【吉野~行者還避難小屋】春の大峯奥駈道縦走 吉野から熊野本宮への修行道を歩いてきた Part 1/4

役行者によってひらかれた山岳信仰の道「大峯奥駈道」を、吉野から本宮大社まで三泊四日で縦走してきました。

地図で何度も行程を予習してはいたものの、想像以上のアップダウンの多さにかなり苦労しました。

もくじ

熊野古道

熊野本宮大社を目指す道としては一般的に熊野古道が有名です。

古代から中世にかけ、本宮・新宮・那智の熊野三山の信仰が高まり、上皇・女院から庶民にいたるまで、多くの人々が熊野を参詣しました。「蟻の熊野詣」と例えられるほど、多くの人々が切れ目なく熊野に参詣したと伝えられています。

画像の通り熊野本宮へ向かう道は東西南北に存在しますが、このうち田辺から熊野本宮に向かう中辺路(なかへち)、田辺から海岸線沿いに那智・新宮へ向かう大辺路(おおへち)、高野山から熊野本宮へ向かう小辺路(こへち)が、「熊野参詣道」として世界遺産に登録されています。

どの道も紀伊の山中を味わいながら歩くことができ、山を歩く人が好きな人にとっては聖地ともいえる場所です。私も学生時代にこの道の魅力に取り憑かれて以来、折を見ては熊野古道を歩きに和歌山を訪れていました。

今までに中辺路と小辺路、それから本宮大社と那智大社を結ぶ「雲取越」を歩き、だいぶ自信がついたところで今回ついに大峯奥駈道を歩くことにしたわけです。

画像を見ると小辺路と大峯奥駈道はあまり距離が変わらないように感じるけど、難易度はぜんぜん違うので注意。

大峯奥駈道とは

大峯奥駈道とは吉野と熊野を結ぶ大峯山を縦走する修験道の修行の道であり、1000~1900m級の険しい峰々を踏破する「奥駈」という峰入修行を行なう約95kmに渡る古道を指します。

2004年には「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として世界遺産に登録されています。

コースとしては長さこそ約95kmなものの、登りは累積約7700m、下りは約7900mとなります。全行程を通して非常に急なアップダウンが多く、鎖場も随所に設けられています。

また一部女人結界のある区間を通るため、全てを歩くことができるのは男性に限られます。

歩く方向によっては熊野古道と同じく本宮大社を目指す形になりますが、正確にいうと大峯奥駈道は熊野古道のように参拝のための道ではなく修行をする道です。

熊野古道のように整備されている区間はあまりありません。難易度としては熊野古道とは全く別物だと思ったほうがいいです。

順峯と逆峯

大峯奥駈道の道筋としてはふたつ存在します。

ひとつは本宮から吉野に向かう順峯(じゅんぷ)、もうひとつは逆に吉野から本宮に向かう逆峯(ぎゃくふ)で、それぞれに主宰する宗派が異なります。順峯は天台宗系の聖護院(本山派)が、逆峯は真言宗系の醍醐寺三宝院(当山派)がそれぞれ主導しています。

ネットをみるとスタート地点へのアクセスのしやすさなどから、ほとんどの方が逆峯を選択しているようです。なので私も今回は逆峯で歩きました。

歩く時期

大峯奥駈道に限らず熊野古道全体に言えることとして、歩くのは5月はじめごろか、がおすすめです。夏はおすすめしません。

夏は雨が多い

一番の理由は、夏は雨がよく降ること。

この地域は南から流れ込む暖かい気流の影響をダイレクトに受けやすい状況に置かれており、本州の中では最も温暖湿潤な気候を維持する地域となります。

夏は特に雨の日が多いので、快適な登山をしたいのであれば夏は外したほうがいいです。

単純に暑い

夏は大量に汗をかきやすいので他の季節よりも多くの水分が必要になります。

高い気温の中、登山のような長時間の運動はかなり危険です。山を歩くので多少は涼しいというのは今回の場合は当てはまらず、低山ばかりなので麓と大して気温は変わりません。

虫問題

夏の山といえば虫。

このあたりの山は低山ばかりなので虫が非常に多いです。今回の縦走時はまだそこまで多くの虫は見かけませんでしたが、以前9月に小辺路を歩いたときはアブによく遭遇しました。

冬は雪が降る

冬は冬で雪が大量に降るのでこれもパス。積雪がひどいと道が見えなくなって遭難する恐れもあります。ルート上の道は獣道レベルのところもあるので、地面がはっきり見えていないと危険です。

以上の情報をネットで予め得ていたので、歩くのはGWと決めていました。

結論をいうと、少し気温は高く感じましたが雨にも降られなかったので比較的快適な状況で歩くことができたと思います。携行する水分も3Lで十分でした。夏だと3Lでは済まないと思います。

持っていった装備

食料

今までの登山経験から食料の量を決めました。

最初は二泊三日で行くつもりだったのでその分の食料しかありません。一泊目の疲労具合から途中で全行程を三泊に延長することに決めましたが、予備の食料を持っていってなかったのはアホとしかいいようがない…。ただ、行動食に関してはこれで十分でした。

