TAMAISM

旅の記録とか、舞台訪問とか。(旧 OFFTAMA)

【栃尾又温泉 自在館】新潟の秘湯で、万病に効くぬる湯を味わう Part 1/2 (@新潟県魚沼市)

ちょっと新潟へ

自分が「旅」と称して全国津々浦々を訪れていく過程では、特に計画性があるというわけではない。出発当日に行き先を決めるなんていうのはザラだし、多少計画的に決めたとしてもその週の半ばがせいぜいといったところだ。これにはその時の気分というものが強く影響していて、正直に言うと気分次第で行き先を決めている。

これは人によると思うけど、何ヶ月も前から予定を決めておいたりすると、いざ当日になってなんか気分が乗らないということになる場合もあったりする。訪問時近傍の公私の忙しさや精神状態がそのまま旅先での行動に影響してくるわけで、自分としてはその時に一番やりたいことをしていきたい。もちろんこれは難しいことだと理解してはいるものの、できる限りこのスタイルでいきたいと思ってます。

今回は先週に引き続いてどことなく温泉に入りたいという思いがあり、かねてよりリストアップしていた温泉旅館の中から目的に沿う旅館を探す作業に入った。しかし一般的な旅館というわけではなく、自分の好きな「鄙びた」要素がある宿が目当てになっていうことは言うまでもない。

で、単に「鄙びた」要素を目的とするならいつもと同じなんですが、今回はそれに加えて長湯がしたいという前提で目的地を決めました。しかも比較的寒い地域で、ぬるめの温泉にじっくりと浸かる時間を過ごしたい。

そうして選んだのが、新潟県の山間部に位置する栃尾又温泉 自在館です。

すでに季節は春で、温泉に入るのは気温が若干暖かすぎる気がしてくるこの頃だけども、仮にそうなら寒い地域に行けばいいだけのこと。簡単な理屈だ。

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魚沼市街を東へ進み、県道299号を突き当たったところに栃尾又温泉は位置している

この日は自分が想像していたよりも何百倍も良い天気(雲ひとつない快晴)で、越後湯沢駅を出発した日中時間のライドも実り多いものになりました。

そっちの方の詳細は別記事で述べるとして、今回はこの自在館についてご紹介したいと思います。

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自在館本館。1950年代に建てられた。

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本館裏側

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奥に見えるのが旧館(大正棟)で、本館とは渡り廊下で繋がっている

栃尾又温泉は国道352号を逸れたところにある静かな温泉街で、古くから湯治湯として賑わっている全国有数の"ラジウム泉"です。今では温泉街の中で3軒の宿が営業しており、その中でも道の真正面にあってひときわ存在感があるのがこの自在館でした。

自在館は「日本秘湯を守る会」の宿にも登録されているほどで、つまり旅人に愛され続けている旅館でもあるわけです。これは泊まるのがなおさら楽しみになってきた。

自在館は楽天やじゃらんのように大手旅行サイトへの掲載がなく、予約にあたってはもっぱら公式HPからネット上で行う形になります。これが非常にわかりやすく、各種設備やプランの詳細、部屋の空き具合なども含めて使い勝手がいい。他にも連泊割引有りやキャンセル待ち予約も可能など、かゆいところに手が届くような要素もきっちり抑えてあるのもGood。突発的な予約をする上で非常に助かったのでおすすめです。

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本館玄関

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それでは、早速チェックイン…をする前に、ひとしきり外観を確認していくことにします。

先程見たのが自在館の本館で、ほとんどの客室がここに集中しています。造りも非常に近代的で、後述しますが一般的な宿泊客はこちらに泊まる様子。もちろん各階にトイレや洗面台もありますし、貸切湯へのアクセスもしやすいです。

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大正時代に建てられた旧館

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旧館の奥が、霊泉「おくの湯」と「うえの湯」になっている

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旧館奥から本館方面を眺める

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雪国らしく、旧館1階部分は雁木造になっている

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旧館2階及び3階部分の外観。戸袋が見える。

本館の玄関を通り過ぎてそのまま奥に向かうと、渡り廊下で繋がった旧館と、霊泉「おくの湯」と「うえの湯」があります。ここでいう霊泉は共同浴場のことで、自在館だけでなく栃尾又温泉の宿全体が管理されている温泉でもあります。したがって、全ての宿の客が入りに来れるというわけですね。

