今回は、ロードバイクで紀伊半島の沿岸部を中心に走ってきました。
三重県の尾鷲から熊野にかけては自分が好きな漁村集落が非常に多く、今までにも何回か走ったことがある場所。ここ数週間は他の地域の海沿いを走ることが多かったので別角度からの「海×町並み」の組み合わせを思い出したくなったのと、もう少し足を伸ばして本州最南端の潮岬を訪問するのが主だった目的です。
一泊二日の余裕を持った行程とし、がっつり走るのは初日のみ。二日目は潮岬周辺をのんびり走って輪行で帰るというプランにしました。
尾鷲~古座川
早朝の尾鷲駅を出発し、ここから南下していく。
今日はここから和歌山県の古座川まで走って一泊する行程で、海沿いを走るということ以外は食事の場所も特に決めていません。道は一本道なので迷う心配はなく、とりあえずまっすぐ進んでいればいつの間にか古座川に着くだろうという軽い気持ちで出発しました。
まずは尾鷲から熊野までを走っていこうとしている中で、この区間を早く通りたいのであれば内陸部を通る国道42号を走れば済みます。でも国道42号は山越えを挟む上に交通量も多く、ロードバイクで走るのにはちょっと向いていない。そこで特におすすめしたいのが、入り組んだ海岸線を縫うように通っている国道311号です。
国道311号は自分が求めている要素をすべて含んでいる道といっても過言ではなく、個人的にかなりお気に入りのルート。
交通量が少ない(重要)な上に視界が常に開けているので見通しがよく、しかも適度なアップダウンもあって走るのには最適です。道中では家屋が集まった漁村集落が点在していて、カーブを曲がるたびにまた別の集落に出会うことができるので飽きることがない。
道と集落の距離感についても千差万別で、集落の中を抜ける一角があったり、上の写真のように高低差のある俯瞰的な一角もあります。簡単に言うと海と陸地というシチュエーションの中で、そこに住む人々の様々な生活風景をサドルの上から眺めることができる。それが国道311号の良さなんじゃないかなと思います。
自分がその道を好きになるかどうかは「もっと先に進みたくなるか」「立ち止まって風景を眺めていたくなるか」だと思っていて、矛盾するようだけど国道311号はどちらにも該当する不思議な道。距離こそ短いものの、これからも機会を見つけて訪問する回数は多いと感じています。
途中の道では京都のオーダーフレームブランド・VIGOREに乗られている方と出会うことができました。
クラシカルなフレームに機械式のディスクで組んだバイクはとても美しく、今日は日帰りとのことでしたが装備も充実されています。こういう唯一無二のバイクを見ると、KUALISに加えてもう一台くらい増やしたくなってくるから不思議だ。ディスクブレーキバイク増車も頭の片隅に置いておくべきか。
そんな感じで九鬼、三木浦、三木里、二木島、遊木、波田須の集落を巡って熊野市街に到着。ここからは明日の串本まで国道42号をずっと走っていくわけですが、ただひたすらに交通量が多かったので特に語ることはないです。風向きは朝からずっと逆風だし、まあ今回の行程では仕方ない。
新宮や那智をパスして那智勝浦に到着。
市街地をぶらぶらしてから海沿いへ向かうと、有名な宿であるホテル浦島が対岸に見えました。あそこは数年前に泊まったきりなので、また再訪したいですね。
新宮、そして那智勝浦は紀伊半島の東側では比較的大きな町で、宿泊施設はもちろんのこと飲食店にも困ることがありません。那智勝浦といえばやっぱりマグロということで、遅めの昼食は「お食事処 大和」でとりました。
注文したのはもちろん名物の大和丼で、部位が少しずつ違う赤身が積み重なっている様子が視覚的にも美しいです。海沿いを走っているのだから海鮮を…という安直な理由でここを選んだ中で、比較的手軽にマグロを食べに行けるのは非常に嬉しい限り。
マグロを食べている最中に感じたこととしては、紀伊半島は海沿いだけではなく内陸部も非常に見どころが多いということ。今回はあくまで海沿いに着目したライドに限定したものの、走っている途中で熊野本宮大社や熊野古道の存在を強く感じました。
那智は熊野古道への起点/終点でもあるため観光に訪れる人が多く、熊野川を遡っていくルート、あとは那智から山歩きをして本宮へ向かう一連のコースが今日も賑わっている様子です。
要は移動が楽でダイナミックな景観が得られる海沿いを走るのもいいし、山深くて神秘的な静けさが残る内陸部を走るのももちろんいい。同じ「半島」の中に属しつつも、場所によって全く異なる体験ができるのが紀伊半島の良さでもあります。
その後は予定よりも早い時間に古座川に到着し、予約しておいた宿に着きました。特にやることもないので、この日はすぐに布団に入って就寝。
実は今回の土日は中国の春節の時期と被っており、有名所に行くととんでもない混雑なのではないかと不安な部分がありました。しかし結局のところ渋滞に引っかかるようなことも、訪れたスポットが混んでいたということは一度も無し。個人的には人が多いところを走りたくないので、この時期にこのルートを選んだのは正解だったな。