なお、カップ麺等であればルート上にある弥山小屋で購入できます。

  • メイン:アルファ米×2、レトルト×2、スープ×2
  • 行動食:柿ピー×4、ドライフルーツ、ウイダー×3、ようかん×6、塩飴

ようかんはエネルギー効率、値段、大きさなどあらゆる面で最強の行動食だと思います。登山や自転車旅に行くときは必ず持っていっています。

装備

このコースを歩く場合、テントを持っていくかどうかで装備の量が大きく変わります。

あちこちに山小屋があるものの、小屋によっては数人分のスペースしかない場所もあり、混雑時などは外で寝なくてはならないときもあるでしょう。私の場合はマットレスとシュラフがあればどこでも寝られるのでテントは持っていきませんでした。

とにかくアップダウンが非常に多いので荷物が重いとかなり苦労します。

ただ、テントを持っていればビバークもしやすいし、「とりあえず日没まで歩いて適当なところにテント張って寝る」という方法も取れなくはありません。※テントは重いのでツェルトのほうがいいかなと思います。

【基本装備】

  • ザック:MILLET ECRINS II 30L
  • 靴:SALOMON XT WINGS2
  • シュラフ: モンベル ダウンハガー800 #3
  • マットレス : THERMAREST Zライト ソル
  • トレッキングポール:BLACK DIAMOND トレイル
  • クッカー : PRIMUS イージークック ソロセットM
  • バーナー : PRIMUS P-153
  • 膝バンド:ZAMST JKバンド
  • トレッキンググローブ:ISUKA ウェザーテック
  • 地図:山と高原地図 大峰山脈 2016
  • 水ボトル:Platypus SOFT BOTTLE 1.0L×3
  • ウインドブレーカー:モンベル(名前不明、相当前に購入)
  • レインウェア:モンベル ストームクルーザー
  • ヘッドランプ:BLACK DIAMOND(名前不明、相当前に購入)
  • 応急処置キット
  • 腕時計

水の持ち運びはPlatypusがおすすめです。中身が入ってないときは折り畳めてザックの片隅でも放り込んでおけば省スペースになります。

地図に関しては「山と高原地図 大峰山脈」のほかに、新宮山彦ぐるーぷ様(http://syamabiko.web.fc2.com/)が作成されている「奥駈道イラストマップ」が大変便利という情報を登山者の方から伺いました。

確認してみると水場の場所や危険箇所・テント適地など何から何まで網羅されており、大峯奥駈道を歩く上では必須です。新宮山彦ぐるーぷ様のFacebookからダウンロードできるので要確認。

これを予め知っていればもう少し楽ができたかもしれません。

【衣類】

  • ベースレイヤー:モンベル ジオライン
  • Tシャツ×2
  • パンツ:Finetrack ストームゴージュアルパインパンツ
  • 下着×2
  • タオル×3
  • 靴下

【カメラ】

  • Nikon D750
  • Nikon AF-S NIKKOR 24-85mm f/3.5-4.5G ED VR
  • Nikon AF-S NIKKOR 18-35mm f/3.5-4.5G ED
  • Nikon Li-ion EN-EL15a
  • PeakDesign Capture v3 Camera Clip

登山でカメラを扱う場合は、ザックのショルダーハーネスに取り付けるPeakDesignの「Capture」が大変便利です。詳細はこちら▶ Capture Camera Clip

【その他】

  • 箸、スプーン
  • スタッフバッグ×2
  • モバイルバッテリー
  • ポケットティッシュ×3
  • 洗面用具
  • 財布
  • スマホ
  • レジ袋 ×2

テントがないのでザックも小さいものを使用しました。

枯れる水場が多いことを考えると、水は常時最低3Lは持ち運ぶ必要があります。

行程

最終的に以下の行程になりました。

  • 1日目:吉野~行者還避難小屋 / 12時間51分
  • 2日目:行者還避難小屋~深仙小屋 / 11時間4分
  • 3日目:深仙小屋~行仙宿山小屋 / 9時間6分
  • 4日目:行仙宿山小屋~熊野本宮 / 13時間48分

2日目と3日目の行者還避難小屋~行仙宿山小屋は当初一日で歩く予定が、そうすると歩行時間が一日に20時間を越えて現実的でないという結論になりました。

それ以外は概ね予定通りです。走るならともかく、歩くとなると一日13時間は覚悟しておかなければなりません。

こんなに焦って歩くこともないのですが、天気予報でGW後半は天気が崩れると言っていたため可能な限り早めに下山したかったのです。予報通り、下山した翌日にはかなり降ってたし…。

吉野へ

大峯奥駈道:逆峯ルートのスタート地点である奈良県吉野町。

今年は同じ時期に下千本から上千本まで全て満開になるという稀有の年だったそうです。

この時期になると桜はすでに散っており、観光客もまったく見かけません。電車は貸切状態でした。

吉野駅から奥千本口までいきなり標高500mくらい上がります。まだ始まって間もないにも関わらずすでに疲労が…。

奥千本に到着。

右に行くと西行庵に着きます。西行庵近くには水場があるのでここで補給するのもいいかもしれません。

大峯奥駈道を歩く

しばらくはこんな感じの道が続きます。

大峯奥駈道全体に言えることとして、行程のほとんどが樹林帯を歩くため展望がいいのはほんの一部です。また、樹林帯といっても植林された場所ばかりなので似たような景色が多いです。

