今回は自分が大好きな作品「氷菓」の舞台訪問ライドをする機会があり、その際の宿泊地として決めたのが岐阜県高山市にある御宿 四反田です。
場所としては高山市街から平湯・乗鞍方面に向かう途中の丹生川という地にあり、街並みの喧騒から離れて静かな時間を過ごすことができるところ。観光客でごった返している市街地とは異なり、丹生川は田園風景が広がっているのでその雰囲気の違いを楽しみたいという目的もありました。
あと、氷菓という視点から見るとやっぱりその名前が印象深い。
氷菓のヒロインの名前はご存知千反田えるで、この旅館の名前は四反田。その立地といい周囲の環境といい、飛騨高山にある旅館ということもあって特別な繋がりを感じさせます。
千反田えるは豪農の一人娘で、名字の設定は千の反田を所有しているくらい豊かな家ということからきています。なお反田という姓は地名から来ているので地名姓というそうです。今回のライドはわざわざ兵庫県から来てくれた友人のアテンドがメインだったため、氷菓に登場した場所を訪れる舞台訪問ライドをするなら宿はここしかないでしょという理由で四反田を選びました。
館内散策
屋外
四反田は築180年の旧家の建物を活用した旅館であり、建物全体にその趣を残しています。
建物は通りから見て真正面に見える本館と右にある別館から構成されており、予約する際はそれぞれを指定することができます。造りとしては別館のほうが新しく、大広間も別館にあるので用途別に使い分けているようです。
先ほども書いた通り、旅館の周辺は完全な田園地帯。
景色を遮るようなものは何もなく、遠くからでも四反田が視認できてちょっと嬉しい思いをしました。飛騨地方は集落と田園のバランスが本当に絶妙で、何度でも訪れたくなるくらい気持ちが良いです。
あと、パッと見た限りでは宿泊施設だと分からないというのも個人的に良いと思った点の一つ。このあたりは農業が盛んなだけあって民家の敷地も建物も相当に大きく、他の家もこれくらい大きいところがいくつもあります。元旧家の建物なことも相まって、飛騨地方の風景に溶け込んでいる様子が好きになりました。
旅館の前の通りは幅がかなり大きくとってあって、車で訪れた際にはここに置く形になっています。
我々が宿に着いたのはチェックイン開始時間15:30の直後だったのでがらんとしていましたが、夕食前にチラ見してみるとかなりの台数の車が止まっていました。
通りから道を進んだ正面が玄関。
玄関の左側には大きい池があって、鯉が泳いでいました。右側には蔵と別館へと続く道があり、いずれにしても本館前は一直線にすっきりしているのが分かります。
飛騨地方は豪雪地帯なのでこういう造りになっているのかなと思ったけど、そういえば飛騨の家って東北等の民家と比べるとシンプルな構造になっている気がする。
屋内
軒先にロードバイクを置かせてもらい、続いては屋内へ。
四反田の「旧家」感を感じさせるのが玄関周辺で、入ってすぐに大きな土間があり、その左側に囲炉裏のスペースがありました。
床や柱、天井に至るまで大きな柱が使われていて、その色は年季を感じさせる濃いものになっている。しかも家具を含めたこれらの木材は触ってみると実に手に馴染む感じがして、この家の一部として組み込まれてからの長い年月を実感できます。
玄関周辺が広いのは精神的に重要だと思っていて、建物内に入ってすぐの空間が広々としているとなんか落ち着くというか。特に隣の囲炉裏と玄関との境がない点が良くて、シームレスに行き来ができるところが素敵でした。ちょっとしたことだけど。
玄関の正面がフロントと本館2階への階段、右側が別館と温泉、左側が本館の客室へとそれぞれ繋がっています。
囲炉裏の空間はこんな感じで、まさにここを囲んで団らんするのにぴったりな場所。今も現役で使われていて、夕方になるとここに火が灯っていました。
ここに限らず、旅館の中における囲炉裏は唯一無二の印象的なところだと感じます。ただの椅子や座布団とはまた異なる、語り合う空間…。今はコロナの関係でそれは難しいですが、他の宿泊者と囲炉裏を囲んであれこれ話すのもまたやってみたい。
囲炉裏の奥に見える机や椅子のスペースも含めると、この畳敷きの面積が相当広いように思えました。もっとも本館そのものが横方向にとてつもなく長いので、これくらいの広さが合っているのかもしれません。
ここで、四反田全体の見取り図を上に示します。
今回泊まったのは本館の端にある「ぼたん」の部屋で、本館1階には客室が4部屋、2階には7部屋あるようです。この日の宿泊者は我々以外に大人数のグループが一つあって、そちらは本館2階の客室を使われているようでした。
別館については1階に温泉の男湯があるのと、「つばき」の部屋を食事時に使いました。別館の2階には多くの客室がある様子ですが、このご時世なので宿泊できる人数を制限されているのかもしれません。
