今回は、高知県四万十市西土佐用井にある寿荘に泊まってきました。
寿荘は、高知県を流れる清流・四万十川の支流である藤ノ川川の脇にある素朴な宿です。四万十川そのものが水の綺麗さで有名な一方で、女将さん曰く、藤ノ川川は四万十川よりもさらに水が綺麗とのこと。四万十川は規模が大きいことから流域の中で色んなものが混じってしまうけど、藤ノ川川の近くには自然しかない。本流と支流の環境の違いが水の透明度に与える影響は、思ったよりも大きいようだ。
この宿は最初から宿として営業を始めたわけではなく、当初は藤ノ川川の上流に位置する西土佐藤ノ川という集落にあった営林署の保養施設として使われていました。この地に現在の建物が建てられたのは約50年前で、営林署が撤退してからは宿として運営しています。西土佐藤ノ川の集落は昔は栄えていたらしいものの、今ではこじんまりとした集落が残るばかり。時代の移り変わりを感じる中で、今まで泊まってきた宿でその前身が営林署というのは個人的に初めてでした。
ちなみにこの宿、建物というよりは女将さんがふるまってくれる数々の料理が有名です。
中でも清流ならではのテナガエビが名物で、自分もそれを目当てにしていました。寿荘そのものは通年営業をされていますが、テナガエビは一年中捕れるわけではないので春になるまで宿泊を先送りしていたというわけです。なお女将さんが耳が遠い方なので、電話予約の際に若干苦労しました。何回もエビ!エビ!って大声で言わないといけなくて、まあ無事に予約できたからよし。
寿荘の近くには他の民家等が一切なく、川の音しか聞こえないというある意味で隔絶されたシチュエーションの中にあります。携帯も圏外になるし、これほど何もせずに寝転がって過ごすのが合っている宿もなかなかない。
寿荘へのアクセス
というわけで、まずは寿荘に向かうところから。
地図を見てもらうとかなりの山の中にあるように思えますが、実は最寄りのJR江川崎駅から徒歩45分くらいで行くことが可能です。駅から寿荘への途中には道の駅やスーパー等があるので、投宿前に何か購入しておく必要があるとしても問題ありません。
今回は江川崎駅から順当に道を南下し、途中の西土佐大橋で対岸に渡りました。
後は、交通量が多い国道を向こう岸に見ながら田園地帯と藤ノ川川沿いをのんびり歩いていくだけで寿荘に着きます。道の途中にはちゃんと看板があるので、知らずに通り過ぎてしまう心配もありません。
なお電話予約の際に女将さんから伺った通り、宿泊する当日は何時頃に到着するかを前もって電話する必要があります。今回は、高知駅から窪川に向かう電車に乗る前くらいに電話しました。自分のように公共交通機関オンリーで寿荘に向かいたいという場合は、JR四国の電車(特に予土線)は本数が少ないので注意してください。
外観
春の陽気に包まれながら、気持ちの良いウォーキングをして寿荘に到着。例えば夏だったら45分も歩けば汗だくになるものの、この時期なら徒歩の移動がむしろ心地よく感じられる。
藤ノ川川沿いの道の川側に苔むした下り坂があり、その先に寿荘はあります。
坂道を下っていくとまず最初に林があって、林の横にある物置を抜けた先は広場になっていました。広場の正面が女将さん達が生活をされている住居で、その右側の藤ノ川川に面した平屋の建物が寿荘です。
宿の前がこれほど広いスペースになっているのも元営林署の施設の特徴が出ていて、保養時には多数の車がここに集まることになるので駐車場は広くないといけない。山の中なので交通手段は車に限られており、かつ林業に携わる人がまだ多かった時代のものだと分かります。
そもそも営林署は林野庁の管轄下にある組織であって、林野庁が所管する国有林の管理経営にあたっていた役所のこと。業務内容は国有林などの造林や営林を実施・指導し、その産物や製品の生産及び処分を行っていました。組織改編に伴い、現在では森林管理署と名前が変わっています。
それにしても、ここは完全に自然に囲まれている環境下な上に、周りには人工的なものが何もない。
ここでちょっと宿泊施設としての旅館の形態を考えてみると、かつての街道や町といった「人」が集まる場所に旅館は建てられている。しかし寿荘はそれと真反対で、人がほぼいないような山地の川沿いに存在している。宿の成り立ちに着目してみただけでも、その立地に大きな差異が見られて新鮮に感じました。
こちらが今回泊まることになる寿荘の建物です。
構造としては木造の平屋建てで、藤ノ川川の流れに寄り添うようにして横に長い形をしているのが特徴。土地は十二分にある上に、当時からそれほど多くの人数が寝泊まりする想定ではなかったので平屋建てにしたようです。玄関は正面やや左側に位置し、向かって玄関の左側にお風呂とトイレ、正面に客室と洗面所、そして右側の大部分に大広間があります。
外観から確認できる範囲では、広場側には多数の窓が設けられているので採光は十分に確保されている様子。そして木製の戸やサッシ、苔むした屋根、木々の間を抜けて一帯に差し込んでくる陽光など、寿荘を見渡したときにすべてが柔らかく包まれているように思えました。
