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旅の記録、宿泊先や行程とか

芳和荘 宿泊記 元遊郭旅館に萩町遊郭の面影を見た

【訪問日:2020年11月8日】

閑散とした港町にある旅館

山口県萩市といえば、明治維新の指導者である桂小五郎(木戸孝允)や高杉晋作、伊藤博文らを輩出した松下村塾をはじめ、幕末~明治時代を象徴するような古い町並みが広がっている町として有名です。

今回泊まったのは、そんな日本有数の史跡都市にある宿。

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旅館の名前は芳和荘といって、萩町城下町や明倫学舎が位置する萩市の中心部から少し外れた松本川(阿武川本川)のほとにありました。

この宿がある東浜崎町周辺はかつて港町として栄えていたところであり、その賑やかな土地にはいつしか萩町遊郭と呼ばれる遊郭街が形成されました。ここ芳和荘もその頃に建てられたもので、ご主人のお話によれば築100年ほどは経過しているとのこと。つまり芳和荘は、元遊郭旅館なわけです。

まさかの大正時代の建物…!?

話を続けると、当時はたくさんあった遊郭も次第に旅館や下宿に姿を変えていき、今ではこの芳和荘だけが残されています。今のご主人で3代目で、ご主人だけ数えても43年(うろ覚え)ほど続けられているとの談なので、その年月の長さが感じられます。はじめは下宿として営業してたそうで、今のように旅館になったのはその後のこと。

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芳和荘の前には水路が流れており、ここだけ切り取っても風情があります

旅館に入る前に、まずは外観から確認していきます。

目の前の道は自動車1台がようやく走れる程度の細い道で、玄関はそこから少し奥まったところにあります。玄関の前には古い石柱があり、その間には鉄棒が渡されていて、さながら門のような風格があってたじろいでしまう。

和風旅館でこの造りは珍しい気がするし、これは中に入るのがなおさら楽しみになってきた。

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旅館の左手側は駐車場になってます

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旅館自体の駐車場は建物の右側に

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「旅館 芳和荘」の看板

外をぐるっと回ってみると、建物全体が蔦に覆われているのが分かります。

構造としては木造2階建てで、どの面も直線的な線形をしているのが特徴的。とはいえ、この段階では古さのみが一方的に感じられるばかりで、その素敵さの片鱗はあまり示されていないように見えます。これは、後述する回廊(これが最高に凄い)が直接見えないのが一番の理由でしょうか。

芳和荘を散策する

それでは、早速玄関を入って屋内へ。

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!?

え、めちゃくちゃ清潔感を感じるんですが。

とてもじゃないけど、ここが築100年の旅館だと言われてもにわかには信じがたい。廊下は磨かれていてピカピカだし、外からの光が反射して光って見える。もうこの時点で、ご主人が大切に清掃や保守、維持、それに管理をされていることが直感的に理解できた。

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自転車は屋内に入れさせていただきました。本当にありがとうございます。

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玄関に残る丸窓

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で、玄関を入ってすぐにあるのが受付と…何これ?

呼板と書かれた板と棒があって、なんとこれをガンガン叩いてご主人を呼ぶのが正式な使い方なのだそうです。自分は普通に声をかけましたが、いやはや個性的。

というわけで受付を済ませ、早速お部屋に案内していただきました。

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廊下に扉がずらっと並んでいる

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客室は全て2階にあり、階段を上った先にある回廊(後で紹介)を抜けて部屋に進みます。

回廊に面した廊下の扉を開けるとすぐ部屋があるというシンプルさで、部屋自体の設備も必要最小限。とは言ってもコンセントもあればエアコンもあるし、テレビもあるしで普通に過ごす分には不自由はまったくありません。

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窓からは萩の町の近代的な風景が目に入ってくる。今自分がいる場所との年代差がすごい

この質素感が実に良い。昔住んでた下宿の部屋がまさにこんな感じだったので、ふと懐かしくなりました。

部屋の中は下宿として使われていたときのままと言ってもよく、当時の遊郭の雰囲気はそこまで感じられません。しかし遊廓の部屋ってこれくらいの広さらしくて、それぞれの部屋に女郎さんが住んでいて、そこで客の相手をしてたんだとか。そういう背景を知ったあとでこの部屋を見渡してみれば、ただの部屋ではないような風情を感じる。

とりえあず荷物を置いてお茶をすすって休憩し、一段落したところで旅館全体を散策してみましょう。

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四方をぐるっと廻ることができる回廊

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まずは、この芳和荘を象徴するような回廊部分から。

唯一無二といっても過言ではないくらいに特徴的な回廊部分は非常に広く、ただ歩いているだけでも心が休まります。回廊が2階に設けられていることで中庭を上から見下ろすような形になっているのがまた良くて、しかも客室の目の前に中庭がある粋な造り。設計した人に色々話が聞きたい人生だった。

