今回は、大分県の保戸島を散策してきました。
保戸島は大分県の沖合、通称豊後水道に浮かぶ島で、周囲は約4km。約600人の島民がここで生活をされており、明治23年頃に始まって以降、大正・昭和と大いに賑わった遠洋マグロ漁業が今も続けられています。
かつては遠洋マグロ漁業の基地として単一漁協では日本一の規模を誇っていて、保戸島の最盛期の年間水揚げ量はなんと140億円。途方もない数字すぎる。
自分がこの島を訪問した理由は、その特異な景観にあります。
島といえば人が住むのに適した場所、つまり平地の割合がとても少ないために、そこに形成される集落はとにかく家屋が密集しています。保戸島においてもそれは例外ではなく、ひしめき合うようにして3~4階建ての建物が所狭しと建てられていて、さらにそれらの家屋の隙間を縫うようにして路地が走っているのが特徴の一つ。
海沿いからいきなりせり上がる小高い山と、その手前の斜面に立ち並んだ家屋の一体感。その様子は「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財百選」にも選ばれているほどで、島という地形とそこでの生活が密接に繋がっているのが、自分の琴線に触れました。
何かの雑誌かネットかでその写真を見て、ぜひ自分もここを訪れてみたいと思っていたのが今回叶ったという形です。保戸島はアクセスがそこそこ大変なところに位置していますが、結論から言うと心からおすすめできる魅力的な島でした。
保戸島へのアクセス
保戸島は離島なので、当然ながら船(フェリー)でしか到達することができません。マップ上だと九州本土との距離が結構近いので歩いて渡れるんじゃ?と思うかもだけど、繋がってないです。
フェリーが発着しているのは大分県の東部、津久見市の津久見港です。津久見港は最寄りの津久見駅から徒歩約5分という近場にあって、公共交通機関で訪問する場合でも移動は楽でした。
料金は大人片道880円で、所要時間は25分(14km)です。発着時刻表は以下の公式サイトを参照してもらうとして、平日・土曜日は上り・下りともに一日5便、日曜日・祝日は一日4便が運行されています。
ここで重要になってくるのが、どの便に乗ってどの便で帰ってくるのかということ。
保戸島には宿泊施設が現在存在しないため、観光で訪れる場合は日帰りになると思います。そもそも便数が少ないので、島での散策時間や津久見に帰ってきた後のことを検討して、予めどの便に乗るかを決めておいたほうがいいです。
あと、島では飲食店等のお店類が利用できません。
これはあくまで今現在のことだと思うけど、確認した限りでは、保戸島で利用できるのは飲み物の自動販売機のみです。いくつかある飲食店は休業中になっていたため、前もって津久見で食べ物等を調達してからフェリーに乗ることをおすすめします。お店が営業していたらラッキーくらいの気持ちで。
フェリーの発着時間を考慮すると、島での滞在時間はだいたい約3時間~4時間となります。この間に何も食べないのは辛いものがあるので、準備しておくのが吉。
津久見港から保戸島を目指す
今回は、輪行で津久見駅まで移動してきてからの保戸島散策となりました。
時間はもう昼過ぎになっているものの、この日の宿は津久見に取っているため保戸島の散策に専念することができます。津久見に帰ってきてからまた更に移動が続くと大変なので、終わってみれば余裕のある日程にしておいて正解。
津久見港の様子はこんな感じで、受付がある建物の近くには駐車場が整備されていました。
津久見港から保戸島へ向かう船は「マリンスター」か「ニューやま2号」のいずれかで、今回の場合は行きがマリンスター、帰りがニューやま2号でした。
これらの船は人は乗せられるけど大きな貨物は運べない小型のフェリーなので、分類的には高速船になるのかな。外観は似ているものの、内部構造が異なっています。
今回は、自分だけではなくロードバイク同伴にしました。
