このところますます気温が冷え込んできており、日中の気温がちょうどいいといっても、その気温差に悩まされる日々が続いています。たまに暖かく感じることはあっても朝や夜は結局寒いし、心なしか日が経つに連れて余計に寒く感じてくる始末。急激な気温の変化に身体が順応するためには、もう少しかかるようです。
こんなときは温泉♨に行くしかない。
要は身体が冷えているのなら温まればいい。寒ければ寒いほど温泉の気持ちよさは何倍にもなるわけで、これからの季節はとにかく温泉に入るまくるのが正しい選択です。
そうだ、温泉行こう
そんな背景のもと、今回訪問する温泉地として選んだのは山口県にある俵山温泉。
山口県には湯田温泉(山口市)や長門湯本温泉(長門市)などなど魅力的な温泉が数多く存在しており、その中でも街全体の雰囲気が自分の好みにあってそうな予感を最も感じさせたのがこの俵山温泉でした。俵山温泉は白猿に化けた薬師如来が発見したといわれており、その歴史は1100年以上にもなるそうです。
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目的地が決まれば、あとはもう半自動的に身体が動いていた。新幹線や宿をすぐさま抑えて準備は万端。自転車で山口県を訪れるのは昨年以来なので、もう興奮が止まらない。
俵山温泉までの道のり
俵山温泉を含む全体の行程を鑑みた結果、今回は新幹線を使って山口県の厚狭駅まで輪行し、そこから自走することにしました。
俵山温泉までの経路としては近くに電車駅が存在しないため、車で向かう以外にはバスを使うのが一般的なようです。バスの本数も個人的にはかなり多く感じたし、そこまで不便ではない様子。
というわけで厚狭駅で輪行解除してライド開始…なんですが…
おもいっきり雨。どうしてこうなった・゚・(ノД`)・゚・。
天気予報は現在進行系で曇り予報のままだし、SCWでもWindyでも付近に雨雲は無いにも関わらずご覧の有様。無情にもしばらく雨脚は弱まる様子がないので雨の中走るしかないみたいです。
念のため持ってきたレインウェアが役に立ってくれたものの、登山用に使ってる上半身のみのものだったので下半身は濡れ放題な上、シューズの中もまるで川に浸かったみたいに冷たくなりました。
自分にできることといえば、無心で走ることだけ。
ライドの途中で浸水したのか、使ってるレザインのサイコンがお亡くなりになった以外には特にアクシデントもなく、俵山温泉まで残り15kmくらいになったところで雨が止んでくれたので一息つけました。
この時点で時間はお昼過ぎで、精神的にも疲れたので途中の「Cafe Leaf」さんでハンバーグを注文しました。
雨の中ずっと走ってると気分が滅入ってくるし、こういうときは休憩するのが一番。スピードを競うようなライドならば休憩は最小限にせざるをえませんが、自分がやってるのは旅なので時間は一切気にしてません。気ままに行動できるのが一人旅の良さの一つでもあります。
できたて熱々なハンバーグとライスでお腹も心も満たされたので、だいぶ気力が回復できました。
そのままの調子で山間部を走り、気がつけば俵山温泉に到着。
道中の道といえば山100%という印象で人の気配もあまりなく、こんな山奥に本当に温泉街があるのか…?と半ば半信半疑でしたが、「俵山温泉」の看板を見て胸を撫で下ろました。いや、むしろこういう奥地だからこそ湯治場として親しまれてきたのかもしれません。
俵山温泉で疲れを癒やす
あれからぐだぐだしてたこともあって、俵山温泉に到着したのは14時すぎ。
ちょうど宿のチェックインの時間が14時なので、まずは宿に荷物を置いて着替えることにしました。
この日泊まった「たまや旅館」さんは、俵山温泉のメインストリートの入り口にあるお宿。
俵山温泉にある旅館は、多くの人が利用するであろうネットでの予約に対応していないところがほとんどで、直接電話をかけて予約する形式でした。たまや旅館さんはネット予約も対応しているのがGood。空きがある部屋の有無を確認するのが楽でした。
お部屋については一人で使っていいんですか感がすごいほど広くて、しかも炬燵完備というのがまた良い。やはり秋冬といえば炬燵ですね。エアコン等の空調設備はなくてもいいから炬燵だけあれば満足できるレベル。
まずは雨でびちゃびちゃになった服を速攻で干して浴衣に着替え、兎にも角にも温泉へ入って温まることにしました。雨で冷えた下半身が温泉を呼んでいる。
俵山温泉の温泉の特徴として、旅館備え付けの内湯はなく、外湯に入りに行く形式になります。
ここが一般的な温泉街とは違うところで、旅館自体に温泉がない(例外的に2件ほど内湯ありの旅館もある)ので日帰り客/宿泊客問わずに外湯を利用することになる。そもそも内湯や露天風呂などを設けるようになったのは戦後のことらしく、俵山温泉では外湯だけを利用する本来の湯治場の原型が現在も保たれているといえます。
昔ながらのスタイルで、昔からずっと続いてきた温泉に入る。新しすぎないものが好きな自分にとってはこの形式が実に気に入りました。