正面を確認したところで、次は裏側へ。
建物裏側はすぐそこが藤ノ川川で、建物横の坂道からすぐに川に降りることができます。夏場だとチェックインしてすぐに泳ぎに行く人が多いとのことで、環境の良さや水の綺麗さを直に感じることができる。「宿の裏手に泳げる川がある」というのは、例えば夏休みに訪れる宿としては百点満点じゃないだろうか。
春なので対岸にはちょうど藤の花が咲き始めており、緑一色の中でそこだけが鮮やかになっているので分かりやすかったです。
館内散策
玄関~廊下~客室
外観を一通り眺めたところで、次は早速屋内へ。前もって伝えておいた時間にちょうど到着することができたので、自分が玄関の前くらいに行くと女将さんが出てこられて投宿となりました。
ここで寿荘の客室について先に述べると、合計で2組が宿泊可能です。ただし実際に泊まってみた結果、「宿泊者が自分達のみという状況で、二間続きの方の客室に泊まる」のがベストだと思いました。もう一方の部屋はちょっと狭い上に圧迫感を感じるので、例えば一人で宿泊するという場合には、どの部屋に泊まることになるのかを予約の際に訪ねておいた方がいいです。
すでに述べた通り、寿荘はかつて営林局の保養施設だった建物を後から宿にしたものです。従って建物の構造は一般的な旅館とはまるで異なっており、例えるなら田舎にある集会所のような造り。
玄関の戸を開けると玄関土間と廊下があって、玄関部分はちょうど廊下の板のうちの半分を取っ払って設けたような構造になっていました。戸から土間、そして廊下までの距離がとても近いことが分かります。
廊下は建物手前側を横一直線に通っており、障子戸のすぐ向こう側が今回泊まることになる客室です。旅館であれば玄関の近くには居間などがあるところ、寿荘では最小限の部屋のみで構成されている。このシンプルな構造のおかげで、屋内と屋外との行き来が楽でした。
玄関の左側にはトイレとお風呂場があり、トイレの方はこんな感じ。
大便器の方は一応水洗ですが、用を足した後に洗浄ノズルで綺麗にする簡易水洗式トイレでした。慣れている人なら問題ない(と思われる)ものの、日常生活で近代的なウォシュレットを使っている人にとってはハードルが高い…のかも。まあ場所が場所なだけに仕方のない面もあります。
そして、今回泊まった廊下のすぐ奥にある客室の様子はこちら。
玄関正面に位置する4.5畳×2の二間続きの部屋で、一人で泊まるには申し分のない広さ。奥の方の部屋は床の間付きでテレビと炬燵でまったりすることができて、手前の部屋が寝室という風に贅沢な使い方をされています。
廊下(手前)との境界は障子戸、屋外(奥)との境界はガラス戸と、いずれも採光及び風通しの良さにおいて抜群ででした。昼間だったら障子戸を開けっ放しにしておけば気持ちのいい風が入ってくるので、特にこれからの季節は寿荘の"純和風建築"の素晴らしさを実感しやすいはず。
部屋の設備としてはエアコン、炬燵、テレビ、ドライヤーがあります。ただし浴衣や歯ブラシはないので、必要ならこちらで準備する必要があります。
もう春先なので気温の心配はないと思っていたものの、夜や朝方は思いのほか冷え込んだので炬燵があって良かった。藤ノ川川が近くを流れていることもあって、基本的に同じ高知県内でも気温は少し低めになるようです。近年は特に四季が消滅したんじゃないかと心配になるような暑さがあって、春先以降は気温の高さに辟易する事が多い。でも、寿荘なら夏場でも快適に過ごせるっぽいので嬉しい限りです。
人工的に暑さをしのぐのではなく、周囲の環境がもうダイレクトに避暑へと繋がっている。現代人が忘れていた日本古来の夏が体験できるのは、寿荘の良さの一つだと思います。
なんというか、この部屋でごろんと横になっているだけで精神的に開放された気分になれる。
屋内にいながら自然がすぐそこにある環境で、もちろん車の音などの人工的な音はここでは聞こえてこない。労働にあけくれる日常生活で疲弊した心を回復するには自然に還るのが一番だし、何もしなくても心身ともに癒やされているのが実感できました。
自然に囲まれた川床
実は寿荘の客室は上に示した部分が全てではなく、「自分が自然の中にいる」というのを最大限に満喫できるような場所があるんです。
それが藤ノ川川に面した川床で、投宿前に感じた川の清涼感を全身で感じることができる。しかも後述するように、気温が暖かい時期は川床で食事をすることができるのが最大の特徴です。
川床は客室からガラス戸を開けた目の前にあって、屋内と屋外との境界はあってないようなもの。
旅館であればこういう風に客室から直に外に行けるような構造にはなっていないし、外を見る際には広縁などのようにワンクッションがあることが多いです。でも寿荘ではその中間要素が存在しなくて、まるで縁側のようにシームレスに外へ行くことができる。
見てこの開放感。あまりにも凄すぎない??