自転車を保戸島航路のフェリーに積んだというレポを見たことがなかったのでかなり不安だったものの、各船に1台くらいならなんとか積めるっぽいです。港のおじちゃん達も意外みたいな様子で、出港前に積んでいただきました。
ただし前提として話しておくと、保戸島でロードバイクが乗れるような道はあまりありません。そもそも島内には平地がほとんど存在せず、平地よりも狭くて細い階段の方が遥かに多いです。
なので自分も迷ったけど、せっかく高千穂から移動してきてロードバイクを放置したまま散策するというのは、なんか勿体ないと感じた。愛車を持っていく理由なんてこれくらいでいい。
この便では観光客と思われるのは自分一人だけで、残りは全員が島民の方のようでした。
よく考えてみればこの日は日曜日で、つまり今からの時間は日曜日の午後。このシチュエーションから観光に繰り出していく人は少ないはずで、自分だけなのも納得です。
そうこうしているうちに出港の時間になって、フェリーはかなりの速さで陸を離れていく。
見る見るうちに視界の中の景色が一変して、空と海の青色が大部分を占めるようになってくる。フェリーによる移動は車や電車のそれと異なり、明確に「陸」から「海」へと遷移していくのが個人的に好き。
足元のふわふわした揺れからも、自分が今いるのが大地ではないことが伝わってくる。移動そのものが楽しいと思えるのも、船の特権の一つだと思う。
津久見港の近くにはたくさんの工場が集まっているものの、次第にそれらも遠くに消えていきました。行きのフェリーでは展望デッキ(要は屋外)があったのでここにずっと座ってましたが、特に寒さを感じるようなことはなかったです。
今日は春らしからぬ陽気に包まれているし、考えてみれば積極的に屋外に出たいと思えるのも今のうちだけ。
夏になればこんな風に外で日向ぼっこするなんて不可能に近いので、これも季節ならではの体験だ。その時々でしかできないようなことを、今後も積極的にやっていきたい。
路地裏と階段の島を歩く
保戸島漁港周辺
しばらく波風に当たりながらフェリーに揺られ、約25分で予定通り保戸島に到着。
あ、ここでフェリーによる移動の良さをまたしても書くけど、「目的地となる島が徐々に間近になっていく」というのも個人的に好き。
気がついたら到着してましたとかではなく、到着する前から着岸するまでのこの時間。最初は遠くに見えるか見えないかくらいの大きさだった島が、次第に近づいて大きくなってくるのがまさに実感できる。このワクワク感はかなり大きいと思っていて、フェリーならではの速度域の良さが前面に押し出されている。
飛行機や新幹線に見られる「速さによる利便性」は、ここにはない。けど、情緒ある時間を過ごすのであれば電車や船を選ぶのが自分としてはベストかな。
フェリーは静かに港へと接岸し、島民の皆さんが下船してそれぞれの家へと向かっていく。
そんな中で一人だけ観光客の自分が同じく降り立ち、ここから保戸島の散策が始まる。時間としては約2.5時間あって、津久見に帰ってくる頃には日の入りの時間になってるっぽい。
各地を散策するのはいつだって楽しいものだけど、島においてはその興奮度合いが他と比べて顕著な気がします。海を境界にして陸地が区切られているのが島なので、自分が行くところができる場所が分かりやすいからかも。
フェリーが停泊している保戸島漁港から山の方面を見ると、さっそく目に入ってくるのが上の写真に示した家屋群。しかもその手前にはこじんまりとした港があって、そこにはたくさんの漁船が停泊しています。
なんというか、保戸島では視界の端から端までの間に含まれる要素がとても多いような気がする。面積が小さい島だから…ということは頭では理解していても、ある一定の面積あたりに占める家屋の割合も多ければ、集落と港との距離感もとても近い。
同時に、狭い範囲にあれやこれやが密集しているのでそれほど移動しなくてもよくて、コンパクトで魅力が詰まった集落というイメージです。
