今回は、岩手県の温泉に泊まってきた話です。
岩手県は中心部に北上盆地がある以外は基本的に山が大部分を占めており、温泉地も県西部にある奥羽山脈に沿って存在しています。今回訪問したところもそんな山間部にある宿でした。
泊まったのは鉛温泉 藤三旅館。
豊沢川沿いに建つこの宿は花巻南温泉峡 鉛温泉唯一の一軒宿で、立ちながら入浴する足元湧出の温泉「白猿の湯」が名物となっています。東北の温泉を語る上では外せないほど著名な宿であり、木造3階建ての本館は外観を見ただけで歴史の風格を感じさせるほど。
開湯は600年前とされており、桂の木のたもとから湧出している温泉に白猿が浸かっていたところを発見したとされています。これが白猿の湯の由来となっていて、温泉旅館として開業したのは1786年だそうです。
藤三旅館 旅館部
藤三旅館へは花巻駅から無料のシャトルバスが出ているほか、路線バスも出ているのでアクセスは容易です。
レンタカーを使う手もあったものの、バス一本で行けるので公共交通機関を使うほうが良さげ。
「鉛温泉」で下車すると、いきなり目の前には大きな看板が。
バス路線があるのは県道12号で、まずはそこから豊沢川沿いに道を下っていくことになります。道の上は散水されているのであまり心配することはないと思いますが、この道がなかなか急なため、雪で埋もれている冬の時期だともしかしたら滑りそうになるかもしれません。
その道を下っていくと分岐があります。
藤三旅館は一般的な宿形式である「旅館部」と、長期の逗留を前提とした「湯治部」に分かれています。後者は炊事場が設けられているので自炊をすることができるほか、旅館部と同じような食事ができるプランもあるようです。写真を見る限り、両者で異なっているのは部屋の様相が豪華か素朴の違いくらいかと。
今回は旅館部に泊まるので、分岐を左へ。
これが雑誌等でよく見る藤三旅館の本館。確かに木造の3階建てで、いかにも旅館という感じの古びた見た目。さらに建物の周りには雪が積もっていて、冬の温泉宿を体現したかのような空気の中にある。
まずは早速チェックインを済ませ、お部屋に案内していただきました。
泊まった部屋はこんな感じ。
旅館部の部屋はどこも新しめの造りをしており、どことなく高級感が溢れているのが見て取れます。豊沢川に面した側が全てが窓になっているので自然光を取り入れやすく、部屋からの眺めも含めて大自然を存分に味わうことが可能。
冬場で川沿いというと殺風景ではという懸念もありましたが、案外そうでもないです。魚を捕まえに来ている鳥もちょくちょく来ていたし、何より川の流れの音は季節を問わず美しいもの。
部屋にいるだけで自然をすぐ傍に感じることができるし、例えば夏場や秋だと宿を取り巻く環境はもっと情緒深くなるはず。個人的には川沿いの宿をとって正解でした。
藤三旅館旅館部の構造はとてもシンプルで、1階に帳場やロビー、食堂と一部の客室があり、2階と3階はすべて客室です。
ルームサービス等についても充実しており、部屋から注文するだけでお酒類や簡単な肴を持ってきてくれるので非常に便利。部屋を出るときといえば温泉に入りに行くときと食事のときくらいなので、2階より上で宿泊客を見かける機会はほとんどありません。
湯治部は階段しかありませんが旅館部にはエレベーターもあるので、もし足腰が悪いという場合でも移動には支障ないと思います。
藤三旅館の温泉は以下の4箇所があり、時間によって細かく男女別が切り替わる仕組みになっています。看板とも言える白猿の湯は基本的に混浴で、時間帯によっては女性専用になる仕組み。
- 白猿の湯…天然の岩をくり抜いて作られた湯船の深さは平均約1.25mあり、立って入る形の珍しい温泉
- 桂の湯…内風呂と露天風呂がある
- 白糸の湯…展望が良い半露天風呂
- 銀の湯…貸切利用もできる温泉
注意点というほどのことでもないですが、白猿の湯以外の温泉はあまり広くありません。
洗い場の数も限られており、長湯するというよりはささっと入って出る形になると思います。特に、チェックインしてすぐの時間帯は白猿の湯以外だと桂の湯しか入れず(男の場合)、白猿の湯には洗い場が無いため必然的に宿泊客が桂の湯に集中することになります。まずは身体を洗おうということでね。
なので桂の湯には早めに宿に到着して入りに行くか、もしくは少し遅めに行くほうがいいかもしれません。
桂の湯には露天風呂もあって、首から下は快適、首から上は寒いという冬の露天風呂ならではの体験ができます。外気温が適度に低いので湯から上がるのをズルズルと先延ばしにしてしまう事態になりましたが、改めて思ったのは冬という季節と温泉の相性が抜群ということ。
こうして野外に出て湯に浸かる形だとそれを否応なしに実感できるし、自分の思っている通りに温泉の温かさが気持ちいい。やはり温泉はこうでなくては。
桂の湯の後はあの白猿の湯に入りに行きました。
白猿の湯の最大の特徴は、なんといってもその深さ。
通常の温泉では考えられない約1.25mもの水深があり、つまり座ってではなく立って入る温泉ということになります。これについては数字上では予め理解していたものの、上から覗いただけではその深さがあまりよくわかりませんでした。
しかし恐る恐る入ってみると、一気に上半身まで浸かる勢いで身体が湯の中に沈んでいく。
液体の中にこの姿勢のまま入るのは温泉プール以来のことだけど、温泉プールとは違って確かな熱がある。そして驚きなのは、立って入ることによって血流の流れが促進される影響なのか一瞬で身体が温まること。温度は個人的に適温くらいなのですが、本当にすぐにぽかぽかになれます。
