毎年春に行っている恒例の青森県ライド。春の青森といえば弘前公園の桜が世界的に有名であり、自分も一度訪れてからというものその虜になっています。今回も特に深く考えず飛行機を予約したところ、当日の天気が優れすぎている予報だったのでガッツポーズを決めながら小躍りしてました。
ただ今回のライドはいつもの花見中心のライドから少し趣を変更し、毎回行っている弘前市以外のところにも足を伸ばしてみるのが主な目的です。春が訪れて多少暖かくなってきたとはいえ東北はまだ冬。2泊3日での日程で温泉多めの旅をしてきました。
- 1日目:青森空港~五所川原~黒石
- 2日目:黒石~秋田県小坂町~奥奥八九郎温泉~嶽温泉
- 3日目:嶽温泉~岩木山~弘前市街地
訪問時は弘前公園の桜の開花具合が若干早めだったため、少しでも開花が進んだ状態を味わうために弘前市街地の散策を最終日にも持ってきました。それを基準にして1日目、2日目の行程を決めています。
青森から五所川原へ
そんなわけで青森ライドの1日目がスタート。今日走るルートは明日に備えての準備区間的なところがあって、変なルートは走りません。具体的には青森空港から遠回りをしつつ五所川原へ向かい、そのまま南下して弘前市街地をスルーして黒石まで行って宿泊です。
思い返してみれば青森空港に降り立って真っ先に向かうのは県道27号~国道7号であって、五所川原市やつがる市方面にロードバイクで向かった記憶がほとんどない。津軽鉄道に今後乗ることがあったらメインの目的地として訪問することになるんだろうか。
青森空港から青森市街へと下り、県道26号(あすなろライン)は冬期通行止めだったので北にある県道2号を通って五所川原市や方面へ。津軽半島東側の海沿いから内陸部にかけては山が広がっており、自動的に軽いヒルクライムをすることになります。
この県道2号というのが個人的にかなり好きになった道で、交通量が全くないため自然の音のみが聞こえてきて景色を楽しみながらのんびり走ることができる。まだ雪が残る静かな大自然のなかを通っていると精神的に休まりますね。
早めの昼食の場所に選んだのは、津軽鉄道 芦野公園駅に併設されている赤い屋根の喫茶店「駅舎」というお店。こちらはFDAの機内雑誌で紹介されていたのを読んで以来、ぜひとも訪れてみたかったところです。
その名の通り芦野公園駅の旧駅舎をそのまま活用している喫茶店で、赤い屋根がとても目立つ素敵な外観をしています。お店の横の芦野公園は花見の季節になると人手が多くなりそうですが、今回はまだ開花すらしていない状況だったので空いていました。
雰囲気の良さに感動しながらりんごカレーを注文。自分は旅先でカレーってあまり注文しないので新鮮で、辛さ控えめな味付けも自分によく合っている。
青森を訪問する際には弘前を中心に工程を組むのがほとんどだったため、市街地から離れたところで食事をとるという選択肢自体が少なかった。今回は今までの通例を覆すような行程にしたいと考えていて、今まさに弘前から遠く離れた五所川原の地でカレーを食べている。この選択は思った以上に気分が良かったです。
「お気に入りの土地」を訪ねること自体は毎年やりたいとは思っているものの、毎回全く同じというのは次第に飽きてくるもの。少しずつ微妙に変化を感じるような旅にしていきたい。
食後はお店の裏手にある芦野公園駅のホームに行ってみました。元駅舎なので当然ながら店内の裏口からそのままホームに行くことができ、いくら駅チカの店といってもここまで近いのは見たことがない。
食後は今日の宿がある黒石市まで向かうために五所川原から黒石に向けて南下。
国道をただ通っても面白くないので県道38号を中心に交通量が少ない道路を選んで走行し、途中で日帰り温泉の「高増温泉大衆浴場 不動乃湯」と「大和温泉」に立ち寄りました。季節が季節だったら最終的に汗をかくのでライドの途中で温泉に入っても意味がないものの、この後はもう宿に直行するだけなので無問題。町に溶け込むようにして佇む日帰り温泉で休むことができました。
それにしても青森県はちょっと走れば温泉があるので一休みにちょうどいい。住宅地の真ん中にあったり田んぼの近くにあったりとロケーションも千差万別で、本当に温泉好きにはたまらない県だと思います。
黒石の遊郭での一夜
この日の宿に選んだのは以前泊まったことがある黒石の元遊郭旅館・中村旅館です。
旅先の時間を濃いものにしたい自分としては、ただビジネスホテルに泊まるよりも歴史のある旅館を積極的に選んでいきたい。一度泊まった旅館を再訪するのは個人的に珍しいけど、中村旅館は八甲田の麓などのちょうどいい位置に建っているので選択肢に入りやすいです。
前回の訪問時とは自分の自転車が変わっているのに対し、中村旅館の館内はあの時のまま。内装はもちろん窓から差し込んでくる陽の光もまるっきり同じで、変わらない良さはここにはある。女将さんが自分が以前泊まったときのことを覚えてくれていたのも嬉しいです。女将さんは話好きなので今回も会話が弾みました。
