- Part 1:頭ヶ島~青砂ヶ浦~矢堅目~蛤浜
- Part 2:堂崎天主堂~半泊教会~高浜~大瀬崎灯台
- Part 3:荒川温泉~久賀島 旧五輪教会堂
荒川温泉での宿泊から一夜明け、今日の主な予定は久賀島へ行くこと。それ以外は特に予定はなく、五島列島滞在最終日をのんびりと過ごすことにした。
朝食をいただいて栄養補給もばっちりで、女将さんにお礼を言って竹乃屋旅館を後にする。
久賀島へ
荒川温泉からは福江島の真ん中を突っ切る形で県道27号を東に向かい、ほぼ最短経路で福江港へ。
福江港は福江島における交通の要所になっていることもあって、周辺にはお店がたくさんあります。これから向かうことになる久賀島には逆にお店の類が一切ないので、ここで本日の昼食を調達しておきました。
ここでちょっと久賀島の話をすると、今回私が久賀島に行く理由は世界遺産にも登録されている旧五輪教会堂を訪問すること。旧五輪教会堂は世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産「久賀島の集落」に建つ教会で、おそらく久賀島を訪れる観光客は99%がこの教会を目当てにしていると思います。
ただ問題となるのがそのアクセスのしにくさで、昨日乗った博多からの夜行フェリー「太古」や、ジェットフォイル等は久賀島に寄ることがありません。唯一行くことができるのがこの福江港からの船のみで、その本数も非常に限られたものになっています。
このシチュエーションは久賀島のみでなく、比較的大きい福江島や中通島以外の島々は往復してるだけで一日を費やす形になります。なのでもしそういった島々に行こうと考えている場合は、船のダイヤをしっかり確認しておくことをおすすめします。
今回の場合は行程最終日で、他に行きたいところにはすでに行っていて時間に余裕があったため組込みました。
福江~久賀航路で使用されている船は「フェリーひさか」と「シーガル」の2隻で、今回の訪問時はフェリーひさかがドックに入っていたためシーガル一択でした。
ドックの影響でシーガルのダイヤも変更されており、久賀島に渡った後に福江島に戻る便は約5時間後。相当暇なように思えますが、結果を言うとロードバイクで旧五輪教会堂まで向かったこともあってとても充実したものになりました。
一般的なダイヤの場合はこの間(久賀島での滞在時間)が約3時間で、久賀島でレンタカーを借りて旧五輪教会堂に向かい、見学を済ませて戻ってくるといい感じの時間になります。
シーガルは一見するとロードバイクを載せられないように見えますが、問題なく載せられます(事前調査済み)。
船内の様子は真ん中の階段を取り囲むように席が配置されている独特なもので、外の景色が視認しやすかったのがよかった。
旧五輪教会堂を目指す
福江港から約20分で久賀島の田ノ浦港に到着。船の速度が早いこともあってあっという間でした。
田ノ浦港の周辺には待合室が一つあるくらいで、他には何もない。
でもこの日の田ノ浦港はどこか賑やかな雰囲気があって、なぜかというと久賀島の学校である五島市立久賀小中学校の生徒たちが出迎えに来ていたからでした。チラ見した感じだと今日から新しい生徒が入学されるようで、その歓迎だったようです。
離島である五島列島中の小さな島で、そこでの生活を垣間見れたような気がして心がほっこりした。
田ノ浦港に降り立ったところで、この後の行程はもう単純。この県道167号の最奥に位置する教会まで行って折り返してくるだけ。フェリーを降りた他の客はすべて車に乗っていってしまった後、自分だけがロードバイクでスタートしました。
この道程が実はなかなかにハードで、教会までの14kmの中で平坦な部分は島の中央付近のごく僅かな区間だけです。他は全部坂道だったので、今日くらいはヒルクライムから開放されるかなとか考えていた希望が無に帰りました。
道中の散策は後回しにして、まずは一直線に教会を目指すことに。
五島列島を走ってきた中では路面状況はかなりよく、パンクが気になるような箇所はありませんでした。
しかし久賀島に限ってはそれが当てはまらず、島の反対側に位置する蕨町から先はずっとこんな感じの山道が続きます。場所的にこの道を通るのはほぼすべてが教会を目指すレンタカーのみということを踏まえても、落石がかなり多い印象でした。もしレンタカーを運転していて、こういうところで対向車が来たら目も当てられない。
