今回は以前泊まった福島県福島市にある微温湯温泉 旅館二階堂に再び泊まってきました。
夏場は虫が多かったり気温が高かったりと、設備があまり整っていない古い温泉旅館に泊まるのは結構難しい季節だったりします。特に近年の気温の高さは多少の我慢ではどうしようもならず、エアコンがない宿に泊まるのは避けたいところ。しかし旅館二階堂はその標高の高さから夏場でも気温がそこまで上がらない上に、温泉の温度が体温よりもわずかに高い程度なのでむしろ暑い季節に向いている。しかも館内には猫が3匹もいて気分的にも癒やされる…という風に、この時期に泊まるにはもってこいの宿。
自分も一度宿泊してから旅館二階堂の魅力に取り憑かれており、前回に引き続いて今年も泊まりに行くことに決めたという流れです。どちらかというと建物や温泉目的というよりは猫に会いたい気持ちが強く、たぶん来年も再来年も泊まりに行くと思います。
明治5年棟 泊まった部屋
前回と同じように県道126号を終点まで上って旅館二階堂に到着。県道の一番奥に旅館が建っており、その道中にも旅館周辺にも他に何も無いという素敵なロケーションです。余計な音が一切聞こえてこないため、湯治目的で一週間くらい滞在するのにも向いていると思います。
今回の宿泊でぜひやってみたかったことが一つあって、それは前回泊まれなかった明治5年棟に宿泊すること。旅館二階堂の建物は奥側から明治5年棟(一番奥にある茅葺屋根の棟で最も古い。現在でも一部が客室として使用されている)、明治10年棟(現在メインで使われている湯治形式の棟)、大正棟(玄関がある棟。1階に女将さん達の部屋や食堂があり、2階に広縁付きの客室がある)から構成されており、前回泊まったのは明治10年棟でした。
当時は茅葺屋根の張替え工事をやっていたのでそもそも明治5年棟に入ることができなかったのですが、今回電話予約の際に工事が終わっていることを知ったため明治5年棟に泊まりたいですと女将さんに伝えておきました。常日頃からその旅館の一番古い部屋に泊まりたいと思っている自分としては、願いが叶って嬉しいです。
旅館の前で猫ちゃんに遭遇。
こっちは旅館二階堂が猫旅館だと予め分かっているので、建物に入る前から猫がどこにいるのかを目で探してしまう。到着早々、玄関の近くで黒猫のぴーちゃん(7歳)を発見しました。前回訪問時に茶白のごまさくが寝ていたのと同じ切り株の上で昼寝をしてました。
後述しますが今回の宿泊ではこのぴーちゃんと過ごす時間がとても長く、翌朝に至っては幸せすぎて出発したくなくなるような出来事も…。猫旅館に泊まる上で最上級の体験ができたといっても過言ではありません。
今回泊まる明治5年棟の外観はこんな感じ。これが現役の宿泊施設だと言ってもなかなか信じてもらえなさそうな見た目をしています。
明治5年棟はかなり奥まったところに建っているため玄関前からは視認できませんが、温泉へ続く渡り廊下へ向かえば見ることができます。新しくしたという茅葺屋根以外にも外壁部分や障子戸の柱が他の部分と比べると新しく、客室として全体的に一新された感じがしました。
今回泊まった部屋は明治5年棟手前側2階の客室で広さは8畳。部屋の4面のうち2面が外に面しているため室内が明るく、建物のすぐ背面が森になっている明治5年棟の中ではもっとも過ごしやすいと思われるところです。
明治時代の建物ということもあって天井がとにかく低く、自分の身長では背伸びをすると頭が天井に付きそうになるくらいでした。他にも窓際に腰掛けるため(かどうかは不明)の適度な段差があったり、障子戸とガラス窓の二重構造だったりと自分が好きな要素が多い。設備についても布団がすでに敷かれている上にコタツ、座布団、ポットなどが一通り揃っていて居心地が良いです。
下界は夏真っ盛りの天候ですが、吾妻小富士の東麓標高920mに位置する旅館二階堂に限ってはエアコンも扇風機も無しで快適に過ごすことができる。「涼」を味わうために毎年行きたくなるほど素敵な旅館だ。
窓側に行ってみると障子戸の向こう側に奥行き50cmほどのスペースがあり、前述した通り腰掛けて座るのに十分な広さがありました。スペースの奥にあるガラス窓は比較的最近のもので開閉に支障はありませんが、カーテンは設置されていないため明るさの調整は障子戸の開閉で行うことになります。特に朝方は日差しがかなり強かったので障子戸が必須でした。
上を見上げてみると庇を支えるための腕木がそのまま残っているのが見えます。こんな風に古い建築様式を撤去せずに残しているのは個人的に好印象。