なお前回出発時にお見送りをしてくれた猫のしまじろう君は、残念ながら一昨年の年末くらいに亡くなってしまったそうです。ただしまじろう君の子供2匹やたまにやってくる野良猫も含めて、現在は3匹の猫が旅館にいるみたい。なんでも野良猫については手懐けようとしているとかで、自分が玄関から外を見ているとどこからともなくやってきて座り込んだりもしてました。子供についてはメスは人見知り、オスの方はケージ越しだが撫でさせてくれたので嬉しい。猫ちゃん達については今後の動向が気になります。
滞在中は女将さんにリンゴジュースやアイスを頂いたりもして、やっぱり旅先の宿が記憶に残るかどうかって設備や食事の内容だけじゃない。何度も訪れたいと自分が思うのは理由がある。
今回も前回と同じく1号室に宿泊しました。中村旅館の中では一番格式が高い客室で、ここに泊まっていると静かで安心できる。ちなみに同日に泊まっていた人は連泊で、近所の親戚の家の片付けに来ているそうです。
そんなこんなで時間は過ぎていき夜の時間、中村旅館は素泊まり or 朝食付きプランのどちらかなので夕食は近所の飲食店に行くつもりだったけど、なんと女将さんに日本酒(300ml)を頂いたのでスーパーでおかずを買ってきて部屋で飲むことに決定。
日本酒は中村旅館の隣に位置する鳴海酒造の菊乃井。鳴海酒造は文化3年(1806年)創業で中村旅館が全盛期だった頃から存在していたお店であり、「遊郭旅館で地酒を飲む」という当時の人と同じ体験ができたことに圧倒的感謝です。ここはまた泊まりたい。
最後は健康的な朝食を頂いて青森滞在の2日目が始まる。
今回も心に残る良い宿泊ができた。今度来るときには猫ちゃん達ともう少し触れ合いたいな。
至高の野湯を目指して青森と秋田の県境へ
2日目のメインイベントは、秘湯として名高い奥奥八九郎温泉へ入りに行くこと。
奥奥八九郎温泉は人工的に管理されておらず自噴している温泉、いわゆる「野湯」に該当する温泉であって、自然100%のままの温泉が味わえる反面、何かの拍子で入れなくなる可能性が非常に高い場所でもあります。また野湯はアクセス自体が困難を伴うケースが多く、道なき道を通ることも多くない様子。そういう意味では奥奥八九郎温泉はまだ行きやすいのかもしれない。
場所としては大鰐町からさらに南下したところにある青森県と秋田県との県境周辺にあり、まずはそこまで向かう必要があります。黒石から県道13号を通って大鰐町に到着し、さらに国道7号~国道282号の坂梨峠をパスして秋田県へ。ヒルクライムを挟めば温泉の気持ちよさが何倍かになると思えば疲れも大して気にならない。
近年の訪問記録をネットで色々調べたり問い合わせた結果、奥奥八九郎温泉の訪問は完全自己責任となりますのでご注意ください。
道中はこんな感じで途中から数kmのダートになります。
車なら苦労しそうですが、自転車なら最悪押し歩きすれば通ること自体は可能。「温泉の先客」の方と遭遇しながらも奥へと進みます。ただ季節が季節なだけに人間よりも熊に遭遇する可能性の方がよほど高いので気が気ではありませんでした。周りの景色の良さも、どこかの木の陰に熊が潜んでいそうでむしろ恐怖を感じる。
小坂川の支流の西ノ又沢という川を上流に進んでいくと、突如として地面の色が明確に変わっている一角があります。ここが…奥奥八九郎温泉。求めていた野湯に遂に到着した。
なお周りのトラロープについては立ち入りを禁止するものではなく、「ここは公衆浴場法第一条の入浴施設ではありません。そのため入浴及び野営に関しての事件・自己・災害・疾病に関しては一切責任を負いません」と記載されている注意書きです。念のため。
早速中に入ってみた結果、これをどう形容すればいいのだろうか。
赤茶けたオレンジ色の地面の一部に温泉がこんこんと湧き出ており、しかもボコボコと音がするくらいに湧き出る勢いが強い。絶え間なく自然の湯船に供給される湯は濃い炭酸性で、多量の炭酸ガスとともに地表に出てきているようです。あまりにインパクトが強い光景だ。
ここで突っ立っているのもあれなので、意を決して入浴開始。大自然の中で服を脱ぐという体験を久しぶりにしました。
現在の奥奥八九郎温泉は全盛期(?)から規模が大幅に縮小されているらしいですが意外にも湯船は深さがあり、人間一人が余裕を持って入れる程度の広さもあります。沈殿物も比較的少なく、温度についても41~42℃程度でしっかり温まることができて冷たいのか熱いのかの事前情報を得ないままやってきた身としては嬉しい誤算。春の柔らかな日差しが降り注ぐなか、しばらくのあいだ独占状態でまったりと入れました。
