- 前編:宇和島~八幡浜
- 後編:八幡浜~佐田岬半島~佐田岬灯台
2022年最初の旅をどこにするか炬燵に入りながら考えた結果、ふっと四国が浮上してきたので行くことにしました。
四国は日本の中でも個人的にかなり好きなところで、新しすぎない要素がそこかしこに溢れているのがその理由の一つ。あとは単純に静かなところが多いので、「旅」をするなら選択肢の上位に上がりやすいです。
幸いにも天気の方は良さげで、まだ行ったことがない&行きたいところの交通状況もいい感じ。となればそこには距離的な遠さは関係なくて、ただ行くか行かないかの単純な2択になる。自分の旅はいつもこういうところがあって、新年明けて最初の旅がこれなのだから今年もずっとこんな感じで行くんだと思います。
また、2022年11月11日から公開された新海誠監督の映画「すずめの戸締まり」の中で八幡浜をはじめとした風景が一部登場していることから、本記事で八幡浜の町並みを軽く紹介できたらいいなと思っています。それでは出発。
冬の宇和海
初日の行程は宇和島から八幡浜までとすんなりと決まったものの、悩んだのは現地までどうやっていくのかということ。
というのも最終的に訪れることになる場所からの移動手段が非常に限られていて、これについては結構直前まで悩みました。旅のスタート地点である宇和島には早い時間に着いておきたいし。
結果的には、まず大阪からオレンジフェリーで東予港に向かい、そこから自走と輪行で宇和島に行くことに決定しました。こうすれば最短9:30に宇和島スタートが可能です。
松山まで飛行機で飛んで前泊という手や車載という手もあったけど、これなら安く済む。
宇和島からは八幡浜までゆるゆると散策中心で走っていくことにしましたが、当然ながらまっすぐ向かってもつまらないので走るルートを予め決めておきました。それは海沿いの交通量が少ないところを走っている国道378号という国道で、Googlemapを見てもらうと一目瞭然。見事に海岸線を走っています。
もっと言うと単純に海岸線の道というわけでもなくて、そこに点在する集落を結んでいるのがこの道。海沿いの静かな集落を巡りながら、時間の流れを少しのあいだ忘れてみる…というのが今日の目的です。
最初に結論から言うと、今回走ったルートは高低差がほとんどありません。
そりゃ少しの上り下りはありますが、広島のしまなみ海道を彷彿とさせるようなアップダウンのなさ。それでいて景観は素晴らしいの一言で、これは自分でも穴場を見つけてしまったなと興奮してました。
まずは宇和島駅から市街地を抜け、県道274号を北上して伊予吉田へ。
先程車窓から見えていた風景がこのあたりで、ここから本格的に海沿いを走る行程が始まる。道は至ってシンプルで、常に右手側に家屋や山、左手側に宇和海を眺めながらのライドとなっている。逆に言えば根底となる地形が全体を通して変わらない分、場所による景色の差異がより強調されて感じられる気がした。
そんな道が通っているのはぐねぐねと曲がりくねった海岸沿いなものだから、これから通ることになる道が遠目からでもよく分かる。その上、海と空、そして陸地がセットになって視界に入ってくるため、空間的な広がりがさらに強まってくる。これが例えば一直線な道だったら奥行きもなにもないけど、海の近くの風景はそんな単調なものではないから楽しい。
対岸には山、そしてその麓には小さな集落が形成されている。そういう景色があるときはすごく遠くに見え、ふと気がつけばその集落の中を走っていたりする。ロードバイクのスピードだとこれが本当に実感しやすくて、移動の速度が実にちょうどいいからなおさら気持ちいい。
宇和島から八幡浜の間を通る車は主に松山自動車道(E56)を通るらしく、いま自分が走っている国道378号は交通量が非常に少ないです。それでいて平坦な道ばかりなので、ロードバイクで走りやすいことこの上ない。
みかん畑の脇を抜けて
ここまでの道のりは一般的な「海を眺めながら走れる道」なんだけど、ここにきて愛媛県ならではの要素が飛び込んでくる。
それがこのみかん畑で、よく見れば海の向こうの陸地部分には必ずと行っていいほどみかん畑が広がっているのが確認できました。
実は今回走っているルート上の地形、これが実は海岸線から内陸に向かうにつれて急激にせり上がる急峻な斜面ばかり。この斜面を活かして一帯ではみかんの栽培が盛んなようで、ここからゴール地点の八幡浜へ向かうまでずっとみかんが視界に入ってきます。
みかんの本場・愛媛県で、視界の上部に広がる段々畑に実っているみかん。その土地ならではの風景を楽しみたいと常日頃から思っている自分としては、これ以上ないほどそれを実感できている。
ちなみに、やたら急な斜面に畑があるのはみかんへの日照量を増やす目的があるそうです。さらに斜面は雨水が下方に向かって流れていきやすいので味を薄める余分な水分も残りにくく、みかんの産地には海辺の段々畑が多いのだとか。
そんな「みかんロード」ではもう感謝しかない出来事もあって、渡江地区で散策をしている途中におばちゃんに声をかけられました。
なんと「みかんが余っているので食べていってはどうか」ということで、お言葉に甘えていると予想外に4つも頂いてしまう結果に。売り物にならないものなので…ということでしたが、こういうことってあるものだろうか?
