藤井館 明治初期創業 街道沿いに佇む大和五條の木造旅館に泊まってきた

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今回は、奈良県五條市にある藤井館に泊まってきました。

ご主人によれば藤井館の旅館業としての創業は明治初期の頃(国鉄開業よりも前)で、その前は大阪から五條に移られてきてから卸問屋をされていたそうです。


地図上だとよく分かることとして、五條周辺は吉野川や周囲の山々により独特の地形が形成されていることが理解できます。

大阪から奈良、和歌山方面へ向かう道中に位置していて移動途中に立ち寄るのにちょうどよく、いわば行き交う人々の通行路である「街道」が交差する町・五條。特に昔は奈良方面から十津川~熊野本宮や高野山等に参拝する人にとっての重要地点でした。藤井館が佇んでいる表通りもその街道の一つだったりします。

藤井館は今でこそ旅館業をされていますが、どちらかというと宿泊よりは接待のための宴会用途で多く利用されてきたと言います。例えば東京から地方に視察とかで来た役人達を迎えるなどしており、当時は従業員が15人ほどいて、芸者を呼んだりもして賑やかだったらしいです。

今はご主人と女将さん、あとたまに応援の方が来られるといった細々とした状態であるものの、両名の話やすさも相まってとても良い時間が過ごせました。

もくじ

外観

まずは外観から。

藤井館は実際には相当な広さを持つ旅館である一方で、表通りに面した側からでは鉄筋コンクリート3階建ての棟しか見えないので全容がつかめません。玄関を入ってまっすぐな廊下を歩いて行った先の奥まったところに中庭があり、中庭を囲むようにして他の棟があります。

五条駅を降りて西へ向かい、「商栄会通り」という通りを歩いて交差点を南に向かうと建物が見えてきました。

藤井館 本館

細い道の割には3階建てという見上げるような建物、そして白い壁に赤い柱という目立つ外観が特徴的ですが、この建物が本館です。

ただし本館の2階や3階は今では使用されておらず、宿泊者は本館の奥に位置する他の棟に泊まることになります。実際に泊まってみないとわからない部分がとても多いというわけで、とても自分好みな外観をしている。

本館の前に泊まっているのはいずれも旅館の方の車で、車で訪問した場合はすぐ目の前にある駐車場に止める形になっています。

本館を目印にしながら裏側へと回ってみると、本館ではない別の棟が姿を現しました。

藤井館のこの角度からの外観はよっぽど意図しないと目に入らないと思われ、この路地裏もたぶん現地の人しか知らなそうな感じでした。

というわけで、本館1階にある玄関を入って館内へ。

玄関前はすっきりとしており、入口は引き戸になっています。

館内散策

本館1階廊下~中庭前廊下~中庭

玄関を入ってご主人と女将さんにご挨拶をし、ここからが藤井館での滞在の始まり。

後の説明がしやすいので、まずは藤井館の館内図を以下に示します。

藤井館の館内図

見てこれ。ここまで意外感のある構造もなかなか無いと思う。

藤井館は間口に対して奥行きが非常に長い、いわゆるうなぎの寝床のような構造をしています。先程も述べたように玄関を入って正面に進んでいくとまず小さな庭、次いで広々とした中庭があって、中庭を中心に食堂と南館、北館、東館が建っています。

内訳としては以下の通り。

  • 食堂がある棟:1階が食堂兼図書館。2階は現存するがアクセス不可で、館内図にも記載されていないため相当昔から使われていない感じ。
  • 南館:1階・2階ともに客室。
  • 北館:1階が倉庫、2階が客室。
  • 東館:1階が客室、2階が大広間。

自分が泊まった東館の客室は一人とか二人用の広さがあるのに対し、この日の宿泊者を見た感じだと比較的人数が多い場合は南館や北館に割り当てられるようでした。特に北館2階の客室は角度的に中庭を見下ろすことができるので、眺めが良さそうです。

というわけで、まずは玄関から。

外観から見た入口は玄関土間の左側に繋がっており、玄関スペース自体はかなり広くなっています。今の玄関の右側にはもう一箇所の玄関?があるようですが、こちらは使われていないのかな。

