今回は、山形県最上町にある赤倉温泉 湯澤屋に泊まってきました。
山形県には魅力的な温泉がとても多く、特に北部を通るJR陸羽東線沿いには前回泊まった瀬見温泉を始めとして鳴子温泉や東鳴子温泉といった著名な温泉地があります。今回泊まった赤倉温泉については以前のライドで通過した際に建物がとても気になったため、積雪が多い時期を狙って訪問しました。
▼古い要素のみ見たいという場合は目次から別館へ飛べます
湯澤屋の歴史
まず最初に、女将さんから伺った湯澤屋の歴史について述べます。
- 湯澤屋は昭和初期創業で最初は湯治場として始まり、客は自炊形式で金銭のやり取りではなく野菜などの物々交換で飲食をまかなっていた。
- 建物については、まず今の芭蕉風呂がある位置に木造二階建ての建物が建てられた。温泉は館内の坂を下った先に風情ある丸い湯船があった様子。
- 次に、別館が戦争終了直後に建てられた。上記の木造2階の建物の建築から15年後くらいで、現在で築80年程度。使われている木材はこのあたりの山から取ってきてトロッコで運ばれてきたとのこと。なんでも職人さんが主に一人で建てたようで年数はかかったが、各所の意匠は大工さんの職人によるもの。寺院のような意匠が多いのでおそらく宮大工だったのだろう。
- その後は当初の温泉を現在の岩風呂に改装し、同時期に新館が建てられた。ただ昔は暖房が炭(火鉢)で、長時間使っていると一酸化炭素中毒で頭痛等の症状が出るため新館をさらに改装した。そして現在に至っている。
上記の通り、湯澤屋で最も古い建物は別館となります。実は自分が湯澤屋に宿泊することを決めたのはこの別館に惹かれたからであり、願いが叶って嬉しい限り。振り返ってみるととても心に残る滞在となりました。
外観
というわけで、まずは外観から。
湯澤屋は川に面した新館と山の斜面に立つ別館から構成され、両者は渡り廊下で繋がっています。客が主に泊まるのは新しめな新館ですが、別館も手入れが行き届いているので問題ありません。
フロントがある新館はいわゆるビジネスホテルという感じで、どのフロアも同じ造りをしています。ただ新館に泊まったとしても別館の存在を全く知ることがないまま滞在が終わる…というわけではなく、食事会場やりんどうの湯が別館1階にあるので、必ず知ることになります。
温泉街の中を流れる小国川の左岸側、細い道路を通って行った先にに建物は位置しています。
進行方向向かって右側の坂を上った先に駐車場があって、車で来た場合はこちらに止めることになるようでした。この屋上パーキングは温泉の屋上部分にあたり、つまり建物の空いたスペースを有効活用しています。
車を止めた後は駐車場の隅に設けられている螺旋階段を下って新館の玄関へと向かいます。宿泊客は玄関やフロントがあるこの新館を必ず通って自分が泊まる部屋に向かう形となって、要は宿に到着してからの導線が一つに限定されているのがかなり分かりやすい。ただ螺旋階段については雪の日だと非常に滑りやすく、少々怖い思いをしました。
で、この駐車場から川の方角ではなく山の斜面側を見ると件の別館がそびえています。
その別館がこちら。初めて見たときは感動して動けないでいたのを思い出す。
新館とは明らかに年代が異なる古びた外観に、淡い色使いで着色されている木材。それと対比するかのような朱色の欄干、凝った屋根の造り、下から見上げる形になっているために存在感を強く感じられる立地。自分で言うのもなんだけど、この建物を一度でも見たらぜひとも泊まってみたくなるはず。
しかも今日泊まるのは2階に突き出している真正面の部屋で、どこから見ても一番良い客室だと確定しているようなものでした。何も知らないでこの建物を見たら今はもう使われていない旧館だろうと思ってしまうところ、実際には宿泊ができるというから興奮するのも無理はない。