川床は想像以上に広く、奥側の4.5畳の部屋と同じくらいの面積があります。自然のみで構成された川の景色を見やすいように前面は柱と手すりだけで、天井は透明なトタンのみという簡素な造り。自分と自然との間を隔てるものは何もなく、ありのままの高知の山と川をダイレクトに吸収できる。
視界に入ってくるのは一面の木々の緑と、そこに降り注ぐ昼下がりの陽光。宿に到着してから「外」に着目することは今までにあまりなかっただけに、この景色に圧倒されるばかりでした。
いやほんと、ぽかぽかとした適度な気候のなかで川床でのんびりできるって最高すぎないか。今回、寿荘に泊まることを決めて本当に良かった。しかも当日が晴れてくれるなんて…。とにかく運が良すぎる。
ここでちょっと雑談をすると、春の時期に宿泊を決めたのには周囲の環境が関係しています。
上に写真に示した通り、寿荘の周りは自然で溢れている。さらに屋外と屋内との境がないようなものなので、これからの季節は虫の存在が無視できなくなってくるのは自然な流れ。特に夜になると虫は明かりに集まってくるので、川が近い寿荘では外界よりも虫が多そうな予感が。。
そういう背景もあって、新緑が目に眩しくて山菜や川の幸が美味しく、かつ虫が少ないという理由で春に宿泊しました。実際に滞在中は虫の存在が気になったことは一度もなく、食事についても川床でいただいたものの、虫に出会うことはありませんでした。なので、個人的には春に泊まるのをおすすめします。夏は確かに鮎などが美味しいと思うけど、宿泊するのであればおすだけノーマット等の準備が必要かな。自分は特に虫に刺されやすいので、これについては注意が必要でした。
洗面所~大広間
続いては今日泊まった客室を通り過ぎ、建物の右側へ向かってみました。
廊下の先の小部屋には流し台があり、基本的に顔を洗ったり葉を磨いたりするのはここでする形となります。見るからに昔はここで自炊とかやってましたと言わんばかりの設備で、コンロだけ撤去されているという感じ。
で、流しの反対方向にはもう一つの客室がありました。今回泊まった奥側の部屋のちょうど右隣に位置しており、広さは5畳。ここにも一応泊まることができるみたいですが、見ての通り壁に挟まれた細長い部屋なので快適性はよくありません。展望もそんなに得られないし、なので電話予約する際には同じ日に別の宿泊者がいないかどうかを確認するのがおすすめ。
実を言うと、この日は本当は自分以外に岡山から来た女性3人組が泊まる予定で、自分はこの5畳の方に追いやられるはずでした。しかし雨が降るということで女性たちが宿泊を1日後にずらしたため、自分のみがこの日に泊まることになったというわけです。あまりにも運が良すぎる。
最後は、建物の右端にある大広間を訪れてみました。
大広間はステージ付きで相当に広く、ちょっとした小学校の体育館くらいはあります。
畳敷きでよく清掃されており、昔はここで宴会などをやっていたということがよく分かりました。隅の方には大きなカラオケの機材が何台も置いてあって、近隣の集落の寄り合いなどにも使われたのかな。宿泊人数が多い場合には、この大広間を客室代わりにすることがあるのかもしれません。
あと、基本的に寿荘で使用する設備はこの大広間に保管されているようです。テーブルや座布団、布団、ストーブ、扇風機などが置いてありました。
大広間の方にもちゃんと川床があって、藤ノ川川を眺めながら食事をすることができるようです。
自分が泊まっている客室の方の川床とは独立しているほか、こちらの方は後から修繕されたのか木材が比較的新し目でした。広さも若干こじんまりとしており、緑に囲まれている感を感じられるのは向こうと同じです。
温泉
ひとしきり館内を散策した後は、炬燵に入って昼寝をしてました。
どうせ携帯の電波は繋がらないし、テレビを見て過ごすという気分でもない。周りに自然しかないような環境下では人間は自然と気分が落ち着いて眠くなってくるもので、そこに温かい炬燵があればもう寝るしかないという感じ。
