以前山梨を訪れた帰りにふと気になった温泉宿があったので、今回泊まってきました。
山梨県の西山温泉は身延町のすぐ隣りにある早川町に位置しており、馴染みのあるところでいうと「ゆるキャン△」で登場した奈良田温泉への道すがらにあります。西山温泉自体が1300年以上も歴史のある温泉だし、早川町に至る道中の雰囲気も相まって、一言で言えばさながら秘境に属しているというのが第一印象でした。
その一方で、西山温泉の開湯から存在すると言われている旅館・慶雲館は、その歴史がギネスにも登録されているほどで知名度もあります。県道37号を北上していけば巨大な建物が登場してくるので、歴史だけでなく見た目的にもインパクトは大。でも今回泊まったのは、その慶雲館ではありません。
泊まってきたのは慶雲館の正面にそびえる旅館、蓬莱館です。
遠い遠い西山温泉
蓬莱館は日帰り温泉で訪れる人が多いというか、ここに宿泊したという記録をなかなか見つけることができなかったため、今現在で宿として営業されているのか正直不安なところがありました。
実際に電話してみたら泊まれますよということで、早速泊まってきました。
館内散策
蓬莱館の構造は簡単に言うと温泉棟、本館、新館と別れていて、さっき見た玄関があるのが新館です。
現在では本館はもう使われていないようで、泊まれるのは新館のみ。温泉棟は半分本館と一体化しているような構造になっており、その名の通り温泉があります。
ちなみに建物の横にはかなり広い駐車場がありますが、これは慶雲館用の駐車場であって蓬莱館用のものではありませんでした。蓬莱館用の駐車場は県道を挟んで反対側にあります(6台分程度、屋根付き)。
見た目的にはなんか廃墟のような経年劣化感を感じる外観で、いつも泊まってるような木造建築の宿とは異なった時代の経ち様を感じる。
新館1階部分はこんな感じで、ロビーや受付があります。特に日帰り温泉で訪れた場合はここでくつろぐ形になるので、スペースも比較的広めでした。
それにしても、ソファや机が実に年代を感じさせます。見た目からして一昔前のものということがひと目でわかるし、全体的に自分が生まれるちょっと前くらいの雰囲気が漂ってます。
ちなみにご主人については、宿泊客が到着するタイミングでは主に温泉棟の厨房で調理をされている様子でした。なので、チェックインを行う際には受付にある電話機でご主人を呼ぶ必要があります。
案内していただいた部屋は、さっきいた1階から階段で上に上がったところにある2階の一番玄関側。
窓の外には慶雲館が目の前にあるほか、県道も見渡せました。慶雲館の背後には南アルプスの高い山々が連なっていて、改めて自分が今山間部にいるんだということが実感できる。
部屋についてはかなり広く、ご覧のように和室の他にエントランス部分?があって、トイレや洗面所も部屋の中にありました。冷蔵庫の中には瓶ビールが3本も入っていて夕食時の準備は万端といったところだし、旅館の外観からではちょっと想像できないような豪華な造りだ。
今回泊まったのは一番広い63号室で、他の客室を合わせても全部で4部屋しかないようです。
本館はかなり部屋数が多いようですが、使われなくなった今となっては旅館全体の宿泊可能人数がかなり縮小されている感じでした。しかも1日を通して旅館の様子をなんとなく確認したところ、もしかしてご主人一人で切り盛りされているのでは…と思っています。他の人を一切見かけませんでした。
もし仮にそうだとすると相当な労力だし、旅館の広さと従業員数が明らかに合っていない。大丈夫なのだろうか。
この日は自分以外にももう一組(老夫婦)が泊まられているようで、夜に温泉に入りにいったタイミングで遭遇しました。
温泉
浴衣に着替えたところで今自分が泊まっているのは温泉旅館だということに改めて気づく。早速温泉に入りに行きました。
蓬莱館の温泉は基本的に混浴で、時間によっては女性専用時間が設けられています。
男性の場合はこの時間を外して入りに行く必要があるので、例えば朝風呂の時間は少々早起きしないといけないかもしれません。朝食は8時からなので、時間帯的にはそれを食べ終わってからささっと入りにいくのがいいかも。
温泉に向かうまでには本館1階部分を通過していく必要があって、ここがまた凄かった。
明治2年に建てられたといわれる木造の本館は、新館からそのまま通路を進んでいけば行くことができます。もっとも、ご主人曰く2年ほど前までは夏季のみ宿泊可能(暖房がないので)だったものの、現在ではもう使われていないとのこと。
