ふたば旅館 昭和26年創業 津和野町日原の木造旅館に泊まってきた

今回は、島根県津和野町日原にあるふたば旅館に泊まってきました。

日原は島根県の南西部にある津和野町を構成する集落であって、昔は日原町という独立した自治体でした。場所としては日本海沿いの益田と山間部の津和野の中間くらいにあり、町の中心部を流れている高津川で採れる鮎やツガニ(モクズガニ)が有名です。

そもそも高津川自体が清流として知られているし、実際に日原を訪れたときに感じた高津川の存在感はかなりのものでした。津和野、それから日原はJR山口線の沿線沿いにあるのでアクセスは比較的良好で、車ではなく電車移動だけで訪れることができるのも旅情があって良さげ。


ふたば旅館はそんな日原の町並みに唯一存在する旅館で、自分のように田舎の集落に泊まるのが好きな人間にとっては候補に挙がりやすい宿です。

利便性の良い都会の市街地にある画一的な宿もいいけど、自分としてはその集落独特の空気を感じながら静かに過ごしたい。なお投宿時は女将さんと年配の方、それから釣り担当と思われる若めのご主人の姿を見かけました。

その女将さんの話によれば、ふたば旅館の創業は昭和26年(1951年)。屋内には客室だけではなく大広間も備え、宴会も可能な宿として親しまれているようでした。今回は山口県の長門市からロードバイクで西へ向かい、ふたば旅館を目指しています。

もくじ

外観

早速ですが、ふたば旅館の最大の特徴は立地にあります。

一般的に旅館といえば人の出入りのために表通りに面しているのが普通で、表通りの遠方からでも建物自体は視認できるもの。特に長い距離を走ってきて泊まる宿がようやく遠くに見えた際の安堵感は相当なものですが、ふたば旅館に限ってはそうではありませんでした。

ふたば旅館 外観

上の写真は表通り(西にJAがある旭橋を直進していく通り)から見たふたば旅館の外観です。えっ建物はどこ…どこ…?って最初は驚きました。

実は建物自体が少し奥まったところにあり、路地裏のような細い通路が旅館へと続いています。看板こそ遠くからよく見えるものの、肝心の建物は看板の目の前まで行かないと視界内に入ってきません。

「川魚料理 ふたば旅館」の看板
トンネル前から表通りを見る
吸い込まれそう

しかもその通路というのが特殊すぎて、まるでトンネルのように建物の下をくぐっていて秘密基地感がある。

玄関までのアプローチが塀や門といった開けた構造ではなく、トンネル式だったのが意外過ぎました。表通りから見える部分は建物のほんの一部分で、全容は奥まで向かわないと分からないというのも自分好みな点です。

今まで泊まってきた旅館ではこういう構造のものは初めてで、投宿前だというのにいきなり度肝を抜かれてしまった感じ。

トンネルをくぐって玄関へ
トンネル先は中庭のようになっている。正面の建物に玄関がある。
左側の建物
手前の建物。トンネルの上は廊下と客室になっている

それではトンネルをくぐって奥へ。

トンネルを抜けた先には四方(ロの字)に建物がそびえており、影になっていることもあってどこを向いても威圧感を感じます。あれですね、例えるなら中庭がある旅館の中庭に出て、そこから上を見上げているような格好。

「玄関までの通路がトンネル」というだけでも初体験なのに、玄関前が建物に囲まれているのはあまりにも最高すぎるというほかない。繰り返しになるけどこの玄関前の様子は表通りを普通に通っていると全く気が付かず、まさにこの光景は泊まる人のみの特権といえます。

玄関前に到着したところで、各建物の詳細は次の通り。なお四方の建物はすべて内部で繋がっていて、どこからでも行き来することが可能です。

  • 正面:2階建て。女将さん達の住居として使われている。住居用の玄関土間には釣り関係の道具がたくさんあった。
  • 右側:平屋。旅館としての廊下と客室がある。
  • 手前:同上。今回泊まった客室がある。
  • 左側:2階建て。1階にはスナックがあるが営業しているかは不明。2階に大広間がある。
玄関前
池にはコイがいた
スナックの入口(右)と、大広間へ繋がっている入口(左)

玄関前から左側を見ると小さめの池があり、こちらにはコイが何匹か泳いでいました。

あとは常に水が注がれている一角があって、これは釣ってきた魚を泳がせておくためかもしれません。ふたば旅館は看板にも示されている通りに川魚料理が有名なので、そのためと考えるのが自然です。たぶん。

入口はトンネル正面の旅館の玄関と、それから池の向こう側にある玄関の2箇所あります。後者は客室ではなく2階の大広間に直行できる位置にあるので、主に宴会をする際に用いるようです。

右側の建物

改めて、池の前に立って周囲を見渡してみる。

建物の古さは木造である点も含めて平屋の部分(右側、手前)が際立っており、山陰地方特有の石州瓦の屋根が青空に映えています。対して住居にもなっている奥側の建物は比較的新しく、これらが集まって一つの「旅館」を形成しているという外観が好きになりました。

