嶽温泉 小島旅館 江戸時代創業 岩木山麓の温泉宿に泊まってきた

今回は青森県弘前市の嶽温泉 小島旅館に泊まってきました。

青森県はその全域に魅力的な温泉が点在しており、その中でも岩木山や八甲田山といった山の近くには特に好きなタイプの温泉が多いです。岩木山がある弘前市は個人的に毎年訪問している都市であって宿泊先を都度変更しているのですが、今回の春の訪問時は気分的に嶽温泉に泊まりたくなった。背景についてはそういうわけです。

小島旅館の歴史をご主人に伺ったところ、江戸時代の営業許可証のコピーが残っているので江戸時代創業らしいと仰っていました。3階建ての館内は適度にリフォームされていて上下方向の移動が楽であるほか、後述するように温泉や食事がとにかく一級品。天気がいいこともあって心に残る宿泊となりました。

もくじ

外観

まずは外観から。

弘前市街地から雪解けが進む岩木山麓までロードバイクで走って嶽温泉に到着。季節的には春とはいえ道端には積雪が多く、嶽温泉周辺の風景だけ見ればまだ冬が残っています。

小島旅館の場所は以前泊まった田沢旅館の真正面にあたり、どちらに泊まってももう片方を視認できる立地となっています。嶽温泉街のなかでは小島旅館は最も高所にあるので存在感も抜群。宿の外観を詳しく述べなくても、岩木山登山等で嶽温泉を訪れたことがある人なら一発で認識できるはずです。

小島旅館の外観
玄関

小島旅館の外観。

一見すると右隣の建物も小島旅館の建物のように見え、最初に訪問したときはなんて横に長くて巨大な旅館なんだと度肝を抜かれました。実際には向かって左側の白い壁の建物が小島旅館で、右側の建物はまた別の宿のようです。

高台に位置しているために建物背面に木々などが何もなく、特に今日のような快晴だと白っぽい外観が青空に映えて美しさが際立っていました。玄関真上には大きな「小島旅館」の文字と、さらに屋根付近には屋号「山印(入山形)に万」が示されています。表に旅館名だけでなく屋号まで記載されている旅館は珍しいような気がする。

館内散策

1階 玄関~玄関ロビー

外にいても寒いだけなので早速館内へ。

この日はロードバイクで青森県と秋田県の県境にある野湯に入りに行って走行距離的に割と疲れたので、早めに宿で休むことにしました。

玄関の様子

手動の引き戸を開くと広々とした玄関が出迎えてくれ、その正面に玄関ロビー(小)があります。

1階から2階へ上がる階段は2箇所あり、そのうちの一つが玄関土間の右側から上階に繋がっていました。昔の建物は玄関周辺に階段を設けているところが多い気がしますが、小島旅館の階段は途中で右方向に折り返して玄関の上を跨ぐようになっているのが特徴。空間を有効に活用しています。

実は小島旅館の1階部分は玄関からすべて見渡すことができ、四方以外の壁が必要最小限なので見通しが良いです。到着した客を奥の厨房から視認しやすいという意味で合理的な造りだと感じました。

玄関を上がって左に進むと玄関ロビー(大)があり、大きなソファがいくつも並べられているので収容人数はとても多い。やっているのか不明だけど日帰り温泉等で訪れた時に一休みするのも楽そうです。

ロードバイクについては写真の通り、ご主人のご厚意で玄関ロビーに置かせていただけました(ブルーシートを敷いて逆さま状態)。お話を聞いたところ稀に自分みたいにロードバイクで泊まりに来る人がいるらしいです。岩木山周辺は青森県在住のロードバイク乗りにとっては定番コースみたいで自分以外にも走っている人を見かけることがあって、その延長線上で宿泊しに来るのだろうか。

奥へ進む

玄関ロビーを過ぎて建物の奥へ向かうと右側にエレベーター、左側にもう一つの階段、正面に厨房があります。個人的に意外だったのがこのエレベーターで、てっきり古い旅館なので階段しかないだろうと思ってました。エレベーター付きなら足腰が弱い人でも比較的気軽に訪問できそうですね。ちなみに館内にはWi-Fiも整備されており、うまく近代化されていると言えます。

あとエレベーターの前に青森県の日本酒やビールなどの飲み物を冷やしている大きな冷蔵庫が置かれていて、これは見せ方がとても上手い。こんな印象的な光景を見てしまったら夕食のときまで絶対に記憶に残るだろうし、客が酒類を注文する機会を効果的に引き上げている。