ここから島内を早速歩いていくわけだけど、別にあてもない徒歩移動をするつもりはない。
保戸島には「保戸島ウォーキングMAP」という地図(津久見港で配布している)がちゃんと作成されていて、これを目安にするだけで散策の密度がかなり上がりました。
フェリーを降りてすぐのところにも大きめの看板があって、ちゃんと私のような"散策目的で保戸島を訪問する人間"にも優しい。こういうのが作成されているあたり、マグロや写真目的で訪れる人は案外多いのかもしれない。
ウォーキングMAPによれば、自分が今いる保戸島漁港や離島航路待合所の近くの家屋群が最も規模が大きいようです。
周辺には津久見市役所の保戸島出張所や商店、酒店、仕出し屋、お寺(法照寺と海徳寺)、加茂神社などがあって、保戸島の中心部だけに施設が多い様子。
集落の配置は南から串ヶ脇、新地、浜小路、海道、上小路、中ノ谷、谷、大波磯(おおばそ)の8区画から構成されています。保戸島漁港がある周辺が浜小路で、ここを中心として南北に集落が続いているという形です。
海道~大波磯は比較的新しくできた集落のようで、平地の上に多層の家屋が横並びに建ち並んでいました。これに対して串ヶ脇~浜小路あたりは道の脇の高低差が比較的大きく、階段が多めになっています。
以上を踏まえて、まずは保戸島の南端にある串ヶ脇方面に向かい、北上しながら散策をする方針としました。
さて移動を開始しようかと思っていた矢先に、いきなり猫たちに遭遇しました。
実は保戸島には猫が多くて、場所でいうと離島航路待合所から保戸島出張所の間くらいです。ここには猫たちが常時たむろっているので、近くを通るだけで彼らに補足されるという事態に。
しかも、こっちから気を引かなくても向こうの方から近寄ってくるとなれば嬉しい以外の感情がない。途中で立ち止まったかと思えば、最終的には手を述べせば触れられそうな位置にまで寄ってきてくれました。ここが天国だったか…。
猫たちがいるのは別に昼間だけではなく、夕方になって島を去るときにも同じように多数の猫たちが休んでいました。なので、猫と戯れたいという場合はここを目指すといいと思います。
それにしても、まだ保戸島に着いて5分と経っていないのにこの幸せっぷり。いきなり島での時間が充実したものになっている。
浜小路~串ヶ脇~中ノ島
大分県漁業協同組合 保戸島支店や保戸島漁村センターの前を通り、海沿いの道を走って串ヶ脇~中ノ島へ。平面方向に移動する分には自転車が便利なので、自分以外にも乗ってみえる方が数名いました。
保戸島漁村センター前から保戸島中学校に至るまでの道路はほぼほぼ直線で、従って家屋も道路に沿って真っ直ぐ綺麗に立ち並んでいます。道の前からこれらの建物はかなり見通しがよく、保戸島の中では珍しい。
集落の形成の仕方は場所に大きく差異が見られ、坂が多いところに建てられた家屋はこんな風に綺麗に並んでいません。従って家屋の間を通る路地裏も当然ながら入り組んでいるわけで、実際に自分の足で歩いてみるとよく理解できます。
同じような道がずっと続くのではなく、場所によって雰囲気の違いを楽しめるのが保戸島の素敵なところだ。
集落としての南端は串ヶ脇ですが、その先にある中ノ島には漁船が停泊する小さな港湾がありました。
ここが正真正銘の保戸島の南端部に該当し、周囲の地形を見るに、昔は独立した島だったのを建設によって保戸島と地続きにした経緯があるようです。
中ノ島の堤防の上からは、対岸の九州本土(四浦半島)が見えました。「見えました」というよりは、これは干潮のときには陸続きになるんじゃないか?ってくらいに両者の距離はとても近いです。
海になっている部分は50mくらいしかなさそうなので、過去にはここに橋を架ける計画があったのではと思えてくる。ただ、もしものときに市街地へ向かうには間違いなくフェリーのほうが早いでしょうね。
串ヶ脇の集落
海に近い側の景色を一通り眺めた後は、かねてより楽しみにしていた路地裏散策を始めていく。
