【国東半島 杵築~両子寺~文殊仙寺~宇佐】「仁王輪道」ロードバイクで六郷満山の寺社を巡ってきた

今回は、ロードバイクで大分県の国東半島を巡ってきました。

地図で見るとよく分かる通り、国東半島は大分県、いや九州の東側(周防灘)に大きく突き出した半島です。この国東半島には奈良時代から平安時代にかけて六郷満山(ろくごうまんざん)と呼ばれる仏教文化が栄えた歴史があり、現在でもその名残が半島のあちこちに残されています。

具体的には石仏や古寺、神社仏閣が各地に点在していて、要はお寺や神社が好きな人にとっては堪らない場所ということ。さらには信仰の一部として修行を行う行場や峰道といった場所もあって、その神聖さはかなりのもの。観光スポットとは少し毛色が異なる文化が感じられ、心を休めるために訪問する人も多いそうです。

六郷満山とは一体何なのか?を一言で説明するのは難しいものの、奈良・京都の文化に仏教や修験道の精神が混ざり合って生まれた、いわば神仏習合の文化のこと。日本古来の神道と、海の向こうから伝来した仏教の信仰。これはこの国東地方にしかない独自性を持つもので、今回はその一部を巡ってきた形となります。

この日は当初だと飛行機で帰路につくしか予定がなかったのが、なんとか時間を確保して国東半島ライドを強引にねじ込みました。仮に天気悪かったのなら博多でまったりするけど、晴れているのなら外で過ごさない理由がない。

もくじ

杵築の町並み

国東半島はその名の通り半島なので、海沿いに沿ってぐるっと回れば一周することが可能です。

しかし六郷満山の寺社が存在するのは海側ではなく、複数の山が複雑に形成された内陸部。つまり訪問に際してはヒルクライムは避けられないということで、帰りの飛行機の時間を加味して行程を決めました。

スタートは国東半島の東部に位置する杵築にとり、まずは国東半島の中央にある両子山へ。その後は両子寺と文殊仙寺に参拝して宇佐へと下りました。

走っていく中では国東半島のサイクリングルートである「仁王輪道」を通ることもあって、つまり国東半島全体がロードバイクで走るのに向いているということ。地域を上げてこういう取り組みをされているのは良いですね。

国東半島 仁王輪道

杵築駅で輪行解除し、まずはこの日も快晴だったことに感謝する。

今回の九州旅は阿蘇から高千穂の山岳ルートを通過し、延岡から津久見へ移動してからは保戸島で路地裏散策を楽しんだ。最終日の今日は再び内陸日へ戻って坂道メインということで、地形的にメリハリのある行程になったと思います。

別に意図したわけではないものの、結果として自分が途中で飽きないような旅ができたのは率直に嬉しい。おそらく仮にずっと海沿いを走るような数日間だったら、途中で飽きて別のところに行きたくなっていたと思う。

志保屋の坂
酢屋の坂
坂が直線になっていて統一感がある
北台武家屋敷通り(北台武家屋敷跡)

杵築の町を東に進んでいくと、江戸時代において杵築城を中心に発展した城下町の名残が残っています。

この一帯の建物の構成は非常に分かりやすくて、まず中心の谷町通りという通りに商人や町人の町が形成されました。そして谷町通りを挟むようにして、両側に武士の屋敷が直線状に並んでいます。谷町通りはちょうど「谷」の部分で、武士屋敷は「山」の位置関係にありました。

谷と山を結ぶのが志保屋の坂酢屋の坂という坂道で、写真の通り通りを横断するようにこれも一直線に走っています。坂の上からだと通りの景観がよく見え、これは江戸時代から変わっていないというから驚き。

武家屋敷などの歴史的建造物が並んでいる様子は各地になる中で、杵築の場合はそれらが高台の上にあるというのが珍しいのかな。適度な高低差があるので風情が良いです。

杵築城

そのまま武家屋敷通りを抜け、勘定場の坂を下って進むと杵築城(資料館)があります。すぐ側には杵築大橋という長い橋もあって、海沿いの景色と天守という組み合わせが景観として実に良い。

当初はここから更に国道213号を東へ走ってから山側に進路を切る予定だったものの、思った以上に残りの行程が長くなりそうだったので途中で断念しました。ちなみにずっと東に向かうと大分空港があるけど、駅からはとても遠いのでなかなかにアクセスが難しそうです。

両子山へ

というわけで、次は県道34号から県道651号を通って両子山方面へ向かいました。この県道651号は途中で県道55号になって、まっすぐ進むだけで自動的に目的地である両子寺に繋がっています。

山に向かって一直線の道というと斜度が心配になるところだけど、両子山はそんなに高い山ではないので安心できました。約10kmで獲得標高が240mくらいなので、適度な斜度の坂道が緩やかに続く感じ。