玄関ロビー周辺には古い観光案内や写真などが展示されていて眺めているだけでも楽しいです。

そんなわけで、ここから小島旅館での滞在がスタート。今日の宿泊者は自分を含めて2組のみ(老夫婦と若い女性の3人組)なので温泉もゆっくり入れるだろうし、宿泊先でのひとときを充実させたいなら週末以外の日を選んでみるのも一考だと感じました。

2階 廊下~大広間

ここからは2階より上に上がっていきます。

小島旅館は比較的シンプルな造りをしていて階段は建物の手前・中央・奥側に計3箇所(1~3階間が2箇所、2~3階間が1箇所)、客室は2階と3階に、温泉と食事会場である大広間は2階に、トイレと洗面所は各階にあります。高台に位置していますが建物正面(温泉街中心部)に面している客室は3階の一号室〜三号室のみで、残りの客室は奥まったところにあるので展望はありません。

ここの階段は若干狭い

1階から2階への階段には「浴場は2階に上がって奥の突当りです。」の文字が。

こういう風に館内の表示を一工夫しているのは個人的に好きな要素です。ただ単に機械的に「温泉→」と示されているよりも馴染みやすく、館内表示ってその旅館特有の色が出やすい部分だと思う。

2階廊下 建物正面から奥側を見る
2階廊下 さらに奥へ

2階の廊下についてはこんな感じで、途中で若干折れ曲がって方向が変わります。部屋は廊下の左右に配置されており、客室・旅館側の物置や準備室等も含めて部屋数はかなり多め。

温泉の入口
温泉前の洗面所

そのまま廊下を建物奥側に進んでいくと突き当りに男女別の温泉(内湯のみ)があります。

温泉の前には洗面所があって便利なほか、向かって左方向には2階と3階をむすぶ階段が設けられています。これによって3階に泊まっていたとしても温泉までアクセスしやすいです。

2階廊下 建物奥側から正面を見る
食事会場の大広間

逆に廊下を建物正面側に進むと食事会場である大広間があり、朝食・夕食はここでいただく形になっています。大広間は人数に応じて仕切りの有無を調整できる造りで、今日の宿泊者は2組だけなので写真の通りの広さになっているようです。

なお小島旅館正面側の2階はこの大広間が占めているため、2階に泊まる場合の客室はすべて奥まった場所ということになります。床の間は面積広めでしっかりつくられていてどことなく格式が高く、窓からは自然光が入ってきて穏やかな感じ。食事会場として十分すぎるほど良い部屋でした。

3階 廊下~2階 大広間前~1階 玄関

今回泊まる部屋が3階にあるため、そのまま2階から3階へと移動しました。

建物中央の階段を上がったところ
建物奥側の階段を上がったところ

さっきも書いたけどこういう館内表示が好き。

3階廊下 建物奥側から正面を見る
建物正面方向へ
2階大広間の前へと続く廊下

3階も基本的には2階と同じ造りをしており、目に見えて異なるのは廊下の色くらいで客室の配置やトイレ・洗面所の有無は2階とそう変わりません。しかし建物正面方向へ向かうと部屋配置の趣がガラッと変わっている一角がありました。

廊下を建物正面に進んでいくと2階では大広間があった場所に客室一号室〜三号室があり、それらの客室の手前の廊下は2階に比べて広くなっています。客室前の廊下の左右の端には2階への階段があり、どちらを通っても大広間に行くことが可能です。上の写真に示しているのは廊下の右端にある方の階段ですが、最初はここに階段があることに気が付きませんでした。館内は近代化されているとはいえ各所には古い造りが残っており、この細い階段もそのうちの一つ。発見できてなんか嬉しいです。

客室一号室〜三号室前の廊下の左端の様子。2階への階段がある

客室前の廊下を逆に左端まで進むともう一つの階段があって、こちらは目につきやすいです。

大広間の建物正面側に降りることができる

館内散策中に驚いたもう一つのポイントがこの2階の風景です。大広間を最初に訪れたときは障子戸(+窓)のすぐ向こう側が屋外だとばかり思っていたのが、実際にはこのように大広間と屋外との間には大きめの廊下が設けられていました。