今の時期はそんなに暑くないものの、夏になったらこのあたりは一気にしんどい思いをすると思います。
そんなことを考えながら走っていると、教会まで800mの位置にある駐車場に到着。
レンタカーで来た場合はここに車を置いて歩いて向かうようです。ロードバイクの場合はもう少し奥まで行けるっぽいので、そのまま向かいました。
駐車場の数がかなり少ないものの、そもそも久賀島のレンタカー自体が数台しかないのでこれで十分なんだと思います。しかし旧五輪教会堂ってかなり有名なので訪れる人も多い気がするけど、土日とかどうなるんだろう。
聞くところによるとお値段は張るものの海上タクシーや海上ツアーというものもあるらしくて、それを使う人が大部分なのかも知れません。
駐車場から300mほど進むと上の写真の場所について、ここから先は完全に徒歩でしか通れないようです。ここは広場になっていて、車が一台止まってました。
教会で案内の方に聞いた話ではこの車は教会周辺の集落の方のものらしいですが、普段は船で福江島に移動されているので車を使うことはあまり無いそうです。
旧五輪教会堂の散策
外観
広場周辺は高台になっていて、ここから山道で教会がある海沿いまで下るようでした。
しかし旧五輪教会堂って海に面した教会だと聞いていたのに、ここまで山道を走ってこなくてはならないのは大変だ。
かつては建物が建っていたであろう石垣の先を抜け、通路なのか堤防なのか分からない道を進んでいった先には…。
見えた。あれが旧五輪教会堂だ。
ひたすらに山道を走ってきた後に突然の海、そしてその先に見える教会。これまでの道中の過酷さも相まって、今までずっと見てきた五島の海がとても新鮮に映ったのは言うまでもない。無事にたどり着けて本当によかった。
最果ての教会、旧五輪教会堂に到着。
旧五輪教会堂は元々は1881年建立の旧浜脇教会という名前で、1931年の建替えのときに五輪地区に移築されました。今ではすぐ隣に現役の五輪教会が建設されていて、この旧教会が老朽化で解体される寸前にその価値が再確認され、文化財として保存されて今に至ります。
教会として信仰のよりどころになっていたのは建設から約50年間で、現在ではすでに教会としての役割は終えています。見学にあたっては頭ヶ島天主堂と同じく事前予約が必要となっています。
建物としては完全に木造で、五島列島に教会が建設され始めた初期の木造教会建築の代表例として非常に貴重な存在。それに加えて教会にたどり着くまでが大変で、未だに直接車で来ることができない陸の孤島というのが特徴です。
外観は板張りが目立つ感じで、華やかさは控えめで落ち着いた雰囲気になっています。どことなく民家のような造りになっているものの、側面の窓や背面上部の飾り窓は間違いなく教会独特のもの。
今まで見てきた赤レンガ造りの教会とはまるで様相が異なっているにも関わらず、見るものに厳かな印象を与える。あと「海に面している教会」とはまさにその通りで、教会のすぐ横がもう海です。ここには車道とかないのですぐそこが海。なんて素敵な立地なんだ。
また、付近にはたくさんの猫が住んでいるようです。
教会周辺にはなんと民家があり、2世帯4人が生活されているとのこと。彼らは漁が生業なので、そのおこぼれをもらっているのか猫たちはいたって健康らしいです。魚は栄養があるからね。
環境という点に目を向けてみると、この旧五輪教会堂では人工的な音が全くしない。
一般的な教会だったらほとんどの人は車で訪れるわけで、その度に車の音がする。そうでなくても道路を走る車や原付の音など、要は近代的な要素が意図しなくても感じられる。
でも、ここではそういうことはない。
徒歩でしか訪れることができない場所にあって、今の時間は漁に出る船もない。聞こえてくるのは風の音や波の音だけ。そういう意味で、旧五輪教会堂は自然の中に佇む教会だといえる。
内部
ここで係の方が登場して、旧五輪教会堂を案内していただきました。
旧五輪教会堂も他の世界遺産と同じく予約をしないと見学できない教会で、今日は前もって予約しておきました。普段は隣の五輪教会にいらっしゃるようで、見学客がいる場合はその対応をされているみたいです。また、内部の撮影は自由となっています。
まずは外観を一通り確認した後、入り口にやってきました。
今更ですけど教会の入り口は真正面に見えている大きな扉ではなく、その左右にある小さなドアが入り口となっています。扉はたぶん儀式とかの大きな行事のときに開閉するんだと思います。これはここに限った話ではなく、他の教会でも同じでした。
