今回は新見から米子へ向かう国道180号の途中にある千屋実という地、そこに佇むたえだ旅館に泊まってきました。
実はかねてから岡山県周辺をロードバイクで走りたいなという思いがずっと心にあって、そのライド行程の兼ね合いで宿は新見にとりました。
この宿に泊まることを決めた一番の理由は、自分にしては珍しい「食事」。
この千屋実を中心とした一体は和牛のルーツとなったとも言われる千屋牛の産地であり、このたえだ旅館もその千屋牛料理を楽しめる旅館ということで一部の界隈では名が知られている宿。話をまとめると、単純に牛肉をいっぱい食べたくなったから新見に行ってきた。そういうわけです。
外観
国道180号から橋を渡って対岸に向かい、集落の中を走っていくと突如として石州瓦の建物が見えてきます。
この建物がたえだ旅館で、表通り側には「旅館たえだ」の大きな看板があるので一目瞭然。集落内を通る道と玄関前の道の2方向に面しており、横方向に細長い構造をしていました。
古い旅館って国道とかの「比較的近代になってから造られた道」ではなく、このたえだ旅館のように旧道のそばに建っているのが特徴の一つです。
しかも周りに広がっているのは喧騒とは無縁の静かな農村風景。滞在中は至って平穏に過ごすことができました。
館内散策
館内に入る前に、たえだ旅館の歴史について。
今でこそ千屋牛が名物のたえだ旅館ですが、実は旅館業を始めたのはなんと約200年前という話なのでとても長い歴史があります。女将さんに伺った話をまとめると以下の通り。
- かつてこの地は砂鉄の採掘で栄えたところではあるが、その砂鉄が下火になったらどうするか、ということで太田辰五郎という人がこの地で1830年頃に産牛改良に着手したのが千屋牛の始まり。
- その結果、もともと小型種であった千屋牛を大型で多産和牛に改良することに成功した。その優秀な牛は「大赤蔓」と呼ばれ、現在の千屋牛の基礎となった。
※太田辰五郎は岡山ゆかりの著名人として有名です。
- 女将さんが嫁いできた時点で約150年の歴史があったそうで、今だと約200年前。女将さんは6代目とのこと。
- 旅館のすぐ裏手にかつて牛の市場だったところがあり、それが地名にも残っている。たえだ旅館はその市場に牛を見に来たり、売りに来たりした人が泊まる宿として有名だった。
- 今では団体が宴会をして、牛肉を食べてそのまま泊まるという使い方がほとんどで、個人客は珍しい。
この話を聞くと、自分が今まさに泊まっているのは和牛のルーツとなった土地そのもの。
しかも当時から営まれている宿に泊まることができて、そこで和牛をいただく。当初は食事メインと考えてましたが、予想外に自分好みな歴史ある旅館だと分かりました。
構造としては宿の方の住居と旅館が一体になったような作りをしており、1階部分で言うと玄関を入って正面が生活スペースになっています。
客室はすべて2階にあり、玄関で靴を脱いだらすぐに右手にある階段を上がる形になります。
先程述べたように団体が泊まることを想定されているため、客室はどれも5人用とか4人用といったように広めの部屋ばかりです。それでいて部屋数もかなり多く、別棟に宴会場があることからも規模が大きい旅館だと理解できる。
泊まった部屋は階段を上がってすぐ左手にある部屋で、一人で使うにも関わらず広さは9畳。今日泊まるのが自分ひとりだったことも含めると、ここまで贅沢に部屋を使えることに優越感を感じてしまう。
廊下と客室、そして客室間の仕切りはすべて写真のように襖になっていて、場合によっては防音が気になるかもしれませんが、古い旅館では結構当たり前なので個人的には気になりませんでした。
夕食やお風呂の時間まで館内を散策。
基本的には廊下の左右に客室があるシンプルな構造で、木造建築ということもあって実に静かなもの。集落の一部に属していることから車通りもほとんどなく、平穏な時間が過ぎていくのが実感できます。
古い旅館が好きでという話を女将さんにしてみたところ、この旅館で一番古い部屋である松の間を案内していただけました。
位置的にはちょうど玄関の真上にあるところなので、旅館の建物としてはこの棟から始まり、後から山側へと増築していったのではないかと推測してます。
書院や天井、床の間など見事という他なく、部屋を構成する要素の全てが一般的なものではないということがひと目で分かる。天井についてはあまり見たことがない木材だと思ってたら、なんと屋久杉を使っているとのことです。
こういう建物が今でも残っている事自体が貴重なことだし、今では旅館業がメインではないとはいえこのままずっと続いてほしい。
夕食~翌朝
そんな感じで浴衣に着替えて館内を散策し、風呂に入ってまったりしているともう夕食の時間。
電話予約の際に夕食は相当なボリュームがあると聞いていたので、予め朝食と昼食を抜いてました。千屋牛メインの料理とは一体どういうものなのかがすごく気になってしまい、そわそわとした時間を過ごしたのを覚えています。
牛肉ということはたぶんメインとなる料理が一つあって、その他は山菜料理などが並ぶのかな…程度に最初は思ってました。しかし現実はその予想を完全に上回り、メインの料理は一つではなくなんと以下の3種類。
- 千屋牛のステーキ(でかい)
- 千屋牛のたたき
- 千屋牛のしゃぶしゃぶ
上記の一つだけでも並の宿ならメインディッシュになりそうなところが、たえだ旅館の夕食はそれらがすべて出てくるから驚きというほかない。
たえだ旅館の宿泊料金はプランに応じて約10,000~15,000円と差があって、予約時に金額を指定する形になっています。
金額が高くなればそれに比例して肉のランクが上のものを楽しめるというわけで、今回は一番良いプラン(15,000円)にしてもらいました。せっかくの千屋牛だし、ここはケチるところではない。
でも改めて考えてみると、1泊の宿泊分にこれだけの食事がついて15,000円って安すぎないか?個人的には本当に大満足できるほどの料金設定です。
""肉""を心から味わうことができる、それはもう幸せな夕食だったので写真は少なめ。
これほどたくさんの肉料理、それも品質がとてもいい牛肉を食べたのは本当に久しぶりだったことや、歴史の古い旅館でそれをいただいているということがとても嬉しい。
今までは古い旅館に泊まることができればそれでいいと考えていたけど、これからは建物だけではなく「食」にも多少注目してみようかなと思います。
朝食の様子はこんな感じ。
夕食の量があまりにも多すぎたため、朝食の量は少なめにしてもらいました。なお夕食に食べきれなかった肉については女将さんに相談の上、朝食に回してもらいました。せっかくの肉なので残すのはもったいないし、対応してくれてありがたい。
おわりに
こんな感じでたえだ旅館での一夜は牛肉に始まり、牛肉に終わりました。
とにかく美味い牛肉を食べたいという人には間違いなくおすすめできるところだし、しかも鄙びた雰囲気を堪能できる静かな宿。料金プランも幅広いので様々なニーズに対応してくれます。Google mapだと閉業になってて焦りましたが通常通り営業されてます。
都市と都市との間に位置していることもあって、移動手段を問わずに行程に含められるという意味でも良い宿だと感じました。また機を見て泊まりに行きたいと思います。
おしまい。
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