塩津温泉 秀山荘 昭和初期創業 奥三河の山間部に佇む秘湯宿に泊まってきた

今回は愛知県設楽町にある塩津温泉 秀山荘に泊まってきました。

実は愛知県を訪問するのはあまり経験がなく、岐阜県の隣ということもあって宿泊込みの行程、しかも温泉旅を検討すること自体が頭から抜け落ちていた感があります。しかし県の東側の静岡県・長野県と接しているあたりの山間部には魅力的な風景が広がっており、以前から訪問したいと思っていました。

秀山荘はこの土地で約60年前から営業しており、平成3年に女将さんたちがここを買い取って営業を始めたが、その時点で創業から45年くらい経過していたとのこと。…と女将さんから伺ったほか、wikiでは昭和2年(1927年)に一軒宿「秀山荘」が営業を開始して塩津温泉が始まったと記載されています。いずれにしても塩津温泉の中で最も古い歴史があることは間違いない。

なお県道沿いの看板にも書かれている通り昔は塩津温泉街には旅館が4軒あったが、秀山荘の横の旅館は更地に、川の上流側の旅館は営業を辞めてしまったため今は2軒のみが残っています。

もくじ

外観

まずは外観から。

設楽町の市街地から南へ向かったところに伸びる県道433号、その県道を川の上流方向に向かった先のちょうど中間地点に塩津温泉があります。通常ならばアクセスはかなり楽だと思いますが訪問時は県道の複数箇所で通行止めになっていたため迂回路を通らざるをえず、宿泊の当日もその翌日もハードなライドになりました。

市街地からそんなに離れていないとは言っても結構な山の奥までやってきたような実感があり、写真だけ見たらここが愛知県だとは思わないレベル。

秀山荘の全景

県道からは秀山荘の全景が確認できるのですが…この風景に出会ったときの感動はとても大きかった。

道路脇から若干遠目に位置する川の向こう側の土地には古びた一軒宿が鎮座しており、その建物は一様な造りではないことが見て取れます。建物の手前側も奥側にも自然が広がっていて、さらに玄関前の山桜がちょうど見頃になっている。「一軒宿の雰囲気はこうあってほしい」と自分が思っている通りの美しい静けさが目の前にありました。道中の草木の緑感や小鳥の鳴き声、花の匂いなどがいたるところで感じられ、秀山荘に到着するだけで春が到来した感ある。

宿へ向かうには建物の右手側にある橋を渡ることになります。建物の手前には大きな駐車場があり、車で来た場合はここに止めることになります。女将さん達の駐車場も兼ねているようで、この日最初の宿泊者として到着した時点ですでに車が2台泊まっていました。

本館

駐車場からそのまま進んでいくと玄関に到着。

秀山荘の建物はいま見えている本館と別館から構成され、別館については本館の向こう側に位置しているためここからでは見えません。本館外観はまるで民家のような佇まいをしており、2階の窓には欄干が残っていることが分かりました。玄関右横の建物についてはおそらく女将さん達の生活スペースの一部のようです。

右側の白い壁の部分は温泉設備の様子

玄関前の小さな階段を下ると旅館前を流れる川の近くへ行くことができました。小さすぎず大きすぎずのサイズの川で、夏場だったらここでのんびりするのも良さそう。

館内へ

今回の訪問で最も嬉しかったのは天気が抜群に晴れてくれたことと、この山桜が満開だったこと。

女将さんによれば昨日までは咲いていなかった玄関前の山桜が一日で見ごろを迎えており、しかも穏やかな気候で天気も良いしで予想以上に良いタイミングで訪問できた。自分は宿泊先の下調べをあまりしないので秀山荘に山桜があるということすらも全く知らず、当日向かってみたらこれだったから驚くほかない。本当に運が良いです。

館内散策

本館 1階玄関~廊下

それでは早速館内へ。秀山荘は現在1日5組まで宿泊を受け付けており、この日の宿泊は自分を含めて3組(カップルとおばちゃん4人組)でした。

建物全体は先ほど述べたように手前の本館と奥の別館から構成され、中庭を中心にして「ロ」の形に廊下が通っています。本館の1階に受付、玄関ロビー、温泉、客室があり、2階は客室オンリー。別館にも客室はありますが、1組あたりの人数が多い場合は本館2階に泊まることになるようでした。

