今回は、新潟県の山間部に位置する栃尾又温泉 自在館に泊まってきました。
宿泊に加えて長湯がしたいという前提で目的地を決めました。しかも比較的寒い地域で、ぬるめの温泉にじっくりと浸かる時間を過ごしたいというシンプルな動機が背景にあります。
外観
この日は自分が想像していたよりも何百倍も良い天気(雲ひとつない快晴)で、越後湯沢駅を出発した日中時間のライドも実り多いものになりました。
そっちの方の詳細は別記事で述べるとして、今回はこの自在館についてご紹介したいと思います。
栃尾又温泉は国道352号を逸れたところにある静かな温泉街で、古くから湯治湯として賑わっている全国有数のラジウム泉です。今では温泉街の中で3軒の宿が営業しており、その中でも道の真正面にあってひときわ存在感があるのがこの自在館でした。
自在館は「日本秘湯を守る会」の宿にも登録されているほどで、つまり旅人に愛され続けている旅館でもあります。
自在館は楽天やじゃらんのように大手旅行サイトへの掲載がなく、予約にあたってはもっぱら公式HPからネット上で行う形になります。これが非常にわかりやすく、各種設備やプランの詳細、部屋の空き具合なども含めて使い勝手がいい。
他にも連泊割引有りやキャンセル待ち予約も可能など、かゆいところに手が届くような要素もきっちり抑えてあるのもGood。突発的な予約をする上で非常に助かったのでおすすめです。
まずは外観から。
先程見たのが自在館の本館で、ほとんどの客室がここに集中しています。造りも非常に近代的で、後述しますが一般的な宿泊客はこちらに泊まる様子。もちろん各階にトイレや洗面台もあって、貸切湯へのアクセスもしやすいです。
本館の玄関を通り過ぎてそのまま奥に向かうと、渡り廊下で繋がった旧館と、霊泉「おくの湯」と「うえの湯」があります。ここでいう霊泉は共同浴場のことで、自在館だけでなく栃尾又温泉の宿全体が管理されている温泉です。
霊泉には「したの湯」もあって、敷地的には自在館内にあるものの、外からでもアクセスできるようになっています。
旧館は木造3階建てで、本館とは文字通り時代が違うくらいの歴史を感じる見た目をしていました。ただし、本館に泊まった人からすれば旧館はあくまで霊泉へ至る道中にある通路みたいな位置づけで、そこまで注目するものでもないのかもしれません。
旧館は後述する理由から万人に勧められるような部屋ではないため、公式HPにもその旨が記載されています。
― ご予約前に必ずお読みください ―
築100年の木造建築なので、隣の部屋の音が聞こえてやすくなっております。
こちらの建物は13歳以上の大人の方で「静かにお過ごしいただける方」のみご予約可能です。特に夜21:00以降は静粛にお休みください。
歴史ある建物をそのまま使っているため、健やかにお過ごしいただけるようご協力お願いいたします。
こちらとしては、もとから大正棟に泊まるのが目的だったのであまり気にしていませんでした。
ちなみに本館の方はもともと有名な温泉旅館ということもあって、自分が泊まろうかなと考えていた日には一人客用の部屋は全部埋まってました。
ただこれはある意味で当然という意見もあって、温泉旅館で一人客を受け付けてくれる宿は想像以上に少ないです。そういう意味では、自在館は一人でまったり温泉旅館に泊まりたいという一人旅ユーザーにとっても優しい&貴重な宿であると言えると思いました。
館内散策
車は本館前の駐車場に泊める形になるため、本館をアップで撮影したいという場合は宿泊客が集中する夕方より前に訪問するのがおすすめです。
駐車する車が多いと撮影するのがちょっと困難になるので。
本館1階はこんな感じで玄関や受付、玄関ロビーがあり、あとは本棚等もあるので暇になったらここに来て本を読むこともできます。チェックインについては仲居さんが部屋まで案内してくれるスタイルではなく、館内地図を渡されて自分の部屋まで行ってくださいという形式でした。
こういうのがなんか良い。
古き良き時代の湯治場みたいな雰囲気で、君の部屋はここだから温泉と部屋を適宜行き来して湯治に集中してくださいね、みたいなのが個人的には好感が持てました。
旧館に限らず、本館の客室であっても部屋には必要最低限の設備しか置いていないようです。
館内で過ごす際に着用する作務衣については、ロビーで各自が自分に合ったものを持っていく形式になっていました。この他にも各種飲み物もロビーでコップに入れて持っていく形になっていて、本館の1階部分で集中管理しているようです。