この構造が本当にもう最高すぎて、しばらく廊下に座って眺めたりもしました。

形としては旅館のド真ん中に中庭があり、それを囲むようにロの字型に回廊があります。客室は回廊の外側に位置づけられていて、真上から見ると非常に分かりやすいですね。

ちなみに中庭の木々はご主人自らが日々手入れされているようで、その美しさは圧巻の一言。じっくりと見てみると植えられている木々は種類が多く、まさに「庭」として完成されているのが分かります。

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回廊の欄干部分は高さが膝くらいまでしかなく、景色に見とれていると落ちそうになる。

でも床に座って眺めるには、この高さがいい塩梅なんです。本当に低すぎず高すぎずで、ここに座って酒を飲みたいくらい。

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欄干には右から「ち」「よ」「う」「し」「ゆ」「う」「ら」「う」と文字が形どられており、これは何なのかというと「らう」は「ろう」と読み、長州楼という隠れ屋号を表しているのだとか。初見だと一体何のことか分からないものの、聞いてみれば納得できる。このような意匠は遊郭ならではのものではなかろうか。

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洗面所は並の部屋ほど広く、冬場はここにストーブが置いてあるそうです。洗面所自体はタイルが敷き詰められたもの。

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1箇所しかないトイレ。造りは古いが清潔感が溢れている。

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玄関正面の階段下には履物入れがある。階段のスペースを無駄なく使った技が窺える。

回廊を満喫した後は、お部屋に案内してもらった順路を逆に辿りって1階に戻ってきました。

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1階の中庭手前には談話室があって、中庭を眺めながらの団らんが楽しめます。

2階と同じように1階にも部屋は多いものの、そのほとんどが物置になっている様子。ちなみに2階の客室についても今現在宿泊できる部屋は限られており、ご主人お一人で営まれていることもあって1日あたりの宿泊者数は多くありません。

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一通り回ってから2回に帰ってきましたが…やはり回廊の良さが一際目立っている。

回廊の景色が素敵ということに留まらず、この空間にいるだけでえも言われぬ感情が襲ってくる。

かつての女郎さんもこの庭を眺めたのだろうか。そこで何を思ったのだろうか。
客としてここを訪れた男は、帰るときにこの庭に何を感じのだろうか…とか。

この日の自分以外の宿泊者はまだ到着していないようで、ここにいるのは自分のみ。大通りからも離れているので音も聞こえず、一人で考え事をするにはいい状況だ。

明日の予定等はとっくに頭から消えており、しばらくはこの空気に浸っていようと心から思えた。

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その後は町へ繰り出して適当に見つけた居酒屋に入り(ここがまた当たりの店でした)、今日のことを思い出しながら日本酒を飲むなどしてから帰宅。気持ちよく酔った状態でこの部屋に入ると、まるで何かに迎えられたような気さえしてくる。

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芳和荘もいつの間にか夜の世界に入っていて、ほのかな光が中庭を照らし出しているのが見える。一人で黄昏るのは早めに切り上げて、今日は早めに寝ることにします。このままだと旅館の雰囲気にあてられそうなので。

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1階にあるお風呂はなんと岩風呂で、疲れを癒やすには最高の設備。

また、蛇口は古い建物によくあるような熱湯と水が別々の蛇口から出るタイプで、流量を調節して自分で好みの温度にするやつです。湯船の湯の温度は少し熱めだったこともあり、酔いが自然と覚めていくような気持ちよさがありました。

そして、部屋に戻ればあとはもう寝るだけ。明日もいい一日になりますように…Zzz

翌朝

芳和荘に投宿したのが日曜だったので、一夜明けた今日はつまり月曜日。

普段なら労働のために起床するのが常だけど、今回は違う。今日もまた旅が始まると考えれば月曜日の起床も苦ではない。

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おはようございました

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元遊郭旅館の朝は昨夜とは打って変わって、すべてが眠りについたかのような別の静けさがあります。

別にイイことをしたわけではないけど、なんか身体が気だるいような感じがあるのは気のせいではないだろう。

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芳和荘では食事の提供をしていないため、朝食をどこかで取る必要があります。

もっとも、何度も書いてるけどご主人がたった一人で切り盛りされているので当然といえば当然ですね。宿の維持だけでも大変なのに…。(補足:昨年の10月までは朝食の提供があったそうです)

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そんなわけで、芳和荘での滞在はこれにて終了。

元遊郭の建物という事実を知らないまま訪れていたとしても、この宿は人を引きつける魅力に溢れている旅館だと思います。建物自体も素敵なものですが、ご主人も非常に気さくで話しやすいのが良かった。

また萩を訪れたときは泊まりたいと強く思うし、いつまでもお体にはお気をつけて営業されてほしいです。