四寸岩山に到着。この辺りは茶屋の跡が多いです。

吉野側から歩いてきた場合、最初の小屋となる足摺茶屋跡です。

水場はないので幕営地としてなら使えそうです。

足摺茶屋跡から一時間ほど歩くと二蔵宿小屋に着きます。

多くのサイトで初日の宿として紹介されている通り、吉野への移動時間+歩行時間を考えるとここに泊まるのが一番いいでしょう。小屋の前はかなり広めでテントを張るには適しています。

二時間ほど歩いて五番関(女人結界)に到着。

今から向かう山上ヶ岳一帯は女人禁制となっているため、女性の方はここから先に行くことができません。

ちょくちょく鎖場も登場します。

足場はしっかりしているため注意して登れば大丈夫です。

山上ヶ岳手前には茶屋が三軒ほど存在しており、時期によっては営業しています。

今回は少し時期が早かったのかまだ営業していないようでした。

茶屋を越えてからは山上ヶ岳まで一気に登ります。

木製の階段が多いため膝を傷めないように。

山上ヶ岳の宿坊が見えてきました。

山上ヶ岳頂上周辺には修験者のための宿「宿坊」がいくつかあります。

一般の方でも利用できる施設ですが、訪れたときはまだ営業期間外。5/3の戸開式に合わせて色々準備をされているようでした。付近に道路などはないので登山装備を担いで登ってくるようです。

山上ヶ岳山頂にある大峯山寺本堂。

戸開式前なのでまだ開いてません。

山上ヶ岳を越えてしばらく歩くと小笹ノ宿避難小屋に着きます。

朝早くに吉野を出発した場合は大半の方がここで宿泊するようです。

小笹ノ宿はすぐほとりに川があり、水分を補給できます。ここで今まで消費した分をすべて補給しました。

吉野からここまでくるのに7時間ほどかかっていて、ここが最初の水場です。山上ヶ岳の上りでだいぶ消耗したのでここでゆっくり休みました。

阿弥陀ヶ森分岐にある女人結界。

今までの行程では山上ヶ岳が目標となっていたのが、ここからは大普賢岳を目指すことになります。

大普賢岳を越えたところにある水太覗。

展望は最高です!

大峯奥駈道は起伏が少ない場所はたいてい笹で覆われています。

歩きやすいのはいいものの、笹が生い茂っており道が全く見えないところもあります。木の根っこなどにつまずかないように。

あとは岩の上に溜まっている落ち葉。非常によく滑るので鎖場などでは特に足元に注意。

縦走はふと振り返ると、今まで歩いてきた行程が確認できるので達成感があります。

右から明王ヶ岳、小普賢岳、大普賢岳、国見岳です。

七曜岳に到着。

これは大峯奥駈道だけではないと思うけど、地図を見ながら「あ、今登ってるのはこの山だな」と思いながら頂上に着くと、その向こうに更に高い山が控えているという展開が多くて割と心を折られます。

そして目的の山はそのまた向こう側にあったりします…。

たまに遭遇する平坦な道は癒し。

このタイプの草(あとで聞いたらバイケイソウというらしいです)は全行程を通して平坦な道にのみ生えていました。そういうものなんでしょうか?

行者還岳手前で鹿に遭遇。

こちらの姿を見ても逃げずに平然と草を食べていました。人慣れしているのか?5mほど接近してもこの様子です。

行者還避難小屋手前にある行者雫水。

山小屋のすぐ近くに水場がある珍しいパターンです。小屋に行く前にここで水を補給しようとしましたが水量が少ない。

結局3L近く入れるのに約30分かかりました。自分一人だったからよかったものの、混んでたら順番待ちで大変だろうな…。

吉野から約13時間、やっと行者還避難小屋に着きました。

小屋の前ではすでにテントを張っているグループがいたほか、中には3人ほどが休まれてました。

一階にスペースが空いていたのでそこに場所取り。

この小屋には毛布が豊富にあるので、シュラフと合わせれば暖かくして眠ることができます。

ここでお会いした方は二人が前鬼で下山、一人が私と同じく本宮まで行かれるとのことでした。

その後皆で夕食。歩いている最中はずっと一人だっただけに心が休まります。

次の日は行仙小屋まで行く予定が、疲労具合などから手前の深仙小屋までに行程を変更。二泊三日から三泊四日に修正することにしました。

アップダウンは今日よりも明日のほうが圧倒的に多いので無理はできません。

縦走1日目終了:吉野~行者還避難小屋 / 12時間51分

2日目に続きます▶【行者還避難小屋~深仙小屋】春の大峯奥駈道縦走 吉野から熊野本宮への修行道を歩いてきた Part 2/4 - TAMAISM


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