ちなみに霊泉には「したの湯」もあって、敷地的には自在館内にあるのですが、外からでもアクセスできるようになっています。

で、この旧館ですが、これがまたすごくてね。

まず当然のように木造3階建てだし、本館とは文字通り時代が違うくらいの歴史を感じる見た目をしているのがわかります。ただし、本館に泊まった人からすれば旧館はあくまで霊泉へ至る道中にある通路みたいな位置づけで、そこまで注目するものでもないのかもしれません。

まあ、自分が今日泊まるところなので外観もしっかり確認したんですが(知ってた)。

ただ、旧館は後述する理由から万人に勧められるような部屋ではないため、公式HPにもその旨が下記の通りに記載されています。

― ご予約前に必ずお読みください ―
築100年の木造建築なので、隣の部屋の音が聞こえてやすくなっております。
こちらの建物は13歳以上の大人の方で「静かにお過ごしいただける方」のみご予約可能です。特に夜21:00以降は静粛にお休みください。
歴史ある建物をそのまま使っているため、健やかにお過ごしいただけるようご協力お願いいたします。

こちらとしてはもとから大正棟に泊まるのが目的だったのであまり気にしていませんでしたが、この文章でだいたいどんな感じの部屋か理解できたと思います。

ちなみに本館の方はもともと有名な温泉旅館ということもあって、自分が泊まろうかなと考えていた日には一人客用の部屋は全部埋まってました。けどこれはある意味で当然という意見も自分の中ではあって、温泉旅館で一人客を受け付けてくれる宿は想像以上に少ないんですよね…。

そういう意味では、自在館は一人でまったり温泉旅館に泊まりたい、という一人旅ユーザーにとっても優しい&貴重な宿であると言えると思いました。そりゃ一人客は集中するわな。

さて、外観を眺めるのはこれくらいにしていよいよチェックインです。

自在館に泊まる

場所が場所なだけに、自在館を訪れる人は車で来るのが一般的、というか普通です。

車は本館前の駐車場に泊める形になるため、本館をアップで撮影したいという場合は宿泊客が集中する夕方より前に訪問するのがおすすめです。駐車する車が多いと撮影するのがちょっと困難になるので。

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玄関と受付

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玄関入って正面がロビーになっている

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玄関の右側奥に向かうと貸し切り湯へ行くことができる

本館1階はこんな感じで玄関や受付、玄関ロビーがあり、あとは本棚等もあるので暇になったらここに来て本を読むこともできます。

チェックインについては(コロナの影響もあると思いますが)仲居さんが部屋まで案内してくれるスタイルではなく、館内地図を渡されて自分の部屋まで行ってくださいという感じでした。

こういうの、なんか"良い"じゃないですか。

古き良き時代の湯治場みたいな雰囲気で、君の部屋はここだから温泉と部屋を適宜行き来して湯治に集中してくださいね、みたいなのが個人的には好感が持てました。

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玄関横には作務衣が置いてあり、自分に合うサイズのものを各自が持っていくことになる

旧館に限らず、本館の客室であっても部屋には必要最低限の設備しか置いていないようです。

なので、館内で過ごす際に着用する作務衣については、ロビーで各自が自分に合ったものを持っていく形式になっていました。この他にも飲み物(お茶以外にも色々あります)もロビーでコップに入れて持っていく形になっており、本館の1階部分で集中管理しているようですね。

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そんな感じで、チェックインとは言っても簡単な館内の説明と、カゴ(各温泉にはカゴがないので各自で服とか入れるカゴを持ち歩くことになる)を受け取ったくらい。というわけで、自在館での滞在が遂に始まりました。

で、部屋に向かう前に至急やっておいてほしいことが一つ。

それは貸切湯の予約です。

まず最初に自在館の温泉について説明すると、下に示すように合計6箇所の温泉があります。

自在館の温泉 霊泉おくの湯…時間によって男湯/女湯が切り替わる。
霊泉うえの湯…同上。
霊泉したの湯…同上。
【内湯】たぬきの湯…貸切湯。予約していないと使用不可。
【内湯】うさぎの湯…同上。
【露天】うけづの湯…同上。

