湯抱温泉 中村旅館 大正5年創業 石見美郷町の秘湯に泊まってきた

今回は、島根県美郷町にある湯抱温泉 中村旅館に泊まってきました。

島根県の中央部に位置する三瓶山の周辺は山陰屈指の温泉地帯として有名であり、海側に行けば温泉津温泉、内陸部に行けば三瓶温泉や千原温泉、小屋原温泉などの小さな温泉が点在しています。

今回泊まった湯抱温泉もその中の一つで、「湯抱温泉」を形成するのはこの中村旅館のみというシンプルさ。5~6年前まではもう一件の旅館(日の出旅館)も営業していましたが、今では廃業されています。


中村旅館の創業は大正5年(1916年)で、古くから主に湯治向けの旅館として営業されてきました。

昔は農業をされている方が農閑期に入ると手が空くため、ある程度まとまって一週間とかの長期間滞在する湯治客が多かったそうです。最近ではそういう人も数が減ったものの、毎年欠かさず40年間ほど入りに来ている方もいるとのこと。

営業体制については、ご主人や女将さんの高齢化等に伴って現在は1日1組限定となっています。そのぶん他の客に気兼ねなく寛いだり温泉に入ったりすることができて、滞在時間があっという間に過ぎていくくらいに思い出深い宿泊となりました。

もくじ

外観

まずは外観から。

大田市から美郷町方面に抜ける国道375号から道を一本入り、川の上流方面へ向かうと民家がいくつか見えてきます。中村旅館があるのはかつての温泉街中心部だった橋のたもとで、遠くからでも建物自体はよく見えました。

そもそも中村旅館の近くで道が途切れている(地図上では三瓶山方面に向かう道があるが、ほぼ整備されていないのでおすすめしない)のに加えて、周辺は電波が圏外になりました。山に囲まれた温泉という状況自体は三瓶山近くの他の温泉と同じなので、ある意味で味があるといえます。

橋の上からの風景
中村旅館全景。左側に「中村」と大きく書かれた看板がある
背後に見える煙は温泉を沸かしているもの
駐車場

中村旅館は2階建てで、表通りに面している方を正面にして中庭を中心に「コ」の字形に棟が連なっています。どちらかというと奥側に向けて長い構造をしているのが道の脇からも見えて、昔は大勢の客を収容できる体制だったことは想像に難くない。

建物の右側面には旅館の方の駐車場があり、仮に車で訪れた場合はここに止めるのか、もしくはすぐ近くに公衆トイレ付きの共同駐車場があるのでそっちを利用するっぽいです。

建物正面方向の話をすると、正面やや右側に斜め方向に玄関があります。左側には厨房があり、2階に見えるのはすべて客室。外観だけ見ると比較的改修が進んでいるように見えますが、2階右側に残る看板などは当時から変わっていないようです。

あと、表通りが集落のための道というのも静けさに拍車をかけていると思いました。この道を山方面に進んでいっても特に何があるというわけでもなくて、つまりこの集落に用がある人しか通ることがない。行き止まりみたいな道になっているために、こうして目の前に立っていても車通りが全くありません。

個人的には賑やかよりは静かな旅館の方が好きですが、中村旅館は静けさという面で素晴らしい立地です。

玄関の意匠

玄関の上には「全運連観光協定旅館」「中国電力指定旅館「島根県職員組合指定旅館」「全国農協観光協定」などのプレートが飾られており、これらは古い旅館にある特徴の一つ。

一つ一つのフォントの違いや経年劣化感の違いを眺めつつ、中村旅館がどういう立ち位置の宿だったのか想像してみる。○○指定旅館って歴史のある宿が多いような気がするし、昔は団体旅行がメインだったという背景を考えるとしみじみとした時間になりました。

館内散策

1階 玄関周辺

続いては館内へ。

中村旅館のチェックインは16:00から可能で、道中で時間調節をしたのでちょうどの時間に到着できました。

玄関が広すぎる件について

屋内に入って驚いたのが、この玄関土間の圧倒的な広さ

もちろん玄関入り口の時点で幅方向が広いことは理解しているものの、奥行きも相当あるので一度に大勢が出入りできます。玄関の広さは精神的余裕の大きさということで、十分な採光が可能な玄関の大きなガラス戸もプラスされて開放感がすごい。