俵山温泉にある外湯は以下の2箇所があります。
- 町の湯:6:00~22:00、¥480
- 白猿の湯:7:00~21:00、¥850
町の湯は昔ながらの銭湯のような雰囲気をしており、白猿の湯はその逆で新しめの設備でした。
入れる温泉としてはこの2箇所以外にない一方で、宿泊して何度も入りたい場合はそこそこ値段がかさんでしまうことが心配な人もいるかと思います。そんな人におすすめなのが、宿泊した当日正午~翌日正午まで入り放題になる入浴手形。
入浴手形は各旅館で販売されており、その値段は¥1,500と安いです。町の湯/白猿の湯を問わず、例えば1泊2日の場合は3回以上入るケースだと入浴手形を買った方が安くつきます。自分は当日3回、翌日1回の合計4回入ったので入浴手形の存在が非常に助かりました。
自分のように夕方だけでなく夜や朝に入りたいという人は多いと思うし、この手形は心からおすすめできます。
というわけで、早速温泉兼散策を開始。
見ての通り俵山温泉の町の造りとしては非常にシンプル。メインストリートの脇に旅館が立ち並んでいて、民家は通りを一本入ったところに集中しています。
この温泉街の雰囲気がとにかく好き。
旅館はどれも団体客をメインとするような大規模なものではなく、個人客、それも少人数を対象とした小規模なところばかりです。旅館を経営されているのもご高齢のご夫婦やご家族だったりで、あくまで町に住まわれている方のみで温泉旅館が営まれている印象を受けました。
俵山温泉というと、上記の写真のように旅館の看板がずらっと並んだ風景が有名ですが、それもそのはず。前述のように旅館に泊まった場合でも外湯に入りに行く形式なので、必然的にこのアングルを幾度となく見ることになります。なので、温泉に入りに来ただけでなく風景も同時に楽しむことができる。それも自動的に。
道を歩いているだけで旅館の玄関が目に入ってくるわけで、すでに宿を取っているにも関わらず他の旅館が気になって仕方ない。
それにしても玄関の構造や照明の配置、それにスリッパなどの置き方も旅館によって千差万別で、一つとして同じ宿はありません。そんな建物がもうひしめき合っているものだから、すぐに温泉に入りに行こうと思ってたのに散策が捗ってしまう。
まずは、宿から遠い方の外湯である白猿の湯に来ました。
白猿の湯では1階部分が土産物などの販売店になっていて、温泉自体は階段を上がった2階部分にあります。温泉としては内湯と露天風呂があり、内湯の1号湯は源泉かけ流しで、浴槽2号湯と露天風呂は混合泉で使用しているそうです。いずれも浴場は広くて快適そのもの。
俵山温泉の泉質はアルカリ性単純泉で、そのPH値は約9.8。肌のクレンジング効果も期待でき、雨ライドで冷えた肌がじんわりと温まっていくと同時に美肌になっていく感覚がありました。
こうして考えてみると、ライド中に雨に降られていたときの虚無感が温泉の温かさによって完全にかき消されています。悲しい思い出は楽しいor嬉しい思い出で上書きする。むしろこの落差がある分、何があったとしても終わってみれば「やっぱり今回の旅も最高だったな」という結論になると思う。
そんな俵山温泉ですが、上の写真のようにすでに廃業されていて無人になっている旅館が多く目に付きました。
たまたまお会いした地元の方の話によれば、かつては今の倍以上の数の旅館が営業されていたとのことです。昔はこの辺りの農家の方が農作業が一段落するとこぞって温泉に入りに来ていたそうで、その頃は随分と繁盛されていたとの談。しかし今ではそのようなこともなく、約20の旅館が営業されています。
今回の宿を決めるにあたり、ストリートビュー等で確認して「あ!この旅館良さそう!」と思っていたところに電話予約を狙ったのですが、ことごとく廃業されていて悲しみに暮れました。もう少し突っ込んで色々伺ってみたところ、身体を悪くしてこれ以上続けることができないことや、跡取りがいないので私の代でやめることにした等、なんというか暗い気持ちになる背景があることを知りました。
山奥にある温泉地なので営業される側からすれば大変そのものである一方で、これから先もなんとか続けていってほしいという思いでいっぱいです。
次に入りに行ったのはもう一つの外湯である町の湯。
ここは内湯が2つあるのみで、白猿の湯と異なり露天風呂はありません。しかし古くから療養泉として親しまれており、源泉は施設内の敷地から湧出した源泉かけ流しの温泉です。
雰囲気はまさに「町の銭湯」といった感じで、地元の方と思しき人がひっきりなしに訪れている様子。内湯しかない分、心なしか温泉そのものに集中することができた気がするし、連続で温泉に入ったこともあって身体はもうポカポカ。湯上がりしても冷える感じが全くありません。
例えば外湯がどれも同じようなところだと、入るのは一箇所でいいか…とも考えたりもするけど、白猿の湯と町の湯は全く異なる顔をもつ温泉なのでそれがない。これだったら何回でも入りたくなるな。