そんな感じで、チェックインとは言っても簡単な館内の説明とカゴを受け取ったくらいしかありません。各温泉にはカゴがないので、各自で服とか入れるカゴを持ち歩くことになっています。
ここで、部屋に向かう前に至急やっておいてほしいことが一つ。それは貸切湯の予約です。
自在館の温泉について説明すると、下に示すように合計6箇所の温泉があります。
上の3箇所が共同湯で、下の3箇所が貸切湯です。
ここで注意しておきたいのが、共同湯は時間によって切り替わるということ。この日は男湯が「おくの湯」のみで、「うえの湯」と「したの湯」に入れるのは翌日の朝5時からということでした。
つまり、貸切湯に予約しないとチェックインしたその日は「おくの湯」しか入れないということです。
入ることができる共同湯は日によって異なっていて、いずれにしても入ることができる温泉が制限されてしまうのは確かなこと。それは流石にもったいないので、チェックインと同時に貸切湯の予約をするのがおすすめです。
貸切湯自体は24時間入ることができるものの、予約は45分単位で区切られています。いい時間帯が予約できないと自分みたいに朝4時に起きて温泉に入りに行くことになるので、早めにいい時間帯を抑えておくのがベスト。
ちなみに15:50~19:55はチェックイン直後から夕食前後の時間帯ということもあり、特に人気なようでした。予約は何回でも可能ですが、この時間帯に限っては1部屋1回のみ利用可です。
まだ空いていた20時台と23時台、そして翌日の4時台を予約してから旧館の泊まる部屋へ向かいました。
館内地図を頼りにたどり着いたのは、旧館の3階に位置する「六捨九番」の部屋。
部屋の造りとしては特に不安を感じるようなところはなく、炬燵やエアコンもあればテレビもあるし、金庫もあります。それに廊下と客室を区切るのは障子のみというシンプルさで、まさに湯治場としての時代を現代にそのまま伝えている。
鍵は出入り口の障子に取り付けられているし、客室内に金庫もあるので特に問題なさげです。
懸念事項としては防音と虫くらいですが、防音は隣人次第なので自分で耳栓等を持参するのがおすすめかなと思います。今回は回りが静かな人ばかりだったので助かりました。
虫については比較的温かい場所に出没するので、部屋に入ると同時にすでに電源が入っていたエアコンと炬燵をオフにしました。あと電灯も消しました。廊下と部屋との区切りが障子な時点で虫の侵入は避けられないものの、できる限りのことはしておいたのでもう何も言うことはありません。
泊まるのが完全な冬や夏だったら虫の出現頻度は多少下がるかもしれませんね。特に夏だったら暑すぎて虫も死滅してそうだし。
作務衣に着替えてから温泉の場所等を確認。
とりあえずは、自分が今いる旧館や本館をささっと散策してみることにします。貸切湯の時間的にも夕食前には「おくの湯」しか入れないし、長湯がメインとはいっても散策もやっていきます。
自在館はかつては湯治場としての役割が主だったこともあり、ここ旧館の構造はそれを色濃く残したものとなっています。
湯治場というだけあって食事は自炊スタイルが基本。旧館には簡単な炊事場や冷蔵庫などがあり、今ではあまり使用されてはいないようですが湯治の面影を見ることができました。なお、旧館は完全に宿泊及び自炊専用の棟になっているようで、トイレは本館に行かないとありませんでした。
客室は建屋の両端の廊下に挟まれた中央部分に沿って並んでいて、つまり二間続きの部屋のそれぞれが廊下に繋がっています。出入りが可能なのは本館側(川側)のみで、山側の廊下については封鎖されている+目張りされているので出入りは不可。
廊下は歩く度にギシギシ音を建てるし、建物だけに注目すれば「現代の湯治」に惹かれた方が訪れる有名どころにはとても思えません。しかし過去においてはこれが普通だったわけで、つまり自分は過去の湯治客と同じ形式で泊まっている形になっている。
それがなんだか無性に心地よく思えてきて、ほんの二日間の滞在にも関わらず十二分に満足することができました。
設備的に見れば確かに旧館は実に鄙びていて、悪く言えば不便でもあります。
でも、例えば冬場に長期滞在して湯治に励むという意味ではこれ以上の環境はないと思いました。客室の設備は自在館の方針通り「極力シンプルなお部屋づくり」だし、チェックイン時にお布団は既に敷かれているのでゴロゴロし放題。