自分の場合は許可を得てロードバイクを玄関土間に置かせていただくことが多いのですが、実際に止めてみてもロードバイクの存在が全く気にならないくらいにあまりにも広すぎる。なんということだ。

玄関の右側に靴箱、左側に玄関ロビーがあり、客の動線としては正面の廊下を直進するか、もしくは2階への階段を上るかのどちらかになります。

靴箱
玄関ロビー

玄関ロビーはこんな感じで、例えば記帳待ちの場合やチェックアウト時のやり取りの際に休憩することができます。美郷町周辺の観光案内も置かれているので、一度目を通してみるのもいいかも。

あと中村旅館は宿泊だけではなく、「昼食付き日帰り温泉プラン」というプランもあります。

要予約で2名より貸切2時間セットで料金は3,000円/一人。後述の理由から日帰り温泉のみの提供はありませんが、日帰り温泉とランチがセットになっていてお得感がある。このケースだとたぶん客室は利用できないため、ロビーで一休みする形になるのかな。

1階 廊下

玄関で女将さんにご挨拶をし、ここから中村旅館での滞在がスタート。

お部屋に案内していただいてから諸々の手続きを済ませ、温泉に入る前に館内の散策を進めることにしました。まずは1階を歩いていきます。

最初に中村旅館全体の話をすると、1階には厨房、食事用の大広間、温泉、洗面所&トイレがあり、2階には客室ともう一箇所の洗面所&トイレが設けられています。つまり昔/今を問わずに客が泊まるのはすべて2階で、1階には共同の設備や部屋しかありません。

このあたりも古い旅館の特徴ですが、動線が固定されているのでとても分かりやすいです。

大広間に向かうのは食事の時だけ、さらに温泉には1階からに加えて泊まっている2階から直接行くことができるので、おそらく1階を歩き回る機会は少ないと思います。

玄関正面廊下を直進すると、階段裏に厨房への入り口があります。

1階部分には玄関以外だと中庭を挟んで左右両側に棟があるものの、つまり客が通れるのはこちら側(右側)の棟だけです。

1階廊下。右側が大広間。

そのまま進んでいくと右側に大広間があり、次いでソファ等が置かれた一角がありました。

大広間については最初はなんの部屋か分からなかった(食事は部屋出しだと思っていた)のが、投宿して食事の説明を受ける際に大広間だと理解した感じです。

廊下は板張りではなく絨毯敷き、壁は元々の板の上から化粧板が張られています。

1階の洗面所

ソファの先にあるのが中庭に面した1階の洗面所で、一度に数人が使えるほど幅が広いです。

洗面所の一角は木材メインではなく石材がほとんどを占めていて、木造ばかりを目にしていた状況から一気に雰囲気が変わったのが実感できました。木と石の組み合わせには一種の安心感があって、石がプラスされることによって強固さが増しています。

左側の壁には丸窓、正面には格子付きのガラス戸、正面だけではなく右側にも鏡があったりと、洗面所周辺は他には見られない不思議な構造が特徴です。

温泉・脱衣所の入口

洗面所の奥は、温泉の脱衣所への入り口になっていました。

自分が中村旅館において印象に残ったのがこの箇所で、先程までの木造建築の部分とは外観的に全く異なる様相になっているのが分かると思います。

まず床については、木の板材ではなく丸石(玉石?)を敷き詰めた「硬さ」を感じるもの。

脱衣所への戸に繋がる段差は直線上ではなく曲線状で、戸や左側の窓の枠部分は緑色に着色されたとても古いものでした。おそらくですが、温泉がある一角は昔とそれほど変わっていないのではと思います。確かに温泉を運用するにあたって火を活用する関係上、温泉周辺は石造りで耐火性があるものにする必要があるし。

これが旅館の大部分を占める木造部分との対比になっており、足裏に伝わる石の感触もまた心地がいい。一言で言えばレトロな空間ということになるけど、自分は木造の中の一部に石が含まれている構造が好きなのかもしれない。

1階のトイレ

温泉方面へ向かわずに右側に進むと、ここに1階のトイレ(男女別)があります。

どうやら洗面所から奥側は床が丸石で統一されているらしく、そのまま裏口の屋外に繋がっていることを踏まえると合理的な造りといえます。あとトイレの前には一人用のソファが置いてあって、せっかくなので座っておきました。