旅先では地元の方の優しさに触れる機会が少なからずありますが、ありがたい気持ちでいっぱいになってしまう。こういう体験があるとその土地がなおさら好きになるし、ぜひまた訪れたいと思うのは自然な気持ちだ。
実体験から好きになったこういう場所って全国各地にあって、本当に旅をしていて良かったと思います。
このみかん畑はロードバイク的な意味でも素晴らしくて、ライドの要素に大きな変化を与えてくれる。
ひたすら海に沿って走っていた平坦な道だけではなく、ほんの少し脇道に逸れるだけで途端に高低差が生まれます。それがより顕著に現れるのが狩浜の段畑という場所で、山の斜面の一面に畑が広がっている広大な風景が印象的でした。
正直に言って、ここまでお手軽に絶景が拝める道はなかなか出会えるものではない。
絶景というと大抵の場合は高低差があるものですが、その麓にアプローチするまでが長かったりして大変というのはよくある話。でもここではそんな苦労は微塵もなくて、ただ走りやすい平坦な道、それも常に海を見ながらの軽快なライドが楽しめる。そして麓からの道もまた手軽で、斜面が急=短い距離で高いところまで行けるということにほかなりません。
まさに静かな海を眺めるもよし、たまに高所に上って見下ろす風景を楽しむもよしと良いことばかりです。確かに海ばかり見ながら走るのはどこかで飽きがくる可能性もあるので、上下方向に移動できる坂道が頻繁にあるのは変化に富んでいていいですね。
畑の脇を抜ける農道はかなり狭いですが、ロードバイクならなんの問題もない。散策、という目的であればロードバイクに勝る移動手段はないと思っていいと思います。
坂の上から眺める集落、入り江、そして海の向こう側に見える別の半島。細かな海岸線が入り組む地形の中で、それを一望できる場所が容易に見つかるのは散策していて気持ちいいことのこの上ない。
集落がある場所においてはみかん畑は高所に集中していて、個人的に乗ってみたさNo.1のモノレールなどがある以外は完全に農作業オンリーの空間。
でもそこから少し下るだけでいきなり民家が現れてくるあたり、生活とみかん栽培が一体化している感が強い。
集落巡りも佳境
そんな風に気ままに走っているとお腹が空いてきたので、途中にあった西予市明浜観光交流拠点施設「あけはまーれ」で遅めの昼食にしました。
注文したのは鯛の切り身と卵を合わせた宇和島の郷土料理と刺し身がセットになった「日向飯定食」。とても美味しくて白米の消費が進みました。
このあたりでは飲食店はほとんどないため、飲食店を見つけたら寄ってみるくらいがいいかもしれません。また、こちらの「あけはまーれ」には温泉もあるので、疲れた場合にはゆっくりするのも手。
で、お腹も膨れたところで散策を再開。
幸いにも今日の宿は八幡浜にすでに取っているので、日没までに到着すればいいや程度に考えてました。泊まる宿を予め確保しておくことはある意味で行動が制限される反面、そこまでたどり着けさえつればいいという安心感もあります。ましてや翌日の予定は特に決めていないので、残りの時間は時間を気にせず景色だけに集中することにしました。
ここから八幡浜までの道のりも今までと同様に、常に左手に海を見ながらのライドが続く。
こう書くと同じような景色ばかりで飽きるのでは?と思われるかもしれないけど、最初に書いたようにそんなことはなかったです。むしろカーブが非常に多い分、「このカーブを曲がった先にはどんな風景が待っているんだろう?」と、気になることばかりが先行してスピードが上がってしまうほど。
カーブを曲がった先にはまた別の集落が存在していて、その風景には一つとして同じものはない。集落の規模や高低差、海との距離感、停泊している船の種類や数。どれもが新しいものに思えてきて、先へ進むのが楽しみで仕方がなくなってくる。
三瓶地区~二木生あたりではその傾向が一層強くて、海が近い生活って本当に羨ましいなと。
一つ一つの集落は比較的小規模なところが多くて、ロードバイクでただ通り過ぎるだけだと滞在時間はかなり短い。数分前は遠くに見えていた風景がすぐ目の前に迫ってきたかと思えば、気がつけば後方に流れていったりする。