ここからの移動手段はロードバイクから徒歩へと切り替え、串ヶ脇の集落を歩いていきます。そのまま内陸部の路地裏を経由して移動を続け、保戸島漁村センター周辺まで戻っていくことに。
串ヶ脇の集落を歩き始めて、いきなり遭遇したのがこれらの風景。
目の前に広がるのはとてもカオスな空間で、建物の建てられ方や建物時代の構造、それに路地裏の道の通り方には整った部分が見当たらない。増改築を繰り返したと思われる建物が所狭しと立ち並んでいて、自分としてはそれらを見上げるようにして路地裏を歩いて行くほかない。
こういう場所は過去に何度も歩いたことがあるけど、保戸島は路地裏の「密度」が高い。
路地裏という言葉は表通りの対義語みたいなものだけど、保戸島に至ってはいま歩いているのが表通りなのか、それとも路地裏なのかの判別が全くつかないです。いきなり分岐したかと思えば途中で別の道が合流してきて、そのほとんどが階段に次ぐ階段。
そうだ、自分はこういう場所を散策するのが何よりも好きだった。
どこから感想を言っていいのか分からなくなるものの、徒歩で歩いて行く端々から自分が好きな要素が登場してくる。目に入るものすべてが良いというか、入り組んだ路地を上っていくのが楽しすぎるというか。
階段ばかりなので、もちろん疲れるものは疲れる。しかし、この先にどんな風景が待っているんだろう?と考えながらだと疲労が全く気にならない。肉体よりも精神的な方が勝るのは、趣味として自分に合っている証拠だ。
新地の集落 大分県道612号
串ヶ脇の集落では上がったり下がったりを繰り返し、最終的には吉田食堂というお店の前に止めておいたロードバイクまで戻ってきたので移動を再開。場所的には往路で串ヶ脇に向かう途中で通った、建物が一直線に並んでいた場所の南に戻ってきました。
復路で歩いて行くのは海沿いの開けた通りではなく、そこから一本入った山側の通り。この通りは保戸島における唯一の一般県道・大分県道612号(長目中ノ島線)に登録されていて、そこを移動していくという形です。
この県道612号は全長こそ256mと、まあ島の中の県道だったらそれくらいかなと納得できる部分があったのに対して、その幅はなんと1.2~1.8mしかありません。あまりにも狭すぎる。
従って自動車での通行は限りなく不可能に近く、自分のようにロードバイクならまあ通行可能かなというレベル。幅が自分の身長よりも小さいって、日本一狭い県道なのでは??
県道612号の様子はこんな感じ。
両側の建物の距離が近すぎるので、雨の日でも傘が不要になるくらいです。向かいの家のベランダへ普通に移ることができる程度、といえば想像しやすいと思う。
日当たり具合はあまりよくないけど、ここにしかない景色が確かに広がっている。
日向に対して日陰の割合がとても多いので、それによって日向の存在感がこれ以上ないくらいに強調されています。日が照らされているところでは猫が日向ぼっこをしていたりして、ここは路地裏であると同時に表通りでもある。頭上を見上げれば建物の隙間から青空が見えて、これほど空が狭いのは個人的に初めてかもしれない。
保戸島の不思議なところは、これだけ密集している建物が決して古いようには見えないこと。
なんか割と最近に建てられたようなコンクリート造りの建物が多くて、島=古い木造の建物ばかりと思いこんでいた自分はかなり驚きました。
しかし人の気配はあまり感じられず、たまに家の中からテレビの音が聞こえてくるくらいか。歩くほどに今まで感じたことのないような感情に包まれるのが、保戸島の特徴なのかもしれない。
浜小路の集落~加茂神社周辺からの眺め
そうこうしながら歩いていくうちに国道612号の区間は終了し、保戸島漁村センターの前に戻ってきました。
なんか結構お腹いっぱいな気分になった感がある一方で、これから歩いていくのは保戸島最大の集落である浜小路です。例によって階段から先へはロードバイクを持ち込めないので、さっき猫たちが集まっていたところ(保戸島デイサービスセンター)に止めておきました。