館内散策
新館 1階~フロント~客室フロア
外観を見て気分を盛り上げたところで、それでは館内へ。
最初に、湯澤屋の館内平面図を示しておきます。
新館は4階建て、別館は2階建てで両者の間には渡り廊下と地下道があり、地下道から直接行くか、もしくは渡り廊下の途中にあるロビーから階段を下ると大浴場に行くことができます。
新館1階の玄関を入って右側にフロントと売店、正面にロビーがあり、左側に行くと階段やエレベーターがあります。あと新館から温泉へ行くための地下道入口(芭蕉風呂と書かれているところ)もここにあって、渡り廊下を通るよりもかなりの近道になるのでとても便利です。
個人的にはエレベーターがあるのが予想外でしたが、普通に考えれば4階まで階段のみで上がるのはしんどい。エレベーターの年代的には新館を建ててから早い段階で取り付けたようでした。
新館の階段や廊下についてはこんな感じで、置かれているものも構造そのものも必要最小限でシンプルにまとまっています。壁や床の色合いも明るめで、こういう風に落ち着いた雰囲気がいいという場合は新館に泊まるのがおすすめ。
新館最上階からはこの通り、小国川方面の眺めがとても良いことが特徴です。
川に面した客室からももちろん同じ景色が見えるはずで、窓から自然が常に見えるというのは滞在中の体験として非常に大きいです。客室の展望がいいに越したことはなく、それでいて人工物ばかりが見えるよりは自然が見えた方がいい。
新館~別館 渡り廊下
ここからは新館3階にある渡り廊下を渡って、山側にある別館へと歩いていきました。
渡り廊下を歩いて別館ロビーに到着。ここは新館と別館のちょうど中間地点に位置し、ロビー横には洗面所やトイレ、そして温泉へ下るための階段があります。
この中間地点にロビーという休憩ポイントが設けられているのがちょっと不思議でしたが、新館を建てる前の名残りなのか、後から増築された部分なのかは分かりませんでした。女将さんの言葉の通り「この真下にある温泉の位置に2階建ての建物があった」とのことなので、その建物と別館建築との兼ね合いでできた空間と考えたほうがよさそうです。
一見するとあまり人がいないように思えますが、すぐそこに厨房があるので夕食の時間帯になると人を見かけることが多かったです。
ここに限らず、湯澤屋は館内のどこであっても日中・夜間を問わずに明かりが点いているので移動に支障はありません。個人的にはこんな風に「人通りが少ないけど建物として生きている場所」を歩いていくのが好きで、それは明かりがなくて真っ暗な通路などでは味わえないもの。明るいという時点で人が通行することを想定しているわけだから、そこに寂しいという感情はない。
別館 1階 廊下~大広間
そのまま直進すると別館に到着します。
渡り廊下は別館1階の右端に接続されており、別館に入ってからすぐ右側に厨房、正面に2階への階段があります。左側に見えている廊下を直進すると大広間があって、夕食や朝食はこちらで頂く形。新館と別館は雰囲気がまるで異なるため、例えば新館に泊まっていて夕食時に別館に初めて来たという人は驚くと思います。
また廊下の突き当りには温泉「りんどうの湯」があって、すでに触れた大浴場「芭蕉風呂」とは時間別で男女が切り替わります。別館入り口には「りんどうの湯」が今どちらなのかの表示があるので親切。
別館1階の廊下は屋外に面しているために全体が窓になっていて、館内への採光は必要十分。昼間なら電灯が不要になるくらいの明るさを得ることができ、自然光を有効活用しようという意図が見て取れます。
個人的に惹かれたのがその電灯そのもので、ソケットに裸電球のみという潔い仕様でした。一般的には上からお洒落な電球カバーを取り付けるところですが、まさにシンプルイズベスト。これらの裸電球は割りと大きめで、丸いフォルムなのもあって下から眺めているとなんか可愛さを感じる。
