり考えていたのが、終わってみれば展望そのものよりも鳥海山に関連する自然の綺麗さがとても印象に残りました。
これは個人的にも嬉しい出来事で、そこでどういう景色が見れるか・どういう体験ができるのかが訪れる前から予め分かっていては面白くもなんともない。(限度によるけど)予想外の事が起きるからこそ旅は面白いと私は考えています。今回は自分が想定していなかった景色がそこにあり、「あ、ここは良かったな」と自分自身がそう思えている。
事前調査はほどほどにして気になったところにとりあえず行ってみる。現地で新鮮な刺激を受けるかどうか…それが自分が旅に出る理由なんだと改めて思いました。
その後は日本海側へ出て予定通りの道を走り、出発地点に戻って今回のライドは終了。
鳥海山を色んな角度から眺めることになった行程の中では山形県と秋田県を象徴する百名山の存在感、そしてそれに起因する豊かな自然を目の当たりにすることになりました。今度訪れるときは鳥海山への登山をセットにして、山頂2,236mからの眺めを見てみたい気分です。
おしまい。
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