一つ一つの建物が棟のように独立しているわけではなく、建物としても動線としても連続している。うまく言えないけど、視界の中に新旧の要素が詰め込まれていて実に素敵だ。

館内散策

玄関~右側廊下~客室

それでは早速館内へ。

ロードバイクは中庭の一角に置かせていただき、旅館用の玄関から中に入りました。ちなみに中庭の大部分は建物の2階部分が覆いかぶさるようにせり出しているので、雨の日でも問題なく行動できます。

建物奥への廊下
建物手前への廊下

まずは玄関ですが、入ってすぐ左側に住居へと続く扉があります。玄関土間や靴箱はこじんまりとしていて、旅館というよりは民家のような佇まい。

宿泊客の動線としては玄関の右側へと続き、ここには建物の奥と手前に伸びる廊下がありました。この廊下は外観で言うと右側の建物に相当し、中庭側に廊下が面していることになります。

客室はこの廊下でいう手前の方に位置しており、逆に廊下の奥側には洗面所やお風呂場、トイレといった旅館の方も使用される共同の設備が集まっていました。確かに水回りを旅館の各所に分散させるのは大変だし、一箇所に集まっているのは合理的です。

玄関から廊下を建物奥側に進んでいった先の洗面所やお風呂場は最新式で、快適に使用することができました。

古い旅館において何もかもが古いというのは現代ではあまり受け入れられず、個人的にも洗面所やトイレはできれば新しくなっていてほしいと思っています。ふたば旅館は廊下や客室といった部分のみが古いままで、清潔感が特に求められる部分はしっかり近代的になっているのがグッド。

左側に客室がある
廊下からの眺め

今度は廊下を表通り側に進んでいくと、廊下の外周側に客室が2部屋ありました。こちらは普段使われていないのか、もしくは今回は単純に空いていたのかまでは分かりませんでした。

さらに廊下を進むと突き当りに3~4段ほどの階段があり、ここから先は廊下の向きが直行方向に切り替わっています。思い返してみればトンネルの中が軽い上りの斜面になっていたので、その高低差をこの段差で吸収しているようです。

今自分がいる建物も今までいた「右側」から「手前」へと移り、場所的にはさっきくぐってきたトンネルのちょうど上に来ている。シンプルに建物の中だけ見るとどうということはない構造ですが、トンネルの中を通るという体験を経てきた身としては印象的でした。

他の客室
客室と繋がっている小窓が下部に

ふたば旅館の客室はこの手前の建物に集中しているようで、廊下の右端から順番に客室が並んでいました。

いずれもすぐに泊まれるくらいに清掃されていて気持ちがいいです。客室前の廊下についてはかなりの年月を経ているらしく、摩擦等によって黒く変色しているのが分かります。

あと個人的に気になったのが廊下と客室との壁に設けられている小窓で、一見すると分からないくらいに床ギリギリのところにありました。換気用だとすると流石に小さすぎるし、廊下から室内に人がいるかどうかを把握するためのものなのかもしれない。

建物的に奥まったところにあるので、採光を良くするために中庭側の窓はかなり大きくなっています。これのおかげで玄関前をはじめさっきまで自分がいた場所が確認しやすく、屋外と屋内の様子がともに分かりやすいのはなんか良い。

ふたば旅館は敷地面積の割に建物の密集度が高いのは間違いないんだけど、それでいて狭さを感じさせにくいような印象を受けます。窓が大きいのはその役割として大きくて、やっぱり廊下から見える景色が多いのは開放感がある。

泊まった部屋

今回泊まったのは、ちょうど真ん中に位置する「七号室」です。

広さは一人泊には十分な4.5畳で、設備はエアコン、テレビ、冷蔵庫、ポットがありました。あと客室内に浴衣があるほか、タオルや歯ブラシは洗面所にあるので準備する必要はありません。

押入れの配置がなんか特殊
廊下から見えた小窓

七号室は入口を入って真正面に押入れがあり、押入れの左側の上部が床の間みたいになっているという少々変わった造りです。ただ押入れとは別に床の間を設けるとそのぶんスペースが必要になるため、壁の一面のみを活用して省スペース化するとこうなるという感じ。

あと4.5畳という広さは一人泊だと本当に絶妙で、どこにいても手を伸ばせば大抵のものに届くので立ち上がるのが面倒なときに便利。すでに布団が敷かれていることもあり、一度横になったら起き上がれないくらいの居心地の良さがあります。