で、係の方に教えていただいたのが大きな一枚板を使用した廊下の床板です。
現代の一般的な廊下と比べると板幅がとても大きく(約30cm幅)、しかも廊下の端から端までずっとこの種類の板で統一されている。これだけの幅を持つ板の上を歩いているととても安心感があり、ちょっとやそっとのことでは歪みそうにありません。
別館では職人さんのこだわりが各所で見られ、「人の手による作業」を感じられるのが古い建物の良いところの一つ。ここに限らず珍しいものを滞在中に見かけた際には、ちょっと座って手で撫でたりしてました。現代のような大量生産品ではなく、他に同じものがない唯一無二の造りが目の前にあるのは素敵だ。
廊下から障子戸で仕切られた先には大広間が続き、その広さはご覧の通り。食事だけでなく宴会や結婚式などにも利用できるくらいに広大な面積があります。向かって手前側には舞台、奥側には床の間が設けられ、大広間内の空間を分ける必要がある際にはレール式の仕切りを用いるようでした。
自分がこの大広間で着目したのは、天井付近の意匠です。
障子戸の上の窓や格子状の天井、そして壁と天井との間の湾曲した構造部材などがまるで寺院のような造りになっている。寺院のような…と思った箇所は2階にもあって、想像するに職人さんがかつて寺院の建築も手掛けたことがあるのではないかと思います。詳しくないけど旅館の建物の造りとは少し違うような感じ。
しかし、これだけの空間を確保しながら強度を保っていると考えると昔の木造建築は本当に凄い。特に1階部分は2階部分の自重も加わるわけだし、色々と綿密に計算されているようです。
別館 2階 廊下
続いては客室フロアの2階へ。
まず最初に2階の部屋配置について説明。
正面の階段を上がると手前から507号室、506号室…と続き一番奥が501号室です。あくまで概略図ですが最も広いのは501号室みたいです。このように別館には客室が全部で6部屋ありますが、別館に泊まる人はそう多くないようでした。
最初の階段を上がると踊り場があり、ここには「別館新築記念」と書かれた鏡が設置されています。ただ今でこそこの建物は別館と呼ばれているものの、建てられた当時はもちろん別館の扱いではなくここがメインだったはず。一体どういうことなのか…。
踊り場からは進行方向が左に90°変わり、さらに上へと階段が続いていました。ここでよく見ると階段の手摺の上に玉ねぎみたいな装飾があるのが分かりますが、これは「擬宝珠」と呼ばれる伝統的な建築物に用いられる飾りの一種。橋や神社、寺院などで同じものを見ることができます。別館が寺院のような建築と私が思った理由の一つがこれです。
階段を上がりきると2階の廊下に出ます。
廊下は一直線に伸びていて見通しがよく、客室はその左側に位置しているので自分が泊まる部屋が分からなくなる心配もありません。1階とは廊下が通っている場所が建物の表と裏とで正反対になっていますが、2階については客室が表側に面していた方が眺めがいいのでこうなっているようです。
同じ別館内でも2階の雰囲気は特別なものを感じ、壁の色がまずピンク色というのがあまり見たことがない。昔からずっとこの色だったのだろうか?
後述するように客室の構成要素にも強いこだわりを読み取れる一方で、廊下から得られる情報だけでもお腹いっぱいになれました。
それぞれの客室へ続く入り口上部には屋根のようなものが取り付けられており、自分が屋内にいるのにも関わらず外にいるかのような感覚になります。その屋根自体も簡素なものではなく本物の屋根のように木材を使用しているほか、屋根葺手法が用いられていたり、細かな細工が施されていたりと見どころが多い。入り口に屋根を設けるのは他の旅館でも見たことがあって、これは建築年代による流行りのようなもの?