確かに天気がいい週末には遠出したくなるのが普通の考えだと思う。でも自分が満足する体験って案外近場にあったりするので、これからも岐阜から近いところに目を向けてみたい。
古座川~潮岬~紀伊大島
翌日はまず古座川から串本へ走って一段落し、その後は潮岬・紀伊大島の順で紀伊半島の先端を走ってフィニッシュという流れです。
昨日の後半の行程と同じく国道42号を走って串本へ到着した後は、県道41号へと入って潮岬を一周していく。まだ朝早い時間帯なので交通量もそこまで多くなく、割りと落ち着いて走ることができました。潮岬周辺を走るだけなら距離も控えめでお手軽なのもいいですね。
ここで潮岬(しおのみさき)についてちょっと説明すると、潮岬は和歌山県及び紀伊半島、そして本州最南端の岬のことをいいます。昔は一帯が島だったのが砂が堆積して串本市街地と陸続きになったという背景があり、正真正銘の最南端は潮岬の突端の「クレ崎」。例えば瀬戸内海などとは異なり、一帯が強い波風に晒されているために崖が多いのも特徴だったりします。
最初は本州最南端と言われてもピンと来ませんでしたが、よく見てみれば東西に長い日本列島の中でも紀伊半島は大きく南に突き出た形をしている。立地的にはまさに日本の最果てに属しているものの、紀伊半島をぐるっと巡るようにしてJRの路線が走っているのでアクセス性は良いです。
そんなわけで潮岬の南端に到着。潮岬観光タワー周辺は芝生が整備されているほか、背の高い人工物がないので見通しが良いのが気持ちがいい。ツーリング目的のバイク乗りも多く、ここだけ切り取れば最果ての地とは思えないほど明るいです。
冬の朝の澄んだ空気と、目の前の青い海と空。雄大な自然の風景をただ眺めていると日頃のストレスが消えていくように感じられる。やはり健康的な精神を保つためには、週に一度は自然に触れる必要があるようだ。
ともあれ、無事に潮岬を訪問できたことで目的は達成。ただここで引き返すのはちょっと勿体ない感じがしたため、すぐ隣りにある紀伊大島も合わせて訪問しました。紀伊大島は1999年のくしもと大橋開通によって潮岬と陸続きになったため、ロードバイクでそのまま走ることができるというわけです。
個人的に驚きだったのがこのくしもと大橋の構造で、途中から大きく右側にループを描きながら高度を上げていくループ橋になっていました。
海面からの距離が連続的に変化していくのでシンプルに走っていて楽しいし、大自然の中に曲線上の人工物が存在するという組み合わせがなんか良い。人工物って直線上になっていることが多いので、ループ橋のような形状は自然との親和性を感じます。
あと橋の上から眺める海の状況も一様ではなく、浅瀬や岩場がメインなので海の底が見やすかったというのも好きになった理由の一つ。なので水の色が濃いところもあれば薄いところもあり、色彩的に変化に富んでいます。
紀伊大島の中の道は主に県道40号(樫野串本線)が東西に走っており、ここを直進するだけで島の突端にある樫野埼灯台まで行くことができます。しかし予想に反して平地はほとんどなく、アップダウンが9割くらいだったのでちょっと面食らいました。
坂道を上っては下り、ついに樫野埼灯台に到着。
看板によると樫野埼灯台は日本で初めて造られた石造の灯台で、最初の点灯はなんと明治3年(1870年)。江戸時代から明治時代へ移り変わったばかりの日本において、この灯台は重要な意味を持っていたのは言うまでもない。特にここは江戸と大阪を結ぶ航路上にあり、なくてはならない存在です。
ちなみに車で訪れた場合は灯台から離れた駐車場に停めるしかないのに対し、自転車の場合は灯台までそのまま通れました(案内もある)。
樫野埼灯台の内部には入ることができませんが、外階段を通って灯台上部に上がることは可能です。灯台からは太平洋が見渡せるほか、昨日走った沿岸部も見ることができました。
日曜日の朝にこんなにのどかな時間を過ごしているなんて予想外だったものの、自分がなんでもない休日にやりたかったのはまさにこういうこと。どこかの有名スポットに出かけようと気負うのではなく、天気がいいから外で過ごすか程度の気持ちで出かけるくらいがちょうどいい。
灯台の裏手へと歩いてみるとなんと河津桜が咲いていて、桜を撮影しに来た人が結構多かったです。白い灯台と青い空、そこに鮮やかな桜色が加わって本当に美しいの一言。これについては全く事前情報がない中で遭遇したこともあり、一足先に春がやってきたかのような陽気に自然と笑顔になっていました。
しばらく観察してたらメジロがやってきたりもして、もう冬が終わろうとしていることを実感する。誰に言われるでもなく、自然の情景から季節の移り変わりを感じられるのは嬉しいです。
最後は来た道を戻ってJR串本駅に到達し、予定通りに輪行で帰りました。紀伊半島にはまたこんな感じでフラッと訪れることがあると思うので、そのときが楽しみです。
おしまい。
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