渡合温泉旅館 付知峡の秘湯「ランプの宿」に泊まってきた

今回は、ロードバイクで中津川市にある渡合温泉旅館を訪ねてきました。

近頃めっきり寒くなってしまって、自転車に乗るどころか外出するのすら億劫になってきました。先週の高山ライドではマイナス4℃の中を走ることになり、しかも日中の気温も4℃程度と寒かったので最初から最後まで凍える始末。

こんな季節にはやはり温泉に入るしかない。ということで温泉が主目的のライドを計画しました。

もくじ

旅館への道中 美濃太田~付知峡

同行者と美濃太田駅で集合し、ここから北へ向かっていきます。

今日は一日中曇りの予報だったのに加え、南から北へ向かうので今後さらに気温は徐々に下がっていくことが予想されました。今の時点ですでに寒いんだが…。

美濃太田から北へ向かう際に通ることになるのは高山本線沿い、もとい飛騨川沿いに走っている国道41号。ここは交通量が多いのですが、今回のルートだと途中まではここを通ることになります。

上流側に向かっているとはいえ、アップダウンはないので非常に走りやすい。

あともう少し行けば下呂というところまでやってきました。

白川町での交差点を右に曲がり、県道62号を通っていくことになります。

本格的に県道62号を北へ走っていく前に、朝からここまで何も食べていないことに気づき、途中の道の駅で朝食をとりました。コーヒーや紅茶にサンドイッチや卵、さらにはかぼちゃがセットになっているモーニングセットを注文。これで¥380なのだから最高すぎる。

朝食を食べたことだしそろそろ出発しようかと思っていたところ、石窯ピザという文字を見つけてしまったのでこれも食べることにしました。おばちゃんから今から作るけどどう?というお言葉を聞いてしまったので仕方ない。(11時販売開始で、今9時)

外の気温は2℃くらいでかなり寒かったものの、ピザの美味しさと優しさに感謝しつついただきました。

そこからはひたすら県道62号を北上し、白川町~東白川町を通り過ぎて舞台は中津川市へ。ここでは付知峡という飛騨・美濃紅葉33選にも選ばれる紅葉の絶景スポットがあって、また青川と呼ばれる澄みきった川があることでも有名です。

近くにはキャンプ場もあり、この時期でも結構車が止まってました。というか付知峡周辺だけでキャンプ場が5つもあって、特に夏場なんかはかなり賑やかになるんじゃないかなと思います。

夏場でも冬場でも、一般観光客が訪れるのはここまで。ここから先は自然公園と名前がついているくらいで、他には何もありません。

見ての通り、これから向かう渡合温泉旅館はこの付知峡(付知川)をさらに上流へ上っていったところにあります。

山奥の宿というだけで何かわくわくしてくる。

この時期に渡合温泉を訪れるのは、実は一般的ではありません。その一つがこれです。

先程の看板からちょっと走ったところに林道のゲートがあり、このゲートが開いている期間が4月1日~11月30日なのです。つまり今の時期は、車で現地まで向かうことができません。なおこのゲート、崖側もきっちり塞いでいるのでバイクや原付も通行不可です。

ただし、自転車と徒歩は通行可能です。

右の方に人ひとりが通れるだけの通行口があり、そこから自転車を通しました。もちろん予約時に「自転車は通行できますよ」と確認をとってありますので問題なし。ゲートの上から通す手もあるけど、かなり大変そうです。

ここから先は我々以外には通る人が皆無な道を突き進んでいきます。

一般車通行不可な道というと乗鞍を思い出すけど、あっちは観光バスやタクシーは普通に通るし、そういう意味では真の意味で自転車専用道路みたいなもの。

ゲートから宿までは約10kmあって、そのうち4kmくらいはダートです。

ダートの程度が少々心配でしたが、石の大きさ的に25cでも走れんことはないレベルでした。グラベルロードなどだったらもっと快適に走れると思います。また、道としては斜度6%程度でひたすら上りが続きます。

ダートを走るのも意外に好きだったりするので、コンチネンタルを信じつつ林道と格闘してました。踏んだらパンクしそうな石をかわしつつ走る体験は、こういう未舗装路でしか味わえません。

それにしても本当に静か。冬場ということを抜きに考えても、聞こえてくる音といえば下を流れている付知川の音だけ。あとは何も聞こえてこない。

すでに電波も入らないくらい奥地に入り込んでいる事実に驚きつつ、「廃道とかってこんな雰囲気なのかな」と奥へ進むごとに楽しくなってきます。

最後は自転車を担いで石段を上り、ついに到着…!渡合温泉・ランプの宿です。

中に入る前に、この宿について軽く説明してみます。渡合温泉は明治初期に源泉が発見され、山仕事の人や湯治客に親しまれてきた宿です。この宿の特徴をざっと挙げてみると、

  • 電気が通っていないため自家発電を利用しており、夜10時以降はランプのみ
  • 携帯電話が圏外
  • 旅館にある電話は衛星携帯(有料)。

となります。部屋にはコンセントがないのでテレビも電話も役に立ちません。電子機器を持ち込む場合はモバイルバッテリー必須です。

館内散策

「自転車でよう来たね!」とご主人たちに歓迎してもらい、お部屋に案内してもらいました。部屋には裸電球が一つと、真ん中にこたつがでんと設置されています。もうこれだけで満足できるレベルの雰囲気の良さ。