温泉に行きたくなれば自由に行けばいいし、布団で昼寝するのも、炬燵でうとうとするのももちろん自由です。時間を忘れるというのはこの忙しない時代ではなかなか難しいことだけど、ここまでごく自然にそういう気にさせてくれるのは、自在館の雰囲気の良さが光っているから。
旧館をひとしきり歩いた後は本館へ。
本館の2階より上は客室がメインなので、そこに泊まる人以外は訪問する機会がないです。
逆に旧館に泊まっている人は渡り廊下で繋がっている本館2階を通る機会が多く、必然的にその雰囲気の違いを実感することが多かったです。
多少の不便さは残しつつも、時代を経て歴史をつなぎながらあるべき姿を伝えていく。温泉を楽しみに来ている客と温泉旅館、その双方の立ち位置がうまく合わさったような運営をされているのが素晴らしいと感じました。
ぬる湯
一通り館内を散策し終わったため、ひとまず夕食の時間まで霊泉「おくの湯」に入りに行くことに。
この日の貸切湯を予約していない場合、男性だとここしか入ることができないので必然的に人が集中しますが、そうでなくても自在館の温泉はぬる湯が特徴的なのはすでに述べたとおり。
とにかく長湯をする人ばかりなので、どのタイミングで言っても空いているということはなかったです。
霊泉「うえの湯」「おくの湯」がある棟は旧館から行くことができて、途中で一旦サンダルに履き替える必要がありました。
本館から行く場合は渡り廊下を経由して旧館2階から行くことができるほか、本館1階で履き替えてそのまま向かうこともできます。積雪量がとんでもない状況だったら前者の方がおすすめだけど、これからの季節だとどっちでもいいかも。
そのまま左奥に進んで「おくの湯」へ。
大浴場「霊泉の湯」-新潟の源泉かけ流し温泉・秘湯の宿|栃尾又温泉自在館【公式】
- 泉質名:単純放射能泉(低張性アルカリ性温泉)
- 適応症:高尿酸血症、関節リウマチ、強直性脊椎炎、自律神経不安定症、健康増進
- 湧出温度:約36℃
- pH値:8.6(アルカリ性)
前述の通り、大浴場である霊泉は栃尾又温泉3宿の共同浴場でもあり、源泉温度はすべて約36℃と体温に近い温度になっています。これにじっくりと浸かることで身体の緊張がほぐれていき、心も身体もリラックスできるという形。
温泉に入っているとすぐに体温があがってしまって、長湯がなかなかできない自分にとってはまさに最適とも言える環境。これを目当てに今回の宿泊を決めたようなものなので、初っ端の温泉にも関わらずゆったりできました。
順番としてはまずぬる湯になるべく長く浸かり、最後に「上がり湯」と呼ばれる熱い湯でさっと温まって出るのが基本的な流れです。
「おくの湯」は浴槽が3つあり、正面の浴槽が端が傾斜しているので寝転がって入ることが可能。右側の浴槽は広めで、左側の浴槽が上がり湯になっていました。
ぬる湯は無色透明ですが「万病の湯」と呼ばれるほどに効能があり、ラドンが新陳代謝を促して肉体的に若返ることも可能みたい。
肝心の長湯はできたのか?という話ですが、それはもう長湯できました。何しろ体温と同じくらいの温度なので「温泉に入っている」という感覚がまるでなく、柔らかい液体の中に入っているという不思議な感覚。
それでいて自分の体温は上昇していかないため、長湯どころか湯から上がるタイミングを見失ってしまうという状況でした。普通の温泉だったら身体が十分温まったのでそろそろ上がるか…となるところ、ここではそれがない。
そんなぬる湯なのだから、やることは主に以下の2つ。
- 寝る。
- 読書をする。
特に温泉に浸かりながら寝ている人が多く、ここに限らず他の霊泉でも寝ている人を見なかったことがありませんでした。でもこれは当然と思えるくらいで、あの環境にずっといると身体が自動的に寝る体制になっていく。寝るのにちょうどいい温度という感じ。
あとは、紙の本を持ち込んで読んでいる人も少数ですがいました(ちなみに、電子機器は持込禁止)。温度が温度なので蒸気で紙がふやけるということもなく、他の温泉だったら難しいような「温泉に入りながら読書」ということが簡単にできてしまう。
実に素敵な空間だ。
40分ほど浸かってから部屋へ戻りました。温泉に入ってる最中に汗をかかないってこんなにも快適なんだと思わざるを得ない。