玄関の様子

玄関を入ると正面に2階への階段、右側に受付があり、客の導線としては左の廊下を進んでいくことになります。玄関周辺の内装は飾り気があまりないシンプルな造りで、木材や壁の色も比較的新しめ。

丸窓

玄関入ってすぐ右側の壁には丸窓の意匠がありました。

特徴的な招き猫の並び

玄関を上がり廊下に沿って進んでいくと展示棚があり、棚の中には写真や絵などが飾られています。おそらく昔温泉関連の商品を販売していた棚を流用したようです。

で、個人的に面白かったのが棚の上に座っている大小色んなサイズの招き猫達の並び方。通常なら横並びに正面を向くように飾るところが、ここではすべての猫が玄関を向くようになっています。女将さんの遊び心だろうか。

さらに廊下を進むと左側に玄関ロビーがあります。ロビーには設楽町関連の本が置かれているほか、ストーブや扇風機があるので季節を問わずにまったりできそう。旅館の表側に面していて窓が大きいのも明るくていいですね。

中庭へ伸びる廊下

玄関ロビーの対面には別館への廊下が伸びています。別館への廊下はこの写真に示すように一度屋外へ出るものと屋内をそのまま進んでいけるものの2本があり、気分に応じてどこを通るのかを使い分けるのがよさげ。自分はもっぱら中庭を通る方を通ってました。

14年前に撮影された秀山荘の外観。今とそんなに変わらないことが分かる。
温泉と洗面所、その奥に客室
廊下は基本的に採光が十分で、どの時間帯でも明るい気分になれる
廊下上部の面が厳つい

玄関ロビーの隣は温泉、洗面所、本館客室と続いていきます。

本館温泉横の客室については1階に一部屋、それに加えて階段を上った先にも部屋があるようですが詳細は不明。秀山荘の客室の中ではここがもっとも温泉に近いため、後述する理由から温泉にたくさん入りたい場合はこの部屋がいいかもしれません。

玄関ロビーから温泉前にかけての廊下は個人的にとても好きになった場所の一つで、横幅が広い上に天井も高く、それでいて窓が大きいのでとても快適。春の陽気も相まって窓の近くにいると自然と眠くなりそうで、木造建築ならではの柔らかさにある種の開放感がプラスされている。

本館 2階廊下~客室

本館2階にある設備は客室及びトイレのみで、客室の広さは8畳×2。客室同士の境界が襖戸であるため2階に泊まれるのは1グループ限定で、宿泊人数が多い場合は二間続きで使用するっぽいです。

階段を上って左側がトイレ、右側が客室
階段上の丸窓

階段上の手すりは古い建物でよく見かけるような高さが低い形式で、膝くらいの高さしかないので気をつけないと逆に足を引っ掛けて転びそうになる。手すりの向こう側の壁には1階玄関と対になる意匠の丸窓があり、凝っていることが伺えます。

別館への廊下

続いては今回泊まることになる別館へ。

別館へ続く経路は屋外を経由する向かって右側の廊下と屋内を通る左側の廊下の2種類あり、動線が一つではないのが特徴です。

中庭。自然が多いことが分かる
右側の廊下
本館方面を見る
別館への入口

まずは右側の廊下。中庭を間近で眺められるのはこちらとなりますが、廊下の上部に屋根が設けられているので雨が降っても問題ありません。池には鯉が泳いでいるほか、中庭全体に自然が広がっているために清々しい気持ちになれます。

表通りに面した建物の奥側に中庭がある旅館は数多いですが、秀山荘のように自らも中庭に出て通行できるところはそんなにない気がする。あと旅館って一度到着したら翌日の出発まで屋外に出ないパターンがほとんどなのに対し、ここでは半ば自然に外へ出ることが可能です。

左側の廊下

左側の廊下については温泉前の廊下をそのまま進んでいった先にあり、男性用トイレ、洗面所を通り過ぎたところに短めの階段がありました。中庭の廊下の方はスロープ状になっていて段差があまりないのに比べ、こちら側では別館へ到達する流れが少し異なっています。