集落に入るまでの道も様々で、平坦なまま突入するところもあれば下り坂の向こうに集落が見えたりしているところもあり、一様でない様子が面白い。ロードバイクだと集落間の移動は楽にできますが、普段はどうやって移動されているのかについては興味あります。やぱり車なんでしょうか。
八幡浜までもう少しというところにあった景色が、今回出会った集落の中で一番好きになった。
地名でいうと真網代と呼ばれるところで、JAにしうわ真穴柑橘共同選果部会の大きな工場があるのが目印。その特徴は上の写真に示した通りで、手前に漁港、真ん中に集落、そして向こう側の斜面にみかん畑というスケール感のあるダイナミックさが目に映える。
何度も言うけど、やはりこのあたりの地形は景観的な素晴らしさに溢れていると思います。単に人々の生活圏内がギュッと圧縮されている様だけではなくて、山の中腹まで含めた視界の大部分に人の営みが行き渡っている様子。これが本当に好き。
川上を過ぎて舌間の一帯を抜け、「海の鳥居」で有名な舌間厳島神社を抜けて最後の高台に上る。
国道378号を北上する場合、半島に突き出た右カーブはたいてい高台になっています。それを過ぎた先では右方向に視界が開け、その向こうに別の集落が見える…というのが常。ここに至るまで結構な回数の上り(といってもそんなにだけど)を経てきて、これが八幡浜へ続く最後の高台となる。
そんなこんなで、日が傾いてきた時間帯に八幡浜市街地に無事到着。
一息つくと同時に、一気に近代感あふれる町並みに入ってきたので気持ちの整理がなかなかできないでいた。でも今日走った距離は90kmちょっと程度しかないわけで、その短い距離の中にこれほど色んな風景が散りばめられているのは驚くしかない。
道の駅は車の往来激しく、隣にある八幡浜港には巨大なフェリーが出入りしている。ここが今日のゴール地点なのでそのせいもあって安心感を得られ、打って変わった賑やかさに身を委ねていた。
もちろんみかん畑は八幡浜市街地周辺にもあって、夕焼けに照らされる畑がより輝いて見えた。
それにしてもほんとに海のすぐ裏手が山になっている。別にこれは今に始まった話じゃないけど、一日の行程を終えてから眺める風景として、愛媛県らしさを最後まで味わえたと思います。
さて、今日のライドはこれで終了。
今日の宿は素泊まりなので、この道の駅でそのまま夕食にしました。頂いたのは八幡浜に来たらこれ!と言っても過言ではない八幡浜ちゃんぽん。
長崎のそれと異なる点としては、鶏がらや鰹・昆布などでだしを取った黄金色のスープで、あっさりとした風味であること。麺は太目の中華麺で、たっぷりの野菜に豚肉やかまぼこ、じゃこ天などが具材として使われており、海に近い八幡浜らしさが現れています。
ライド終わりということもあってあっさりとしたものを食べたいと思っていたのですが、予想以上にあっさりしててとても食べやすい。しかもボリュームもあって大満足で、自分でも驚くような元気が湧いてくる。
実は八幡浜を訪れるまではちゃんぽんの存在を全く知らず、漠然と魚介系が有名なんだろうなと思ってました。これは下調べしてなかったのが逆にうまくいった感じ。
その後は宿に移動して、銭湯でゆっくりしてました。泊まった宿の詳細は別記事に書いています。
この後は中日を設けた後、今回の旅の主目的地である佐田岬半島を目指すことになりました。後編に続く。
おわりに
四国は本当にどこを訪れても自分の好きな風景ばかりで、西日本の中では再訪率が高い地域になりつつあります。海あり山あり川ありと自然が豊かで、そして遍路宿を中心に古い旅館も多い。趣味として四国を訪れるのは今後も続くのは間違いない。
今回はたまたま良さげだと思ったルートを走ってみたところ、これがまたドンピシャな道で嬉しくなってしまった。国道378号は車通りも非常に少ないし、ロードバイクで走るのにもおすすめです。
おしまい。
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