基本的には両子川という川のほとりを上流に進んでいく形で、途中の脇にはいくつもの集落があります。

同時に棚田…というか広々とした田園風景が途切れることなく存在しており、半島の内陸部=山ばっかり、という認識を覆すような平和感が漂っている。両子山からは放射線状にいくつもの川が海に向かって流れているので、その川沿いはなだらかな地形=田畑や集落が多いという図式です。

今までは走っていく上で道の様相にばかり着目していたのが、地形に注意を向けてみるとなぜここに道があるのかが自ずと理解できるようになる。全国各地を巡っていく中で、川の近くに人が住み着くようになった理由がよく分かります。

両子寺の入口には仁王像が。

そんな風に走っていって、田園地帯と山が切り替わる境界にある両子寺に到着。

両子寺は六郷満山の中心地として西暦718年(約1300年前)に始まり、同時に標高720m・国東半島最高峰である両子山の登山口の役割を持つお寺です。

両子寺を開基したのは奈良時代に活躍した仁聞という僧なのですが、仁聞はこの国東半島に69,300もの仏を祀り、さらに28箇所もの寺を建立しました。実は六郷満山という概念を創設したのもこの人で、両子寺は六郷満山の全山を総括する役割を担っていたのです。

「仏が約7万人」と言われてもすぐには把握できないほどの多さだし、何かをひらく人・始めた人というのはとてつもない規模のことをやってのける。

かつては山岳修行の聖地として賑わった両子山の境内にはとにかく植物が多く、この時期だと新緑に染まった大森林が本当に美しすぎる。間から差し込む陽光が柔らかくて、このシチュエーションの中に身を置いているだけで精神が浄化されていきそうな勢いです。

森林浴は心身の健康に良いと言われる中で、実際に参拝中は精神的に晴れやかな気分になれました。

境内に入ると線香の香りが漂ってきて、ああ自分いま寺院にいるんだなという実感が匂いで理解できる。

両子寺のご利益は子授けや安産祈願で、実際にこの日もご夫婦の方が参拝されていました。あと参道の入口に鎮座していた仁王像にも効能があり、像の足をさすることで足腰が強くなるそうです。

参道周辺だけではなく境内にもたくさんの木々が植えられているので、この時期だけではなく四季を通じていろんな景色を見ることができそう。自分は自然そのもの単体も好きだけど、寺院や神社のように建築物と自然が一体となったような風景が一番好きですね。

向かって正面には阿弥陀如来をご本尊とする大講堂、右側には不動明王をご本尊とする護摩堂があって、日によらずいつでも参拝することが可能です。

この辺りは特に気持ちが良かった
奥の院へ通じる鳥居

護摩堂のさらに奥へと道は続いており、いわゆる奥の院へと続けて参拝しました。

小川に架けられた鬼橋と呼ばれる一枚岩の橋を渡った先には鳥居がありますが、これこそが六郷満山の神仏習合文化を象徴するの存在だといえます。一般的には鳥居は神社にあるもので、寺院にはありません。

人間の生き方を説く仏教の考えを持ちつつ、自然の中に在る神に五穀豊穣を願う。

異なる宗教が融合するのとは少し異なっていて、両者のそれぞれの思想を尊重しつつ信仰の対象とする…というのが本質なのかもしれない。奥の院の入口にある鳥居を眺めていると、自分がいま日本に生きていることを強く実感できた。

両子寺 奥の院

石段を上って、奥の院に到着。両子山の奥の院は岸壁をくり抜いて造られたもので、ご本尊として祀られているのは十一面千手千眼観世音菩薩です。

信仰心とは別の感覚として、こういう風に山奥の周りに何もないような場所に大きな木造建築が登場してくる様子が個人的に好きになっています。人が多い町の中に同じような建物があってもある意味で自然な感じがする一方で、山の中だからこそ建物の存在感が際立っている。

もちろん奥の院は信仰のために建てられたものですが、ここまでの道中の景観を眺めてきたことを踏まえると、山そのものに神が宿ると信じられていたことも納得できる。自然の中では音もなく、静かな時間が流れていました。

両子寺を参拝し終えたところでお腹が減っていたので、すぐ近くにある両子河原座というお店で昼食にしました。

こちらの名物は、両子山から湧き出た清水を使った手打ちそばです。今回注文したのはそのそばと、地元の野菜をふんだんに使用した天丼のセット。そばの滑らかな口触りと、天ぷらのサクサク感が合っていてとても美味しい。

思い返せば、この両子寺を目指していた時点からずっと共にあったのが両子川の存在でした。その名水が畑に流れてそばや野菜を育て、最終的に自分はこうして大地の恵みを頂いている。土地と水、これらは作物を育てる上でなくてはならない存在であって、自然と神、そして農家の方に感謝していた自分がいた。