館内の共用スペースにある椅子やソファって、普通に過ごしている分には客にとって必須というわけではない。でも、実際に設置されているのとされていないのとでは快適さが明確に違います。自分はこういうのを発見したらとりあえず座ってみる派。

脱衣所の入り口

建物の突き当りには温泉に使用する道具等を保管されている広めのスペースがあり、ここの左側には脱衣所へ繋がる別の入口がありました。

ちょうど2階からの階段がこの入口の前に降りてくる格好になっているので、宿泊時はこっちの入り口を使うことになると思います。逆に2階からまず玄関前に降りる階段を下ってから1階廊下を通ってきた場合は、さっきの入口を使う形です。

こちらには古いガラス戸が保管されているのが確認でき、女将さんに聞いてみたところ「何に使えるか分からないから、使えそうなものはとりあえず保管している」とのことでした。

旅館を運用していく中では、古くなった設備等は順次更新していく必要があります。

そんな時に近代的なものばかりを新規に使用するのではなく、中村旅館では昔の建具やガラスを再利用されている(後述に示す通り、2階のトイレの戸は昔のガラスを再利用している)。その旅館で歴史を歩んできた建具が別の形で生まれ変わっているというわけで、その方針に感動しました。

2階 廊下~客室

1階を歩いたところで、続いては2階へ向かいました。

玄関方向に対してやや左方向に傾いた階段を上った先の動線は全部で3つ設けられていて、①まず左側に向かうと厨房へ繋がるこじんまりとした階段の向こう側に客室が2つあります。手前側の客室は使われていないもので、奥側の客室が今回泊まった部屋となります。

②次に右手前方向には表通りに面した客室がこれも2つ存在し、特に使用されてはいませんが掃除をすればすぐにでも利用できそうなほどでした。③最後に右奥方面に向かうと廊下の右手側にメインの客室が横一直線に並び、一番奥に温泉脱衣所へ降りる階段があります。

現在でこそ1日1組であるため客の動線は1つしかないものの、当時だと階段を上った先がちょうど三叉路のようにになっているのでなんか探検しているような気分になれる。階段を中心にしてどの方角にも客室があるため最短距離で移動ができ、よく考えられた構造だと感じました。

表通りに面した客室

表通りに面した客室の様子は上記の通りです。場所的には玄関のちょうど真上にあたります。

旅館の一番外側に廊下もしくは広縁のような空間があって、その内側に客室が2つ並んでいます。客室の広さは手前側が6畳、奥側が8畳でした。いずれも床の間付きの豪華な造りが見られ、全体的に居心地が良いです。広縁も広いし。

昔はあったであろう襖戸が取り払われているのでとても開放感がある上に、表通り側がすべて窓になっているというのも明るくて素敵ですね。やはり人工的な灯りに頼りすぎるのではなく、館内は自然光によって満たされていてほしい。

今回泊まる部屋は後にして、続いては旅館奥側に向かってみます。

2階廊下と客室
客室への襖戸の図柄

建物右側の棟については1階も2階も大きな差異はなく、同じ場所に廊下が伸びていて、同じ右側に部屋があるという構造です。2階の廊下には絨毯が敷かれていなくて、板材がむき出しになっているのが個人的に好き。

1階でいう大広間があった場所には客室が並んでいますが、現在では倉庫のようになっているとのことでほぼ使われていない様子でした。客室の襖戸は扇子をモチーフにした図柄で統一されていて、一目で客室への入り口だと理解できるようになっています。

2階の洗面所

2階の洗面所の様子。

こちらも石造りになっているほか、洗面所の上がすぐ屋根の部材なので天井が斜めでした。特に右側にある鏡のところの壁もちゃんと斜めに切り取られており、こういう構造的な部分は当時から変更ありません。

なお泊まることになる部屋には洗面所がないので、歯を磨いたりする場合には中庭の向こう側にあるこの洗面所まで歩いてくることになります。

2階のトイレ
階段を降った先が脱衣所

洗面所の先にある男女別のトイレは、水回りを含めて新しく改装されていました。入り口だけではなくてもちろんトイレ内部もとても清潔で、使用するにあたって憂うことはありません。

さっき述べた建具を再利用しているというのがここのことを指していて、トイレ入口のガラス戸は昔ながらのぐねぐねしたタイプのやつです。入り口の右横には小さな鏡や置物が置かれていたりもして、古いものと新しいものがバランスよく配置されているという感じ。


