- Part 1:松山~下灘~内子
- Part 2:内子散策~小薮温泉
- Part 3:小薮温泉~四万十川流域~美馬旅館
- Part 4:美馬旅館~土佐久礼散策
美馬旅館で過ごす夜は、それはもう平和なものだった。
翌日が平日なのに旅先で一泊できるという安心感は、旅をより充実したものにしてくれる。いつもの休日なら土日だけで終了するところ、今回は余分に一日あるので精神的に落ち付けるというもの。
土佐久礼へ
休日と平日の差は、単に日曜日と月曜日という違い以上に遥かに大きい。
平日は休日と違って「世の中が動いている」というのを強く感じられると思う。月曜日の朝方ともなれば学生は学校に行っているし、勤務先へ通勤する人ももちろん多いわけだ。そんな中で自分だけが日常ではなく非日常を味わっているという現実がまず面白いし、そういうときにこそあれこれ散策してみると、次第に休日とはまた違った風景が見えてくる。
さて、今回の主な目的である鄙びた宿には二件とも無事に宿泊できたことで、今日の予定は特にない。でもこのまま輪行で帰路につくというのはこの快晴っぷりからしてもちょっと考えられないことなので、もちろんこの最終日もしっかり散策を満喫していく。
今回はライドのゴール地点を、七子峠を下った先にある土佐久礼(中土佐町)に決定。
あれこれ走り回る時間を増やすよりは、海沿いで散策に費やす時間を増やすほうが有意義だと判断した。
七子峠からの下りは想像以上に快適で、もし逆からのルートだったらなかなかに大変だったろうなと思いつつもダウンヒルを満喫した。
そんなわけで、海沿いの町である土佐久礼に到着。実はここをゴール地点に選んだのもそれなりの理由があるけど、それは追々書いていきます。
漁師の町、土佐久礼
土佐久礼は太平洋に面したこじんまりとした町で、まさに自分が好きなタイプの「ちょうどいい広さ」が楽しめる町。
広すぎると散策するには時間が足りないし、狭すぎても十分に楽しめるとは言い難い。なので、あくまで観光客という視点から見てみると土佐久礼は本当にベストな広さなんです。今回のようにロードバイクで回るもよし、歩きで散策するもよし。
普段海がない県に住んでいるだけに、たまに見る海はやはり素敵な存在に感じる。
山と比較したときの海の良さは、なんといっても波の音。それに潮の匂い。ただ目の前に海原という風景があるだけでなく、五感を最大限に刺激してくるダイナミックな情景が海の魅力の一つではないだろうか。
特に平日ともなればそれらの「良さ」がこれまた増幅された体内に響いてくる感じがしてきて、本当にここに佇んでいるだけで涙が出てくる。
当然ながら、山ももちろん好き。山はどっちかというと何も言わずに無言の迫力があるというか、海ほど音がないんだけどもそれはそれでいいというか。
結局はそのときの精神状態によってどっちに身を置いたらより落ち着けるかが決まるので、一概にどっちが優れているとかいうものではない。どっちも良いという感じ。
平日に行動するメリットは色々ありますが、一番は出歩いている人が少ないこと。観光客の騒がしい声も特に聞こえてこないので、まさに自分の世界に浸るにはこれ以上ない環境だ。
こんなときに自分がいつも訪れるのは、その町に古くからある神社が多い。神社は一つとして同じものがなく、初めて訪問した町で神社に出会うととても新鮮な気分になれる。この日も、海にほど近い久礼八幡宮で少しの間まったりしていた。
昼食はうつぼのたたき?