玄関左側には五條市の観光案内や歴史等についての本が多数並べられていて、ここで情報収集するだけでも五條の町並みを深く知ることができると思います。また正面に帳場があって、一般的にご主人は普段はこちらにいらっしゃるようでした。

玄関に限った話ではないけど、藤井館にはとにかく蔵書が多いです。

玄関や玄関ロビーに加えて、後述する食堂にはとんでもない冊数の漫画が置いてあったりするので読んでいたらあっという間に時間が過ぎ去ってしまうレベルでした。これらはおそらくご主人の趣味によるものだと思いますが、驚いたのは館内のどこを見ても掃除が行き届いているということ。

館内に置かれているモノの数が多いほど掃除の類も面倒くさくなるものの、清潔に保たれているので居心地はとても良いです。

玄関右側に展示されている鎧兜や高級そうな皿
帳場入口
本館2階以降は、予想ですが倉庫になっているっぽい

宿泊客の動線に沿って右手奥に進んでいくと本館2階への階段があり、たまに女将さんが上に上がっていくのが見えたりしました。館内図を見る限りでは、昔は客室として使われていたようです。

階段の奥には本棚に加えて飲み物や酒類の自動販売機があるので、必要なら外に出なくても購入することができます。古い旅館の館内に自動販売機があるのはあまり見たことがない。

玄関ロビー

そのまま奥に向かうと広い玄関ロビーがあって、特に用事がないときはここに座って本を読むのが吉。

というか、藤井館では共用スペースに椅子が配置されている箇所が多いような気がします。宿によっては全くといっていいほど椅子がなかったりして「ちょっと一休み」ができないこともあるものの、藤井館ではそこかしこで休むことができます。

カメ
庭にもカメ

玄関ロビーの先に廊下は続いており、この一直線感が思いのほか気持ちよかったりします。

廊下の配置や長さは敷地面積や建物の大きさに大きく左右され、特に部屋の数を最大限にしたい宿泊施設の場合では重要になります。そんな中で藤井館の廊下は幅・長さともに十分な余裕があり、幅については二人がすれ違うのに支障がありません。

あと廊下の長さは見通しの良さに直結していて、中庭の前からでも玄関の様子が見えるのは凄いです。ここまでの長さの廊下は珍しい。

廊下入口の右側には小さな庭が設けられており、たくさんのカメ(イシガメ?)が飼育されていたりこじんまりとした祠があったりと藤井館の中でも「動」がある部分です。廊下の水槽で年数が浅いカメ(~数年)を育て、大きくなったら庭に移すみたいです。

風呂場入口
中庭前の広いスペース

さらに奥へ進んでいくと中庭があり、その手前の右側には男女別のトイレや風呂場、そして左側へいくと女性用の風呂場や洗面所がありました。

この空間が自分が藤井館の中で一番好きになったところでもあって、見ての通りとても広い廊下には椅子や机が並べられています。空間の広さは精神的な余裕に繋がる要素でもあるけど、ここまで広いと屋内にいるような閉塞感が全くない。実に贅沢な造りだと思います。

歴史を感じる床の板材、洗面所のタイル、全体的に派手さがない落ち着いた色合い、若干遠くに見える階段や別の廊下など、ここにいるだけでどこか安心できる感じがする。

置かれているのが単なる椅子ではなくソファというのも良くて、ずっと座っていても身体に影響がないくらいの柔らかさがあります。上手く説明できないけどこういう場所が好き…というと分かってもらえると思う。

風呂場についてはこんな感じで、複数人が同時に入ることを想定している宿特有のものでした。

しかも貯めっぱなしではなく循環式でお湯も清潔、白いタイルに石が組み合わさっている構造などにも凝っていると思います。一日を終えて風呂に入っているときに疲れを実感しやすいと考えると、脚を伸ばせるほど広い湯船は本当に助かる。

中庭(東館方面)
中庭(食堂方面)
中庭(北館方面)

で、中庭の様子はこちら。

色んな種類の木々が鬱蒼と折り重なっているような生え具合で、この規模の庭を維持していくのは大変そう。宿泊時期的にも植物の成長が活発になるときだったので、より一層の瑞々しさがあります。