今まで旅館に泊まってきたことを踏まえての自分の考えとしては、客室や部屋が外に面しているのが比較的新しい造りで、客室と外との間に廊下が通っているのが比較的古い造りというもの。小島旅館の建物正面側の階段や廊下の配置はどちらかというと古い造りのもので、階段が一直線ではなく折り返している点からも歴史を感じました。

この廊下は日当たりがとても良い
廊下からの眺め。嶽温泉街が一望できる

そのまま階段を降ると玄関前に到着。

館内に階段が多いためどこを目指すにしても最短距離で移動できる上、そもそもエレベーターがあるので移動が苦になりません。でもまあせっかく古い旅館に泊まっているのだから…と思って、特に意味もなく各所の階段を上り下りしてました。旅館に宿泊する際には隅から隅まで自分の脚で歩いてから休憩に入りたい。

3階 泊まった部屋

小島旅館には一人用の部屋も完備されており、今日泊まったのは3階中央付近にある「竹の間」で広さは6畳。

設備は暖房としてファンヒーターと年式の入った床置きタイプの古いエアコン、それからテレビ、金庫、湯が入ったポット、冷たい水(珍しい)。アメニティは浴衣、タオル、バスタオル、歯ブラシがあります。到着時にすでに布団が敷かれており、そのまま昼寝することも可能です。

泊まった部屋
お湯のほかに冷たい水があるのがありがたい
泊まった部屋からの眺め。見えているのは小島旅館の建物ではなく隣の建物
浴衣・タオル類

部屋自体がこじんまりとしていてこの部屋に中にいると自然と落ち着くのと、あと冬場とか春先は暖房がすぐに効く狭めの部屋のほうが満足できると思います。特に古い宿では部屋が広いとそれだけ暖まるのに時間がかかってしまいます。

竹の間はテーブルや暖房、テレビなどすべてが手の届く範囲にあり、実用性を考慮するとこれほど過ごしやすい環境はなかなかないだろう。ちょっと横になるかと思ってると布団も目の前にあって、そのまま夕食の時間まで寝てしまいそうになるくらいでした。

温泉

続いては温泉へ。

小島旅館の温泉は一晩中入ることができ、清掃時間の8:30~10:00頃以外はいつでもOK。今回は宿泊者が少ないこともあって夕食前、夕食後、朝食前と思う存分に湯に浸かることができました。気温が割と低い時期の訪問だったために温泉に入った後に身体が冷えるスピードも早く、何度も入りに行こうと思える点もよかったです。

  1. 源泉名:嶽温泉(嶽温泉旅館組合4~5号集湯槽、6~8号集湯槽)
  2. 泉温:48.2℃
  3. 泉質:酸性・含硫黄-カルシウム-塩化物泉(低張性酸性高温泉)
  4. 知覚的試験:無色透明・酸味微渋味硫化水素臭
  5. 湧出量:測定不能(自噴)
  6. pH:2.03
  7. 適応症:神経痛、筋肉痛、関節痛、運動麻痺、慢性消化器病、冷え性、疲労回復等

※昨年2023年1月に嶽温泉全体で源泉温度の低下がみられたため、実際には上記温泉分析書(平成24年12月時点)に記載されている温度よりももう少し低めと思われる。

脱衣所の様子
浴室の様子
湯船
洗い場

嶽温泉は白濁した濃厚な硫黄泉が特徴で、小島旅館の温泉もまた極上の湯を味わうことができます。

隣り合った同じ広さの湯船には僅かに白濁した湯が源泉のまま盛大にかけ流されており、湯を舐めてみるとレモンのようにかなり酸っぱい味がしました。湯船の中には細かい湯の花が多数流されていて、これほどの大自然の恵みを添加物なしの直で堪能できるのは幸せ以外のなにものでもない。

源泉かけ流しの温泉

左側の白い湯船の方は体温より微妙に高い程度の温度(38℃程度)で、これは冗談抜きにいくらでも入っていられるくらいに気持ちが良いです。右側の黒い湯船は温度がそこそこ高め(41℃程度)で、そのときの状況や気分・好みに合わせて入り比べができるのが素晴らしいところ。

基本的には左側で長湯をして、上がり湯として右側に入るという形で1時間程度の長湯をしていました。温度的には自分はこれくらいがちょうど良く、あっという間にお気に入りになったのは言うまでもないです。長湯って温泉の成分がじんわりと浸透していく感覚になれるので、温度が熱すぎるよりは控えめの方が好き。