気がついたらいつの間にか昼間になっていた。
そろそろどこかで昼食をとる必要があるけど、実はこれがゴール地点を土佐久礼に設定した理由。高知県で「食」を楽しもうとすると必然的にカツオのたたきなどの海鮮になるわけですが、高知市周辺で食事を取ろうとすると人が多かったり、値段もそこそこ高いことが多い。
特に高知市のひろめ市場周辺はカツオのたたきで有名すぎるほど名店が揃っていて連日大盛況だし、前回訪問したときも座る席を探すのに苦労するほどの混雑っぷりでした。なので、今回はあえて高知市から離れた土佐久礼で海鮮をいただくことにしたというわけです。
加えて、平日ならそこまで人が多くないし尚更ゆっくりと食事を楽しめるはず。
土佐久礼の中心部にある久礼大正町市場は、そんな自分の願いを叶えてくれるところでした。
この市場はかつて漁師たちが獲ってきた魚を、その奥さんたちが持ち寄って販売するようになったのがはじまり。文字通りとれたての魚が販売されているほかにも、その場で魚を捌いて味わえたりもするという豪快さが売りの露店が数多く並んでいます。
そんな露店の中で、今回お世話になったのは市場の端にある田中鮮魚店さん。
ここの注文スタイルはかなり独特で、
- 店頭に並べられている中から食べたい魚を選ぶ
- (必要なら)同時にご飯+味噌汁のチケットを購入する
- 魚を捌いてもらう間にご飯と味噌汁が用意される
- 捌いてもらった魚をそのまま頂ける←神のようなシステム
という流れです。
その場で捌くという一手間が加わっていることで、「自分のために用意された感」が実感できるのがいいですね。
魚だけいただくことも可能ですが、ちょうどお腹が空いていたのでご飯と味噌汁も付けてもらいました。
店頭に並べられている魚というのはこんな感じで、同じ魚でも形によって小さいものや大きいものがあります。お腹の空き具合やお店のおばちゃんと相談しながら、一番良さげな魚を選ぶことにしました。
まずは、高知県ということでカツオのたたきを注文。まあ王道かなと。
せっかくなのでもう一つ注文したいかなと思って魚を眺めていたところ、とんでもないものを見つけてしまった。上の写真の左の方に、うつぼのたたきというのがあるのですけど…。
うつぼって、あのうつぼだよね。うつぼのGoogle画像検索結果
今まで全然知らなかったので申し訳ないんですが、実は高知県ではうつぼを日常的に食べるんだそうです。うつぼは日本近海のどこでも穫れる魚である一方で、食用としているのは和歌山県の一部と高知県くらいとのこと。
土佐を代表する海産珍味。うつぼ(ウツボ)|高知まるごとネット
今まで食べるものだとは思ってなかった魚が、たたきになって目の前にあるのも何かの縁。これはぜひとも食べてみるしかないでしょう。
というわけで、うつぼのたたきも一緒に注文しました。
どちらのたたきもポン酢で食べるそうなので、それに従ってポン酢をかけてご飯と一緒に頬張ってみる。
美味すぎる!
初めて食べる食材の味は不安が6割ほどありますが、うつぼのたたきに限っては冗談抜きに杞憂に終わりました。うつぼのたたきの味は非常にさっぱりとしていてくどい感じではなく、いくらでも食べられる感じ。それでいて食感は例えるなら鶏肉に近くて、これにポン酢とわさびをさっとかけていただくと堪えられません。
カツオのたたきについてはもう説明不要。口に入れた瞬間に適度に乗った脂と藁の芳ばしさが広がってきて、ひと切れ食べるごとに白米を大量消費してしまうほど米との相性が良すぎる。
しかも、どちらもさっき買ったように塊で販売されたものを切り分けているために量も多く、まさに質も量も非常に満足のいくものでした。これはちょっと目が点になる発見。
というわけで、土佐久礼を訪れた際にはカツオのたたきに加えて、ぜひうつぼのたたきを食べてみてください。きっと美味しいと思うはずです。おすすめ。
海沿いをポタる
昼食を大満足で終えたところで、特急の到着時刻を考慮すると散策する猶予はあと1時間といったところ。
残りの時間は、土佐久礼周辺の海沿いを流すように走ってみることにします。
久しぶりに感じる潮の匂い(といっても2日ぶり)はどこか心地よくて、日向の温暖な天候も合わさって快適な時間が過ぎていく。
ただ無心で走っているだけで気持ちがいいというのが重要で、その土地の良さを何も考えずに受け入れられるというのは貴重だ。平日の土佐久礼の町は地元の人ばかりが溢れていて、そこにはいつもの日常が広がっている。
こういう風景を見たいがために自分は遠くへ出かけている。そう考えると、まさに自分がやりたいことができていて嬉しくなってしまう。
その後は、土佐久礼に到着したばかりのときに上った避難施設から目についていた、双名島にやってきた。
この静寂感も、この季節だからこそ楽しめるものだと思う。夏になったらこのあたりも人が多そうだけど、冬の今は釣りをする人が数人いるだけ。
なんか、これだけの風景を楽しんでいるのは自分だけじゃないかと思ってきて、一種のお得感を感じた。
一面に広がる海を思う存分堪能して、最後は輪行で香川への帰路につきました。
おわりに
やっぱり、旅というものは時として突発的に行うのもいいものだ。
今回は鄙びた宿をロードバイクで回りたいという漠然とした欲求が根底にあって、行程については二の次。行きたいと思ったときがそのときで、天気の良さはそれにたまたま付いてきてくれただけ。でもこれだけ全体を通して満足できたのは、この旅の仕方が自分の性格に合っているからに他ならないと思う。
その人にとっての"旅"は人によってもちろん異なるし、誰かに言われた方法に倣う必要は微塵もない。これからもこんな感じで、自分の旅を楽しむためにふらっと遠出していく機会を増やせたらと思います。
おわり。
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