さらに壁には採光を得るための窓があって、その形や格子の組み方は部屋によって異なっていました。
廊下を進んでいくと階下へ降りるためのもう一箇所の階段と2箇所の洗面所、そしてトイレがあります。
こちらの階段を下っていくと「りんどうの湯」の前を経由して大広間までぐるっと一周できるみたいですが、今では通行する人がいない様子でした。
あと現在の階段の脇にもう一つ古びた階段が並行して残っており、古い方の階段は上部が塞がれていて通ることができません。どうやらさっき見た新しい洗面所やトイレを整備する際に階段も更新したようで、古い階段はそのままにしてあるようです。
別館 2階 泊まった部屋
今回泊まったのは別館2階の客室群の中心に位置し、おそらく雰囲気が一番良いと思われる「503号室」です。別資料によるとこの部屋の旧名は「鳥海の間」といって、建築当時から間取りなどは変わっていないことが確認できました。
広さは8畳+広縁とかなり広く、加えて入り口の右手前に布団置き場付きの2畳の小部屋が設けられています。客室内の意匠には珍しい木を使っているほか、船底天井(三角形)だったり、窓には格子が多かったりとこちらも見どころが多いのが特徴。
設備はエアコン、ファンヒーター、テレビ、冷蔵庫、ポット、内線があって、冷蔵庫の中身は空なので飲み物は館内の自販機で買う形です。洗面所とトイレは廊下にあるものを使用でき、1階に降りる必要はありません。
部屋に入ると真正面の障子戸の向こう側に広縁が見え、部屋内を見渡せばすでに敷かれている布団。フル稼働するエアコンとファンヒーター以外の音は聞こえず、窓の外を見るとしんしんと雪が降り続いている。
この日は駅から宿を暴風雪の中を歩いてきて、身体のほうはすでに冷え切っているので兎にも角にも暖房が必要なシチュエーション。そんな中で部屋に案内していただいて、最初に得られる情報がこれらというのはとても安心できました。冬場の投宿は客室に入ったときの嬉しさが倍増する季節だと思う。
入り口右手前の小部屋というのがこちらで、座布団や座椅子、服をかけておくスペースがあります。
アメニティは浴衣、タオル、バスタオル、歯ブラシがあるので正直手ぶらで泊まっても大丈夫です。
荷物を置いてじっくり室内を見て回ったところ、使用されている木材も建築に関係する技術も他では見たことがないレベルのものばかり。特に後者については木材をただ配置するのではなく、表面にわざわざ加工を施して三者を飽きさせないようにしています。
確かに建築を生業とする大工職人にとっては技術のアピールは大事なものだけど、相当に凝っているのにも関わらず部屋の全体像に溶け込むようにして馴染んでいる。”よく見れば分かる程度に色んな要素が詰め込まれている”という趣が好きになりました。
で、その部屋から足を一歩踏み出した先にあるのがこの広縁。
一般的に想像するような旅館の広縁とは異なり、私はここまで幻想的な雰囲気の広縁を見たことがない。4面のうち3面がガラス窓になっていて抜群の明るさを誇る立地、床に敷かれている絨毯、そしてその上に乗っている洋風の椅子と机。別館の外観や客室こそ思いっきり和風なのに対し、この一角だけが洋風で和洋折衷の造りになっています。
初めてこの広縁を見たときには思わず見とれてしまうほどでした。
広縁の窓は建築された当時の木製サッシのままで、隙間が結構あるので広縁内はほぼ外気温に等しいです。客室内で暖を取ろうとすると客室と広縁の間にある障子戸を閉めなければならないものの、それでも広縁の椅子に座ってのんびり過ごすことをやめられない。昔から変わっていないこの空間に自分が居るという事実だけで、湯澤屋に泊まってよかったと感じました。
こんな風に素敵な広縁ですが、個人的には少なくとも別館に泊まるのであれば冬の時期がいいと思っています。別館のすぐ裏手が山になっているため、暖かい時期になると虫の存在を無視できなくなる。古い旅館全般に言えることですが滞在するのは寒い季節の方が良いです。