建物の中にいながら豊富な植物を見られるという点では中庭は素晴らしく、仮に天気が雨だったとしてもそれはそれで満足できそう。藤井館では廊下の大半がどこかしらの屋外に面しているので気分が新鮮になれます。

食堂~南館

本館の様子は以上で、続いては南館方面へ。

夕食や朝食についてはいずれも南館手前の食堂でいただく形となり、時間になったらここに集合することになります。

反対側
食堂の様子
食堂の置物(台)

食堂には四人がけのテーブルが全部で6つあって、すべての客室の宿泊者が一堂に介することになったとしても十分な広さがありました。

ただそれよりも真っ先に目が行くのが、部屋の四面のうちの二面を埋めている本棚の迫力ではないでしょうか。

これは実際に見てもらうとよく分かると思うけど量が本当に半端ではなく、少年漫画や少女漫画、歴史系の漫画などのありとあらゆる漫画がここに揃っています。個人的には歴史系の漫画に興味を惹かれ、全然知らない武将の本を読んだりしてました。

そういうわけなので、藤井館に泊まって退屈するような時間は全くないと言えます。暇になったら何かしらの本を読めばいいし、この本の量なら一週間あっても読破するのは難しそう。

南館

食堂の奥には南館があり、この日は家族連れが泊まっているようでした。

2階についてはあまり使われてはいないような雰囲気だったものの、それでも稼働状態にはあるようです。

北館~東館

続いては北館へ。

北館2階の客室フロアはほぼ客室が占めているので、廊下はほとんどありません。

北館1階
北館2階への階段からの景色。左奥が東館。

今でこそ中庭の東西南北に棟が建っていますが、昔はどの順番で建てられたのかが気になるところです。

こういうのは現在の部屋数だと不足するから増築するわけで、大広間が残っていることを考えると東館が最初なんだろうか。


最後は東館です。

東館は棟の入口に2階への階段があって、1階の客室に入るには階段奥の廊下を進んでいく形になります。つまり中庭に面しているのはあくまで客室であって、廊下ではありません。

1階の客室は手前から亀の間、松の間、竹の間、鶴の間という順番で並んでおり、今回泊まったのは竹の間です。

東館入口。左側が亀の間。
東館1階廊下

1階の廊下はこれまた一直線で気持ちがいい構造です。廊下に面するようにして客室が3部屋並んでいて、その廊下を突き当たりまで歩いて右に折り返すとトイレがありました。

トイレを過ぎると非常口として中庭の端に出られるようになっていて、ここがどうやら中庭の切れ目のようです。ここ以外の部分はすべて棟が連続しているので切れ目がありません。

東館は現在では最も使用頻度が高いのか、廊下の全面には絨毯が敷かれて保護されていました。保護以外にも廊下を人が歩くと結構な物音になるので、それを和らげる目的もありますね。

2階へ
東館2階廊下
大広間

東館2階には大人数を収容できるほどの大広間が配置されていて、昔はここで宴会をやっていたんだろうと思います。近年では使用されていない感じがしました。大広間といってもステージはなく全面が畳敷きで、片方の端が床の間でもう片方にはエアコンが設置されています。

個人的に気になったのは天井の造りで、長辺側天井の板材には照明用の傾斜が付けられていました。さすがに蛍光灯むき出しの大広間はやっつけ感が強まるのか、照明を隠して見栄えをよくするためにこのようなスペースを設けているようです。

泊まった部屋

今回泊まったのは東館1階の3部屋並んだうちの真ん中にある「竹の間」です。

広さは前室3畳+客室6畳に加えてなんと広縁まであり、ここで一夜を過ごすには申し分のない環境。広縁には洗面所まで付いているので、客室の中だけで行動がほぼ完結できる点が素晴らしいです。

広縁側の天井だけ造りが異なっており、少し傾斜している

設備としてはエアコン、テレビ、ポット、内線があり、アメニティとして浴衣、タオル、バスタオル、歯ブラシがあるので何も準備する必要はないです。必要最低限の荷物だけで宿泊しても問題ありません。

客室以外の面だと、個人的には前室(踏込)があるというのが好きになりました。

確かに客室+広縁という組み合わせは旅館においてそんなに珍しくもないですが、前室がある旅館となると体感的にそう多くありません。しかもここでは前室が3畳もあって、前室部分に布団用の押入れがあるので客室がそのぶんシンプルになっています。