そのままトイレ前を通り過ぎ、階段を下っていくとさっき見た脱衣所に繋がっていました。

階段を降りてちょっと進んだ先が脱衣所ではなく、階段を降りたら即脱衣所という絶妙な位置関係がとても良かったです。なんというか2階から1階に降りるという気分的なラグがなく、泊まっているのは2階・でも温泉は1階…という高低差をあまり感じさせない配慮がある。

他の人はどう思うか分からないけど、こういうちょっとした点に自分は注目しがちなので旅館の散策はやめられない。

2階 泊まった部屋

最後は玄関に降りる方の階段前に戻ってきて、今度は旅館左側に位置する客室へ向かいました。

現在では1日1組ということもあり、使用されている客室はこの一室のみのようです。広さはなんと12畳もあって、「1組」が3人とか4人でも特に問題はなさげ。

廊下突き当りが泊まった部屋

階段を上がって左方向を見ると右端に厨房への階段があり、廊下はその横に続いています。

昔は食事については部屋出しだったと思われ、その際に厨房から2階へスムーズにアクセスできるように専用の階段を設けたようです。こういうのは他の旅館でも多く、宿泊者向けの階段に比べると非常に小さいのが特徴の一つ。

泊まった部屋の前にある廊下や、泊まった部屋からは中央の中庭を見下ろすことができました。中庭を囲むようにして他の棟が建っているのが分かると思います。

さっき古くなったところは適宜補修しながら運用していると書いたものの、屋根部分については補修が追いついていないので黒いシートがかかったままになっていました(範囲も広い)。中村旅館の屋根は山陰特有の石州瓦屋根なので、瓦の補修は手間がかかるっぽい。

泊まった部屋

泊まった部屋の様子はこんな感じで、まず入って正面奥に床の間があり、部屋の左右はどちらも大きな窓になっています。入ってきた方の壁には押入れがあって、着ているものを収めたり布団が入っていたりしました。

部屋の設備としてはエアコンとテレビ、他にも浴衣やタオル、バスタオル、歯ブラシがあるので特に準備は不要です。

襖戸の水墨画
襖戸の取手
床の間
到着すると女将さんがお茶を淹れてくれる

部屋の広さは滞在時の快適さに大きく影響する要素の一つで、その中でも12畳一間は幅・奥行きともに満足のいくものでした。

一般的に8畳以上になると二間続きになることが多いような気もするけど、中村旅館では一間になっています。

ましてや今日この宿に泊まっているのは自分しかいなくて、広さもあいまって開放感がすごい。到着時にはすでに布団が敷かれており、もちろんすぐに昼寝することも可能でした。

旅館に到着して部屋に案内され、いざ自由タイムに突入したときの何でもできる感は相当のものだと思う。温泉に行くも良し、寝ても良し、散策しても良しと、宿での過ごし方はかなり幅があります。

温泉

お茶を飲みつつひとしきりまったりした後は、中村旅館を象徴する存在である温泉へ。

最初に温泉の詳細を紹介すると、下記の通りです。

  1. 源泉名:湯抱温泉
  2. 泉質:含弱放射線-ナトリウム-塩化物炭酸水素塩泉(高張性中性低温泉)
  3. 泉温:源泉30.6℃、使用位置24.1℃
  4. 浴用適用症:神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺等

高温泉ではなく低温泉なので温度が低いため、浴用に供するために加温する必要があります。

中村旅館ではなんと薪で釜を沸かすことで加温を行っており、細かい温度調節ができないかわりに雰囲気がとてもよいことが特徴。宿泊前に外観を確認したときに建物後方から煙が出ていたのは、実はこの薪の煙なのでした。

低温泉を薪で沸かすという関係上、温泉はいつでも自由に入れるというわけではなく、前もって何時に入りますという申告が必要になります。

これは最初にお部屋に案内していただいた時点で女将さんに伝えることで確定され、今回は女将さん提案の通り夕食前の17:00、夕食後の19:30、翌朝の7:00という風に決めました。なお熱め・温めというお願いも可能で、自分は(長湯ができるので)温めが好きなので温めでお願いしておきました。

脱衣所

脱衣所の様子。

建物の中では奥まったところに位置しているものの、証明が明るいので暗い様子はありません。1階廊下側の入り口外側の古びた構造とは異なり、中は適度にリノベーションされています。