手前廊下~2階大広間

七号室の部屋の前の廊下はさらに奥まで続いていますが、宿泊客用のスペースはこの廊下までで終わり。

さらに奥には外観を見たときに確認したもう一箇所の玄関があって、こちらは一般的に大広間への行き来以外には使われていないようでした。

もう一箇所の玄関
宴会用の客が通る場所なので靴箱も大きい
玄関前から見た風景。右奥に洗面所とトイレがある。
振り返ると客室前を通る廊下が見える

玄関前の様子はこんな感じで、旅館部と比較するとモダンな雰囲気になっています。

玄関土間の先には2階への階段、洗面所、トイレがあるくらいで、玄関から2階への移動のために割り切られたコンパクトな造り。

洗面所
2階の大広間
2階廊下からの風景

2階への階段を上った先には10畳+12畳の大広間があって、今も昔もここで宴会をやっているであろうことは想像に難くないです。こちらもきれいに清掃されていました。

そもそもふたば旅館は日原の町の中で唯一残る旅館であって、わざわざ館内に大広間を設けているのはそれだけ人が集まる機会があるということ。高津川でとれた新鮮な川の幸をふんだんに使用した料理を味わいながら、賑やかに酒を飲む…そんな光景が目の前に見えるようでした。古い旅館に宴会用の部屋があるのは結構普通なのかも。

日原の町並み散策

投宿して一通り部屋で寛いだ後は夕食の時間まで暇なので、お風呂に入る前に日原を軽く散策してきました。

こういうちょっとしたお出かけに自転車があると本当に便利で、散策しようと決心してから実行するまでのラグが一切ありません。逆に電車で訪れた場合とかだと足がないため、これからの暑い時期はなおさら出かけるのが億劫になりそう。

日原は小学校、郵便局、JA、歯科医院、商店、薬局、飲食店等がある小さな町。

町並みとしては小学校がある高津川の東側に多く集まっており、西側には家屋というよりも施設が多いようです。

町の中を移動していても車通りは少なく、ふと向こう側を見れば高津川の奥に山、そして青空が広がっている。夕方に差し掛かって気温も落ち着いてきて、ひぐらしの鳴き声が耳に心地よい。日常生活においてこんな風に他の町をじっくり眺めることは皆無なので、旅先で過ごす時間はどこを切り取っても新鮮だ。

一見するとどこも同じような風景に見えるかもしれないけど、実際に巡ってみると決してそうではない。行く場所にもよるものの、ここにしかない風景が見られると旅の非日常感が増幅されるような気がする。

津和野町商工会 日原支所
ふたば旅館に帰還。しかし遠目からだと本当に分からん。

一通り町の中を巡って、ふたば旅館に帰還。

宿に一度チェックインした後に再度出かけるのはあんまりやらないけど、単純に「自分が知らない土地の夕方を味わう」のは楽しいので今回やってみました。日中の暑すぎる時間帯はもう終わったので、気温的に行動しやすくなったというのもあります。

昼間の町も活気があって良いものの、夕方や夜、朝の町の様子ってやっぱり宿泊しないと実感できない。せっかく日帰りではなく宿泊しているのだから、いつもとは異なる時間帯を満喫するという意味でちょっと出かけてみるのはアリだと思います。

夕食~翌朝

帰還してお風呂に入り、部屋でまったりしているともう夕食の時間。

夕食や朝食は部屋出しなので、待っていれば持ってきてくれます。

夕食の内容

夕食は料理旅館のように色んな料理が並んでいました。

疲れた身体に元気を回復させてくれるような美味しさで、しんみりとしながら頂いていると旅館に泊まってよかったなって思う。旅館ならではの味が口の中に広がっていって最高すぎました。

なお今回の食事内容はいわゆる「旅館」のものでしたが、日原ならではの鮎料理は電話予約の際にお願いすれば可能みたいです※。値段の方は当然ながら一般的な宿泊料金よりは上がるっぽいものの、日原の名物を味わいたいのなら注文してみるのがおすすめ。

※玄関には鮎フルコースの内容や写真が貼ってあったけど、鮎料理はもしかしたらランチ限定だったりするのかもしれません。要問い合わせ。

朝食の内容

翌朝の朝食の内容はこんな感じで、日原駅からの電車に乗るために時間を7時にしてもらいました。

この日は朝から30℃を超えるような暑い日だったものの、栄養満点の朝食を頂いたことによって無事にライドを完走できました。朝食をしっかりとることが夏バテ防止にもなるし、それが美味しいのならなおさら。

女将さんにご挨拶をし、まだ山の向こうに隠れたままの太陽を感じながらの出発。これからどんどん気温が高くなるのは目に見えているけど、今はまだ若干涼しい。

実を言うと、この日に泊まった別の旅館の女将さんはふたば旅館のことをご存知でした。日原といえば鮎というのは山陰では有名みたいで、今度泊まるときはぜひ鮎料理を楽しみたい。

おわりに

ふたば旅館はその特徴的な構造がまず第一印象として大きく、トンネルを抜けた先に中庭があるのはとても新鮮で良かったです。

建物が表通りから少し離れているので静かに過ごせたし、というか日原自体が静かな町なので雰囲気に浸りたい人にはおすすめ。現代で人が多く集まっている土地ではなく、その狭間に位置する集落で一夜を過ごすのも良いものだと思えた旅館でした。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

過去に泊まった旅館の記事はこちらからどうぞ。

  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

もくじ