一休みしつつ、旅館内を探索していくことに。

宿に到着したのは14時すぎ。この時間帯はまだ自家発電が動いているので、館内には電球が点いているのがわかります。建物自体はなんと大正時代からそのまま変わっていないらしく、その時代時代の中で今まで人々に愛され続けていたことがよく伝わってきました。

今日は我々の他に宿泊客はもう一組のみで、現在迎えに行っている最中とのこと。実は今日宿泊できたのも、このもう一組の方々がいらっしゃったおかげなのです。

今は本来オフシーズンで通常ならば宿泊は不可能でした。ダメ元で電話してみたところその日なら宿泊できるよとのことで。本当に運がいい。

構造的に部屋と屋外との仕切りがふすま一枚なため、両者の気温差はゼロに近いです。部屋の中でも吐く息が白くなる程度には気温が低く、つまるところめっちゃ寒いということ。

暖を取る方法としては灯油ストーブ豆炭こたつ(懐かしすぎ)があり、これの居心地があまりにも良すぎるのでこたつから出られない事態になり焦りました。

なおこたつの中に潜ろうとしたものの、「一酸化炭素中毒になるのでやめてください」との注意書きを見て我に返りました。

部屋に置いてある案内を眺めつつ、部屋を見渡しながらふと考えてみた。

普段は何気なく利用している電気がただ使えないというだけで、暖を取ること一つとっても苦労がぜんぜん違うんだなと。まだ宿に来たばっかりなのに、寒さに震えながら自身の電気への依存っぷりに悲しい気持ちになったりならなかったり。

気を取り直して、先程「薪ストーブがある」と書いた玄関に行ってみることにしました。

見てこれ…!!

所狭しと並べられた年代物のラヂオやカメラ、そしてなんといっても、壁や天井一面にかけられているランプの多さ。渡合温泉がランプの宿と呼ばれる所以が何も教えられなくても自然にわかる。

「ランプの宿」を売り物にしている宿は全国にいくつかある中で、電気が通じていて電球をランプ風にしているものだったり、本来の電灯に加えてランプを使っていたりするところが多いようです。ここ渡合温泉のように、夜は完全にランプの明かりのみ、という宿は日本で数えるくらいしかありません。

ランプたちは、今はどうやら夜に備えて出番を待っているようです。楽しみ。

温泉

温泉宿へ来たことだし、兎にも角にも温泉に入らねばならない。お風呂は貸し切り形式となっており、使用する際は札を「入浴中」に切り替えます。

源泉はアルカリ炭酸泉10.5℃(鉱泉)で、高野槙(コウヤマキ)造りの湯船を五右衛門風呂式で加温しています。

そこそこに身体を洗って湯船に浸かったところ、湯音のちょうどよさ感が有頂天。凍えてた身体が一気にふやける感じが素晴らしい。これ以上ないくらい今の体温にマッチしている。

そして一度身体が温まると今度は適温過ぎてなかなか出られないという嬉しい悲鳴。この環境で温泉に入れるなんて、やはり今日来てよかった。

寒い日にわざわざ出かけて凍えといて、温泉で温まる。これもマッチポンプの一種かも。

温泉から上がったあとは、一番暖かい玄関で薪ストーブにあたりつつ半分寝てました。

徐々に日が傾いて周辺が暗くなる時間帯に入り、点灯するランプも一つ、また一つ…と増えていきます。

灯油ランプの明るさは、今では主流となっているLED証明と比べるとたしかにか細い。

でも、この暖かさや雰囲気はランプでしか味わえない。

なんせこっちは本物の炎であり、手や顔を近づけてみると実際に温かいです。今ではそこかしこが明かりで照らされていて感じづらいですが、明かりがない場所へ行けば炎にぬくもりを感じて安心できるあたり、やっぱり自分は人間なんだなと感じました。

原始の人間に立ち返り、ゆらゆらと揺れる炎をぼんやり眺めることができる宿、それが渡合温泉なのです。

夕食~翌朝

そんなこんなで時間はゆっくりと過ぎていき、気がつけば夕食の時間になりました。

風呂から上がって玄関で暖まっていたところ、夕食のお呼びがかかったので早速いただきに行きました。

夕食の内容

川魚や山菜が中心で、まさに「山奥の宿の食事」を体現したかのような内容。

オフシーズン(冬)だしそれほど量がなかったりするんじゃないか…という予想を遥かに飛び越えていくかのような豪華さ、そして品数の多さ。この食事を食べた宿には電気が通ってないと他人に言っても、たぶん信じてもらえないと思う。