あと、地図上で言うと安藤酒店や日下商店がある通りの中には自動販売機があります。これからの季節は暑い気温の中での散策となるので、水分補給は忘れないようにしましょう。
巨大な迷路のような道に翻弄されつつ、あてもないままに上を目指していく。
この先はきっと高台に通じているはず!と思って道を進んでいったとしても、場所によっては道がとある家屋の前で終わっていることも少なからずあります。迷路でいう行き止まりみたいなシチュエーション。
そうなると来た道を引き返すことになって、よく島民の方は迷わずに移動できるなと感心してしまう。たぶんだけど、自分だったら住んでいる家にすら辿り着くことができずに呆然としてそう。
保戸島の路地裏が迷いやすい原因の一つは、道の方向に規則性がないこと。
斜面に形成された集落を訪問するということで、最初に自分は尾道や長崎のような町並みを想像していました。すなわち海側と山の斜面側を最短で結ぶように基本となるメインストリートが通っていて、そこから左右に伸びた小道を通って水平方向へと移動するという図式。
しかし現実はそうではなく、メインストリート自体が相当に曲がりくねっています。
しかも主道と側道の見分けが全くつかないので、知らず知らずのうちに訳わからん方角に進んでしまっている。密集した家屋に隠されて、この先がどこにどう続いているのかも一発では把握するのが難しいところが好きになりました。
こういう地形だから仕方のないことなのかもしれないけど、標高が高くなるにつれて空き家や空き地の割合が増えていきます。あと猫ちゃんも上の方には全くいなくて、でも建物だけがいくつかも静かに存在している状態。
高齢者にとって毎日の階段の上り下りはとても辛いので、日々の生活の中に含まれる階段の量は少なければ少ないほど良い。従って、港に近いところに人が集まるのは当然のことだ。
なんとか道の方角に当たりをつけ北へ進んでいくと、島における唯一の神社である加茂神社に到着。
加茂神社は保戸島の守護神として、かつて京都の上加茂神社から遷移された経緯がある神社です。夏の大祭の際には、ここから神輿が出発して海へ向かうみたいです。
神社と海、集落、そして高台。ここでは神社の周りに位置する存在と、神社自体のロケーションが絶妙にマッチしている。保戸島の中でもかなり好きになったのがこの加茂神社からの眺めで、参道を上って振り返ると鳥居の向こうに海が見えるのがもう素敵すぎた。
神社の階段に腰を下ろして、ただ何をするでもなく高所から集落を一望する。贅沢な時間ってこういうことを言うんだろうな。
加茂神社はフェリー乗り場から近いのでアクセスしやすいのに加えて、それほど上らなくても絶景を拝むことができるのでお手軽です。
島の中心部の全容を把握するという意味でも、まず最初にここを訪れてみるのがおすすめ。
海徳寺からの眺め
保戸島で過ごす時間も、気がつけばもう折り返しに入っている。
残りの時間は、浜小路を一望できるもう一つのスポットである海徳寺に向かうことにしました。加茂神社から水平方向に歩いていくのが楽なルートだけど、なんか一度下ってから上り直したくなったのでそうしてます。
保戸島へは「徒歩による散策」を楽しみに来たのだから、最大限にそれを満喫すればいい。
昼寝をしている猫たちの前を通り過ぎ、仕出し屋がある通りを抜けて海徳寺へ。
海徳寺へ続く階段は比較的少なく、あ、ちょっと眺めの良いところに行くかという気分になったときに行きやすいです。寺の境内は島内では有数の広さがあって、鐘も設置されていました。建物そのものの大きさも際立っており、高台から引きで見ると海徳寺は目に止まりやすいはず。
あと、忘れてはならないのが寺の背後の斜面に広がる多数のお墓です。
おそらく島内のすべてのお墓がここに集まっていると思われるほどの規模で、浜小路の南側の斜面一帯が丸ごとお墓になっていました。