広縁からの眺めはこんな感じで、別館のすぐ前がちょっとした高台になっているので高低感がすごい。目の前にある新館よりも高い位置にあるのが分かると思います。
今日の天気は朝から晩までずっと雪が降り続いており、まさに今現在も窓の外は雪景色。しかも昼間は風が強かったので一時はホワイトアウトして何も見えなくなるなど雪国らしさを感じる。季節感を室内からダイレクトに見ることができるのはいいですね。
とりあえず座椅子に座ってお茶を入れ、案内の冊子を眺めながらこれからどう過ごすかを思案する。
とりあえず夕食前に温泉に入りに行き、食後にはまた温泉に入って寝るといういつも通りのプランにしました。
温泉
湯澤屋の温泉は芭蕉風呂(天然大岩風呂)とりんどうの湯の2箇所あり、朝5時で男女が切り替わるようになっています。24時間入ることができるため、気分に応じて何回でも入りに行けます。
- 源泉名:湯澤屋2号源泉
- 泉質:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩源泉(低張性アルカリ性高温泉)
- 泉温:70.0℃
- 知覚的試験:無職清澄にして異臭味なし
- pH:8.5
宿泊した当日に入れるのは芭蕉風呂の方なので、まずはそちらに向かうことに。
ロビーから階段を1階分下ると屋上パーキングのフロアになり、さらに1階分下ると温泉のフロア(表通りと同じレベル)に付きます。温泉のフロアについてはボイラー室や倉庫、洗濯機がある一角があったりと裏口的な雰囲気がありました。
階段を最後まで下って廊下を直進すると右側に脱衣所があって、そこに入らずに正面を見ると新館へ続く階段と通路がありました。この通路は表通りの道路の下を通っているため、後から追加工事によって繋げたみたいです。
この通路のおかげで新館から芭蕉風呂へ向かうのが非常に楽で、別館に比べると上り下りも少なく済みます。
芭蕉風呂はこんな感じで、浴室に入って左側に洗い場、右側奥に大きなコの字形の湯船があります。食室内は照明が必要最小限のみに抑えられており、適度な薄暗さがあるのでさながら洞窟の中にいるみたい。湯船自体は大きいので収容人数は多め。
温度については自分的には若干熱めですが、肩まで浸かったり半身浴になったりを繰り返していると長湯ができました。今日はそこそこの人数が泊まっていたはずなのに遭遇した人は一人しかなく、湯がかけ流される音を聞きながらゆっくりと入れた感があります。
温泉宿の温泉って建物の年代とはあまり関係がないところが多いので、実際に訪れてみるまではどんな浴室なのか、湯船の形や広さ・材質はどうか…などが毎回楽しみでもあります。木造旅館のみだったら建物の構造や間取りにある程度想像がつくところ、温泉については全く予想がつかないため千差万別。
温泉から上がった後は部屋に戻り、広縁に座って夕食の時間を待つ。広縁は寒いので当然ながらあっという間に身体が冷えるものの、せっかく広縁があるのだから座る以外の選択肢がない。
夕食~翌朝
それでは、夕食の時間(今回は18:30)になったので階下の大広間に向かいます。
夕食会場の大広間は大きな空間をレール式の仕切りで区切る形で、今回は奥側がグループ、手前側が個人客で分けられていました。このとき別の一人客の方がいるのを知ったのですが、別館では見なかったので新館に泊まられているようです。
ちなみに厨房がすぐそこにあり、配膳はもちろんのこと宴会時の飲み物の追加なども便利そうでした。旅館によっては食事が部屋出しで厨房からかなり遠い(=準備や片づけが大変)なところもある中で、湯澤屋はその辺りが比較的楽そうです。
今回の夕食の内容はうるいや行者にんにくの和え物、ブリの照り焼き、刺し身、天ぷら、最上牛の陶板焼き、イワシそば、ホタテのお吸い物など。山の幸から海の幸に至るまで満遍なく味わうことができました。