冷蔵庫がないため素材は近所の山や宿の養殖池からの採れたてです。なので新鮮さが半端ではない。

塩焼き、刺し身、南蛮漬けはすべて岩魚で、これがまた最高に美味しい。特に塩焼きは頭から尻尾までバリバリいけるくらいでした。あとは鯉の甘露煮、鯉を食べた経験はあんまりないものの食感がもっちりしてて非常に食が進みます。山菜系のさっぱり感と、川魚類の濃厚な味わい。

主食は別途白米がありましたが、顔の大きさくらいあるわらじ五平餅の量がとんでもなくて、これをメインにしながらおかずを食べる形になりました。

お酒類も充実しており、自分が注文したのはご主人おすすめの岩魚の骨酒というもの。これは熱燗の中に素焼きにした岩魚がまるごと入っており、香ばしい香りと日本酒が一緒になって最高の酒タイムが味わえます。

献立と日本酒の旨さが合わさって、身体が心から温まるような素敵なひとときを過ごせました。

夕食後は玄関に集合して、ランプの使用方法についてご主人から説明を受けました。

そもそもランプを扱うことすら初めてだった自分。「ランプの燃料はアルコールだと思っている人が多いけど、実は灯油なんです」「点け方は非常に簡単で、中にある芯にマッチでシュッとするだけ」「消すときはフッと息を吹きかければ大丈夫」なるほど。

通常ならば、では早速点けてみますか…となるところが、実はこの夜は一味違いました。

なんと火打ち石綿の炭を使って、原始の方法で火を点けることになったのです。まさかこんな体験ができるなんて、一体誰が想像できただろう。

手順を言うと、まず火打金を火打ち石に絶妙な速度・角度で打ち付けると火花が散ります。これが下にある綿の炭の上にうまい具合に落ちてくれると火が点くので、これにマッチをあてがって点火し、最終的にランプに火を灯すというもの。

これがめっちゃ難しい。難しいけど面白い。何回もやってくると次第にコツが掴めてくるので、あとは微調整しながらカチカチやります。

こちらが自分の力で点火したランプ。

これを今夜は自室に持ち帰って、消灯後に眺めることができるというわけ。何回も失敗した果てにやっと火がついた時の感動もそうだけど、これを好きなだけぼんやり味わうことができる。

ご主人はあらゆることを知ってる仙人みたいな人で、消灯(22:00)までの間に色々なことを教えていただきました。

この周りの山々のことや知恵の輪のこと、さらにはアルミ缶で作るバーナー作りなどなど。また遊ぶものも充実しており、明日の本番でうまくいけば景品が出るものもあるとかないとか。

本当に時間があっという間に過ぎていって、電気も電波もないけどどう過ごそうかとか考える暇もないくらい楽しかった。

気がつけば消灯時間。ランプと一緒に部屋に戻ると、布団が敷かれてました。さらに布団は例の豆炭こたつに直結しており、布団の中に入ると快適すぎるくらいに温かい。これは快眠できそうです。

布団に入ったら一気に眠気が襲ってきたので、これまたいつの間にか眠りについてました。

で、翌朝。布団の外はマイナス3℃。布団の中はヌクモリティMAXの天国。おはようございます。渡合温泉の朝です。

またしても布団(+こたつ)から出られなくなった後、朝風呂へ。

廊下を歩く中、吐く息が白くなっては消えていく。しっかり温泉に入って身体を温めた状態で、そろそろと館内を歩いてみました。

本当に静かな朝だ。

この時間から温泉に入っているのは自分だけ。外の世界は静まり返っているのに対して、自分だけが活動しているような静寂が不思議と心地よかったりしました。

朝食は素朴かつしっかりした献立で、これまた抜群に美味しい。

昨晩あれだけ食べたというのに、朝になったらしっかりお腹が減っているあたり身体は正直なもの。

ランプたちは朝になれば眠りにつきます。また今夜も、この宿に明かりをもたらしてくれるのでしょう。そう考えるとランプの光がなおさら名残惜しくなりました。

思い返してみればたった一泊二日な宿泊だったものの、これほど濃い時間を過ごすことができるなんて計画当初は全く想定してませんでした。「ランプの宿」という名前くらいしか知らない状態での訪問、そして想像以上の快適さ、温泉の暖かさ、そしてご主人達の優しさ。色々な「初体験」を味わうことができる宿だといえます。

こういうのが個人的にすっごい好きなので、単にライドするだけでなく宿泊もセットで考えるという自分のスタイルは今後も続けていきたい。

電波も電気もないけど、日常のことを忘れて非日常を満喫できる。それも割と手軽に体験できる。それに、ランプの灯りって結構明るいんです。そしてとても落ち着く。

帰路

楽しいときほど時間が経つのは本当に早いもので、チェックアウトの10時になったのに全く気が付きませんでした。

この日はまるで渡合温泉旅館での宿泊を記念するかのような快晴で、今回の装備だとむしろ暑いくらい。冬ライドは気温的につらいものはあるけど、ここまでいい天気だと些細な問題は気にならなくなる。

そんなわけで、渡合温泉の初訪問はこれで終了です。ご主人たちにご挨拶し、「また絶対来るからね」と心に誓いながら宿を後にしたのでした。ライドに宿泊に…と充実した週末になってくれてとても嬉しいです。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

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