上の3箇所が共同湯で、下の3箇所が貸切湯です。

貸切湯に入らずとも共同湯だけで十分だよ、という方もおられると思いますが、ここで注意しておきたいのが「共同湯は時間によって切り替わる」ということ。この日は男湯が「おくの湯」のみで、「うえの湯」と「したの湯」に入れるのは翌日の朝5時からということでした。

これが何を意味するのかというと、貸切湯に予約しないとチェックインしたその日は「おくの湯」しか入れないということです。入ることができる共同湯は日によって異なると思うけど、いずれにしても入ることができる温泉が制限されてしまうのは確かなこと。それは流石にもったいないので、チェックインと同時に貸切湯の予約をするのがおすすめです。

貸切湯は24時間入ることができる一方で、予約は45分単位で区切られています。いい時間帯が予約できないと自分みたいに朝4時に起きて温泉に入りに行くことになるので、まあ早めにいい時間帯を抑えておくべきかなと。

ちなみに15:50~19:55はチェックイン直後から夕食前後の時間帯ということもあり、特に人気なようでした。予約は何回でも可能なようですが、この時間帯に限っては1部屋1回のみ利用可です。

というわけで、まだ空いていた20時台と23時台、そして翌日の4時台を予約してから旧館の泊まる部屋へ向かいました。

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本館から旧館へ

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旧館への渡り廊下

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渡り廊下から見た旧館

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泊まったのは、旧館3階の六捨九番の客室

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廊下と客室は障子で区切られていて、部屋は二間続き。廊下側の部屋には炬燵がありました。

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大正時代から館内の設えはほぼ当時のままとのことですが、襖などはかなり新しいです。

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そして、館内地図を頼りにたどり着いたのは旧館の3階に位置する「六捨九番」の部屋。

部屋の造りとしては特に不安を感じるようなところはなく、炬燵やエアコンもあればテレビもあるし、金庫もあります。それに廊下と客室を区切るのは障子のみというシンプルさで、まさに湯治場としての時代を現代にそのまま伝えているのが伝わってくる。

鍵は出入り口の障子に取り付けられている(押しながら回すやつ、と言えば伝わるか)し、客室内に金庫もあるので特に問題なさげです。

懸念事項としては防音と虫(Part 2で述べます)くらいですが、防音は隣人次第なので自分で耳栓等を持参するのがおすすめかなと思います。今回は回りが静かな人ばかりだったので助かりました。というか、この状況で大正棟に泊まるのは自分と同類じゃないのかと思わざるを得ない。中には老夫婦もいたけど…。

虫については、"奴ら"は比較的温かい場所に出没するので、部屋に入ると同時にすでに電源が入っていたエアコンと炬燵をオフにしました。あと電灯も消しました。ついでに旅においては必ず持参している「おすだけノーマット」をプシュっとし、ひとまず安心。廊下と部屋との区切りが障子な時点で虫の侵入は避けられませんが、できる限りのことはしておいたのでもう何も言うことはありません(諦め)。

この時期に分かっておいて宿泊しておいてから言うのもなんですが、完全な冬や夏だったら虫の出現頻度は多少下がるかもしれませんね。特に夏だったら暑すぎて虫も死滅してそうだし。

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初見ではなかなか把握できない自在館の構造

そんなことを思いつつ、まずは作務衣に着替えてから温泉の場所等を確認。

とりあえずは、自分が今いる旧館や本館をささっと散策してみることにします。貸切湯の時間的にも夕食前には「おくの湯」しか入れないし、長湯がメインとはいっても散策もしっかりやっていきますよ。

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旧館は手前、中間、奥側の3箇所に階段がある

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ところどころの壁には落書きもあった

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余計な証明がないので明暗の差が際立つ

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旧館裏手側の通路

前述の通り、自在館は湯治場としての役割が主だったこともあり、ここ旧館の構造はそれを色濃く残したものとなっています。

湯治場というだけあって食事は自炊スタイルが基本。旧館には簡単な炊事場や冷蔵庫などがあり、今ではあまり使用されてはいないようですが湯治の面影を見ることができました。なお、旧館は完全に宿泊及び自炊専用の棟になっているようで、トイレは本館に行かないとありませんでした。