蜘蛛の巣が張った階段を恐る恐る上ってみると、そこには襖で仕切られた和室がずらっと並んでいました。
長いこと人が立ち入った気配がないことから本館は全体的にホコリ臭く、いくら鄙びた宿が好きな自分としても長居はしたくない場所かなと思いました。もちろん、ここが現役で使われていたなら新館よりは本館を選びましたが。
本館の客室は本当に必要最低限の広さで、設備もほとんどありません。蓬莱館は昔は湯治場として重宝されていたとのことだし、その雰囲気が今もこうして感じられるというのは実に貴重です。
1階に戻ってさらに奥に進むと温泉があります。
浴槽はこんな感じでとても広く、日帰りよりは宿泊で入るほうがのんびりできるのでおすすめ。
温泉について説明すると、西山温泉は長湯ができるぬる湯で有名で、源泉温度は38.8℃。ただ、日によって源泉温度は上下し、今日は36℃と低いために加温しているそうです。
五葉松で作られた浴槽は3つに区切られていて、正面から向かって左側の2つが源泉温度そのままの湯船、右側が加温されている湯船(体感では39℃くらい)です。
この「源泉温度そのまま」と「加温されている」浴槽の2つあるというのが重要で、最初は加温された浴槽に入って温まり、ある程度いい感じになったところで源泉の温度を楽しむのがおすすめです。寒い時期はどうしても加温された湯は必要になるけど、やっぱり源泉温度そのままの方にも入りたくなります。
今日は源泉温度が体温よりも微妙に上くらいの温度だったために、温泉に入っているというよりは「ぬるみのある液体の中に浸かっている」感が強く、1時間は余裕でいられるくらいの快適さでした。
思うに体温と温泉温度の差が激しいほど身体が温まる一方で、長湯はしにくくなってしまう。ここではその差が限りなくゼロに近いわけで、身体がふやけるまでは長時間浸かっていられるというのがミソ。
時間は徐々に夕方から夜に差し掛かり、山間部ということもあって湯面から上は寒さを感じる。でも湯に浸かっている限りはその寒さとは無縁のままだ。むしろ湯から上がりたくないという思いが強く先行してしまい、結局自分でも驚くくらい長湯をしました。
ぬるい温泉で長湯をしたおかげで、身体はスッキリ爽快気分そのもの。
やはり温泉は全てを解決してくれる。普通に生活していて、普段となにか違うな…なんか調子悪いな…と感じたときには温泉に行くべきだと思う。人が多いような有名どころもいいけど、こういう鄙びた温泉旅館は肉体だけでなく精神の休息にもぴったりだ。
温泉に入っている最中も自分以外に人はいなくて広い浴槽を気兼ねなく独占できたし、良いことばかりです。
夕食~翌朝
夕食の時間。
夕食は部屋出しで、山菜や川魚が中心。ご主人には「若い人はあんまりこういうの食べないと思うけど…」と言われましたが、とんでもない。山の幸は大好物です。
旅館に泊まった際の食事といえばもちろん和食がメインで、合わない人にとっては合わないのかもしれない。
その後は再度温泉にいったり、部屋に戻ってお茶を飲みながらまったりしたりと自由に過ごしました。
女性専用時間があるとはいっても、自分の部屋から温泉までの間は自分しかいないようなもの。好きな時間に温泉に行き、夜の闇を見つめながらまどろみつつもぬる湯に浸かる。そうする間にも時間は過ぎていって、自然と眠くなってくる。
翌朝は、予報通り雨。
むしろ雨でよかった。雨だともう屋内でゴロゴロしたり温泉入ったりするしかないので、ある意味で諦めがつく。
鄙びた宿巡りを始めてからは「屋内で何もせず過ごす」というのもなんか好きに思えてきたし、こういう日があってもいい。
朝食の前後に温泉に行き、結局チェックアウトの11時まで眠気がとれない中で二度寝、三度寝をしてました。
客室と温泉を往復するということは、やってることとしては湯治そのもの。本来の湯治のように何週間も滞在することは自分の状況だとなかなか難しいものの、今日のように何もすることがない一日ならばそれに近いことはできる。ぬる湯なので何回も入りに行きやすいし、世俗との関わりを一切断ち切って温泉に入る環境としてはこの蓬莱館はまさしく至高だと感じます。
ご主人の人柄の良さもプラスされ、温泉そのものの良さと実家のような安心感の中で、まるで時が止まったかのようなひとときを過ごすことができる。これこそが蓬莱館の良さなんじゃないかなと思いました。
おしまい。
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