旧五輪教会堂の入り口周辺は屋根が大きくとってあって、例えば雨のときなんかに休んだりするのにも良さそう。
そして、そのまま誘われるように教会の内部へ。
外観と同じく内装も木造…なんですが、今まで見てきた教会の外観や内装がかなりどっしりとしていた分、逆に素朴さを強く感じられる造りになっていると思いました。
かつてたくさん置かれていたと思われる椅子は撤去されており、床に置かれているのは左奥にある懺悔室のみと非常にシンプルになっています。
外からみた限りでは小規模な平屋構造だと思ったものの、内部は三廊式としてリブ・ヴォールト天井を張るなど本格的な空間構成になっています。そのおかげで主に上方向への広がりが大きく、中にいても狭さを感じません。
天井は梁と梁の間の板張りがまるで船底のように見え、話によれば建築する際に船大工が携わったとのこと。また、天井や柱など全体を通して塗装されているところと木材そのままの箇所の対比が美しく、色合いが派手ではないのも合わさって居心地がいい。
窓も多くて採光は十分で、なんというかずっとこの中で佇んでいたいと思わせる造りだ。
木材で曲線や円形を形作っているところが多く、どうやって曲げているのか想像がつかないレベル。
聖なる要素が詰まった静かな雰囲気に浸れるだけでなく、建築的にも楽しめるのが教会のいいところだと思う。
向かって左奥にあった懺悔室。
カトリック的に言えば信徒が司祭を相手に「告解」をする場所で、司祭には絶対的な守秘義務が要求されると聞く。
一般的な懺悔室は完全な個室になっているのに対し、こちらは中央の壁をカーテンで囲った簡素的なもの。なのでいくら一対一とはいっても、教会の外からでも誰が入っているのかが一発で分かってしまいます。
なので、旧五輪教会堂では誰かが懺悔している最中は他の人が中に入らないよう配慮がされていたとのことでした。
心の奥底に秘めている事実をずっと隠し続けて生きるよりも、こういう形で誰かに聞いてもらう方がずっと楽。昔の人の叡智だと感じます。
ここでも他の教会と同じように「祈る」ことをやってみた結果、想像以上に清々しい気分になれた。
何かを願って思うにはちょうどいい広さ。狭くもないし広すぎない中で、窓の外はすぐ海になっている。昔の人も自分と同じように、ここで祈っていたのだろう。
窓から入ってくる光、わずかに影になっている屋内、そして屋内に入ったことで外の音が一段回小さくなって聞こえてくる環境。それらがすべて合わさってこの旧五輪教会堂という空間を作り上げている。
ここまでわざわざロードバイクで走ってくる人もなかなかいないと思う中、自分としては来てよかったと思います。
旧五輪教会堂での散策が終了し、そのまま海沿いから山の中へと帰還。
港に戻るまでの道中では風景に任せて色んなところで寄り道をし、フェリーに乗る前には海を見ながら持ってきた昼食を食べたりもした。この後は特に目的もなくて何をするわけでもなかったけど、最後に立ち寄ったのが旧五輪教会堂だったというのは我ながらいい選択だったと思う。
休日だったらあそこまでの静寂感は味わえなかったと思うし、ほぼ自分だけの時間が過ぎていったのは贅沢な過ごし方というほかない。五島列島を訪れた観光客は時間の関係から福江島を回っただけで帰路につく人がほとんどだと思うけど、当時の生活に思いを馳せるという意味で久賀島、そして旧五輪教会堂を訪れてみてほしいと感じました。
最後は福江島の五島つばき空港まで走って、今回の旅の全行程が終了。
また再度訪れるときのことを考えながら帰りました。
おわりに
なんか五島列島の天気が良さそうということから決めた今回の旅ライド、終わってみれば晴天にも恵まれて大満足のうちに終わることができたのが嬉しい。
いつもやっているような風景や宿泊場所(旅館)という観点から少し外れて、信仰という面を重視した時間の過ごし方をしてみました。五島列島にはいたるところに教会があって、そこにはキリスト教の歴史が確かに刻まれている。普段神社ばかり巡っている中で、見るものすべて、感じたことすべてが新鮮だったのが心に残っています。
海鮮系も間違いなく美味しかったし、食を目当てに再訪するのも全然あり。五島列島はまた折を見て訪れたいですね。
おしまい。
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