階段を上った先に男性用/女性用兼用の洋式トイレ。本館・別館宿泊を問わずにほとんどの人はここのトイレを利用することになると思われ、館内でも通行頻度が高い廊下だと感じました。

別館 1階廊下~2階廊下

別館は1階・2階ともに客室のみがある分かりやすい造りをしており、本館からある程度離れているので静かな秀山荘の中でもさらに静かに過ごせると思います。一般的に別館は本館だけでは宿泊客を収容できなくなった際に増築されるものですが、本館とほぼ同じ年代に建てられたように思えました。各所を見比べてみても古さに大差がありません。

別館1階廊下
別館1階客室

別館の1階は宿泊用途ではなく食事・宴会用で、この日は4人組の食事会場として使用されていました。秀山荘は基本的に食事が部屋出しのようですが、人数等の状況次第で別館に変わることもあるみたいですね。

1階廊下の左右両端にそれぞれ階段があり、どちらを進んでも2階へ進めます。

ただ階段そのものは狭い上にかなり急で、酒に酔っていたりすると転げ落ちそうになる予感。

別館2階廊下

別館2階廊下も本館と同様に窓が大きく取ってあり、建物裏手の風景がよく見えます。窓から見える畑と家屋は女将さん達が住まわれているのか、はたまた他の方のものなのかは分かりませんでした(ただ周辺には家屋がほとんどない)。

別館 泊まった部屋

今回泊まったのは別館2階、建物の右端に位置する竹の間です。広さは6畳で設備はコタツ、ファンヒーター、テレビ、扇風機。古い建物らしくエアコンが設置されていないので夏場に泊まるのは少し厳しそうと思いきや、山間部なので案外涼しいらしいです。

泊まった部屋。意匠は少なくこれはこれで落ち着く
実家のような安心感

扇風機が一般的な床置きタイプではなく、店で見かけるような壁掛けタイプというのが新鮮で良い。個人的に客室でこれを見るのは初めてなんじゃないか。

部屋はこじんまりとまとまっていながらも床の間があり、設備も揃っているので憂いはありません。この時期はまだ朝晩が冷えることがあるのでコタツがあるのが嬉しかったです。

アメニティは浴衣、タオル、歯ブラシ、ひげ剃りが揃っています。

客室内にはメニューが置かれていて夕食時の飲み物類を前もって吟味することができました。ビールや日本酒はもちろん焼酎や骨酒も揃っており、ここまで酒の選択肢が多いのはとても嬉しい。ちなみにメニューを見る限りは浴衣やタオルも別料金になっているようだけど、今回の宿泊費に含まれているんだろうか?

泊まった部屋からの眺め
本当にのどかです

別館2階の客室の良さを一つ挙げるとするなら、部屋からの眺めがとても良いことだと思います。中庭やその向こうの本館もすべて見渡すことができるので展望に優れていることに加え、今回はメジロなどの小鳥がよくやってきていたので滞在する時間を五感で楽しむことができました。ここまで宿泊者と自然(山)の距離が近い宿は珍しいと思うわ。

窓から秀山荘全体を眺めていると敷地内・敷地外を問わずに本当に自然が多く、周囲の環境と秀山荘とが完全に一体化しているような感覚になる。繰り返しになるけど気兼ねなく窓を開け放ってぼんやりできる季節(春)に泊まって良かった。窓越しではなくて直に周囲の環境に触れることができるのは体験として貴重だ。

温泉

部屋に到着してコタツに足を突っ込んでいるとそのまま寝てしまいそうになったものの、温泉旅館に泊まっているので早速温泉へ。

秀山荘の温泉は内湯が1箇所あり、家族湯形式で空いていればいつでも入ることができます。ただし宿泊者が多い場合は何度も入るのが難しいことから、例えば宿に到着してすぐに入りに行くなど工夫が必要です。今回は一番風呂に入ることができました。

  1. 源泉名:塩津温泉
  2. 泉質:ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉(低張性アルカリ性冷鉱泉)
  3. 源泉温度:10.6℃、公共の浴用に供する場所42.0℃
  4. 適応症:筋肉もしくは関節の慢性的な痛み又はこわばり、運動麻痺、胃腸機能の低下、軽症高血圧、糖尿病等
  5. その他:加水なし、加温あり、循環ろ過装置使用、入浴剤なし、塩素系薬剤使用
浴室の様子
湯船は岩風呂
沈没
湯が湯船に注がれている様子