窓からの眺めは明治10年棟特有のもので、旅館二階堂の建物群をすべて見渡すことが可能です。
客室内に窓が設けられているのはこの明治5年棟と広縁が付いている大正棟のみであり、明治10年棟は建物端に廊下が通っているので客室内に窓がありません。つまり「段差に座って外を眺める」という行為とこの展望は泊まった人のみの特権というわけで、まだ投宿して間もない中でいきなり気分が良くなってきた。
明治5年棟2階へのアクセスに関しては、明治10年棟の手前側と奥側についている階段を上る形をとりました。明治5年棟にももちろん階段はあるものの、自分が泊まる客室よりも奥側に位置しているため明治10年棟の階段を利用するほうが合理的です。
明治5年棟の他の客室の様子は上の写真に示す通り。
隣の部屋は今回泊まっている部屋と同様に障子戸と窓の間に段差があるのに対して、1階の真下の部屋は段差がありません。温泉へのアクセスに着目すると2階よりは1階の方が便利ですが、個人的には雰囲気重視なのでどちらかというと2階の方が好き。
館内散策
それでは浴衣に着替えて館内を散策することに。
玄関先のベンチに座って日帰り温泉客を眺めながらのんびりしていたところ、さっきまで近くで寝ていたぴーちゃんが膝の上に乗ってきました。横になるポジションを決めるために何回かグルグル回った後はそのまま昼寝に突入。重すぎず軽すぎずの適度な重みと体温の温かさが膝の上に伝わってきて気持ち良すぎる。
旅の中で野良猫を含めてよその猫に出会う機会はそこそこ多いものの、膝の上まで乗ってきてくれる猫は数えるほどしかいません。人馴れしているとはいえ、1年ぶりに出会った人間をここまで信用してくれているという事実に感動してしまった。
あと旅館二階堂周辺にはトンボがめちゃくちゃ多いです。山の中で小さい虫が多いと思うのでそれを食べにきているのか、それとも別の理由があるのか。
以前泊まった際にも感じたことだけど、旅館二階堂の館内はとても静かで落ち着いています。
自分がそう感じる一番の理由は古いものが多く残されているという点。木製の窓枠や年季の入った廊下など、そこを歩いたりその空間にいるだけで心が安らかになってくる。やはり自分は木造の建物が好きだ。
前回の宿泊時、出発する直前に添い寝をしてくれたごまさくちゃん(13歳の茶白猫)も姿を見かけました。ただ高齢なこともあって部屋にこもることが最近は多いらしく、こちらを見て寄ってきてくれることも特になし。旅館二階堂の居住環境は人間だけではなく猫にとっても優しいと思うので残りの猫生を静かに過ごしてほしい。
そういえば、ここで暮らしている3匹の猫はお互いに遊んでいるところや一緒になって寝ているところを見たことがありません。縄張りがしっかり決まっているのか単独で行動していることが多いようです。
温泉~夕食~夜の時間
館内散策が一通り終わったため、夕食までの時間はもっぱら温泉に入ってました。
旅館二階堂の温泉は酸性のぬる湯で長く浸かっていても疲れないのが特徴の一つ。温度が低いため身体が熱くなりすぎてのぼせることがなく、冗談抜きにいくらでも入っていられるくらいの心地よさがあります。
浴室の中で聞こえてくるのはすぐ横で豪快にかけ流されている温泉の音のみ。今日の宿泊者が自分を含めて3組のみということで混雑もなく、のんびりと入ることができました。
温泉から上がったら布団に横になって昼寝をし、起きたらまた温泉に行くという分かりやすい思考で過ごしていく。この日温泉に入った回数は夕食前に2回と寝る前に1回。気が向いたらちょっと入りに行くかと思えるくらいに気楽なのが良いですね。
明治5年棟に泊まるのは自分一人のみで、客室を出てから廊下を歩いて温泉に入りに行った後、温泉から客室へ戻るまでを含めて誰にも遭遇しないこともありました。すなわち心ゆくまで温泉と自分の時間に集中できるというわけで、ここまで肉体的・精神的に開放された気分になれる温泉はそう多くないだろう。
今回の夕食の内容はこんな感じでした。
内容をざっと見たところ前回とそう変わってないと思われ、旅館二階堂の献立は季節を問わず固定っぽいです。前回と異なるのは酒を注文しなかったことかな。もともと自炊がメインな湯治宿だし、立地が立地で食材の調達が比較的困難だしでメニューがほぼ決まっているのは個人的にも納得です。
夕食の後は再度屋外に出て、ぴーちゃんと一緒に周辺を散策してみました。なお今回の宿泊時に見かけたのはぴーちゃんがほとんどで、残りの2匹については居間で寝ているのかほとんど見かけませんでした。