温度低下が起きる前はそれぞれが43~44℃の「熱湯(あつゆ)」と42度の「温湯(ぬるゆ)」として有名だったそうですが、自分にとっては今の温度がベスト。何度も温泉に入っていると硫黄成分によって手のひらの摩擦係数がかなり減った気がするのと、身体から硫黄の匂いがするのが自覚できるくらいになってました。この状態で公共交通機関などを利用すると温泉に入ったことが他の人に一瞬でバレてしまうレベル。

夕食~翌朝

温泉に入って眠くなったところで夕食の時間。小島旅館の夕食は18:00か18:30開始を選ぶことができ、自分は18:00を選びました。場所はすでに書いたとおり2階の大広間が会場になっています。

夕食の内容は以下の通り:

寄せ鍋、舞茸の土瓶蒸し、さもだしの南蛮漬け、山うどのたまり醤油漬け、刺身は通常は三点盛りだが今日は仕入れの都合でホタルイカが追加。舞茸の釜飯、ばっけ(ふきのとう)の天ぷら。茶碗蒸し…青森は何か一品を甘く味付けする習慣があり、小島旅館の場合は茶碗蒸し。甘栗の甘露煮が入っている。

夕食の内容

何を食べても美味しいとはまさにこのこと。

海に面した県ならではの海の幸に加えて、春先の山菜を代表するふきのとうの天ぷら+野菜の郷土料理に極めつけは一般的な旅館では味わえない釜飯をいただけたりと、心から満足できる食事になりました。青森県に泊まっているということを実感できる品ばかりで本当に嬉しい。

夕食後は再度温泉に入りに行き、眠くなったら寝るという人間本来の生活スタイルで20時過ぎくらいに就寝しました。普段もこの方針で生活しているはずなんだけど翌日の労働のストレスならなんらやでスッと眠れないのが常で、自律神経をバランスよく保って過ごせるのは良い宿の特徴の一つ。不安なく安心して眠ることができたし、疲れを取るには温泉に入って美味しい夕食を食べることが第一だと改めて実感できた。

翌朝は自然に目が覚め、朝食前に朝風呂に入りに行きました。

朝風呂が幸せ過ぎる件について

個人的に特におすすめしたいのがこの朝風呂の時間。

東の方角に設けられている窓と湯船の位置関係が絶妙で、日の出から少しの間は浴室全体に朝日が差し込んでくるんです。なにこの幻想的な光景…。人工的な明かりではなく自然光100%の状況下で温泉に入ると湯の中の粒子もよく見えて、こんなに素敵な時間帯があるのかとびっくりしてしまった。露天風呂ではないのに気分的には露天風呂と同じくらい開放感がありました。

温泉旅館において朝食前の朝風呂は意外と入る人が少なくて独占状態になることもあり、早起きできるのならぜひとも入りにいくのが吉です。朝から温泉に浸かることによって眠気もとれる上、今日一日がとても良いものになるような気さえしてくる。

朝食の内容
絶品の貝焼き味噌

朝食の時間はご主人から提案があり、7:30開始となりました。

内容については品数をやや絞ってのシンプルさに振っていると思いきや、右上に並べられている貝焼き味噌が絶品そのもの。これは味噌と豆腐、ネギなどを卵でとじている青森県の料理でご飯にめちゃくちゃ合う。昨晩の夕食もお腹いっぱいになったのになぜ…?と思うくらいに食欲が湧いてきてご飯を3杯おかわりしました。もちろんご飯も美味しいし、杏の紫蘇巻きも良いアクセントになって余計にご飯の消費が増えた感じです。

近くの桜の枝を活けている
嶽温泉を出発

そういうわけで、最後までゆっくり休んで小島旅館での滞在は終了。

弘前市街地に向けてロードバイクで走っていくなかでこの日も朝から天気が抜群によいことに気がつく。市街地には春がやってきたけど嶽温泉周辺はもう少し時間がかかるようで、季節と季節の合間を縫うタイミングで泊まれたことに感謝したい。

おわりに

嶽温泉の小島旅館は宿泊者へのホスピタリティに優れており、効能がいいことで有名な温泉、さらに食事も想像以上に満足できる内容でした。

青森県を訪問する度に感動する事柄が増えていくし、小島旅館も早速自分のお気に入りの宿になりました。今度は季節を変えて宿泊したいと思います。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

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