そんな風に過ごしていると女将さんからお風呂が入りましたと伝えられたので、早速入りに行きました。
寿荘のお風呂は冷泉で、石油ボイラーで入浴に適した温度まで上げています。温泉の詳細はちょっと不明だったけど、すぐ近くにあるホテル星羅四万十が用井温泉(もちいおんせん、単純硫化水素泉)という温泉なので、たぶん寿荘もそうなんだと思います。というか、用井温泉の効能や源泉温度等が調べても全く分からない。謎に包まれている温泉なのだろうか。女将さんは効能が高いと仰っていたが。
見た感じは加温はされていますが、加水や循環、消毒は無しのような気がします。
温泉の様子はこんな感じで、洗い場一つ、湯船(40年間使用されている)一つというシンプルなものでした。洗い場といっても蛇口からは水しか出なかったので、湯船のお湯をメインで使うことになります。石鹸とシャンプーあり。
温度の方は火傷するかと思うくらいに予想外に激熱で入るのに苦労したものの身体の芯から温まるような心地よさがあって、お風呂に入っていると一日が終わった感がして余計に力が抜けてくる。
ちなみに、寿荘と女将さん達の住居の間にある棟(ここも宿泊棟?女将さん達はここのお風呂に入られている様子)のお風呂は薪で沸かしています。夕方になるとここから薪が焼ける匂いが漂ってきて、これがまた良い匂い。
夕食~翌朝
お風呂に入ったら、夕食の時間はすぐ。
まず最初に述べておくと、寿荘の食事は自分が今までに経験したことがないほどでした。何かというと「その時期に食べると一番美味しい旬のもの」を出してくれるのが特徴で、食材へのこだわりは自分が今まで泊まった宿の中で一番だと思います。
藤ノ川川に面した宿ということで、川の幸と山の幸が出てくるであろうことまでは想像できていた。そこから先が本当に凄かったので、説明メインでお送りします。
こちらが夕食の全容で、見るからに「地元でとれたものしか使ってません」というのが理解できる。人によっては質素と思うかもしれないけど、自分にとっては何よりのご馳走が並んでいます。四万十の自然の幸を、自然と一体となったような川床でいただける。これ以上の贅沢はないだろう。
目の前を流れる川のせせらぎを聞きながら、夕方から夜に差し掛かってくる山の中で夕食をとる。食事をする場所は外へ近ければ近いほど美味しさが増すのは登山やキャンプで経験済みだけど、寿荘の食事は完全に外です。しかも屋根付きなので天候によらず屋外での食事を楽しめるし、美味しいところだけを満喫することができる。
食事の際には女将さんが一品一品について説明をしてくださったので、それを書いていきます。
煮物として、ワラビとタケノコ、イタドリ。
- ワラビは日がよく当たる場所に生えているもの(固くなってしまう。スーパーのものは大抵これ)ではなく、山間の日陰に生えている柔らかいものを選んで取っている。さらに木灰の汁でアク抜きをしている。
- タケノコは地面に埋まっている初期のものを足裏の感触で見つけて掘り出し、同時並行で沸かしている湯の中で即アク抜き。新鮮なものを新鮮なうちに処理している。
地元のものを使っていると言っても、地元のスーパーで買ってきましたとかではなくて女将さん自身が採ってこられたものが食卓に並んでいます。
七輪で焼いているアマゴの塩焼きとテナガエビの素揚げ。
電子レンジとかだとうまく加熱できないそうで、七輪で焼き上がったものをそのまま直で持ってきてくれます。
テナガエビを目当てに高知県までやって来た身としては、今回食べることができて感無量でした。アマゴの塩焼きも過去最高レベルで美味しくて、塩加減も絶妙です。
- この時期の夕食に鮎が出てくる宿が他にあるが、というか一年中鮎が出てくる宿も中にはあるが、本来だと鮎は漁の時期の関係で10月〜翌年6月までは採れないので、それらは冷凍したものということになる。なので今の時期は鮎は旬ではなく、寿荘では代わりにアマゴが出た。もちろん藤ノ川川で捕れたもの。
- テナガエビは3月から雨が降り続いているのでなかなか捕れない状況だが、それでも4匹出してくれた。パリパリになっているので丸ごと食べれる。臭みや苦味は全くなく、美味すぎた。