客室は建屋の両端の廊下に挟まれた中央部分に沿って並んでいて、つまり二間続きの部屋のそれぞれが廊下に繋がっています。ですが出入りが可能なのは本館側(川側)のみで、山側の廊下については封鎖されている+目張りされているので出入りは不可。

廊下は歩く度にギシギシ音を建てるし、建物だけに注目すれば「現代の湯治」に惹かれた方が訪れる有名どころにはとても思えません。しかし過去においてはこれが普通だったわけで、つまり自分は過去の湯治客と同じ形式で泊まっている形になるわけだ。

それがなんだか無性に心地よく思えてきて、ほんの二日間の滞在にも関わらず十二分に満足することができた。

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渡り廊下から温泉街入り口方面を見る

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渡り廊下は本館2階と旧館3階を繋いでいます

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旧館中間の階段

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旧館奥側の階段。右手奥側だけでなく左手にも客室がある

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旧館2階には図書室もあって、ぬる湯に浸かっている最中に読む本の調達も容易に行うことができる

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旧館2階から1階への階段。ここを下りて直進すれば霊泉「おくの湯」と「うえの湯」に行ける。

設備的に見れば確かに旧館は実に鄙びていて、悪く言えば不便でもある。

でも、例えば冬場に長期滞在して湯治に励むという意味ではこれ以上の環境はないとも思えてくる。目に入ってくるのは全て木造の建築物で、木のぬくもりはもちろんのこと、取ってつけたような現代的な電灯の配線がなんだかレトロ感を増幅させてくる。客室の設備は自在館の方針通り「極力シンプルなお部屋づくり」だし、チェックイン時にお布団は既に敷かれているのでゴロゴロし放題という素敵っぷり。

温泉に行きたくなれば自由に行けばいいし、布団で昼寝するのも、炬燵でうとうとするのももちろん自由だ。なんというか、この時代にあって近代化とは程遠いようなこの環境が、何もかも忘れて温泉に没頭する"場"として完成されている。電子機器を触ることもいつしか忘れて、自分も暇なときはスマホを弄らずに持参した小説を読み漁っていた。

「時間を忘れる」…というのはこの忙しない時代ではなかなか難しいことだけど、ここまでごく自然にそういう気にさせてくれるのは、自在館の雰囲気の良さに他ならない。

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本館は1階だけでなく、各階に飲み物がある

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客室備え付けの枕が合わない人向けには低反発枕も置いてあって、サービスが行き届いている感がすごい

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適度な間接照明が目に優しい

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ふと窓から下を見れば、明日入りに行く「したの湯」が見えた。

旧館をひとしきり歩いた後は本館へ。

本館の2階より上は客室がメインなので、そこに泊まる人以外は訪問する機会がないといっても過言ではない。

しかし、旧館に泊まっている以上は渡り廊下で繋がっている本館2階を通る機会が多く、必然的にその雰囲気の違いを実感することが多かった。本館の客室は造りが新しくてドア形式となっていて、旧館との趣きの違いを見て色々考えてみるのも面白い。

思うに、この時代に旧館を「当時のままの形で」残しておく必要はあまりないんじゃないかなというのが一般論だと感じる。パーソナルスペースを確保したいというのは昔ならまだしも今では一般的な思考なわけで、それでもこの時代にあえて旧館を泊まれる形で残しているという事実に私は敬意を評したい。旧館を残すということは旅館側がそれを必要だと考えていることであるし、自分のようにそれを目当てに訪れる宿泊客もいるわけだ。

多少の不便さは残しつつも、時代を経て歴史をつなぎながらあるべき姿を伝えていく。温泉を楽しみに来ている客と温泉旅館、その双方の立ち位置がうまく合わさったような運営をされているのが素晴らしいと感じました。

そんなことを考えてたら、そろそろ温泉に入りたくなってきた。

Part 2では温泉三昧ということで、自分の好きなぬる湯に思う存分浸かってきます。

つづく。