前室の採光は廊下側に設けられた窓から、客室の採光は広縁の大きな窓から十分に取り入れることができ、奥まったところにある部屋にも関わらず明るい印象を受けました。

全体的な雰囲気も含めて、なんというか「こういうのがいいんだよ」というのが藤井館の客室。過不足なく、一つ一つの要素が過ごしやすさに繋がっていると思います。

謎の台
広縁からの眺め

本館側から確認した通り、どの棟も中庭に面しているので眺めがとてもいいです。

眺め以外の点としては、客室にいながら外の状況をすぐに確認できるのが好き。特にこの時期だと夕立が降ってきたかと思えばまた晴れたりと天候の変化が激しく、それを部屋の中から眺められるという意味で良さがあります。

気密性の高い近代的な部屋で、かつ窓までワンクッション置かないとアクセスできないような構造だと「屋内」感しか感じることができない。でも藤井館ではその逆で、常に屋外を感じながら過ごすことができる。

お風呂に入ったりして一段落した後は、例の漫画部屋に行って本を読んだりソファでだらだらしたりしてました。特にやることもないし(というか宿に着いてからやることなんて無い)、身体が求めるままに怠惰に過ごすのが合っている。

そうこうしているうちに他の宿泊者が次々とチェックインしてきて、中には家族連れもいたりしたのが驚きでした。

夕食~翌朝

夕方から夜に差し掛かり、気がつけばもう夕食の時間になったので食堂に向かいました。

夕食の内容

夕食の内容はこんな感じで、刺し身や焼き魚、フライ、お吸い物、ごま豆腐、ご飯とかなり種類が豊富です。質・量ともに宿泊代を考えると十分すぎる。どの料理も美味しく、品数があるのでお腹いっぱいになれました。

万人受けしそうな料理で、かつ食欲をそそり、しかも大人数用の準備にも困らない…のが旅館の食事のポイントだと考えると、もうこれ100点じゃないですかね。案の定ご飯については一瞬で空になったし。

最近は宿泊している宿の食事内容にかなり興味が湧くようになってきて、藤井館の場合はフライがあるのが新鮮でした。古い旅館の食事はある意味で共通している部分があるものの、ここにきて比較的現代的な料理を目にしたので余計にそう感じたのかもしれません。

夕食の後は、館内や外を軽く散策した後に就寝。

夕食を済ませたら他の宿泊客はもう部屋に籠もっているようで、特に姿を見ることはありませんでした。逆に言うとそれだけ館内が静まり返っているというわけで、旅館の一日における小休止みたいな時間帯に入っている。

人がいなくなったからといって館内が暗くなるわけではなく、ひっそりと床や天井を照らし続けている照明。うまく言えないけど、寝る前のこの僅かな時間も案外好きです。

で、翌朝。

この日はもう帰路につくだけで、特に早起きする必要はないので自分としては遅めにしてもらいました。

朝食の内容

のそのそと布団から這い出して顔を洗い、食堂へ向かって朝食をいただいているとなんとも言えない気分になってくる。

藤井館はもうすでに数え切れないくらいの宿泊客を迎え入れている歴史の長い旅館で、この朝食の様子も昔からそう変わっていないのだろう。そしてそれはこれからも同様で、やはり建物の中で一夜を過ごしていると目の前の風景に加えて歴史的な部分に考えをよぎらせてしまう。

要は旅館に泊まるたびに自分がその歴史の一部になっているような感覚になって、旅館を去る時間になるとかなりの寂しさを感じます。単なる宿泊施設では抱かないようなしんみりとした感情を抱く宿、藤井館もまたそんな宿でした。

おわりに

藤井館は五條市という各方面への起点となる町にある旅館で、例えばここを出発地や目的地として高野山等への参拝をしてみるのも面白いと思います。

館内はとても広い割には清潔感があり、料理もボリュームあるし美味しいしで満足できる宿。というか色んな要素が広かったり大きかったりで余裕のある設計になっているので、宿泊の最中には開放感すら感じるほどでした。女将さんやご主人は朗らかで話しやすくて、フレンドリーな対応だったのも嬉しかったです。

おしまい。


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