浴室用の様子はこんな感じで、一度に入れる人数は湯船の大きさ的に2人まで。

温泉は目の前の川の水?冷泉?を加温していて泉質は若干ヌルヌルしているのが特徴です。湯は湯船を正面に見て左奥のスペースから注がれる形ですが、流れてくる湯の流量・温度が一定ではなく冷たい時もあればぬるい時もあるので変化があって良い。常にかけ流されているわけではないため浴室内はとても静かで、そこにアクセントのように湯の音がするという感じ。館内の落ち着いた雰囲気と温泉の雰囲気がマッチしていて、湯に浸かっていると自然とリラックスできました。

加温の影響は時間が経つにつれて明確になっており、一番風呂ではそこそこぬるく、2回目に入ったとき(17時)、3回目(19時)と徐々に熱めになっていました。この温度変化を楽しむためにも複数回入るのをおすすめします。

ちなみにこの日はチェックイン可能時間からそんなに経たずに他の宿泊者が到着→温泉に入られていて、これは個人的に珍しいです。湯船が一つのみというのが知られているから早めに到着したのかな。

夕食~翌朝

温泉に浸かったり部屋で昼寝をしていると夕食の時間(18:00~)。食事は夕食・朝食ともに部屋出しなので部屋で待っているだけでOKです。なお客室の中では別館2階が厨房から一番遠い上に急な階段もあるので、食事一式を持ってくるのが大変そうでした。運んできていただいて感謝しかない。

夕食のメインの内容はアマゴの刺身と塩焼き(夏だと鮎になる)。生け簀でさっきまで生きていた魚を使用していて新鮮そのものです。他にも茄子の田楽、蕎麦、牛肉の陶板焼きなど様々な品が並び、質・量ともに大満足できるものでした。

熱燗を注文

今回はせっかくなので有名な設楽町の地酒・蓬莱泉を熱燗で注文しました。蓬莱泉は冷やで飲んでも美味しいそうだけど熱燗だと辛口になってなお旨い。魚も地酒も地のものとなれば相性の良さが半端ではなく、あっという間に完食してしまったレベル。今後も旅館で地酒を注文することはやっていきたい。

夕食後は再度温泉に入りに行き、あわせて夜の散策も行いました。昼の時点ですでに周辺は静かすぎるほどで、夜になれば余計な物音は一切しません。たぶん県道が通行止めになっている影響もあると思うものの、交通量が一切ないのは素晴らしい。

温泉が空くのを待っている

温泉に入って部屋に戻ってきたらもう眠くなったので布団に入って就寝。旅館に泊まる日は普段とは考えられないくらいに早く眠気がやってくる上に朝まで熟睡できる。やっぱり温泉に入って美味しい食事を楽しむことが健康にも良いと思ってます。

快眠できた翌日は自然に目が覚め、朝風呂に入ってから朝食(7:30~)となりました。起きてすぐに鳥の鳴き声が聞こえてきて、誰に教えてもらうわけでもなくここが山の中の旅館だと認識できる。

朝風呂へ
朝の時間帯は浴室内が朝日で満たされる
朝食の内容

朝食の内容はこんな感じで、温泉卵、甘露煮、冷奴、納豆、味のり、それにご飯と味噌汁という王道すぎる献立。無限にご飯をおかわりできるくらいに食欲が湧く。どの品も身体に即馴染んでいくようで、毎日こういう食生活を送っていたらあっという間に健康体になれそうだ。

最後はコタツに入って朝日を見ながら食後のコーヒーをいただき、出発時間までのびのびと過ごしました。

おわりに

塩津温泉 秀山荘は山の奥深くにある古びた温泉旅館であって、滞在中は自然に囲まれて精神的に開放された気分になることができます。温泉も食事の内容も素敵かつ充実しており、到着から出発までが体感的に短く感じられるほどでした。

女将さん曰く秋の季節もおすすめとのことで、次はぜひとも季節を変えて訪問したいと思っています。次来るときには県道が復旧していると嬉しいな。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

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