お墓からは港を含めた一帯の見通しがとてもよく、ここに眠られているご先祖様もご満足な様子。これだけ見晴らしに優れた場所にお墓があるのは、とても良いと思います。
路地裏と一体となりながら、港近くに帰還。
訪問当初は2.5時間あった散策時間が、もう残り20分くらいになってしまっている。ここから先は、残りの時間を離島航路待合所周辺で過ごすことにしました。
港沿いで写真を撮るのに集中していて、ふと後ろを向けば猫が接近してきている。
さっきまではずっと遠くにいたはずなのに…。
保戸島では家と家との距離も近いが、人間と猫との距離もグッと近い。こんなに猫が友好的な場所に来るのは久しぶりなだけに、いつまでも滞在したくなるような温もりが感じられる。
猫たちはずっとここにいるわけだけど、もしかしたら誰かを待っているのかもしれない。そういえばもう少しすれば夕食の時間になるし、港の近くでご飯待機をするのが保戸島の猫の日常なのかも。
夕食の時間…と思い浮かべて、保戸島を照らす陽の光がすでにオレンジ色に変わってきていることに気がつく。
島における一日も終わりが近づいている。
大波磯の集落
と、ここで大波磯の集落を訪問していないことに気がついたので、急遽ロードバイクを使って走ってきました。こういうときの自転車は本当に便利だ。
上小路~大波磯の間はほぼほぼ平地で占められており、そこに3階建ての建物が集まっています。
特に大波磯は後年になって建設された埋立地で、これによって建物を建てられるところが増えた形です。個人的には保戸島の中では比較的住みやすそうなイメージがしたものの、家屋の数としてはそれほど多くありませんでした。
それにしても、これだけ階数が多い建物が集まっているとアパートだと勘違いしそうになるところが、実際にはすべてが別の家。保戸島においては、階数が少ない2階建ての家はとても数が少ないんだろうな。
保戸島を去る時間
こんな感じで、なんか最後の方は慌ただしくなったけど保戸島を隅から隅まで散策することができました。
後は、他の方と同じくフェリーに乗って津久見に帰るだけ。今日は日曜日で、今はもう日曜日の夕方。
「島旅」の終わりとしては、この状況が自分の心境を限りなくノスタルジックにさせてくれる。
海の向こうから、次第に大きくなってくるエンジン音とともに帰りのフェリーがやってくる。接岸に合わせて、どこからともなく乗客が集まってきました。
というか、この便に乗る人は想像以上に多かったです。散策中は人に遭遇することのほうが珍しかったけど、何かの作業をされていたんだろうか。
中には数人の子どもたちもいて、ちらっと聞こえた会話によれば今日は保戸島の小学校に通っている子と遊んだとのこと。こういう小学校生活には、どこか憧れるものがある。
夕焼けに照らされる保戸島を窓から眺めながら、この数時間の出来事に思いを馳せてみる。
最初は島の面積に対する家屋の多さに圧倒され、実際に路地裏を歩いてみればその複雑さに驚く。通りを歩く中での景色と、開けた高台からの展望。何もかもが自分にとっては新鮮で、長い間忘れていた冒険心を思い出したような気がしました。
津久見に帰ってくる頃にはボーっとしてしまっていて、島旅が一瞬で過ぎ去ってしまったことが悲しく思えてくる。でも、これはこれでいい。
おわりに
保戸島は比較的こじんまりとした島ながら、そこで味わえる風景や体験は唯一無二のものだと思います。
何よりも路地裏散策が好きな人にとっては最高の環境だし、たくさんいる猫たちと時間を忘れて触れ合うのもまた良し。過去に尾道や長崎を訪問して、その雰囲気が気に入ったという方には自信を持っておすすめできる場所だと感じました。
次に訪問するときは、保戸島ならではのマグロ料理をお腹いっぱいになるまで堪能してみたいです。
おしまい。
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