それでいて、部屋に戻った後はなんか身体がずっしりとしたような感覚がありました。
そして部屋に戻ってくると試練が待っていた。
鄙びた宿に泊まって部屋にガムテープが置いているということは、部屋に虫が出るということ。ましてや今の季節は春で、ここは隙間だらけの旧館です。出現しないわけがない。
自分は慣れているんで大丈夫ですけど、慣れてない人だったらかなり厳しいと思う。
もっとも、今回の滞在中は処置のかいもあって出現したのは一匹だけでした。寝ている間は出なかったので安眠できたし、春になったばかりという時期も案外良かったのかも。
とにかくこれからの季節に山の中の宿に泊まるという場合は、遅かれ早かれ遭遇することになるのは間違いないので覚悟しておくのが良さげです。旧館はそこそこいたのに対して、本館の方はもしかしたら少なかったりするのかもしれません。たぶん。
夕食
時間になったので次は夕食へ。
夕食会場である本館1階へ向かう道中の様子を確認したところ、本館に泊まっている人については食事は部屋出しのようです。これに対して、我々旧館に泊まっている人(妙な仲間意識)については本館1階の食堂でいただく形になっているみたい。
ただはっきりとした事は言えなくて、初めて顔を見るような人も食堂に来てました。
食堂では部屋ごとにテーブルが別れていて、コロナ対策は万全でした。
夕食の献立は、もう見た目からして胃に優しいのと美味しいのが確定しているような一汁六菜コース。
少食の人向けには通常の一汁四菜コースもあり、自分のお腹具合に応じてコースを選ぶことができます。さらにはオプションで鴨鍋等も追加できるため、食べたい量や好みに合わせて自由に決めることが可能。
自在館では、"温泉入浴とあわせて健康に還る湯治食を目指し、野菜、肉、魚、それぞれバランスよく、郷土料理に組み込むことを心がけている"そうで、塩分や油分が多かったり、味が濃かったりするものはなくて実に素朴な味です。
温泉によって整えられた身体に違和感なく染み込んでいくようなあっさりとした料理が揃っていて、箸を動かす手が止まらなかった。
お酒の種類については日本酒以外にワイン等もあり、日本酒だと地元の「八海山」や「緑川」があります。今回は地酒を堪能したいということで、八海山と緑川をそれぞれ一合ずつ注文しました。
郷土料理を基にした料理を楽しみつつ、地酒を口に運んでいく。健康的な食事を味わえる喜びに感謝しつつ、思い返してみれば温泉、食事、そして建物と、自在館を構成する要素の一つ一つがとても素晴らしいものに思えてくる。
そして、最後の最後にはこれぞ新潟県!といえる要素が。
自在館で出されているお米は全て魚沼産コシヒカリ。米どころとして有名すぎる土地の白米が美味しくないわけがなく、さっきまでの満腹感が嘘みたいに、まるで無限に米を食べられるんじゃないかってくらいに米が美味い。
自分が旅先で求めているのは、まさにこういう体験。
その土地ならではのものを味わう。その土地にしかないものを楽しむ。こういう経験を繰り返していくことによって、全国各地に「自分が好きな土地」が増えていく。それは同時に自分の中の世界を広げていくことに繋がるし、自分はそういう経験を今後もやっていきたい。
貸切湯へ
夕食を終えた時点で、時間は19時くらい。
普通の宿だったらもう床につくところ、貸切湯を予約しているのでまだまだ寝るのは早い。
部屋に戻っても特にやることがないので、適当に散策を続けたり、本棚から本を拝借して読んだりしてました。
すでに夕食の時間は終わっているし、他の宿泊客は貸切湯に入る以外は部屋で過ごしているようなので人通りもまばら。窓の外からは川の流れの音しか聞こえてこず、自分がいま旅館に泊まっているということを忘れるくらいには静かだ。
それにしても、なにもない時間帯に本を読むのはかなりおすすめです。
結構あっという間に時間が過ぎていく上に、そのまま他の本も続けて読んでしまったりするのでいい意味で退屈しないで済む。山間部の宿に泊まっているという環境ではなおさら。
予約した時間になったので、まず最初の貸切湯である「たぬきの湯」に入浴。
貸切湯はどれも加温されており、霊泉よりは当然温度は熱め。ただし熱すぎるということはなく、自分にとっては体感でちょうどいいくらいでした。
貸切湯の名前の割にはかなり広く、グループであっても問題なく入れそうです。
「たぬきの湯」から上がった後はそのまま外へ出て、しばらく歩いてみた。