さっき話した五穀豊穣の件がここに繋がっているのが実感できて、昼食がより一層楽しいものになる。旅の中で考えることは結構多いけど、土地や食べ物のことに思いを馳せてみると充実感が何倍にもなりやすいです。おすすめ。

文殊仙寺でのひととき

続いては、両子寺から北にある文殊仙寺に向かうことに。

地形的に平野部と山間部の境界にあった両子寺に対して、文殊仙寺は完全な山の中。通常であれば県道405号から県道652号を経由すればスッと辿り着けると思っていたのですが、最短経路は工事中のため通れなくなっていました。しかも直前まで不通であることを示す看板がなく、下りに下ってこれから文殊仙寺まで上るぞというタイミングで知ったので、正直心が折れるレベル。

迂回路として県道544号をぐるっと回り込むような形となり、結果として国東半島の中心部にあるメインの坂道を走ったことになります。

地図上だと道が盛大にぐねぐねしているので坂が多そうだとは予想が付いていたものの、斜度が常時10~12%あるのが参った。短距離で上ったり下ったりが非常に多いです。

このまま左に下ればすぐに着くところが、手前側の道を西に向かう必要があった

半島を走ると言っても、なんか今回は比較的なだらかな道が多いな?とぬか喜びしていたのを後悔してしまった。なおこの付近には山道しかないので、これからの時期に走る場合はそれなりの準備がいりそうです。

旅の醍醐味の一つは「予定していない出来事が起きる」ことだと思っているけど、今回のはできれば遭遇したくない出来事だ。

というわけで、大幅に遠回りして文殊仙寺に到着。

文殊仙寺は天台宗の寺院で、六郷満山随一の古刹として知られています。文殊仙寺のご本尊は知恵を司る文殊菩薩で、それにあやかって学業成就や合格祈願のために訪れる人が多いとのこと。

さっきの両子寺が安産祈願だったことを踏まえると、寺によって担当?している内容がはっきり異なっているのは良いですね。まあこれについては祀っているご本尊によるけど。

あとこの寺の名前からなんとなく想像がつく人もいると思いますが、ここは「三人寄れば文殊の知恵」のことわざの発祥の地でもあります。文殊仙寺を訪問するだけで、なんか頭が良くなったような気がする。

文殊仙寺の本堂までは、駐車場から約300段ある階段を上ることになります。

寺でも神社でも、目的地に向かうために高いところに上るのは体験として楽しい。ここが高い山の斜面に建てられているということも関係しているものの、自分が今までいた場所ではない別世界に上っていくような感覚になる。

神社なら鳥居、寺なら境内。その領域の中は神や仏がいらっしゃる場所であって、そこを自分は訪問しているというのが実感として明確になる。どちらも人々の生活の延長線上に存在していて、でもどこか異なる空気が感じられる。地形がもたらす精神的な効果は、思ったよりも大きい。


今日の行程で訪れたかった場所は以上で、訪問した数としては確かに少ない。でもそこで味わった清涼感は満足のいくものだったし、春の国東半島の清々しい環境を気楽に走れたことに感謝したいです。

このあたりで行程の最後をどこにするのが良いか迷った結果、最終的に宇佐市にある宇佐駅をゴールにしました。最初に一から十まで決めずに、移動しながら後の予定を決めるのも悪くはない。

たまたま出会った山神社
杵築市から豊後高田市へ
こういう田舎の景色が好き
静かな時間が流れる
昼下がりに飲むアイスコーヒーの旨さ
宇佐駅でゴール
USA

自分が今いるのが国東半島で最も標高が高いところなのだから、後はもう下るだけ。県道548号を西へ向かい、宇佐駅に無事到着したところで今回の九州旅はすべて終了となりました。

最後は特急の時間までちょっと余裕があったので、駅前の喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら3日間の旅を振り返ってみる。思い返せば3日で回るにはちょっと強行軍なところもあったけど、自分が充実できる時間の使い方ができたと思います。

終わりよければすべてよし。やらないで後悔するよりは、やって後悔した方がいい。自分の旅は予定とは全く違う体験が得られつつも、最終的にいい感じに収まることが多いような気がする。

今日の国東半島ライドを実行に移せた意味は大きくて、同じ山の中でも高千穂では頭上に木々が覆いかぶさってくるような場所はあまりありませんでした。両子山周辺みたいな強烈な斜度がある道もそんなに多くなくて、1日目と2日目を終えた時点で残っていた要素がこの3日目にやってきた感じ。

次に訪問するときは、紅葉に染まる木々を眺めながらの涼しいヒルクライムになりそうです。

おしまい。


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