夕方以降の時間帯になると森の中からひぐらしの鳴き声が響いてくるのと、平地に比べて低い気温がさらに低くなってさらに過ごしやすくなります。本格的な夏場とは思えないほど清涼な環境で、下界とは明らかに異なる体験ができていることが喜ばしい。
散策から戻ってきた後は温泉に入りに行き、客室に戻ったらそのまま窓を締め切って就寝しました。夕食を終えて温泉に入って、19~20時くらいに自然と眠気がやってくる時点で身体が安心していることが実感できる。日常生活においてはこれほど早い時間に眠くなることはない。
今更ですが暗い時間になると人工的な灯りが目立つようになるため、館内には虫が多くなります。なので虫が苦手な人にとっては手放しにはお勧めできない宿になるものの、自分は特に気にならないので問題なし。どうしても虫がダメという場合はさっさと電気を消して寝るに限ります。
翌朝は猫と一緒に二度寝
旅館二階堂での宿泊から一夜明け、今日はもう宿を出発して次の宿へ向かうだけ。
旅館における翌朝ってどこか消化試合的な面があって、やることといえば朝食を食べて二度寝をするかしないか、その程度のことだと思っていました。しかし旅館二階堂における今回の宿泊に限ってはそうではなく、振り返ってみれば一番印象的な出来事が翌朝にあったという話。一体何事かというと、黒猫のぴーちゃんが部屋に入ってきて布団の上でスヤスヤ寝始めたんです。
起床して朝風呂に行くためにタオルを取りに行っていると廊下からニャンニャン聞こえて、襖戸の鍵を開けたらぴーちゃんがスルッと入ってきてそのまま室内をパトロールし始めた。事実だけを列挙するとこういうことになるけどまさかここまで人懐っこいとは…。旅館に泊まっててこんなに多幸感を感じるイベントが他にある???
パトロールの後は腰の上や首元に乗っかってきて、徐々に重くなってきたから横にどかしたら枕を占領される始末。しかもずっと喉をゴロゴロ鳴らしてリラックスしているのでこちらとしては黙ってなすがままにされるしかない。うかつに動けないため朝風呂に行くという目的は一旦解除されました。
驚くべきはぴーちゃんが一連の行動を当たり前みたいにやっていることで、こちらの都合とか一切考慮せずに乗ってきたりします。普段からこんな感じなのか、この明治5年棟がぴーちゃんの縄張りだから入ってきているのか。そういえば身体の上に乗ってくる前に柱とかにスリスリしていたような…。いずれにしてもこの部屋に泊まったからこその体験なのは間違いない。明治5年棟に今回泊まることに決めて本当に良かった(感涙)。
しばらく待っていても部屋から出ていく様子がないため、襖戸を10cmほど開けてから朝食と朝風呂に行ってきました。本当は朝食の前に朝風呂に行くつもりだったけど仕方ない。
夕食に引き続いて、朝食の内容もどうやら固定メニューのようです。シンプルイズベスト。
で、朝風呂から戻ってきたときの光景がこれ。
布団の脇の段差には朝方寒いと感じたときに使う毛布が置いてあるのですが、ぴーちゃんはその毛布の上で丸くなって寝てました。本来は人間のための毛布が、まるで最初から猫専用みたいな感じで使われている。遠目から見ると猫の昼寝スペースみたいになっててフィット感がすごいです。
朝食と朝風呂を済ませたことだし自分もチェックアウト時間まで二度寝するか…と布団に横になったところ、ぴーちゃんが毛布から降りてきて脇の下で再び寝始める。すでに寝床として優れている毛布があるのにわざわざ自分の近くで寝てくれるなんてもう幸せすぎる。話しかけると返事やスリスリをしてくれたり、このままもう一泊延長しようかなと思えるほどでした。
朝方は窓を開けっ放しにすると風が入ってきて涼しく、しかもすぐ側には人懐っこい猫が一緒に寝ている。二度寝のシチュエーションとして申し分なくて自分も自然と寝てました。猫が自分を信頼して体重を預けてくれるのってとても嬉しい。
最後は身体を起こそうとすると起きるなと言わんばかりに爪を立てられたので寝転がりながら浴衣を脱いだところ、浴衣の上で寝はじめました。前回ごまさくが出発間際にやってきたことを、今回ぴーちゃんがしていて前と同じ体験ができている。猫旅館で過ごす上でこれ以上の幸せはないだろう。
こんな感じで寝続けているぴーちゃんにまた来ることを挨拶して、今回の旅館二階堂での宿泊は終了。温泉と食事、そして猫とのひとときを通じてたった二日間でメンタルがずいぶん回復した気がするし、猫と触れ合うことは人間の幸福感に直結していると思います。来年も元気な猫達に会えたらいいな。
おしまい。
【参考】前回泊まった際の宿泊記録は、以下にまとめています。
コメント