新潟はまだまだ残雪が残っており、写真を見る限るだと夜や朝はまだまだ冷え込むと思われがちだけど、全然そんなことはなかったです。加温された貸切湯を上がったばかりということを考慮しても明らかに暖かい。薄い作務衣一枚でいてもそこまで寒さを感じませんでした。
この時期の新潟はもう普通に軽装で行動できるレベルということがわかったので、今後の旅支度に活かしていきたい。
昼寝を挟み、2つ目の貸切湯である「うさぎの湯」へ。
その後は翌朝に入る貸切湯に備え、部屋に戻って本格的に就寝。かなり遅い時間に部屋に出入りしているので申し訳ないと思いつつも、これが旧館の形式なのである意味仕方ない。
翌朝の朝風呂
翌朝は4時に目を覚まし、眠たい目をこすりつつも貸切湯へ向かいます。
うけづの湯は自在館の温泉の中で唯一の露天風呂で、屋根もついているので多少の雨なら問題なさげです。
川を挟んで向こう側に見える山の上には月が見えて、日中に入るのとはまた違った趣きがあるのが良い。朝一で冷たい身体を起こすという意味でも、今日一発目に貸切湯に入って正解でした。
その後はそのままの勢いで、男湯に切り替わったばかりの「うえの湯」に入りに行きました。
うえの湯は浴槽がかなり広く、多少大勢が入ったところで自分の「まったりパーソナルスペース」は普通に確保できます。ここでじっと漂いながらぬる湯に浸かっていると途端に眠くなってしまい、そのまま1時間ほど目をつむってました。
朝早かったし眠たいのは眠たいので、それを温泉の中で寝ることができるというのはありがたい。
休憩もそこそこに最後の霊泉である「したの湯」へ向かいました。
自在館は川のほとりの崖の上に建っていて、「したの湯」はその川の流れのほとりにあります。したがって結構な階段を下っていく必要があり、行きはいいものの帰りが大変かもしれません。特に温泉に入って脱力している中で部屋まで戻るのは疲れるかも。
立地が立地なだけに温泉に入るシチュエーションとしては申し分なく、朝日に照らされつつある谷間で川の音を聞きながら湯に浸かることができるというのはもう最高でした。広さもこじんまりとしていて居心地がよく、早朝なのでまだ人は数人だけなので雰囲気を壊すということもない。
ぬる湯なので寝る人が多いということはすでに書いた通りなものの、自分以外に人がいる状態で寝るのはなかなか難しいもの。しかし向こうもそれを分かっているので、持ちつ持たれつで静寂を保ちつつ浸かる暗黙のルールみたいなものが感じられました。
朝食
したの湯から上がった後は、7時40分からの朝食をいただきに食堂へ。
流石に他の大部分の宿泊客もこの日の行動を開始したようで、朝食時間の少し前くらいからは玄関ロビーの人通りが多くなってました。
朝食にはホッケをはじめ、納豆や卵、海苔など旅館ならではの料理が並ぶ。
どれもが強力なおかずとして作用する一方で、メインとなる米がもう戦力として十二分すぎるのだからおかわりしてしまうのも無理はない。朝起きてからの温泉のはしごによって失った栄養分をここでしっかり補給する。
こうしてみると、お腹が空くような行動をわざわざ自分でしておいてからそれを補うようにがっつりと朝食を頂いていて、なんかマッチポンプ感がある。
その後はちょっと不足した睡眠を自室でとり、眠気を覚ましてから自在館を後にしました。
自在館のチェックアウトは11時までと比較的長く、朝食を頂いた後でも温泉を長く味わうことができます。このあたりも湯治スタイルを重視した配慮が見て取れて、とにかく温泉に入りまくってほしい、という旅館側の意図が感じられて良い。
もちろん自室で二度寝、三度寝を心ゆくまで堪能するのもアリ。思い思いの時間を過ごせるだけの自由さがここにはある。
おわりに
こんな感じで、自在館での二日間はあっという間に終了。
温泉に効能を求める場合、長い期間滞在する湯治が必要になってきます。その一方で、忙しい現代人は短い期間しか休めない…というケースがほとんどなのもまた事実。
そういう制限されたシチュエーションの中で、自在館は現代の湯治を味わえるだけの環境があります。しかもただ味わえるだけではなくて、高度に満足感を得られるという意味でも大好きになりました。
温泉や食事、そして建物。ぬる湯で長湯をしたいという欲求を満たしたいのなら、ぜひ自在館に宿泊してみるのをおすすめします。
おしまい。
コメント