ちなみに町の湯では飲泉もでき、無味ながら硫黄の香りがほのかに漂っていて、湯上がりに飲むと温かさが持続すること間違いなし。硫黄の香りもそこまで強くないので飲みやすかったです。
散策は続く。
先程「廃業されている旅館が多い」と書きましたが、建物は解体されることなくそのまま残っているのが良い意味で温泉街の雰囲気を壊していません。確かに人の気配はないんだけど、街灯は昔も今も変わらず道を照らしている。
日帰りの温泉客はいつの間にか姿を消しており、ここにいるのは宿泊客のみ。決して人通りが多くない道を浴衣姿で歩くだけでも落ち着くのに、周囲の建物や風景がなおさらノスタルジーな気分にさせてくる。
これだから温泉街の散策はやめられない。
ところで、最近は本当に日が落ちるのが早くなった。
今更感があるけど、17時を過ぎればもうあたりは真っ暗。山間部に位置している影響で日没の時間も早く、つまりは周囲が暗い+温泉街+外湯=めちゃくちゃ静かな空間を歩いて温泉に入りに行ける、という図式が成り立ちます。
これは…夕食後にまた温泉にGOかな。
夕食~夜の時間
その後も路地裏を散策したりして、宿に帰ってきました。
そして待ちに待った夕食の時間。
たまや旅館さんの食事は部屋食で、内容は家庭的で素朴な味付けの料理がずらり。温泉旅館の料理は個人的に気を張っていただくものではなく、温泉の余韻を楽しみながらしんみりと頂く方が好きだったりしますが、まさにそれを体現しているかのような静かな夕食ができました。
しかも部屋食ということは炬燵に入りながら食事をいただけるわけで、足元がぬくぬくの状態でこれらの品を口に運んでいるときの幸福感といったらもう堪えられない。どの料理も美味しいし、とにかく最高の環境で夕食を満喫できました。
夕食の後は、またしても散策に出かける。
確かに歩いている範囲は日中と全く同じだし、旅館の配置が変わっているわけでもないので「同じ場所を何回も歩いて楽しいの?」という意見もあると思う。
でも、町の風景って時間帯によって全然顔が違うもので、日中の比較的人が多い時間帯の町並みと、ほとんどの人が旅館に戻って静まり返った町並みは同じ場所とは思えないほど差異があります。
再度「白猿の湯」に入って、ひんやりとした夜の中を歩いていく。たまにベンチに座っては白い息を吐いてみたりして、夜の温泉街の静寂を身を任せてみるのも面白い。こういう時間の使い方がなによりも好き。
温泉街の朝は早い
その後は布団に入って就寝し、翌朝に起きたのは6時前。眠たい目をこすりつつ、しかしながら二度寝をする意欲は全くありません。
なぜならこれから朝風呂に入りに行けるから。
しかも外湯となれば朝の散策も一緒にできるし、本当に俵山温泉は自分の行動原理的にお得すぎる。
早朝の山間部ともなれば相当に冷え込むので、この時間だと行動している人はほんの一握りというわけではなく、自分と同じように朝風呂に入りに来ている人が多い。
この日の朝は「町の湯」に入りに行きましたが、予想外に人が多かったです。
のんびりと朝風呂に入れたことで途端に目も冴え、普通だったら身体を動かさずに億劫になってるのが嘘みたいな感じでシャッキリできました。
身体が温まることで行動的になれると考えれば、「冬場のライドの最初は温泉から」というのを心がけていきたい。
温泉に入った後は宿に戻り、昨晩と同じように炬燵に入りながら朝食をいただきました。
旅館の朝食の中で自分が一番好きな鮭の塩焼きもあって、ご飯が進んで仕方ない。それにしても温泉に入ってから朝食をいただけるなんて、日曜朝の過ごし方にしては非常に贅沢だ。
しかもずっと行ってみたかった温泉地でそれができているのだから、今回の遠出は疑う余地もなく大成功だ。
昨日からずっと乾燥させていた装備類も無事に乾いたようで、昨日の雨ライドが嘘のように思えてくる。
今日は打って変わったような快晴で、それは精神的にも同じ。
温泉に入っているとき、旅館で過ごしているとき、温泉街を散策しているとき。すべての体験が、自分の心を実に晴れやかにしてくれた。もう感謝するしかないです。
最後は温泉街の入り口にある饅頭屋さんで温泉饅頭をいただいた後、次の目的地を目指しました。
この後は俵山温泉から青海島を経由して萩に向かったのですが、それはまた別記事で。
おわりに
以前から山口県の温泉を訪問してみたいと思っていて、どうせなら自転車旅の行程に組み込みたいな程度に考えていたのですが、実行に移すのは案外早かったという印象です。
俵山温泉はいわゆる鄙びた温泉街に位置づけられているものの、ただ鄙びているだけではもちろんありません。
そこには確かな温泉があるし、旅館で過ごす時間も非常に楽しいものだった。そして何よりも、温泉「街」としての雰囲気が実に自分の性癖に合っているところです。私のように一人旅と思わしき人もそこそこ見かけたし、ただ温泉のみに没頭したいという人にとっては天国のような場所かもしれません。
おしまい。
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