壁にはずっと昔から貼られている注意事項があり、内容を読んでみると「お願い お客様のご入浴は午後八時までにお願い致します」「お願い 温泉浴場で入浴されるお客さんには一人一回につき百五捨円の入湯税を経営者が特別徴収いたしますのでご協力下さい。 邑智町」とありました。

今となってはおそらく必要のない張り紙だけど、こうして今も残されているのが好き。

続いては浴室の様子。

中に入ると左側に洗い場が2箇所あって、まずはここで身体を洗うことになります。ボイラー式?のようで、少し待てばお湯が出てきます。


印象に残ったこととして、浴室に入った瞬間から薪の匂いが強く感じられました。

すぐそこで薪を使って沸かしているので当然といえば当然ですが、ただ単に情報として聞くよりも、この匂いを嗅ぐことによって一発で理解が深まる。何よりも温泉において匂いという要素はそんなに多くなく、中村旅館ならではの特別感を五感で実感できます。

また次の機会に中村旅館に泊まったとして、薪の匂いが同じように漂っているのであれば今回の思い出がすぐに蘇ってくるだろう。それほどまでに心に残る匂いでした。

中村旅館の温泉
とてつもない析出物の量
柵が設けられている奥側の下部に釜がある。湯面に漂っている白いのは湯の花。

そして、こちらが中村旅館の温泉の全容です。

浴室そのものは窓が2箇所設けられており、壁は一面がタイル張り。向かって左側に湯船が一箇所掘られていて、湯船の広さはだいたい2人が余裕を持って入れる程度でした。

何がすごいって、温泉成分の析出物の量が多すぎて地面のほとんどが鍾乳洞みたいになっているということ。ここまでのものを見るのは個人的には初めてだ。

湯船がある周辺だけではなく、湯船から遠く離れた反対側の壁の根本まで析出物の形成が及んでいるのが分かると思います。温泉の成分表を確認しなくても、この様相を見るだけで温泉の効能が如実に実感できるほどでした。

ドアップにして鍾乳洞の中で写真撮りましたといったら信じる人がいそうなレベル
いつまでも見ていたくなるほどの造形美

眺めれば眺めるほど凄すぎて笑いが出てくる。

どれほどの時間と成分の濃さがあればこんなになるんだろうか。

析出物が波打ったように形成される中で一つ一つが小さな池のようになっていて、湯船の手前側はその間隔が狭く、右側の広いスペースは逆に広いのが不思議でした。これらの上を素足で歩くともちろん痛いため、湯船の近くにはマットが敷かれたりしています。

温泉に入ってみると、お願いしていた通りに体温よりも微妙に高い程度の温湯になっていてとても気持ちがいいです。

自分としては温泉の温度が熱いとすぐに身体が温まってしまうため、これくらいが適温。長湯をするとお腹がとても減るので、この後の夕食の美味しさが何倍にもなるという良さもありますね。

温泉そのものについても湯の花が多くて、これが集まることで例の鍾乳洞が形成されるんだろうな。試しに舐めてみるとしょっぱいような、いや美味しいようなナトリウム独特の味がしました。

呼び出し用のボタン

温泉に入る上でもう少し熱くしてほしい・温くしてほしい等の要望があれば、備え付けのボタンを押して連絡する形となっています。熱ければ源泉を投入、温ければ薪で釜を再加熱することによって温度調節が行われます。

よく考えてみれば、薪でお風呂を沸かす動作は日本の古き良き伝統の一つでもある。温泉に限っては大部分が高温泉なので「冷ます」というアクションのほうがメインになりますが、中村旅館では低温泉であることによって、薪という要素が付加されています。

結局、温めということもあって長湯をしました。温泉そのものが気持ち良いという点に加えて、温泉を準備する上での手間暇が心地よさを倍増させている。現代の日本において、とても貴重な温泉です。

夕食~翌朝

温泉に入った後は待ちに待った夕食の時間。場所は1階にある大広間で頂く形になっていました。

ちなみに中村旅館では女将さんとご主人に加えて、息子さんが帰られてきて料理をご担当されています。古い旅館は後継者不足で閉業されるケースがとても多い中で、これは非常にありがたい。食事の際には挨拶に来てくれて、より充実した時間になりました。