酒を飲まなかったので最初からご飯を持ってきてもらい、熱々のご飯と一緒にこれらの料理を頂く。思い返せば極寒のなか歩いて旅館までたどり着き、かと思ったら温泉でしっかり身体を温めた後に再度広縁で冷やすという忙しい一日でした。これによってお腹も空いているというわけで、夕食の美味しさが何倍にもなったのは紛れもない事実。
自分の場合はおかずとご飯をセットで食べるのがもうマストになっており、どちらかが欠けても満足のいく食事になりません。米どころの山形県ならではのご飯をいただきつつ、夕食の時間は静かに過ぎていきました。
夕食後は一度外へ出て夜景を見に行き、その後また温泉に入りに行きました。
一度宿に到着したらもう外出しないという人が大部分だろうけど、なんか夜景が気になったという理由だけで外へ出てみました。ずっと降り続いている雪はここにきて激しさを増し、短時間だったとはいえ少し濡れる程度。そんなシチュエーションで眺める別館はとても幻想的で、外に出てきてよかったと思えます。
1階は夕食のために大広間と廊下が点灯されているので明るいのに対し、2階の客室フロアの明かりは自分が泊まっている503号室のみ。しかも広縁だけがボヤッと浮かび上がっているように見えて、自分の狙い通りの景観がそこにあった。
部屋に戻ってからは広縁でしんみりと身体を冷やした後、就寝。
思えばこの寒さも冬にしか味わうことができなくて、「冬に温泉宿に泊まらないと体感できない寒さ」と考えると趣がある。湯澤屋が建てられてからもう何度冬が訪れたのかは分からないけど、今夜みたいに音もなく、ただ雪が降る夜があったのは間違いのないこと。建物だけが覚えているいつかの過去と同じ状況に自分は同席している。それだけで今日は満足だ。
翌朝は自然に目が覚め、エアコンとファンヒーターのスイッチを点けてから再度布団に潜り込む。そこから30分くらいは惰眠をむさぼってからの起床になりました。
まずは朝風呂として男湯に切り替わっている「りんどうの湯」に入りに行き、眠気を覚ますことに。
りんどうの湯の広さは芭蕉風呂の1/4程度ですが、洗い場の数は複数あります。翌朝のこの時間帯は男湯がここになるため、入るのは自分だけだろうと思っていたのが実際には別の宿泊客が大勢入りに来ていました。旅館の朝風呂がここまで盛況なのは個人的には珍しい。
温泉の後はそのまま朝食へ行き、朝から元気が出る朝食を頂きました。
この日に乗る電車の時間が遅めだったためチェックアウト可能時間まで部屋で寝るなどしてゆっくり過ごし、布団の暖かさを名残惜しく感じながらの出発。公共交通機関による移動だと出発の時間を遅めに設定できるので今後は活用していきたいです。
おわりに
赤倉温泉の湯澤屋はまず別館の建築の素晴らしさに驚き、滞在中は新館や別館を含めた館内の移動が楽しいと思える魅力的な宿でした。水平方向だけではなく上下方向の移動も多めで、部屋から温泉、大広間と歩いていくのがシンプルに面白い。もちろん温泉や食事もとても満足のいく内容で、女将さんや係の方の親切さも心に残りました。
古い木造建築の客室や広縁で過ごす時間はかけがえのない体験になり、暖かい時期になったらまた訪れたいと思っています。
おしまい。
コメント
コメント一覧 (2件)
たま様の記事更新をいつも楽しみにしております。記事中いくつかの旅館は泊まったことがあるのですが、まだまだ魅力的な場所があることを知ることができました。投稿された写真はいつも水平垂直がきちんと出て、見ていて安定感がある上、自分で現地に行ったら必ず撮影しているだろうな、と言うポイントがきっちり記録されていて、雪の日の寒さや温泉の硫黄臭まで漂って来そうな臨場感があります。本が売れない時代ですが、書籍化希望、と無責任に願っておきますw これからもお体気をつけて、無理ないペースで投稿を更新してください。
南様 コメントありがとうございます。
写真については撮影後に編集で意識して水平と垂直を出すようにしており、実際に見やすいとのことで安心しました。私が書いた鄙びた宿の宿泊記録が、南様の宿選びの一助になれば嬉しいです。今後も本ブログをよろしくお願いいたします。