あと一番嬉しかったのが、心配していた虫の影響が全くなかったこと。川の近くの野湯ということで気温が高くなればアブの襲来で入浴どころではないと思います。かといって寒い時期だと積雪がすごそうだし、個人的にここしかないと思えるタイミングで訪問することができた。自然が相手となれば予想通りにいかないのが一般的だけど、気温・環境・天気・人の少なさ・そして動物に遭遇しなかったこと。すべてが噛み合って貴重オブ貴重な体験になった。神様ありがとう。
嶽温泉での一夜
この日のメインイベントが無事に終了したためまずは一安心。ただ後はヒルクライムを挟んで青森県に戻って岩木山方面に向かい、宿がある嶽温泉まで再度ヒルクライムをするところまでライドは続くので気は抜けない。
ルートについては大鰐に戻るところまでは往路と同様で、そこから嶽温泉までは県道中心で走りました。
向かい風にやられたものの特に何事もなく嶽温泉に到着。弘前市街地からだと岩木山神社まではスッと上れるものの、そこから嶽温泉まで行くのは結構疲れる。岩木山総合公園あたりが一番キツい。
県境周辺はそんなに雪が残っていなかったのに対して、嶽温泉周辺はガッツリ残ってて気温も低かったです。これは県内に平地もあれば高地もある青森県の地形ならではの事象だし、ロードバイクで移動していく道中で景色だけでなく季節も視覚的に切り替わっていく。ちょっとお得気分だ。
この後は早目の時間に小島旅館に付き、温泉と食事を楽しみました。宿泊記録は別記事にまとめています。
岩木山の日帰り温泉と弘前公園の桜
青森3日目。
最終日である今日は嶽温泉からゆるゆると市街地へと向かい、あとは気ままに過ごして空港に向かうという流れ。初めて行く場所ならまだしも何度も訪れているところなので時間の使い方を気にすることもない。
よく考えてみれば岩木山の南側をじっくり走ったことが少ないな、と思ったため岩木山神社方面に向かう前にちょっと寄り道。
嶽温泉から南側へ向かうと小さな集落があり、そこから岩木山を望む風景が綺麗だったのでしばらく佇んでいました。寒い時期は空気が澄み切っていて深呼吸するだけで美味しいし、大気中に余分なものが少ないために青空がさらに美しく見える。ふと横の川を眺めれば雪解けの水が流れていて、自然を見るだけでもう冬が終わろうとしていることが理解できる。
青森ってどこを訪れても人間の生活の傍らに自然が存在することを認識できるのが好き。集落と自然との割合がちょうどよくて、そこをロードバイクで走っていくと本当に気持ちが良い。
ひとしきり晴天を浴びた後、軽いダウンヒルを経てリニューアルしたという百沢温泉へと入りに来ました。
ここは観光客も多く訪れる宿泊施設兼日帰り温泉で、施設の老朽化等の理由より2023年9月から休業していたところを吉本興業所属の芸人・あべこうじさんが取得して2024年4月27日に営業再開されました。源泉かけ流しの温泉を楽しめるということで、しかもタイミング的にも営業再開したばかりで運が良い。これはぜひとも入りに訪れるしかないだろう。
営業開始時間とほぼ同時に訪問したため日帰り入浴客はまだ他におらず、やや緑がかった熱めの温泉をじっくりと独占状態で堪能できました。「身体の芯から温まる」とはまさにこのことで、湯に浸かったり半身浴をしたり、湯船の外で涼んだりしながら効能の強さを味わっていく。ここは…また青森でお気に入りの温泉が一つ増えたな。
温泉の素晴らしさももちろんありますが、平日に日帰り温泉に入っているという事実だけで余計に心地よい気がします。社会人になってしまえば平日=労働日となるため休息することができず、身体と精神が休まるのは休日のみ。そういう意味では平日の訪問は開放感を味わえてよかったです。
その後は行きつけとなっている悪戸のアイスに立ち寄ってのアイスタイム。春や夏の時期はここにこないと弘前に来たという実感が沸かない。
日帰り温泉からのアイスを接種した後は市街地へ移動し、満を持して弘前公園で花見をしていくことに。
桜はこの3日間で開花がかなり進んだようで予想以上に見頃になってました。それでいて天気は快晴、風が強くない、平日で観光客が少ない等々花見をする上で良いことづくめ。2日前に青森県に降り立ってから運がいいと感じることばかりだ。
桜って毎年開花する時期が違うし、天候次第で開花状況も微妙に変化して一様ではない。ましては世界的に知名度が高い弘前公園の桜を見ようと思えば飛行機の予約や宿の確保、移動経路など花見までに検討しなければならない事項が多い。そういう諸々が当日になってうまく噛み合ってくれて目の前に絶景が広がっているとなれば、もう感無量だ。
最後は煉瓦亭で遅めの昼食をし、青森空港へ自走して春の青森ライドは無事に終了。
最初から最後まで新鮮味にあふれるライドができたことにまずは感謝したい。今までに行ったことがない市を訪ねたり温泉に入りに行ったりと、青森県のことをまた少し知ることができた気がします。
おしまい。
コメント