さらに上の写真の通り浴室は天井がとてつもなく高いので圧迫感がまるでなく、肉体的にも精神的にも開放されたような気持ちよさで温泉を味わえました。
夜の散策~夕食
ひとしきり白猿の湯を満喫したところで、夕食前に少し外を歩いてみることにしました。
冬の夕方以降ともなれば気温は格段に低くなり、間違っても宿泊客が散歩しに出かけるような時間帯ではありません。温泉宿に泊まる場合って一度建物内に入ったらチェックアウトまで外出しないケースがほとんどじゃないかと思います。
単純に寒いからというか、外へ出る用事がない。
でも、こういうときだからこそ外へ出てみたくなるというもの。
藤三旅館の夜はとてつもなく綺麗で、夜の闇に建物の灯りが映えて実に見ごたえがありました。灯りの色はご覧の通り暖色系なので、雪中に埋もれている状況下にあってどこか温もりを感じさせているような気もします。まさか温泉に入らずとも視覚情報だけで暖かくなれるとは思ってなかった。
なお外へ出るときは長靴を貸してくれるので雪の中を歩くのも問題ありません。むしろ浴衣のまま出かけているので、本格的に冷えてくる前に中へ戻る必要があることくらいでしょうか。
しばらく歩こうと思ったものの普通に寒いのと、夕食の時間が近づいてきたので急ぎ気味で中に入りました。
夕食はこちらです。
今回の夕食は、通常のお膳プランに【A5ランクの岩手牛&白金豚のしゃぶしゃぶ】がプラスされたお得なセット。値段も通常時からそんなに変わらないので、せっかくならという気持ちでこれにしました。
やはり旅館の食事はたまらない。
その後は残りの温泉に入ったり、白猿の湯に再度入りに行ったりしました。
宿泊客が多い温泉旅館において少しでものんびり入りたいと思う場合は、夕食直後の時間帯を狙うのをおすすめします。旅館の食事の時間はだいたい同じなので、自分たちが食べ終わった時間帯だと他の人は温泉に行ってません。そもそも夕食のすぐ後に温泉に行く人が少ないし。
なので、このタイミングで温泉に入りに行けば独り占めできる確率が高めかなと思います。今回も夕食直後に白猿の湯に入りに行ったところ、案の定貸切状態でした。
寝る前に温泉に行ったので後はもう寝るだけ。
布団に横になったらいつの間にか寝てました。
翌朝
温泉旅館の朝は早い。
翌朝は6時に起床。平日だったまだ深い眠りの中にあるものの、旅先での朝はどうしても早くなってしまいがち。
他の温泉旅館と同じように藤三旅館の温泉も基本的に24時間入浴可能なので、まずは寝起きからそのまま眠気覚ましも兼ねて朝風呂に行きました。
起きるのが早いと時間の過ごし方に選択肢が生まれるのがいい。チェックアウトの時間は決まってしまっているので、あれこれ動こうと思うと起きるのを早くするしかない。
その後は栄養たっぷりの朝食をいただき、今日一日の行程に備えてお腹を満たしました。
今日はもう帰路につくだけなのでやること自体は多くないといっても、このまま朝の時間を温泉+朝食だけで終わらせてしまうのはあまりにももったいないのでその後は朝の散策に出かけました。
昨晩と同じように、長靴を履いて屋外へと出てみます。
今回歩いたのは、藤三旅館目の前の坂道を上り、南から豊沢川を渡ってぐるっと一周するコース。もちろん事前に調べたわけではなく、その場その場で行く方向を決めていたらいつの間にか一周してました。
他の宿泊客といえば、朝食を済ませて無料シャトルバスの時間を待っているか温泉に入っているかのどちらかで、もちろん外へ出かける人は皆無。清々しい気持ちで歩いていくことができて嬉しい。
昨日の天気は曇り気味だったものの、今朝はというと翻って快晴そのもの。
朝日の中にある木造の旅館。そして周りには川や山々が広がっていて、こうして引いて見ないと分からなかった絶景が目の前にある。特に豊沢川は泊まった部屋からも十二分に見ることができるのですが、視点を変えてみるとまた違った眺めになります。
部屋からの展望を謳う旅館は多く、実際に部屋に泊まってみると確かに納得の景色が得られたりします。しかしあえて別の視点からも見てみることによって、その展望の良さを再認識できたりもする。
色々歩き回ってみるのも悪くない。
部屋に戻ってからは布団に吸い込まれるように二度寝をしたり、また温泉に入りに行ったりと自由気ままに過ごしました。
最後は藤三旅館の無料シャトルバスに乗って花巻駅へ向かい、花巻空港からFDAで帰路につきました。
おわりに
長いようで実は短かった今回の旅は、こうして終わりを告げました。
こうして振り返ってみると、温泉旅館に滞在するときは体感時間がものすごく短いことに気づく。個人的には数時間しか経ってないように感じたのに、気がついたら夜、もしくは気がついたら翌朝、という事態になりがち。
時が加速しているのかと錯覚するくらいには藤三旅館でのひとときは充実そのもので、これだったら連泊してようやく体感一日くらいなんじゃないかと思います。
藤三旅館は建物、温泉、立地、そして食事と、どこを切り取ってみても自分好みの宿で大満足でした。また再訪した気持ちでいっぱいだし、そのときは岩手県をもう少し深く散策してみたい。今後も岩手県を訪れる機会は多そうです。
おしまい。
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