大広間(朝の様子)
最初は自撮りしているのかと思った掛け軸の絵画

大広間の様子はこんな感じで、昔はここで宴会とかをされていたんだろうと思います。全体的にリノベーションが進んでおり、柱や天井、床は新しくなっていました。

場所的には旅館の方の駐車場に面しているので採光は必要十分以上で、「暗いよりは明るいほうが良い」の精神がここでも表れている。

夕食の内容(最初に出ていた品)
おおち山くじらの肉
刺し身
つぼ焼き
天ぷら
そば
デザートのいちご

夕食の内容は刺し身、つぼ焼き、ピンク岩塩で頂く天ぷら、茶碗蒸し、酢の物、冷たいそば(若干甘めなので天ぷらと合う)、そして美郷町で駆除捕獲されたイノシシを活用したブランドの猪肉「おおち山くじら」の蒸し料理です。

特に猪肉が出るのは予想外で、高タンパクだけどヘルシー、かつ野性的な味がしてとても美味しかった。いずれの料理も出来たてが厨房から順次運ばれてくるので料理としての鮮度が高く、白米の消費が追いつかなかったほどです。

効能が高くて気持ちの良い温泉に浸かり、その後に美味すぎる夕食をいただく。温泉旅館ではお馴染みの流れに思えるけど、中村旅館のそれは特に満足がいくものでした。

夕食後は軽く外を歩いた後、館内に戻って再度の温泉へ。

滞在中も今も変わらず、中村旅館の周辺には自然の音だけが溢れている。何度も言うけど、旅館の表通りの交通量が極端に少ないのが本当に良いです。なんというか現実に引き戻されるような人工的な音がなく、滞在をより濃いものにしてくれる。

食後の温泉については、食前の温泉とは異なってカエルの鳴き声を聞きながらの入浴となりました。付近には田んぼがないためか、田んぼで鳴いているカエルとは違う種類のカエルがメインのようです。


翌朝は自然と目が覚め、朝食前に温泉に入りに行きました。

朝風呂そのものは温泉旅館においてメジャーであるものの、中村旅館の場合は準備までの手間を考えると提供があること自体に感謝。

朝食の準備に加えて風呂の方も用意しなければならなくて、これをほぼ毎日やっているのだから凄いとしか言いようがない。寝起きの身体に優しい湯が心地よく、起きたばかりなのにまたすぐ眠くなりました。

朝食の内容

朝食の内容は上記の通りで、豆腐や温泉卵等の優しい味付けをした品が中心です。

山陰地方の名物である板わかめもちゃんとあって、ご飯に乗せて食べると白米本来の味にわかめの味がプラスされてこれまた美味しい。あと個人的には白味噌のお味噌汁が本当に久しぶり感があり、懐かしい気持ちになりました。やはり味噌は白味噌に限る。

食後のコーヒー

そんなこんなで、気がつけばもう出発の時間。

旅館における体感時間は本当に短く感じられ、特に翌朝になるともう一瞬で出立の時がやってきてしまう。なので自分的には翌朝=今日の行程が始まる興奮というよりも、あれだけ楽しい滞在を過ごした宿との別れという意味で悲しくなります。

まあまた次回に泊まりにくればいいだけの話だし、今回の出会いそのものを大切に考えたい。

一旦坂道を下ってから戻ってきて撮影

最後は女将さんにご主人、そして息子さんが総出でお見送りをしてくださいました。しかも玄関までではなく、自分がロードバイクに乗って姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれるという神サービスっぷり。

中村旅館の良さは建物や温泉自体の要素に加えて、経営されている方々の真心によるところがとても大きいです。これは…ぜひともまた別の季節に再訪したくなってきた。

おわりに

温泉好きにとっては堪らない地域だと昔から聞いていた山陰地方。

実際にはそれ以外にも古びた宿が多く、さらに静かで落ち着いた町並みがそこかしこに存在しているので、この趣味を始めてからは自分の中でも特別な存在になりつつあります。特に島根県は私が好きな風景が海沿いや山間部にたくさんあり、つまり何度も訪れたくなる魅力的な地域ということ。

今回泊まった中村旅館は一つ一つの要素やホスピタリティに大満足でき、一夜を通じて忘れようのない思い出になったことは言うまでもないです。全国的に知名度が高く、休日はおろか平日もかなり先まで埋まっているので予約はお早めに。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

過去に泊まった旅館の記事はこちらからどうぞ。

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