本館左側(西側)の客室へは囲炉裏の先の廊下を進む形になって、ここは板張りではなく畳敷きになっています。
廊下の幅が広くて窓側の採光も十分、そして足元の畳の感触が気持ちよかったりと玄関に引き続いて心地よさが持続している。この廊下からは庭もよく見渡すことができるので、夕涼みにここでまったりするのがおすすめ。
今回泊まった「ぼたん」の部屋。
通りや庭に面していて景色がよく、個人的にはかなり当たりの部屋だと思いました。暖房や冷房もばっちりあって、特に憂うことはないです。布団については接触を避けるため、チェックイン時点ですでに畳んだ状態で敷かれていました。
四反田の前の通りはまさに春真っ盛りで、部屋の窓から見る景色は鮮やかそのもの。
しかもこのあたりで一本だけ咲いている満開の桜の木がすぐそこにある。その横には田んぼがあって、上を見れば快晴の青空。四反田の売りが「飛騨の旅情と風情を心ゆくまでご満喫いただけます。」とのことで、飾らない飛騨の風景が直に味わえるのが嬉しい。
今回は春の訪問となりましたが、夏の夏の、秋の秋の景色がここには広がっているのは間違いない。今度は別の季節にまた宿泊してみたい。
こんな風に一通り館内を散策した後は、別館にある温泉に入ったりして時間を過ごしました。温泉は夜の間はずっと入ることができて、翌朝は9時まで。
夕食~翌朝
夕食は、別館でいただく形になっていました。
四反田の食事は飛騨の野菜や魚、お米などを使った会席料理がメイン。
地元の食材がふんだんに使われており、中でも自家製の漬物や自家製の味噌を使った味噌汁などが好評とのこと。内容についても一様というわけではなく、訪れる時期によって全く異なる献立を味わうことができます。旅館周辺の環境だけでなく、四季折々の山里の風情と味をも満喫できる宿といえるでしょう。
今回選んだのは、そんな会席料理に一人100gの飛騨牛ステーキを加えた一番人気のプラン。下呂を超えたあたりからそこかしこで宣伝されているくらいに外せない名産品でもあるし、飛騨に宿泊するのなら飛騨牛はマストだと思います。
ステーキは各人が焼く形式で、味わいとしては塩コショウかポン酢が選べます。
飛騨牛の時点で美味しいのは確定してるわけだけど、その美味しい肉が現在進行系で焼かれている様子をリアルタイムで見ることができるのも醍醐味の一つだと思う。赤身が熱で次第にいい感じの焼き色になっていって、同時に音や匂いが食欲をそそってくる。傍から見ているだけで口の中がじわっとくるのはもう仕方ない。
そんな風にして焼いた肉を、飛騨の白米と一緒にいただくともう堪えられない。やはり肉には米。シンプルイズベストでこれ以上の組合せはないと思う。
飛騨牛は柔らかみがあって口の中で溶けるような食感で、気がついたらお椀に持ったご飯が消えてました。結局二人して炊飯器のご飯を空にしてしまったのは自然の成り行きといえる。
食後はもうすっかり暗くなっていて、特にすることもないのでさっさと寝ました。
この日のライドは完全に向かい風の中で足が削られたので、早く休むに越したことはない。
朝食には朴葉みそが出ました。
夕食の豪華さとは打って変わって落ち着いた旅館の朝食で、一日の始まりに身体を整えるには必要十分。これから観光へ繰り出すにも、ライドをするにも言うことないほど美味しかったです。
周りの環境
最後に、四反田周辺の環境についてご紹介します。
高山から乗鞍までの間はほぼ完全に山間部である一方で、丹生川周辺のみが比較的平坦な部分が多く農地として活用されています。
国道158号を通っているだけではなかなか気づけない魅力的な情景がここにはあって、のどかな田畑風景と民家の配置が広々としていて実に良い。あと、市街地のように高い建物もないので空が大きく感じます。
これでいて高山駅からたったの8kmしか離れていなくて、高山は場所によって全然違う空気感を味わうことができる。
高山自体が岐阜県の中でも有名すぎるほど有名な観光地で、そこを訪れる人はほとんどが電車を使うようです。なので宿泊地としては当然ながら駅前や市街地周辺になると思われますが、四反田は要予約で送迎バスも運行しています。
高山には行ってみたいけどあまりにも人が多いのはちょっと…という場合には、ここ四反田で静けさに浸りながら過ごしてみるのがおすすめ。特に夜は人工的な音がまったくしなくて、これからの季節だと水田の蛙の大合唱で( ˘ω˘ )スヤァ…できること間違いなし。
おわりに
御宿 四反田はその名前が印象的すぎてずっと前(2012年)から気になっていて、今回の氷菓ライドの宿として選んだ旅館。終わってみれば建物や周囲の環境、温泉、食事に至るまで、本当に満足のいく旅館でした。
飛騨の四季をダイレクトに実感できる場所で、充実した時間を味わえるのはここだけの魅力。あと氷菓勢で高山に泊まるときはいつも市街地という方は、ちょっと趣向を変えてみるのもいいかもと思います。まさに自分がそうだったので。
おしまい。
コメント