テナガエビを食べるには個人的に初めてだったものの、雑味というか臭みがなくてとても食べやすかったです。一匹目を食べていると自動的に二匹目が食べたくなってきて、気がついたら完食してました。
山菜の天ぷら。具材はユキノシタ、大葉、山椒、サツマイモ、ヨモギ。
山菜はもちろん春の今の時期が一番美味しく、食卓に並ぶ中心的存在。山菜が好きなら、寿荘に泊まるにあたって春を逃す手はないです。
さらに、川床に七輪を持ってきてくれて焼きたての椎茸をゆずポンでいただきました。
揚げたて、焼き立て、捌きたて…。食材や料理を一番新鮮に美味しく味わうには「○○したて」がベストですが、ここでは焼いた椎茸をそのままおかずとしていただけるんです。目の前で焼かれていく椎茸の熱や匂い、それらを味わった末に口の中へ運ぶともう堪えられない。
椎茸は昔は建物の横で育てており、宿泊者自身に取ってきてもらったのを焼いていたが、猪がやってきて荒らすので今では藤ノ川川の上流の親戚からもらっているそうです。
これらの食材情報を横で女将さんが話してくれるので、夕食がより一層美味しいものになったのは言うまでもない。料理としての美味しさもさることながら、食材自体の魅力が大きすぎる。
- 目の前の川では夏になるとツガニ(モクズガニ)が捕れる。
- もちろん鮎も捕れるし、時期によっては蛍も見れるらしい。
- 鮎は四万十川本流よりも藤ノ川川の方が美味しい(四万十川には人家が多く、あと田んぼの水が流れ込んだりするのであんまり綺麗ではない。対して、藤ノ川川の周りには人家がほぼない)。自然の環境として最高すぎる。
というわけで、夕食の時間は一瞬で終了しました。なぜならご飯のおかわりのペースが早すぎる上に、おかずが秒でなくなったから。これはもう仕方ない。食後の片付けの際にはこれからの季節の食材情報も伺ったので、再訪するときの楽しみが増えそうです。
夕食後は夜の静けさを味わった後、就寝。山奥の川沿いで夜に明かりなんか点けていたら虫が集まってくるところが、今の時期に限ってはそうではない。本当に良い季節に訪れたものだ。
布団は敷布団が硬めで、掛け布団が適度に重かったので快適に寝られました。夜間は何かの動物の鳴き声が聞こえてきたりもして、寿荘に投宿してからは自分が自然の中にいるということを景色以外でも実感している。
視覚からの情報のみで理解するのではなく、音や匂いといった視覚以外の感覚が研ぎ澄まされていく感じ。寿荘の周りには余計なものがないので、自然ってこんなにも色んな音がするんだと改めて気付かされました。
翌朝は鳥のさえずりで起床するという、普段の生活では考えらないような貴重な体験をして迎えることができました。昨日に続いて、今日も良い一日になりそうだ。
朝食の内容はこんな感じで、タケノコ、イタドリ、ヤマブキの煮物に卵焼き、白味噌の味噌汁と完璧な布陣。素朴な味わいが朝の静かな時間に似合っている。夕食に続いて朝食も山菜の美味しさに感動した滞在となりました。
食後は電車の時間まで横になって過ごし、女将さんにご挨拶をして寿荘を後にする。今度再訪するときは、春ではなく別の季節へと移り変わっている。そのときに食べられる料理の美味しさを想像しつつ、江川崎駅へと歩いていきました。
おわりに
寿荘はその静かな環境に加え、藤ノ川川や山で採れた新鮮な食材をいただける素晴らしい宿です。
滞在中は自分が四万十の自然と向き合っているように感じられ、女将さんの朗らかな性格も相まって、精神的にも充実した時間を過ごすことができました。料理についてはいずれも寿荘でしか味わえないものと胸を張って言えるレベルだったし、夕食や朝食のことを思い出すだけでも四万十に還りたくなってくる。夏は虫が多くて辛いかもしれないけど、次は鮎を食べるためにぜひとも夏の時期に訪れたいと思っています。
おしまい。
コメント
コメント一覧 (1件)
初めまして。
いつも興味深く読ませていただいてます。
高知は特に渋い鄙び宿が多そうですね。